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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和 2年 8月号 200
シマアジ刺身&鮨
高級魚の代表格
シマアジは夏の真っ盛りが旬とされている高級魚である。スズキ目アジ科シマアジ属に分類されるシマアジは、価格の面では同じアジ科のブリ属に分類されるカンパチよりも更に高価な位置づけにある。
シマアジの天然物は幻の魚扱いされるほど希少な存在であり、流通しているほとんどのものが養殖物だとみるべきである。その養殖シマアジの生産は平成27年度に全国で3,300トン余りしかなく、同じ年に養殖カンパチが34,000トンほど生産されたのに比べると、その流通量は約10分の1ほどしかない。
最近の豊洲市場における月別卸売り状況は以下のようになっている。
4月の非常事態宣言以降の卸売価格はもっと下がっているのではないかと予測していたが、価格の下げはそれほどではなく、逆に6月以降は昨年以上の価格になっているのは意外な事実だ。この事実は4月5月の取扱数量が極端に落ち込んだことによって卸売価格が維持されていたと見るべきであろう。
ちなみに、カンパチの場合はどうなっているのかも見てみよう。
ご存じのように、カンパチは昨年の初め頃から高騰し始め、今年の春まで高原相場と言える高い価格を維持し続けていたのだが、新型コロナウイルスの影響によって相場は弱含みへと移行しつつある段階にある。
カンパチの取扱数量は、平均してシマアジの5倍以上が安定的に流通していたが、新型コロナウイルスの影響をまとも受けて、その数量はずいぶん下がっている状況にあるようだ。
見惚れるような銀皮のシルバー
シマアジが属するアジ科の仲間は、食用となる対象に限っても軽く数えただけで50種類以上になるということであり、非常に多くの種類の親戚がいるようである。
FISH FOOD TIMESでは過去にアジ科の仲間を色々と扱ってきたけれど、シマアジに姿形が良く似ているという意味では、平成28年12月号 No.156 で取り上げていた「ヒラアジ」を挙げざるを得ないだろう。今月号でヒラアジについて新たに言及することはしないけれど、とても似ている特徴の一つは銀皮と呼ばれる皮下脂肪層である。
上の画像がシマアジの銀皮(皮下脂肪層)であり、下の画像がヒラアジの皮下脂肪である。
ヒラアジの銀皮はほぼシルバーで覆い尽くされていて比較的単純な姿だが、シマアジの場合はシルバーを基調としてグリーン、ブルー、イエローなどが適度に広がっているので、幾つもの色が加わった分複雑な色合いとなって、その美しさはヒラアジ以上のものがある。
シマアジの最大の魅力はこの銀皮にある。銀皮が刺身や鮨にした時に見た目を良くしてくれるし、美味しさも銀皮に集中している。
シマアジの皮引き |
1,背身と腹身に分けず、半身のまま尾ビレ近くに柳刃の刃先を皮の上に入れる。この時ゼイゴは敢えて除去しないで残しておく方が、皮が切断しにくくやりやすい。 |
2,外引きの方法で、銀皮が残るように、柳刃を慎重に前後に動かしながら、頭部方向へ切り進める。 |
3,尾ビレ近くの部分はゼイゴが存在しているので、その突起を避ける必要があり、銀皮を残すのは難しい。 |
銀皮を活かした商品化
シマアジの商品作りは最大の魅力である銀皮を出来るだけ活かすようにしたい。
シマアジ刺身&鮨の作業工程 |
1,シマアジを背身と腹身に分ける。この時、腹身は鮨ダネに使うことを前提にするので、背身を刺身に好都合な平行を意識した冊取りにせず、血合い骨に沿って切り分けている。 |
2,腹身を左の姿勢でそぎ造りして鮨ダネにする。 |
3,包丁のコバをしっかり立てると銀皮が目立つ。 |
4,刺身は背身の銀皮の厚さを確認しながら薄造りにする。 |
5,腹身の鮨ダネをにぎり鮨にする。 |
シマアジ刺身&鮨(大) |
シマアジ刺身&鮨(小) |
この他にも刺身と鮨を単品で商品化すると、以下のようにもできる。
シマアジの半身を使った単品刺身 |
シマアジの腹身を使ったにぎり鮨 |
シマアジというのはアジ科の魚であるが、青魚特有の赤っぽい色の身ではなく、透き通ったような白身であり、その透明感と銀皮のバランスが良く、このように非常に上品な雰囲気を持つ刺身や鮨の商品にすることができる。
シマアジ料理
何と言っても高価な魚のシマアジは、基本として刺身や鮨にしなければ高い原価をペイするのは難しくなるるのだが、もちろんハイコストな原料であることを承知した上であれば、これを切身にしてムニエルなどの洋風料理にすることもできる。
シマアジのムニエル料理工程 | |
1,皮を下にした半身を押し切りして切り込み、皮一枚で包丁を起こし、引いて切り離す。 | 5,バターで皮の方から焼く。 |
2,出来るだけ均等な大きさになるように、尾部は幅広に切り揃える。 | 6,蓋をして蒸し焼きにする。 |
3,シマアジを販売する場合は、原価が高いので1切れ入りが基本となる。 | 7,焦げ目がつく程度に皮の方を焼いたら、裏返して身の方を焼く。 |
4,表面に小麦粉をまぶした切身をフライパンに入れる。 | 8,パプリカを細く切り、軽く炒める。 |
シマアジのムニエル |
シマアジのムニエルを作るとなると、切身一切れの原価もずいぶん高価なので、その売価も安い冷凍魚を使った場合のようにはいかない難しさがある。しかし、シマアジのアラを使えば原価はゼロと見なすことも出来るので、良い出汁が出るアラを使って潮汁を作ってみることにした。
シマアジの潮汁料理工程 |
1,シマアジのアラを適当な大きさに切る。頭部は敢えてあまり小さくせずに元の形が残るようにする。 |
2,アラは全体に軽く湯霜をして、沸騰したお湯に入れる。 |
3,火が通るまで暫く煮る。 |
4,煮る途中でアクを除去する。 |
5,最後に塩と醤油で味を調える。 |
大きめのお椀に頭部を目立つように一番上にして入れて完成。 |
上品で高貴な魚、シマアジ
シマアジという魚がどんな魚かを表現してみると、観賞魚ではなく食べることを目的とした魚の中では「楚々として控えめで上品な魚」と言えるのではないかと思う。魚体はあまり大き過ぎず、身質には透明感があり、銀皮は美しく燦然と光り輝き、脂は濃すぎず、さほど淡泊でもなく、出しゃばらず、簡単には手に入らない高価な位置にあり、大衆とは少し距離を置いた高貴さを感じさせる魚がシマアジではないだろうか。
商品化する際に、決して雑には扱えさせない姿勢を求めてくるのがシマアジである。そして、そういう姿勢で臨めば、それに応えて整然とした形となってくれるのもシマアジなのである。魚を扱って商品にして販売することを生業としている者として、自ずと襟を正してくれるような魚とも言えるのではないかと思われ、こんな魚はあまり見かけるものではない。
調理の際に皮を除去して現れる銀皮は、シマアジの最大の特徴であると度々触れてきたが、その表面を覆っている皮膚は非常に弱く、チョットしたことで直ぐに糜爛(びらん)する弱点があり、このような「儚いと言えるような弱さ」もシマアジらしい高貴さを表している。
料亭や高級和食店に重宝されているシマアジの天然魚は非常に少ないので、鮮度の良い天然シマアジが入荷すると天井知らずの値をつけることになりがちであり、やはり料亭なども基本としては養殖シマアジに頼らざるを得ない現実がある。
養殖シマアジは、1987年に鹿児島県栽培漁業センターがシマアジの人工孵化仔魚の体長100o3,219尾の種苗に成功し、更には1988年に大型水槽で量産基礎試験をおこなって、体長70oサイズ56,600尾の孵化に成功できたことから養殖シマアジの歴史が始まった。この人工孵化仔魚の成功がなければ、シマアジはあまりにも希少すぎて流通に乗らず、今のような存在感はなかったであろうと考えられる。
魚の小売り現場において、養殖カンパチはなくてはならない存在となっているけれど、養殖シマアジについては価格の面から同じような位置づけにはなく、料亭や高級和食店の方でシマアジは小売りにおけるカンパチと同じような位置づけで見られているようである。そして、今後も養殖シマアジは人工種苗のコストの高さもあって、簡単に手に入る価格になっていくことはないと考えられ、これからも高原相場が続いていくことになるであろう。
高貴な存在感を放つシマアジは、敢えて大衆的な道を志向するのではなく、今あるような存在であり続けていいのではないだろうか。
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更新日時 令和 2年 8月 1日