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平成24年 4月号 No.100
アトランティックサーモン薄造り
生の刺身用サーモンが安い。
今の相場なら、上の画像のサーモンだけの正味原価は、安い場合140円くらいでしかなく、高く見ても180円以内には納まる。
以前の感覚からすると、ほぼ「半値」になったという感じである。
どうして、こんなに安くなったのか・・・
このサーモンは「刺身で食べる鮭」としてノルウェーから飛行機で輸入され、日本に「刺身用生サーモン」という言葉を産み出した先駆的な位置づけの、生のアトランティックサーモンである。
最初この鮭が1980年代にノルウェーから輸入されるまで、天然の鮭は寄生虫の広節裂頭条虫やアニサキスがいるので、どんなに鮮度が良くても鮭は刺身では食べないのが日本では常識だった。
だから鮭の刺身というのは一度冷凍してから寄生虫を死滅させ、これを半解凍にした「ルイベ」という形でしか食べなかった。
ところがアトランティックサーモンは、養殖でこれらの寄生虫を根絶したことから、冷凍ではなく、生のまま刺身に出来る「高級生食用サーモン」として、1980年代に日本に登場し、以後日本の鮭の刺身の歴史を変えていったのである。
これがその生食用アトランティックサーモンのセミドレスの姿である。
見れば判るがバランス的に頭の部分の割合がとても低く、歩留まりが非常に良い。
皮付きの三枚おろしであれば70%を超えるのだから素晴らしい。
これは約7sの重量があり、内臓を除去されノルウェーから空輸されてきたものだ。
2008年度にノルウェーでは約75万トンが養殖生産されたようで、その年の世界のアトランティックサーモン養殖生産量が145万トンであったから、世界のほぼ半分をノルウェーで養殖生産したことになる。
なおその年に南米のチリでは、約40万トンのアトランティックサーモンを生産し、両国で世界のアトランティックサーモンの80%を養殖生産したという計算になる。
ところがその頃、サーモン養殖に起こる感染性鮭貧血症という伝染性ウィルスが、チリで蔓延して養殖場が閉鎖に追い込まれたりしていた時期であった。
チリにおけるアトランティックサーモンの生産量は翌年には23万トンまで半減し、生の刺身用養殖サーモンの価格は強含みへと変化した転換点の年でもあった。
しかしその後養殖場の企業努力によって病気は克服され、次第に増産へと向かい、最近は以前を上回る養殖生産を回復しているということだ。
再びアトランティックサーモンはノルウェーとチリの両国で増産されることになり、世界全体の市場への供給量は年を追って潤沢となっていった。
しかし主にノルウェーが供給基盤とするヨーロッパは、ギリシャ危機を発端として、ユーロ通貨の信頼を揺るがす「ユーロ危機」へと波及し、昨年はユーロ諸国全体に不景気風が吹きまくることとなってしまった。
これによってアトランティックサーモンの主な供給先であるヨーロッパ需要が鈍り、その余剰分が日本へどっと流れ込んでくることとなった結果、生食用サーモンとして最高の価格を維持してきたアトランティックサーモンは、日本で昨年頃から次第に値を下げ、今やかつてない低価格となっているのである。
このところ生サーモンは、若年層を中心に人気の高まりを見せ、マグロかサーモンかと言われるほど、人気を二分する位置づけとなっていて、特に生サーモンを使った鮨というのは、非常に高い人気を誇っているということだ。
例えば、下の二枚の画像はそんな好みの人達にどうだろう。
トラウトサーモンにぎり・細巻きセット アトランティックサーモン鮭づくし
左は冷凍の生食用トラウトサーモンで、右は生のアトランティックサーモンだが、今はこのような養殖サーモンを多用した鮨の商品が売れ筋となっているのである。
アトランティックサーモンというのは名前のごとく大西洋に生息する鮭で、日本名はそのまま「大西洋鮭」と訳されている。
いっぽうトラウトサーモンはサケ科サケ属ではあるが、ニジマスに近い仲間であり、ニジマスの改良種を、海で養殖しやすいように更に品種改良したものだ。
上の画像はトラウトサーモンの元の姿であるが、日本でこの形を見ることは少なく、普通は以下のような冷凍真空フィーレで日本に搬入されることが多い。
生の姿と比較すると分かるのは冷凍にすると上の画像のように赤い側線が目立ち、これがトラウトサーモンと他のサーモンを区別する特徴となっている。
また、鮨の画像で区別できるようにトラウトサーモンの身の色は赤い色に近く、アトランティックサーモンはどちらかと言えばオレンジ色に近いのが違いである。
一般的に味の点ではトラウトよりもアトランの方が評価は高く、価格も同様にアトランの方が市場では高く取引されるのが常識となっている。
刺身用サーモンとして常に比較される両者だが、その生産量はどうかというと、2009年に世界中でアトランティックサーモンは144万3千トン生産され、
その内ノルウェーが60%、チリが16%、英国9%、カナダ7%だった。また、トラウトサーモンは同じく2009年に、世界で73万5千トン生産され、チリが29%、トルコ11%、ノルウェー10%、イラン10%だった。
この他養殖銀鮭などを含めると養殖サケは世界で同年に249万8千トン生産された。
ちなみにこの年の世界の紅サケなど天然サケの生産量は120万6千トンであり、今や養殖サケは天然サケの約2倍が養殖生産されているという計算になる。
このように一時期伝染性ウイルスが蔓延して養殖生産が頭打ちとなったけれども、その病気も克服して以降は世界中で生産量が増大しており、その結果として相場も安くなっている状況というのを理解してもらえると思う。
この先の状況を推測すると、それほど簡単に相場が上昇する局面は考えられず、今こそ養殖サーモンを売り込むべきタイミングだと見るべきであろう。
例えばこのように刺身や鮨だけではなく、サラダへも強化すべきだし、
こういう冷凍ではなく、美味しい「生」のサケの切身としても展開すべきであろう。
とにかく、今のこのタイミングこそ「刺身に出来る生の養殖サーモンの良さ」を、多くの人に知っていただき、購入に結びつけていく絶好のチャンスである。
大いに売り込んでほしいものである。
更新日時 平成24年4月1日 |
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