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平成25年 5月号 No.113


ウマヅラハギ薄造り


例年以上の寒さが続いた今冬と同じように、春も未だ寒さからなかなか抜け出せないが、このところ時として、やっと夏の匂いが遠くから仄かに感じられる時候となってきた。

緩やかな季節の変化と共に海の中の魚も、その勢いに差が出てきているようだ。

ウマヅラハギもこれから夏場に向けての産卵期を迎えるために、セッセと大きな肝に脂肪蓄え、更に大きくして栄養を溜め込んでいる時期である。

地方では、ウマヅラ、ナガハゲ、ウマハゲ、ベトコン、バクチなどとも呼ばれているが、これはまだ身が活きているウマヅラハギで、皮肌は黒っぽい色をしている。

一方、下は同じウマヅラハギなのだが、時間が経つとこのように色が白っぽくなる。

上と下では相当鮮度レベルが違っていて、下はほぼ刺身に出来ないレベルになっており、こんな色をしたウマヅラは専ら切身用にしかならないので気をつけよう。


また以下の画像は本カワハギと呼ばれているカワハギで、地方名は、ハゲ、本ハゲ、メンボ、ツノギ、丸ハゲ、カクハゲ、等々・・・、数え切れないほど色々な呼び名がある。

この本カワハギは主に刺身用として使用されることが多く、魚体がウマヅラより小さいのに、仕入れ価格はこちらの方が高いのが普通である。

 

ここには本カワハギの画像が2枚あるけれど、もう賢明な読者諸氏であれば、鮮度が良いのはどちらなのか、直ぐにお判りになることであろう。

本カワハギも時間が経つと、これだけ色の違いが出てくるのである。


カワハギと呼ばれている仲間にはもう一種ウスバハギというのがいる。

約7年前の平成18年1月号(25)でも、この魚のことに簡単に触れている。

今号ではウスバハギについてコメントしないので、クリックして参考にしてほしい。

このウスバハギの画像は小さいけれど、本来は魚体が3種の中で一番大きく、海に棲む場所も一番沖合いの遠いところなので、漁獲して持ち帰るのに時間がかかる。

このため陸地に近い沿岸の岩礁地帯に棲む本カワハギが一番鮮度が良いことが多く、その中間に棲むのがウマヅラハギで市場価格も陸の近くの海域に棲むカワハギほど高い。


カワハギ類には見た目の可愛い「おちょぼ口」がついているが、この口の中にある歯は強烈な力があり、甲殻類や貝類をバリバリと噛み砕いて食べる。

また「釣り餌取りの名人」とも呼ばれ、釣り人からは嫌われる存在であり、発達した背ビレ・尻ビレ・胸ビレをヒラヒラさせて上下左右に泳ぎ、

「海のヘリコプター」とも呼ばれ、魚体を自由自在に操る器用さがある。

海の中で泳いでいる時も、魚体の色は濃くしたり薄くしたりする習性があり、この変態の特徴が水揚げ後の時間経過によって、後から出てくるものと思われる。

また、カワハギの仲間に共通した最大の特徴は、名前の由来である「皮をはぐ」ことだ。

表面がザラザラした厚い皮をはぐと、「皮の下の皮」と呼ばれる「身皮」が表れる。

身皮は捨てるものではなく、字のごとく「身」なのだから捨ててはいけない。

捨てないで利用する方法は、以下のようになる。

1,目の後ろの骨を包丁の刃元で切り離す。
2,切口から頭部と胴体を両手で引き離す。
3,胴体表面の皮を腹側からめくり取る。
4,胴体を三枚におろす
5,柳刃を使い内引きで、身皮を身から分離する。
6.身皮は肝と一緒にボイルする。
7,ボイルした身皮は細く切り刻み、刺身に添える。

上に記したのは、頭と胴体を切り離すスピーディーな方法であるが、以下のように、頭を切り離さない方法もある。

1,おちょぼ口を切り離し、皮をはぎやすくする。
2,腹ビレが退化した長い骨に切口を入れる。
3,腹に沿って長い骨を切り離す。
4,腹の切口から背に向けて皮をはぐ。
5,大きな肝を傷つけないように内臓をつかみ出す。
6,上から左回りに、皮、口、エラ、肝、内臓、長骨
7,エラと内臓を除去し、肝を添えて商品化。

このように頭もつけた姿のまま商品にするのは、頭からも良い出汁がでるからである。

鍋や味噌汁用に切身にする時も、この頭の部分も捨てずに一緒に盛り付ける。


そして、カワハギで絶対に忘れてはならない最高の部位が「肝」である。

カワハギをどんな商品にするにしても、肝は必ず添付するべきである。

時間に余裕がない場合は生のままでも良いが、出来ればボイルして添えたいものだ。

カワハギはフグと一緒で、サッパリとした白身に血合いの部分がなく、血合いの代替機能として、同じような働きを持つ肝が非常に大きく発達している。

ちょうどカワハギやフグと逆の魚の代表が「マグロ類」である。

マグロ類の腹を開けててみると、マグロの魚体の大きさに比較して、肝の大きさは非常に小さな存在でしかないのが直ぐ解る。

カワハギとちょうど真逆で「肝が小さく血合いが非常に大きい」形になっているのだ。

鮮度の良いカワハギの肝は生でも食べることが出来て美味しいのだが、やはり一般的にはボイルしたものが安心できるのは間違いない。

ボイルすれば、そのままパクついても舌にとろけるような濃厚な味を楽しめる。しかしこれではしつこい味が単調なので、肝をもっと美味しく食べるには、裏漉しした肝をポン酢醤油に和え、これにカワハギ刺身をつけて食べる方法がある。

今月号の巻頭画像はその食べ方を前提にしたもので、肝の裏漉しはしていないけれど、実際に裏漉しまでして刺身に添えることは難しく、肝のボイルまでで充分であろう。

巻頭画像の刺身にはボイルした身皮も刻んで添えていて無駄もなく価値感は高い。


最後にウマヅラハギのにぎりを紹介しよう。

紅葉おろしトッピングだけだが、サッパリしながら極めて上品な素晴らしい味である。

カワハギの味は初夏にこそ相応しい緑風のようなものであり、この季節は鮮度抜群のカワハギを手に入れて、初夏をアピールして欲しいものである。


更新日時 平成25年 5月1日


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