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平成28年 6月号 150
アユの背越し姿造り
今月号は初夏を代表する川魚の鮎を取り上げてみよう。
アユは秋に川で生まれ、海へ降って冬の間に海で成長し、春から夏にかけて川を遡上し、秋に産卵して一生を終えるので、1年限りの一生ということで「年魚」と呼ばれる。
また川を遡上する時期になると、川の石コロに付着した苔を食べるようになり、苔を食べて溜め込んだ魚体内の不飽和脂肪酸が酵素によって分解されるときの匂いが、まるでスイカのような甘い香りを漂わせるようになることから、その別名は「香魚」とも称されている。
天然アユの漁解禁は全国的には6月や7月になってからという所が多いけれど大分県の三隈川は5月20日が解禁であり、筆者は5月27日(金)に日田市を流れる三隈川沿いにある料理屋の春光園を訪れて、アユのフルコースを堪能してきた。
春光園の横は三隈川が流れていて、以下のような光景を眺めることが出来る最高の立地にある。
そしてまさに春光園を訪ねた時、その三隈川ではアユの友釣りをしている人を現認することができた。
長い竿を抱えた友釣りの光景(四角い囲み)は、画像を大きく拡大するとこうなる。
春光園ではこのようにして釣り上げられた天然のアユを釣り人から買い上げて料理として提供している日本料理屋であり、ある雑誌で食通の小泉武夫が春光園のことを「この川で捕れた天然鮎をさらに厳選したものしか客に出さないという頑なな店」と表現している名店である。
春光園のアユ料理づくし一人前5,000円のフルコースの内容を紹介しよう。
春光園のアユ料理 | |
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甘露姿煮 | 背越し造り |
鮎に塩をせず素焼し弱火で香ばしく焼き上げ、素焼きした鮎を半日ほど乾燥させて煮詰めたもの。腹の中は卵がびっしり入っていてまるで卵巣を食べる感じの落ち鮎の保存食である。 | 鮎の骨が柔らかいことを利用して刺身で食べる方法で、比較的小型の鮮度抜群の鮎を切掛けにして、比較的厚めの輪切りにされていた。 |
塩焼き | 味噌田楽焼き |
鮎料理の代表格であり、刺身よりも上位にランクされる料理だ。踊り串で提供されていた。 | 鮎の塩焼きの表面に赤味噌を塗りつけた田楽焼きで、味噌の甘い味と風味が香ばしい。 |
身ウルカ | 真子ウルカ |
ウロコと目や口先、ヒレなどを除いた全ての部位を、胃や腸の中の未消化の部分を省いた内臓や骨も一緒にすり鉢で擦って、塩を加えた保存食。味は多少苦味があり塩辛い。 | 卵巣に白子を混ぜて塩漬けしたもので、身ウルカに比べると多少甘みがあって食べやすい。 |
アユ鮨とアユ焼きおむすび | 天ぷら |
開きにして皮を除去したアユを酢締めにし、押し鮨にしたものと、アユの炊き込みご飯を焼きおむすびにしたもの。焼きの匂いが香ばしい。 | 比較的小さなアユを横二つ切りにして天ぷらにしたもので、頭から丸ごと食べることになる。内臓の苦味も美味しさの一つだ。 |
塩焼きと田楽焼きの藁束差し |
筆者はこのように天然アユ料理を「旬の走り」の時期に口にすることになったのだが、筆者自身も最近はなかなか川魚を食する機会がなく、今回改めて「小ぶりの川魚を丸ごと頭から食べる」という醍醐味に触れ、その美味しさを充分に味合うことになったのだった。
スーパーの魚売場でも6月を過ぎる頃になると、アユが旬だということで養殖のアユが店頭に並ぶことが多くなるけれど、その一時期を過ぎると次の年の6月頃まで魚売場でアユが商品として売られているのを見かけることはめっきり少なくなってしまう。
つまりスーパーなどの小売量販店において、アユという魚は年間を通して販売する定番商品ではなく、年間の中のほんの一時期だけ季節を限定した旬魚としてしか見ておらず、養殖アユという1年中いつでも手に入る魚であっても、季節外れに消費者が店でアユを購入することは難しい。
アユはそれほど手に入れるのが難しいのか、その生産量を調べてみると平成26年度に全国で養殖アユは5,163t生産され、1位愛知県1,114t、2位和歌山県992t、3位岐阜県984tの順であり、天然アユは全国で2,395tが漁獲され、1位茨城県467t、2位神奈川県372t、3位岐阜県218tの順であった。
ちなみに大分県は22tの12位だったけれど、例えば三隈川で釣り師が釣って春光園に納めた天然アユなどは、どれだけ正確にカウントされているのだろうとの疑問も感じることになった。
下の図表は、天然アユと養殖アユで共に全国3位の生産量と漁獲量の岐阜県における、今年の2月17日から5月26日までの約三ヶ月間に長良川河口堰を遡上したアユの数を、24時間稼働しているモニターでカウントしたものである。
この期間に687,782尾が遡上したとの機械的な報告であり、1尾の大きさが60gだと仮定すると、この間に約40tほどのアユが遡上したという計算になる。
しかし遡上してきたアユが全て天然かと言うとそうではなく、海から遡上してきた天然のアユと、漁協が稚魚を放流した放流アユがいる。さらに放流アユには二種類あり、琵琶湖の稚アユを放流した琵琶湖産アユと人工種苗のアユがいるのだ。
そして天然遡上アユと放流アユの両方を釣りあげた時、これらを明確に区別できるかと言えば普通の釣り師にはまず出来ないとのことであり、これらは市場でも一括りに「天然アユ」として扱われている。
ちなみに、2016年5月28日(土)現在の築地市場におけるアユ相場は、生きている養殖アユは平均で3,000円/kg、天然の生きているアユは養殖アユの倍の6,000円/kgほどであり、冷蔵された締りの国産養殖アユの相対取引卸値は、高値で1,620円/kg、安値が1,188円/kgであった。
以下の画像は今月号の写真撮影のために仕入れてきた1kg箱7尾入りの比較的大きなサイズの締り養殖アユであり、仕入れ原価1,300円なので小売価格は1,980円というところではないだろうか。
これは養殖アユであり、天然のアユはこの画像のアユよりも背ビレが長く、顔が尖っていて、藻をたくさん食べて育っていて色素が強く出ることから、釣りあげたときには全身が金色に光るとのことだ。また夏の時期にはまだ若魚で灰緑色がかった体色は、秋に性成熟すると「さびあゆ」と呼ばれる橙と黒の独特の婚姻色へ変化する。
アユはキュウリウオ科アユ亜科アユ属に属し、ワカサギ、シシャモ、シラウオなどが血縁として近く、アユという漢字は鮎と書き、占の字はアユが一定の縄張りを独占することから由来すると言われている。ところが中国では鮎の字はナマズのことを意味するらしく面白いものだ。
日本では一般的に魚は刺身で食するのが最良とされているが、アユについては例外的に塩焼きが最良とされている。これは天然のアユが横川吸虫という寄生虫(もし人が感染してもほとんど自覚症状がない人が大半と言われ、たまに多少の下痢症状がでることもある程度らしい)の中間宿主なので生食は避けた方が良いと言われている。しかし養殖アユは基本的にその心配はなく、刺身にするなら冷水で身を締めて洗いや背越しにする方法がある。
以下にアユの背越しの造り方を紹介しよう。
アユの背越し姿造り工程 | |
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1、鱗を取って腹を上に向け、包丁でエラを押さえる。 | 8、尾ビレ以外のヒレを全て除去した状態。 |
2、背を上に返して、エラを包丁で押さえたまま外す。 | 9、丸のまま骨と皮ごと薄くスライスする。 |
3、頭部を切り落とす。 | 10、スライスした身を氷水に入れて洗いにする。 |
4、腹を両脇から押さえ、内臓を包丁で掻き出す。 | 11、氷水から出して水を切る。 |
5、腹の内側に残った内臓を指か菜箸で掻き出す。 | 12、吸水ペーパーの上に載せる。 |
6、背ビレ、脂ビレを除去する。 |
13、吸水ペーバーを上からも被せて水分を除去する。 |
7、腹ビレ、尻ビレを除去する。 | 14、清涼感のある容器に笹などのあしらいをする。 |
15、頭部と尾ビレ部分を飾りにして、背越しの上に、海藻、キュウリ、針生姜などを加えて完成。 |
今月号はアユについてもう少し伝えたいことがあり、このままでは1ページが長くなり過ぎるので、次ページにそれらを記すことにしよう。
次ページへと続く
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更新日時 平成28年 6月1日