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118 生秋鮭焼霜刺身(平成25年10月号)
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114 イサキ姿造り(平成25年6月号)
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令和 2年 1月号 193

sushi

魚屋鮨の魅力


高価な鮨鉢盛りがよく売れている

近年正月に「おせち」のような位置づけで鮨を購入する人が増えているようである。元旦や二日から営業しているスーパーの鮮魚部門魚屋鮨コーナーにおいて、そのニーズに対応した豪華な鮨鉢盛りを販売強化している店は、毎年着実に売上げを伸ばし続けている事実がある。これは「正月のおせちは、作るものではなくて、買うもの」という時代の流れと無関係ではないようであり、鮨の鉢盛りもおせちの一種のような扱いで購入する人が増えているのではないかと考えられる。

おせちの重箱の価格が1万円は安い方の部類で1セット2万や3万は何ら珍しくない価格で販売されているが、それらは料理素材を醤油や塩、砂糖、酢などでしっかり絡めた味付けにして、長く日持ちさせるように作り込んだのが基本で、その価格と内容のバランスは製造元によって大きな違いがあり、当たり外れもあるので自ずと色んな意味で安心できる高価格帯へと誘導されてしまう傾向にあるようだ。

「購入するおせち」が当たり前となっている時代にあって、メーカーで大量生産した冷凍素材を製造現場で解凍して盛り直したものや、製品となったおせちそのものが冷凍されたものを購入して家で解凍して食べるものなど、その商品性格上手作りした料理の存在は希薄であり、内容は必ずしも食卓で先を争って箸をつけるようなものになっているとは限らない。このため今時の舌の肥えた子供達は、正月の食卓に偉そうに鎮座した高価なおせち料理を喜んでいただくとは限らず、極端な話をすれば料理の値段のことなんか関係ない子供は「おせちよりも温かいカップラーメン」の方を食べたがるという、おせちに大金をはたいた親からすればガッカリするような現象は決して珍しくないのである。

そういうなかで、正月に生魚を主体とした鮮度感のある鮨の鉢盛りが1万円以下で手に入り、店に行かず家に集まった家族が自宅の食卓でこれを食べることが可能となれば、2〜3万円は覚悟しなければならない鮮度感のないおせちよりも、こちらの方が子供だけでなく大人も含めた老若男女からずっと喜ばれているようである。

例えばページ先頭にも掲載した以下の画像は、実際に筆者が水産部門を指導している店舗で売られている60カン入り9,800円の重箱スタイル鮨鉢盛りであり、これは筆者がモデルとして作成したものである。この中には生本マグロの大トロ・中トロを始めとして鮮度感溢れる生魚の鮨ダネがたっぷり入っているので、たぶん美味しいものに目がない舌の肥えた子供達は先を争って箸を伸ばすに違いなく、食卓に居並ぶ大人はその動きを制止するのが大変なはずである。

sushi

この商品を扱っている店は予約注文の形のみでこれを販売しており、筆者は昨年の年末年始商戦で相当数の注文が入りその数に驚いたのだが、今年は予約受付開始から昨年のペースを遙かに上回り、その伸びが尋常ではなく一体どれだけ予約注文が入るのか現場は大変なことになっている。そしてその傾向はこの店だけではなく筆者が関係する他の企業でも同じような現象が生じているのだ。

他企業でも同じような現象が生じていると記したけれど、それは筆者が関係するすべての企業というわけではなく、まだそこまで予約注文が入ってこないレベルの店があるのも事実である。それは「魚屋鮨への取り組み姿勢」の違いからきていると判断しており、会社や店の考え方として本気で魚屋鮨を強化する気持ちがあるのかどうかが、結果として現象の違いに結びついていると見ている。


惣菜寿司の延長線上にある魚屋鮨らしき商品

上画像の9,800円もする売価の鮨鉢盛りを魚売場で売るのは簡単なことではなく、やはりそれなりの鮨商品販売実績とそれを踏まえた時間の経過に伴って築き上げられた信用が必要となる。その実績と信用は日々の商売の積み重ねにによるものであり、本気の姿勢でコツコツと時間をかけながら本物を志向することによって、このような売価の商品が売れるようになるのである。

ところが筆者が時々全国各地を訪問して視察するスーパーにおいて、残念ながら魚屋鮨とは名ばかりの「魚屋鮨風の惣菜寿司」を見ることが多々あり、筆者はそのようなレベルの魚屋鮨を見るたびに「こんなことをやっているから売れないのだ・・・」と嘆かざるを得ない経験をしている。

筆者が知る評価の高い魚屋鮨商品を展開している魚売場というのは、そんな「魚屋鮨風の惣菜寿司」などとはまったく違う品質レベルによって魚屋鮨は非常に高い売上げとなっていて、その売上げが水産部門売上げ全体の四分の一以上三分の一近くにもなっているのだが、その事実はあまり知られていないようである。

魚屋鮨の実力を知らない会社が運営する店では、そもそも魚屋鮨の商品群が水産部門の中でこれから先どれだけの伸び代を残しているのかを理解していないようであり、現状の惣菜部門の寿司売上げ高から推測して「魚屋鮨を強化しても、まあ惣菜寿司に毛の生えたものでしかないだろう」と軽く見られていることもあるようである。

そういう魚屋鮨の力を軽視している会社で多く見られる例の一つは「惣菜寿司の延長線上にある魚屋鮨らしき商品」を魚屋鮨と自称していることである。その実態は下画像の右にある外部メーカーが製造した真空袋に入れられたトラウトサーモンのような鮨ダネを袋から取り出してシャリ玉の上に載せ、下の左画像のような惣菜寿司と何ら変わりがないものであることが多く、今時の舌の肥えたお客様にそんな小手先で誤魔化したような寿司商品が評価され売上げが伸びることになるはずはないのである。

sushi  sushi

「惣菜寿司の延長線上にある魚屋鮨らしき商品」を提供している会社の多くは、例えば一人とかほんの限られた少人数のパートさんだけで細々と魚屋鮨の売場を運営していることが多く、その商品内容は時間的及び能力的な制約から、冷凍寿司ダネ主体の限られた定番アイテムが毎日同じような形で繰り返されるだけなので、それらはほとんど変化がないために魅力もなく、結果として売上げもなかなか上がらないのである。

会社が本気で魚屋鮨を強化しようとするならば、鮨の作業をパートさん一人に任せるようなことをせず、最低二人での運営を前提として、パートさん三人体制でシフトを組み、日祭日や行事催事の時には三人で作業に取り組める人員体制で臨めば、一人だけではとても余裕がなくて取り組めない内容の手の込んだ仕事も、二人以上なら積極的に取り組めることになって商品レベルを格段に上げることが出来て、売上げを大きく伸ばす可能性も出てくるのだ。

しかし、この「手数の重要性」が経営者に理解を得られることは多くなく、省力化、効率化、合理化の名の下に必要最低限の人数で魚屋鮨の作業を切り盛りしなければならないことから、結局のところ行き着く先は「惣菜寿司の延長線上にある魚屋鮨らしき商品」のレベルに留まっていることが多く、こんなことでは水産部門で鮨の売上げを伸ばそうとしてもなかなか難しいのである。


魚屋鮨らしさをどうだすか

それでは、もし水産部門で鮨商品の売上げをもっと伸長させたいと会社が望むのであれば、魚屋鮨はどうあるべきかをしっかり考えて欲しいのだ。魚屋が鮨を作れば何がメリットであり、どんな内容ならば惣菜寿司を差別化できるのか、どうすれば鮨専門店や日本料理店、そして回転寿司店、宅配寿司店、居酒屋などよりもコストパフォーマンスの高さをアピール出来るのか、といったことを考えれば自ずと答は見えてくるのではないかと思われる。

魚屋鮨が水産部門であることのメリットを打ち出せるのはどんなことかを考えてみると、先ず挙げられるのは魚売場だからこそ可能となる新鮮な生魚が手に入ることであろう。たまに相場が大きく下がって手に入った格安な生魚を活用することが出来れば魚屋鮨の醍醐味を充分活かせるはずであり、また比較的相場が低い価格で安定している青魚は、色変わりが早く取り扱いが難しいことから、これこそ水産部門が得意とする素材として魚屋鮨の強みを活かせるはずである。

例えば下の画像は初夏の頃に獲れた比較的小型の生カツオであり、腹部の皮を除去せずに鮨ダネにカットして「生カツオ銀皮にぎり鮨タップリ盛り」として商品化したのだが、この仕入れ原価はかなり安かったので1パック580円売価でも充分な値入率を確保できる商品原価になったと記憶している。

sushi

これは鮮度の良い生のカツオだからこそ可能な「銀皮造り」という皮を残したまま刺身にする技法を鮨ダネに応用した商品だが、容器には違う種類のにぎり鮨を5カンプラスした上で値入率を計算しても、10カン入り580円で販売できるのがポイントである。もし欲を出して980円などの売価にしてしまうと魚屋鮨らしいメリットが打ち出せないのだ。580円であれば30パックから50パック売れる可能性もあるが、980円にしてしまうと、たぶん5〜10パックしか売れないだろう。

つまり魚屋鮨は、@鮮度の良い生魚を使って、Aボリュームがありながら、B価格も低く抑えられている、ということが重要であり、こうすることで魚売場でつくる商品だからこそ出来るコストパフォーマンスの高さをアピールできるのである。こういったコスパ感に優れた商品というのは、生カツオに限らず他の魚でも可能であり、アジやイワシなどはその気さえあればいつでも実現できるし、白身の魚でも相場次第では決して不可能ではない。魚屋鮨が惣菜寿司を差別化する方法の一つは、こうして冷凍寿司ダネを使用していては実現が難しい鮮度感とボリューム感、そして割安感を出すことなのである。

冷凍寿司ダネというのは、出来るだけ原価を安く抑えるためにどれも薄く小さく切られているのが基本であり、例えばマグロのような柔らかい身質の魚も例外なく薄く切られているが、マグロのような柔らかい身質の魚を薄く切ってにぎり鮨にしたのではその美味しさは大きく損なわれてしまうものであり、そのような冷凍寿司ダネが抱える根本的な問題に対しても魚屋鮨は違いを出すことが出来るのだ。

例えば筆者が鮨ダネを切る時の重さは、基本的に12g前後を目安に切るようにしている。作業場で必要とされる数多くの鮨ダネを切れば、なかには15gほどの大きさも出てくるし10gになることもあり、そんな色々な重さが混じる鮨ダネの切った枚数合計を割り算して、1枚の平均が12gほどになれば良しとするようにしている。柔らかい身質のマグロでも12gくらいの大きさであれば、マグロにぎり鮨の美味しさは味わえると思っているからである。

逆に身質が固いカンパチやタイの場合はどうかと言えば、10gの重さでも何ら問題はないと考えており、更にこういう固い身質の魚の腹部を鮨ダネにする場合は8gの大きさでもにぎり鮨として通用すると考えている。つまり魚屋鮨というのは、魚の身質の違いによって鮨ダネの切り方を変えるべきであり、それだけではなく魚の部位によっても切り方を変えることで、その魚本来の美味しさが味わえるようにすることが出来るということなのである。

いっぽう、下の画像は筆者が生のキハダマグロを鮨ダネとして切ったものだが、この画像にはカチカチの冷凍マグロを機械で切った場合は全く真似できない技術を使っているのだが、読者の皆さんはお分かりになるだろうか。

この画像が不鮮明だとか技術が中途半端などと指摘されたら申し訳ないが、その答えは「コバを立てる」技術を使っていることである。コバとは包丁の刃の先端の「小刃」のことであり、鮨ダネを柳刃包丁で引いてつくる時に、切り終わる最後の寸前に刃を立てて切角をつくる技術のことを指す。これを「コバ立て」と呼んだり、包丁の小刃を返すように立てるので「コバ返し」という言い方でも表現されている。

冷凍マグロなどを1分間に何枚カットするか最大限の効率を求められる機械切り寿司ダネにコバを立てる技術を求めたら、その途端に効率が悪くなって製造コストを引き上げざるを得ないことになるはずだから、たぶん今後も冷凍寿司ダネにコバが立った商品が実現するとは思えない。お客様が魚売場でにぎり鮨を購入する時にコバが立っているかどうかを確認することはあまりないと思われるが、コバを立てた鮨ダネは多少厚く見えるし、こうすると鮨ダネの幅が広くなり過ぎてしまうことにブレーキもかかって均一な幅のサイズにしやすく、全体としてにぎり鮨の見た目が良くなるのは間違いないのである。


見た目も重要

見た目のことが出てきたので、そのことについて少し触れてみることにしよう。何と言っても見た目が悪い典型は「ノセ寿司」である。今月号のページにそういう画像を入れると品が落ちるので文字で説明するが、それはにぎり鮨とは名ばかりの、全くにぎっていない「シャリ玉の上に寿司ダネを載せたにぎり寿司」のことだ。商品を作る時に、容器の左側からシャリ玉の上に寿司ダネを載せていって、その順番でどの寿司ダネも左側に重なったままになっていて、いかにも寿司をにぎらずシャリ玉の上に寿司ダネを載せましたという商品であり、こんな変な見た目になっている商品は本当に最悪である。惣菜寿司での作業はたぶん100%近くがこのノセ寿司でおこなわれていると推測されるが、惣菜寿司とは本来そういうものなので、それはそれで良いとしても、魚屋鮨はそんなノセ寿司とは違うレベルを実現してほしいのである。

魚屋鮨の場合に最低限望みたいことは、仮に作業員が初心者であることが理由で仕方なく鮨をにぎる工程を省いて鮨ダネをシャリ玉に載せる方法を執るとしても、左側にあるにぎり鮨に右側の鮨ダネが重なることを避けさせる目的で、最後の段階に「指を使った仕上げ」を作業員に必ずさせることくらいはしてほしい。この最後の仕上げをするかしないかで見た目は随分違ったものになるのである。

また、これは商品の見た目に関する筆者自身の美的感覚からくる違和感だと思うのだが、一般的に惣菜の弁当や惣菜寿司商品の列の間の仕切りに使われている塩化ビニール製「人工山型長バラン」を魚屋鮨で使用している商品を見ると、そんなことをやっていて惣菜寿司との差別化が出来るのかと感じてしまうのである。筆者はあの人工山型長バランの緑色はあまりにも不自然な人工的な色に感じられ、これを新鮮な生魚のにぎり鮨の間に挟んだりすると、そのことによって魚屋鮨の鮮度感が損なわれてしまうと感じるのだ。

そういうことから、筆者が関係する会社の魚屋鮨では、自然な緑色をした天然の産物である熊笹を商品の大きさに合わせてカットして、以下の画像のような方法で仕切りに使うことを強く勧めている。

sushi

上画像のにぎり鮨は筆者が特上にぎり鮨のモデルとして作成したものである。このなかに入っている自然な色合いの熊笹が、もしあのいかにも人工的で嫌な色合いの山型バランが入っているとしたら、それだけで特上のレベルが並品へと大きくダウンしてしまうであろう。

熊笹というのは、本来鮨屋さんで使用されている葉蘭の安価な代用品であり、葉蘭や熊笹には一定の防腐効果もあるとされているので、石油でつくられている塩化ビニールの人工山型長バランより断然人体に優しいとの思いもあるのだ。もし熊笹が準備されていない場合や在庫を切らしている時などは、せめて代替品として大葉を使うのであれば、人工山型長バランを使うよりは魚屋鮨らしさが出るのではないかと思っている。

更にこれは見た目だけのことではないが、上画像の商品には惣菜寿司では普通に添付されているビニール製小袋入りのガリ(甘酢生姜)がなくて、袋に入っていないガリが添えられている。筆者はこれについても魚屋鮨にはこのような「バラガリ」(一つの袋に入れられずバラバラ状態のガリという意味)を使うべきだと主張している。何故ならば、小袋入りガリの中身というのは元々デゴボコな形の生姜がスライサーで薄く切られ、そのカットされた生姜スライスのなかで商品としては最も価値のない、一番小さな屑のようなガリばかりが小袋には入れられているからである。本当にガリが好きな人にとって、こういう最下級の屑ガリを食べさせられることは我慢ならないはずであり、魚屋鮨の商品にはまともな形のガリを添えて差別化すべきだと考えているからである。

ビニール小袋入りガリは人工的な添え物でしかないので、美的感覚からするとこれらを商品のなかであまり目立たせたくないが、バラガリの場合は商品内容の一つとして「あしらい」のように位置づけることも出来ることから、バラガリの存在が商品の見た目を損なうことにはならないと考えており、これは魚屋鮨の見た目を良くする手段の一つでもあると捉えている。


時代の変化に適応し損ねた

さて年初にあたって、魚屋鮨はどうあるべきかの一側面をここまで記してきたが、魚屋鮨のあるべき論については、これまでFISH FOOD TIMESにおいて、 平成30年1月号 No.169「魚屋鮨スタイル」(まだ気づかない?魚屋鮨のメリットに・・・)と題して詳しく言及していた。今月号はその時の記述内容とはできるだけ重複しないように気を配り、その時に言い足りなかったことなどについて重点的に記したつもりだ。可能であれば、読者の皆さんに両方の記事を併せて読んでもらうと、筆者が魚屋鮨について表現したいことに理解を深めてもらえるはずであり、2年前に遡ってこちらも覗いてほしいのだが、以下に記すことはどうしても2年前の記事と被る部分が出てきそうで、もし被った部分があればそれは筆者が特にアピールしたい内容だと捉えていただきたい。

本来このホームページの主な読者層として想定しているのは、まずは魚売場の現場で働くすべての人たち、更には魚売場を管理する立場にあるマネージメント職、そしてスーパーの店長や百貨店テナント魚売場の店長、願わくばスーパーを経営する社長や役員といった方々であるが、今月号はその中でも特に会社の経営レベルにある人たちに読んでもらうことを意識した記事にしている。上に紹介した2年前のFISH FOOD TIMES1月号も会社の経営レベルの人たちに魚屋鮨に関する筆者の考えを知って欲しいという思いの記事だったので、このような意図の内容は今回で2回目ということになる。

なぜ経営レベルの人たちにも読んでほしいのかと言えば、それはスーパーマーケットという業態のなかで、「水産部門の存在感が希薄になっている」ことを筆者はとても憂慮しているからである。近年のスーパーの店内における魚売場はあまり勢いがなく、昔ほど存在感がなくなっているのは間違いないが、このような寂しい現象が出ていることから、魚売場はまるで将来性のない衰退部門のように捉えられることがあり、このような見方をされることに対して非常に腹立たしい思いをしているのである。

今でもやり方一つで魚売場を活性化させることが出来る具体的な例を、筆者は上記したFISH FOOD TIMES 平成30年1月号 No.169 平成31年1月号 No.181 の中で紹介しているし、同じことを月刊食品商業の平成31年3月号の特別寄稿ページでも記した。その事例を踏まえて食品商業平成31年10月号では、全国各地の魚売場が今のように元気がなくなった要因として考えられることについても論述している。

その論述の要点を簡単に表現すると、スーパーの水産部門が「時代の変化に適応し損ねてきた」からではないかとしたのであるそのことを記した食品商業平成31年10月号の中の一文を以下に抜粋した。

食品商業10月号記事の一部抜粋

<略>・・特に鮮魚部門に関して言えば「即食商品の強化」を打ち出すべきであろう。

鮮魚部門の即食商品の代表は刺身と鮨であり魚惣菜もこれに加わるが、昔から存在している刺身は当然のことながら、全国的に見れば「魚屋鮨」にまだ取り組んでいないスーパーが多いことは、既に魚屋鮨の存在は当然とする考えの筆者からすると、実に大きな疑問を禁じ得ない事実である。

なぜ魚屋鮨に取り組まないスーパーが未だにあるのか・・・、これこそ鮮魚部門における典型的な「時代の変化に適応し損なった格好の例」である。鮨は惣菜寿司で充分と考えているスーパー経営者がいるとすれば、その店を利用しているお客様が可哀想である。基本的に商品レベルとして魚屋鮨と惣菜寿司は全く別物であり、将来的に惣菜寿司は本格的に力を入れた魚屋鮨に間違いなく席捲され淘汰される運命にあり、惣菜部門はイナリ寿司など一部の廉価な寿司商品を細々と売るだけの役割で生き残るしかないだろう。

今や鮮魚部門内で魚屋鮨売上構成比20%以上は珍しくなく25%を超えて魚売場だけでなく店の看板商品となっている店もある。しかも魚屋鮨商品群の売上は前年を割ることなく伸び続けるのが普通であり、魚屋鮨に取り組んで成功している店はこの伸び続ける商品群の存在によって鮮魚部門の店内売上構成比が下がることはないのだ。

魚売場の存在感をこれ以上希薄にしないためには、即食商品の一つである魚屋鮨の取り組みを強化することで、新たな時代の変化に適応していくべきなのである。

 

この一文にも記しているように「時代が即食商品を求めている」との判断に立ち、水産部門において対応できる即食商品とは何かをよく考えれば、その行き着く先として魚屋鮨や魚惣菜を抜きにして語れないことは誰しもが気づくはずである。

ところが、令和の新時代に突入した現時点においても、全国にはそのことにしっかりと対応した政策を確立していないスーパー企業が未だに少なくないという事実を知っているが故に、筆者は「まだ気づかない?」という言葉を FISH FOOD TIMES 平成30年1月号 No.169 の冒頭のタイトルに掲げていたのである。しかしそれから2年後の今になっても、そのことに対する対応の動きがほとんど感じられない会社があることを知ると、その商売感覚の鈍感さに呆れるものがある。

魚屋鮨というよりも寿司商品全般に関する問題意識が欠如していて、具体的な対策の行動を執りたがらない会社の典型的考え方は「寿司商品は惣菜部門を強化すれば良い」としていることだ。そのような考え方は根本的に誤っているということを、筆者は今月号も含め過去の記事でこのことに何度も触れているので、ここでさらにそのことを重複して言及するような愚は犯したくない。しかし少なくともここで言っておきたいことは、そういう誤った考え方を引きずっていることが「水産部門の衰退化に自ら手を貸している」ことに他ならないということである。


令和新時代における魚屋鮨

さて1月号も締め括りに入りたいと思う。このところ毎年1月号というのは、他の月とは少し趣向を変えた内容の記事にするようにして、いつもの月に記している商品提案などの具体論よりも、売場運営の考え方や水産部門のあるべき論を意識して取り上げるようにしている。このため画像やグラフなど資料が少なく、文章中心となっていることから、読者の皆さんのなかにはややこしい内容に着いていけないとか、写真が少なく文字ばかりで面白くないなどと感じておられる方もいらっしゃるのではないかと思われる。しかし年に一度は現場での具体的ノウハウ論から少し外れて、観念的な論述についても最初から最後まで読んでほしいのだ。

その観念的な論述もそろそろ終わりにするが、もし御社の水産部門が店内の売上げ構成比を年々下げ続けるトレンドを抜け出せないでいるとすれば、本気で魚屋鮨を強化してみてはどうだろう。筆者が指導してきた企業の水産部門は魚屋鮨を強化することで、現在全国の一般的な趨勢とは逆に店内構成比を上げ続けている紛れもない事実があるのだから、それと同じような結果へと導くために魚屋鮨を強化する方向へと舵を取ってみてほしいのである。

そして将来的に巻頭画像にある9,800円もの売価の鮨鉢盛りが売れるようになれば、魚売場の凋落傾向に歯止めが掛かることは間違いなく、その時には魚屋鮨の水産部門内での売上げはきっと大きな比重を占めているはずである。9,800円の鮨鉢盛り商品は決して希望的な見通しといった絵空事などではなく、今もまさに現実としてある店では売れている事実なのだから、御社の店もそのようになることは不可能ではないのである。日本の大多数の老若男女だけでなく、世界中の人々が好んで食べるようになっている「SUSHI」を販売する環境として絶好のポジションに置かれている魚売場が、その素晴らしい大きな伸び代を持つ商品の販売に躊躇して、ただ指をくわえて座視しているなんてあまりにももったいない話ではないか。

令和の新時代になっても「時代の変化に適応し損ねた部門」として揶揄されるのか、それとも一念発起して新たな可能性に本気で取り組んでみるのか、御社は一体どちらなのだろう。魚屋鮨を本気で強化する場合の競争相手は惣菜寿司などの低いレベルを想定するのではなく、本物の鮨専門店や日本料理店、そして回転寿司、宅配寿司、居酒屋など、高いレベルで鮨売上げを分け合っているなかにスーパーの魚売場が食い込んでいき、そのシェアの一部を奪い取るくらいの意気込みを持つべきである。

御社がそのような意気込みで魚屋鮨の本格的な強化に取り組むことが出来るとすれば、魚屋鮨は水産部門の「救世主」となるはずである。


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更新日時 令和 2年 1月 1日