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平成29年 6月号 162
スズメダイ料理
初夏の頃に美味しくなるアブッテカモ
アブッテカモという魚名はスズメダイの福岡地方名である。
筆者は魚の仕事をスタートしたのが福岡市だったので、何十年も前にこのアブッテカモと名付けられた魚に初めて接した時、名前のユニークさだけでなく、小さな魚体であっても魚売場で堂々と売られている、この魚はいったいどうやって食べるのだろうと、初心者なりにアブッテカモを面白く感じたことを覚えている。
その面白い名前の由来を先輩に聞いても、まともな返事は一つとしてなく皆んなが適当な解釈をしているようで、結局は誰もよく知らないのではないかと初心者なりに思ったものである。
しかしその食べ方だけは全員共通した内容の答えで返ってきた。それは「ウロコも内臓もつけたまま焼いて食べる」というものだった。
筆者はその時までアブッテカモという魚を一度も食べたことがなかったし見たこともなかったので、ウロコも内臓もつけたまま焼いて食べるという方法に、非常にグロテスクな感じを抱いたものである。
アブッテカモの名前の由来は諸説あるけれど、筆者がさもありなんと感じている説は「スズメダイは海の中で非常に多くが群がって棲息しているので、これが網で獲れる時は処分に困るほど一度にたくさん獲れることから、水揚げが多かった場合はそのまま塩をして保管しておき、これを食べる時に小さい魚体であることから、包丁を入れずそのまま焼いて食べたので、炙って噛む(アブッテカモ)の名がつけられた」というものである。
いっぽう長崎でスズメダイは「カジキリ」と呼ばれているが、これまた長崎ではこんな変な名前で呼ばれるのかと言えば、やはり上記したようにスズメダイが大群で群れる習性があることからきたようで、漁船がスズメダイの群に遭遇すると「舟の舵が切れないほど群れる(舵切り=カジキリ)」ということらしい。
長崎県の魚売場での例
上の画像でお分りように、スズメダイは小さな魚で30gから50gといった大きさである。
スズメダイはスズキ系スズキ目スズキ亜目スズメダイ科スズメダイ亜科スズメダイ属に属しており、この魚を好んで食べる地域は福岡と長崎、大阪くらいのようで、日本の他の地域ではほとんど食べる魚として認められていないとのことである。
しかし福岡地方で好んで食べるとは言ってもこれには少し語弊があり、福岡県の中でも福岡市の近辺だけに限られ、しかも食する季節も5月から7月頃までの2〜3ヶ月の短期間だから、いわゆる季節の風物詩として年に1回食べるかどうかが、特に魚好きな家庭においても普通なのである。
丸ごとそのまま
その一般的な食べ方「炙って噛もう(アブッテカモ)」の方法は画像で紹介する必要もないと思われるが念のために以下に記そう。
アブッテカモ(スズメダイ)の丸ごと塩焼き | |
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1、スズメダイを水洗いだけして、表面の水分を拭き取りバットに並べる。 | 3、グリルに丸のまま置いて塩焼きの準備をする。 |
2、魚の表裏とも全面に振り塩をする。 | 4、グリルでヒレが焦げない程度に両面を中火で焼く。 |
アブッテカモ(スズメダイ)の丸ごと塩焼きの出来上がり。 |
この丸ごと塩焼きの食べ方の通は、まさに頭からガブリと噛んで口に入れ、骨も内臓もそのまま食べる。そのために大きさとしては出来れば小ぶりの方が食べやすいということから、通の人は比較的小さなサイズを選んで購入するとのことだ。
5月から7月頃のスズメダイは、内臓脂肪が腹腔いっぱいパンパンに膨れ上がっており、通ではない食べ方をすると、実際の可食部分は非常に少ないことを覚悟しなければならないが、その可食部分も脂肪はコテコテで、密度の濃いしっとりとした身質はこの時期ならではの絶品の味だと言える。
中でもこの魚の特徴は何と言ってもウロコの食感であり、一般的に「グジの干物」や大型天然鯛のウロコ揚げなどを例外とすれば、基本的に魚のウロコは食べないのが普通であるから、ウロコを食べるということだけでも特別な経験が出来るのだ。
ウロコをもっとスマートに美味しく食べる
実は今回「ウロコを食べる」という側面からスズメダイを使ってある実験をしてみたのだが、以下のような食べ方も美味しいというのを自分なりに発見したのだった。
アブッテカモ(スズメダイ)の素揚げ | |
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1、スズメダイの頭を右に向け、腹部を手前にして、ウロコをつけたまま、柳刃包丁を胸ビレの横に切り込む。 | 6、最後に腹骨の下に包丁を入れ、腹骨を除去する。 |
2、そのまま柳刃を尾ビレの方に動かして大名おろしの要領で切り進む。 | 7、ウロコが残ったまま三枚おろしにした半身の水気を拭き取り、容器に並べて塩コショウをする。 |
3、内臓はそのまま残して、下身を切り離した状態。 | 8、皮の方だけではなく身の方も含めて全体に塩コショウをする。 |
4、下身を切り離してウロコ面を下にひっくり返すと、下身の腹部にも内臓が残っている。 | 9、180度で軽く2分ほど手早く揚げる。 |
5、次に反対側の上身も下身と同じ要領で切り離す。 | 10、素揚げにすると、ウロコが白くなって、まるで起き上がるように立ってくる。 |
アブッテカモ(スズメダイ)ウロコ付き素揚げが出来上がり。 |
今回スズメダイの色々な食べ方を試してみたのだが、一番好評だったのはこの三枚おろしにしたウロコ付きの素揚げだった。 小さな血合い骨が少しあるものの気になるほどではなく、ウロコの食感が小気味好く感じられ、表面はカリッとした歯応えがありながら、中はしっとりとし魚の素揚げらしさを味合うことができたのだった。
刺身でも美味しい
ここまでスズメダイを焼いたり揚げたりの料理を紹介してきたが、もちろん生の刺身で食べることもできるのでその簡単な調理方法を紹介しよう。
アブッテカモ(スズメダイ)刺身の商品化工程 | |
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1、スズメダイの頭を右に向け、腹部を手前にして、ウロコをつけたまま、胸ビレの横に切り込みを入れる。 | 7、ウロコのついた皮を切り離さず、そのまま最後まで皮引きを進め、皮と身を分離する。 |
2、柳刃を切り込みからL字の角度で、中骨の上に滑り込ませる。 | 8、上身側も胸ビレの横に切り込みを入れる。 |
3、柳刃を尾ビレの方に動かし、大名おろしの要領で尾ビレの方へ切り進む。 | 9、柳刃をL字の角度で切り込んだら、そのまま中骨の上を切り進む。 |
4、尾ビレの付近まで切り進んだら、切り離さずにそのまま下身をひっくり返す。 | 10、尾ビレ付近まで切り進んだら、切り離さずに上身をひっくり返す。 |
5、ひっくり返した下身の尾ビレ近くに浅く切り込みを入れる。 | 11、尾ビレ付近に切り込みを入れる。 |
6、切り込みを入れた場所から、皮を下にしたまま内引きの要領で頭部側へと切り進む。 | 12、切り込みからそのまま切り進んで、皮と身を分離して、腹骨を除去して軽く水洗いし、水気を拭き取る。 |
アブッテカモ(スズメダイ)は小さな魚なので、半身のままで刺身商品化する。 |
筆者自身もスズメダイの刺身は初めての経験であり、どんな味がするのか興味津々だったのだが、小さい魚体の割にはしっかりと脂が乗っており、この時期の他の魚の味をと比較すると最上位にランクできるレベルだと感じた。
背越しの刺身
いっぽうスズメダイが「カジキリ」との名称で親しまれ、どちらかと言えばスズメダイをよく食べる地域の一つでもある長崎県対馬の人が、地元では「背越し」で食することが多いとのことを教えてくれたので、筆者もアユやアジの背越しの要領で以下のように商品化をしてみた。
スズメダイの背越し刺身の商品化工程 | |
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1、小さなスズメダイのウロコを取るのは、やはり面倒臭くて大変である。 | 5、この時期のスズメダイの腹腔内部は、隙間なくパンパンの状態に膨れ上がっている。 |
2、ウロコをとったら、次に背ビレを落とす。 | 6、指を入れる隙間がないほど膨れた内臓を取り出す。 |
3、尻ビレも除去する。 | 7、内臓を除去したら、水洗いして水気を拭き取る。 |
4、胸ビレを頭部に残したまま、頭部を切り離す。 | 8、出来るだけ薄く柳刃包丁で胴切りの背越しにする。 |
背越しにしたスズメダイを氷水で冷やし、水気を切って盛り付け商品化。 | |
スズメダイの背越しを食べるときはポン酢と紅葉おろしと刻みネギと一緒に食べる。 |
背越しにしたスズメダイの味はどうだったかと言えば、その感想の第一は「味は悪くないが背越しで食べるには背骨が少し固すぎるのが難点」というものだった。
またスズメダイを背越しにする時の包丁作業は、その魚体が「丸く短くて安定感のない形状」のため、アユやアジと比較すると左手を置く場所にも苦労し、硬い背骨の抵抗もあって相当扱いづらく、実際には「背越し向きの厚さ」に薄くできなかったのだった。
ここまでスズメダイの色々な食べ方を紹介してきたけれども、福岡の地方名アブッテカモはそのユニークな魚名が面白がられ、博多の初夏の風物詩とでも言える存在であるが、昔はどうだったか知らないけれども今やこれを好んで食べる人は一部の通人レベルのようであり、季節が来ると一般の人が先を争って購入するような代物ではなくなっているようだと感じられる。
しかしこれこそ「旬」を表す魚であり、その時期こそ魚の美味しさを堪能できる代表格であり、他の地域の人が見向きもしないというのは、ある意味「知らなくて損している」ことにもつながるのではないだろうかと思う。
この6月はアブッテカモの旬真っ盛りである。この魚を扱ったことも見たこともない魚関係者は、今月のこのホームページを参考にして、一度試しに扱ってみてはどうだろう。その意外な美味しさに驚くことになるかもしれない。
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新してきたこのホームページへの
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更新日時 平成29年 6月1日