ようこそ FISH FOOD TIMES


平成25年 3月号 No.111



 

旬鮮刺身ちらし鮨

 


この画像は「刺身」ではない、鮨である。

見た目ではそれとは判らないかもしれないが、ちらし鮨である。

新鮮な生魚を使っているので「旬鮮刺身ちらし鮨」と名づけている。

既存の海鮮ちらし寿司のレベルではなく、鮮度と品質を高めることで、刺身を食べる感覚のちらし鮨へと進化させた先鋭的な商品である。

既存のちらし鮨レベルでは満足できないという人のための提案商品だ。


一般的にちらし鮨はあまり高級なイメージへと結びつくものではなく、例えば五目ちらし寿司などは、まさに大衆的レベルの商品そのものである。

毎年某醸造酢メーカーが、2月に入ると俄然露出したCMをやたら流し始める・・・。

「ごも〜くゥ、すしィ〜ならァ〜、すし・・・〜♪」

というやつで、嫌でも耳に入り覚えてしまうフレーズだ。

3月になると「ちらし寿司」が年間の中でもっとも脚光を浴びる時期となるので、このCMは年間の中で最大の商戦を狙った集中砲火的販売促進方法なのだ。


ちらし鮨が最も売れるのは3月3日のひな祭りというのは言うまでもないが、昔はひな祭りの時に、戸外でも腐敗しにくい「なれ寿司」のようなものを、ひな祭りのお弁当として戸外へと持ち出していたようで、そのうちに見た目が華やかで女性好みの五目ちらし寿司などへと変化し、現在の屋内でのひな祭りにも欠かせない定番料理へとなってきたようである。

ひな祭り海鮮バラちらし鮨

そしてこの画像は、昔のお弁当シーンからすると有り得なかったものなのだが、今やこのような「海鮮バラちらし鮨」という新鮮さを備えた商品が勢いを増しており、既に五目ちらし寿司よりもこちらのほうが商品としては成長株となっているようだ。


いっぽう下の画像はいわゆる「海鮮ちらし鮨」というものであり、具材には誰が見ても内容を判断できる、解凍ネタやボイルネタも使用しているので、巻頭画像のような鮮度感溢れる「旬鮮刺身ちらし鮨」とまではいかない商品だ。

  

   海鮮ちらし鮨(大)            海鮮ちらし鮨(小)

つまり旬鮮刺身ちらし鮨とは、この海鮮ちらし鮨を内容的に更に進化させたもので、より新鮮で美味しいものを求めるニーズに応えようとするものである。

そして巻頭画像をミニ版にした旬鮮刺身ちらし鮨が以下の画像だ。

旬鮮刺身ちらし鮨に使用している材料が何か直ぐにお解りだろうか・・・、

その中身は、

生本マグロトロ、生本マグロ赤身、天然鯛皮霜、メジナ、ヒラス腹身、

ウッカリカサゴ焼霜、メジナ焼霜、生アトラン腹身、

の8種である。

酒の肴としてではなく、美味しい刺身を腹一杯食べたい、それも何処にでもある普通の刺身ではなく、そんじょそこらにはない刺身を食べたい、しかも満腹感をも味わいたい、という贅沢な要望にちらし鮨で応えているのである。

これは一人では食べきれないような量であり、二人でシェアして丁度良い位なので、一人で食べるならば大食漢も満足してくれることは間違いないだろう。

とにかく、刺身の内容と量だけではなく、シャリの量も400cとタップリであり、ひな祭りだけではなく、ちらし鮨のイメージを高めるには最適の一品ではないだろうか。


いっぽうひな祭りで忘れてならない付きものが「ハマグリ」である。

これもちらし寿司と同じように年に一度のひな祭りの時だけは、通常時とはまったく別世界の大変なニーズの盛り上がりを見せる。

ハマグリというのは他の殻とはピッタリ合わせることが出来ないことから、一夫一婦の願いを込め、ひな祭りの膳に縁起物のお吸い物として添えられる。

元々九州沖縄地方では旧暦の3月3日(今年の新暦は4月12日)に、潮干狩りをしてアサリ貝やハマグリを食べて楽しむ風習があった。

しかしハマグリは、2012年8月に公表された環境省の改訂版レッドリストで、「絶滅の危険が増大している」とのことで絶滅危惧2類に指定されしまい、

潮干狩りでハマグリの漁獲を楽しむなどと悠長なことは言ってられなくなっている。

現在スーパーの店頭で安く手に入るハマグ リは、標準和名のハマグリとは別物で、中国や韓国から大量に輸入されてい る「シナハマグリ」というものである。

シナハマグリ

シナハマグリは上の画像のように、丸みが強く山形模様の線が多く表面はつやがない。

地ハマグリと呼ばれる国産物は、汀線(ちょうせん)ハマグリが標準和名である。

国産ハマグリは2種類あり、内湾で採れる小型と外洋で採れる大型のものがあり、内湾のハマグリは下のように黒っぽい色をしていて、有明海や伊勢湾などで主に獲れる。

チョウセンハマグリ(小型内湾もの)

 

また外洋ものは下のように白っぽい色で、宮崎や鹿島灘の少し深い場所の海にいる。

チョウセンハマグリ(大型外洋もの)

ハマグリはマルスダレガイ目マルスダレガイ科に分類され、アサリもその仲間である。

寿命は7〜8年で、5年で5cmを超え、最大では10cm位にはなるらしい。

ハマグリの品名表示については原産地などが厳しく指導されているけれども、標準和名の表示までは求められないのですべて「ハマグリ」という商品名となる。

近年は輸入されたシナハマグリが浜へ大量に放流されたことで、国産との混血が進んで種類の違いを正確に見分けることは難しくなっているらしい。

ハマグリは水温の下がる冬に栄養分が蓄えられて旨味とコクが増し、春になると夏場の産卵期に備えて身が太ってくる旬を迎えるのだが、古くは旧暦3月のひな祭り(今年は4月12日)がハマグリの食べ納めとされていたのだ。


国産ハマグリは輸入物に比較すると3倍から4倍もの価格で流通しており、量を売って売上をつくろうという気にはとてもなれない存在となっている。

しかし「年に一度のひな祭りだけのことなのだから多少高くても必ず買う」という消費者もいることは事実だから、やはり国産ハマグリの品揃えは重要である。

下の画像のように同じ国産ハマグリでも色々と容量を変えて商品展開すれば、価格や容量など、お客様の様々なニーズに対応できることになるであろう。

鮮度の見分け方としては、殻の色つやが良く口をしっかり閉じていることが重要だが、口を閉じていても死んでいることもあるので、ハマグリを打ち合わせた音で確認する。

ハマグリをたたき合わせると、生きているのはコンコンと高く澄んだ音がするが、死んでいるとゴツゴツと鈍い音になることから、相手を変えて確認しなければならない。


今やレッドリストに登録されて希少価値となってしまったハマグリは、今後どんどん量を売っていくような位置づけにないことは確かであり、同じ二枚貝としてはアサリ貝の方に目を向けるというのが正しい選択であろう。

ハマグリはひな祭りという一瞬の商機で終わってしまうが、アサリ貝は3月から4月の2ヶ月間は大いに売り込むことの出来るロングランだ。

ちらし鮨も瞬発的な小機ではなく、継続的な大機にしたいものである。


更新日時 平成25年 3月1日


ご意見やご連絡はこちらまで info@fish food times


FISH FOOD TIMES 既刊号


(有)全日本調理指導研究所