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平成31年 3月号 183
スルメイカを美味しく・・・
スルメイカの不漁が続いている
2018年はスルメイカの全国水揚げ量が、史上最悪の不漁だった2017年から更に23%減の4万1,697dとなって過去最低の記録を塗り替えることになった。みなと新聞2月14日号記事には速報数値として以下の内容が発表されていた。
スルメイカの漁獲量を過去に遡ってみると、以下のように大きな周期で増減を繰り返している。
スルメイカの生態とレジームシフトの関係
スルメイカ類は22種確認されており、イカタコ類の中で漁獲量が最も多く、大陸棚に沿った分布と回遊をしている。一生に一度だけの単回繁殖が特徴であり、1回の繁殖だけでその一生を終える。
またスルメイカの特徴として、以下の図のように秋季発生系群や冬季発生系群を主として、四季を通した産卵群が存在することにあり、最も広大な産卵場(日本海南西部〜東シナ海)がいつごろ産卵に適した水温になるのかが、その季節発生群の盛衰を決定する。
対馬海域や東シナ海で生まれたスルメイカの子供は暖流に乗って北上し、索餌・成長期には海水温13〜15℃の日本海沖合域や北部日本海などの水温が低くて餌となる大型動物プランクトンが多い亜寒帯海域で成長する。そして秋以降は大きく成長して南下を始め、雄は水温が高い海域で完熟し、まだ成熟途中の雌に対して交接行動をする。そして雌は更に水温の高い産卵海域へと回遊し、その過程で完熟状態となり産卵して死亡し短い1年の一生を終える。
北海道大学大学院水産科学研究院の桜井泰憲特任教授が30年もの長い年月をかけて辿り着いたスルメイカの「再生産仮説」という学術論文があり、それは「スルメイカのふ化幼生が最も生存できる産卵海域は、水深が100m〜500mの大陸棚から大陸棚斜面上の表層暖水内であり、その水温範囲は18〜24℃、特に19.5〜23℃の範囲である」と記されている。
その水温に深く関係する「レジームシフト理論」というのがある。これは東北大学名誉教授の川崎健氏が、「レジームシフト(基本構造の転換)」という考え方を1985年に発表したものである。これは「気候や海洋環境が数十年単位で変化する為、魚の数も周期的に変動する」という仮説である。大気と海洋の変動は相互に密接に関連しているが、気温や海水温度など気候を構成する要素は、ある程度長期間にわたって持続した後で急激に変化する。その影響を受けて海洋生態系も変わるのだが、その代表的な例がスルメイカやマイワシなどに代表される魚種交代現象なのである。
以下の図にあるように、長期間の変化をグラフ化すると、レジームシフトが何十年単位で起きていることが判る。そして1988年から89年の昭和から平成に元号が変わった時期は「1988/89レジームシフト」と呼ばれていて、寒冷レジームから温暖レジーム期に移行した年とされ、1989年以降は冬季季節風の勢力が弱い年が続いている。
このグラフにも記されているように、1970年から1980年代末までの約20年間はアリューシャン低気圧が発達して北西の冬季季節風が強かった年が続いたことから、この時期は寒冷レジーム期と呼ばれている。この年代は日本海にはリマン寒流が強く冷水域が対馬海峡まで広がっていて、スルメイカの秋生まれ群は山陰沿岸に集中し、冬生まれ群の東シナ海陸棚斜面上の産卵場は中国の冷水によって産卵場が寸断され、冬生まれ群のスルメイカが激減し、秋生まれ群の漁期は短くなった。このように産卵場の縮小や季節的な産卵場の連続性が寸断されている年が続くと、スルメイカの資源が減少に向かうことになるのだ。
イカ類資源の変動を考える場合、イカ類の世代交代は一年単位のため、親と子の関係がはっきりしている。親が多ければ子も多くその逆もあるという相関関係を持っていて、再生産の過程で親イカの過剰漁獲があれば次の年の資源は直ぐに激減するのだ。またエサを巡って競合するサバやイワシ類など寿命の長い魚類資源の変動にも影響を受ける。
上のグラフで特に注目してもらいたいものがある。それはマイワシの漁獲高がスルメイカとは丁度真反対の曲線を描いていることである。
弊誌では以前、No.142 マイワシづくし(刺身&鮨) 平成27年10月号 において、近年マイワシの漁獲高が増えていることを記事にしていたが、その傾向はその後どんどん強まっていてマイワシの存在感がひときわ増していることはご存じの通りである。その事実は以下のグラフが顕著な形で示している。
こうした1970年代以降20年間の海洋環境の変化が生じたなかで発生した厳然たる事実の一つは「寒冷レジーム期に入るとスルメイカが減りマイワシが増える」ということである。この現象から推測できる一つの事実は「今や既に2019年は寒冷レジーム期に突入している」ということである。
例えば、寒冷レジーム期の兆候は地球の海水温の変化にも表れていて、気象の専門家ジョー・バスタルディ(Joe Bastardi)はNoTricksZoneのなかで、2015年と2018年の過去3年間に発生した世界中の海水温のデータを以下の図で示している。
このことをジョー・バスタルディ氏は “pretty dramatic turnaround”「かなり劇的な転換」と表現していて、つまりこの4〜5年については「地球の海水温は現在下がり続けている」という事実をこれによって示しているのである。
また日本人ブロガーのKirie@KiryeNetは、北極の海氷が消えているとのICPPなどの警鐘に反し、今では北極海氷量(m3)水準は過去10年間で回復傾向を示していて、現在の北極海氷量は2003年以来過去16年間で4番目に高い水準にあり、北極の海氷の広がりが過去数年の水準をはるかに上回っていることをtwitterで以下のグラフを載せて発信している。
つまり以上に記してきたこういう地球規模の気象事実から、この先の水産物漁獲の面で推測されることは、マイワシの漁獲が好調な現時点及びこの先当面の間において、スルメイカの水揚げはあまり増えないことが予測されるのだ。
スルメイカを原料とした製品を作って家業や企業で生業とされている方は、もうそろそろスルメイカ漁が回復してほしいものだと心から願っておられると思うが、残念ながら当面の急激なスルメイカの漁獲増はあまり期待できないと考えるべきだと思われる。またスルメイカを小売する立場の人も昔のような安い価格でスルメイカを販売することは基本的に難しいと覚悟しておくべきであろう。
スルメイカの商品化
それでは、魚を小売する人が昔のように安くはなくなったスルメイカをどうやって販売したら良いかとなると、やはり丸のままトレーにパックして売るという単純な形ではなく、商品としての価値を高めてお客様に満足していただけるような形を強化しなければならないだろう。
以下の左画像は漁港から店に運ばれてきた漁獲されてから数時間しか経過していない透明感が残る鮮度抜群の25入り生スルメイカであり、右下の画像は何日か経っていて、表面の黒い色が茶色くなった後、変色の最後の段階として白くなりかけている20入りの生スルメイカである。
ここから、20入りのスルメイカの方を商品化していこう。
表面
裏面
まずは煮付け用輪切りと唐揚げ用ゲソの商品化工程。
煮付け用輪切りとゲソ開きの商品化 | ゲソ商品化工程 | |
---|---|---|
1,左手指を胴体端に差し入れ、右手でゲソを引っ張る | 1,舟の上に沿って縦に切り込む | |
2,肝臓をゲソに付けたまま壊れないように引っ張り出す | 2,切り口から胴体を開く | |
3,肝臓部分を切り離す | 3,最初に舟を取り出す | |
4,ゲソの白い裏側を表に向け、真ん中に切り込む | 4,胴体の中に残っている細い透明な船を引っ張り出す | 4,墨を潰さないように内臓を胴体部分と引き離す |
5,眼球の下の2カ所にも裏から切り込みを入れる | 5,手前の細長くて透明な部位がスルメイカの舟 |
5,表側の眼と眼の間に横一線の切り込みを入れる。 |
6,カラストンビと呼ばれるスルメイカの口を除去する | 6,白い裏側を上に向け、三角形の細い方に右手を置く | 6,切り口を開いて眼を出し、包丁でこそぎだす |
7,2個の眼球も切り口から取り出す | 7,右手の腹を右の方へ動かして、残りの内臓を取り出す | 7,カラストンビは指で中から押し出す。 |
8,軟骨の硬い部分を包丁で削り取り、形を整える | 8,一定間隔で輪切りにする | 8,カラストンビを出した状態 |
9,ゲソの開きが完成 | 9,切り終えた輪切り状態 | 9,開かないゲソの状態 |
左は輪切りとゲソの組み合わせ、右は霜降り輪切り | ゲソ商品 |
次は刺身と開きの商品化工程である。
スルメイカ刺身と開きの商品化工程 | ||
---|---|---|
1,舟の上を縦に切り込む | 1,耳を引っ張り剥がす | 1,皮が付いたままの開きを刺身に商品化する |
2,開いて舟を取り出す | 2,皮と身の間に指を入れて空間を作る | 2,耳を外して、表側に繊維を横切る形で飾り包丁を浅く全面に入れる |
3,墨を潰さないように内臓を胴体部分と引き離す | 3,同じように反対側からも指を入れ空間を作る | 3,飾り包丁を入れた表面に熱湯をかけて湯霜にする |
4,内側に残っている内臓を刃先で掻き出す |
4,1枚の皮を三角形側から引っ張り剥がす | 4,湯霜をした結果、飾り包丁の跡が目立つようになった |
5,開きにした商品 | 5,胴体、皮、耳に分離された状態。 | 5、広いままではなく、1/3と2/3に切り分けて使う |
6,肝臓に付着している墨を指でつまんで引き剥がす | 6,逆手包丁で耳を外した側を切り開く | 6、広い方の部位を細く等間隔に長さも揃えて細切りにする |
7,イカ肝臓商品 | 7,裏側に残った内臓の残りを刃先で掻き出す | 7、狭い方の部位も細く等間隔に長さを揃えて細切りする |
開き・ゲソ・肝臓の組み合せ | 刺身用ムキイカ | スルメイカ皮湯霜刺身 |
このところ全国的に、上に紹介した生のスルメイカを刺身にする店が減ってきているようである。それはスルメイカを宿主とするアニサキスが怖いので、いったん冷凍してアニサキスを死滅させた安全なものしか使わないという発想のようである。
このようなことはスルメイカだけではなく、サバやサンマでも全国的に全く同じ傾向があり、こういった安全第一というか、リスク回避というか、昔では考えられなかったような事象が全国あちこちの魚売場で生じていることに筆者は嘆かわしい思いをしている。
アニサキスの除去はプロが調理すれば安全なはずなのだが、自分の店にはそれが信用できない技術レベルしかないというのであれば、安易に忌避するばかりではなく知恵を働かせて乗り切ることが必要なのである。例えばスルメイカであれば、今回紹介した湯霜という技法を使えばアニサキスは完全に死滅するのだから、皮付き湯霜だけでなく皮なしも湯霜をして刺身にすれば、アニサキス問題は簡単に乗り越えられるのだ。
しかもスルメイカの場合は、どちらかと言えば「そのまま生で食べるよりは、熱を加えた方が美味しい」という事実があり、特に皮湯霜は熱を加えることによって皮の風味が出て、皮なしの場合よりも味わい深くなるのである。
スルメイカは、ヤリイカやケンサキイカ、さらにはアオリイカなどと比べると漁獲される量も多いことから安いのが普通であり、しかも刺身にすると身質が少し堅いことから、これまでは他のイカ類よりも一段下のランクで見られてきた経緯がある。例えばヤリイカが多く獲れる西日本地域ではほとんどの人が基本的にスルメイカを刺身にしては食べないのが普通である。だから西日本地域に昔から住んでいる魚好きの食べ物にはちょっとうるさい食通の人などが今月号の記事を読んだら、他に美味しいイカはいくらでもあるから、こんなムダなことはしなくても良いと思うかもしれない。
しかしこれから先も暫くはスルメイカの漁獲減少が続いて昔のように安くならないとすれば、西日本地域のようにイカを選ぶ選択肢が多くなくスルメイカに頼ることの多い地域はこれからも大変である。そこでは少なくなったスルメイカの加工度を高め、そして付加価値を付けるなどの方法で、この難局に耐えていかなければならないはずである。
地球規模の環境変化という人間の力ではどうにもならない事象に対しても、何とか人間の知恵を振り絞ることで乗り切っていってほしいものである。
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更新日時 平成31年 3月 1日