FISH FOOD TIMES Back No.
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平成29年 8月号
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平成29年 6月号
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平成29年 4月号
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平成28年 11月号
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平成28年 10月号
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平成28年 9月号
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平成28年 8月号
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No.151-2 アカエイ料理
平成28年 7月号
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平成28年 6月号
No.150-2 アユの姿鮨
平成28年 6月号
No.149 スジアラ炙り刺身
平成28年 5月号
No.148 ミンク鯨の畝須スライス
平成28年 4月号
No.148-2 ミンク鯨赤身の刺身&にぎり鮨
平成28年 4月号
No.147 スマの炙り平造りとにぎり鮨
平成28年 3月号
No.146 オヒョウ刺身
平成28年 2月号
No.145 ナマズ刺身薄造り
平成28年 1月号
No.145-2 ナマズにぎり鮨
平成28年1月号
No.144 ソロバン玉の串焼き
平成27年12月号
No.144-2 ボラの洗い造り
平成27年12月号
No.143 海を隔てた魚食の違い
平成27年11月号
No.143-2 海を隔てた魚食の違い
平成27年11月号
No.142 マイワシづくし(刺身&にぎり鮨)
平成27年10月号
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No.140 グルクマ刺身平造り
(平成27年8月号)
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(平成27年7月号)
No.138 活アイゴ平造り
(平成27年6月号)
No.137 マナガツオ炙り平造り(平成27年5月号)
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No.135 サヨリ姿造り・にぎり鮨・酢の物(平成27年3月)
No.134 真鯛にぎり鮨(平成27年2月号)
No.133 生魚対面裸売りの勧め(平成27年1月号)
No.132 イラの刺身(平成26年12月号)
No.131 ロブスター刺身姿造り(平成26年11月号)
No.130 真サバ炙り平造り(平成26年10月号)
No.129 紅鮭ステーキ(平成26年9月号)
128 コイの洗い(平成26年8月号)
127 旬線刺身盛合わせ(平成26年7月号)
126 エツ刺身姿造り(平成26年6月号)
125 メバル薄造り(平成26年5月号)
124 旬のアマダイの鮨と刺身(平成26年4月号)
123 本マグロづくし刺身盛合わせ(平成26年3月号)
122 寒メジナにぎり鮨(平成26年2月号)
121 うなちらし(うな重)平成26年1月号)
120 アルゼンチンアカエビの魅力(平成25年12月号)
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118 生秋鮭焼霜刺身(平成25年10月号)
117 カンパチ腹トロ薄造り(平成25年9月号)
116 イスズミ平造り(平成25年8月号)
115 ヤリイカ姿造り(平成25年7月号)
114 イサキ姿造り(平成25年6月号)
113 ウマヅラハギ薄造り(平成25年5月号)
112 片口鰯にぎり鮨(平成25年4月号)
111 旬鮮刺身ちらし鮨(平成25年3月号)
110 生アナゴにぎり鮨(平成25年2月号)
109 魚屋鮨鉢盛り大トロ5カン入り(平成25年1月号)
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107 サーモンレタス裏巻き(平成24年11月号)
106 秋太郎平造り(平成24年10月号)
105 コノシロ糸造り(平成24年9月号)
104 活鱧の刺身(平成24年8月号)
103 Bad money drives out good money(平成24年7月号)
102 コチ薄造り(平成24年 6月号)
No.101 キビナゴ開き造り(平成24年 5月号)
No.100 アトランティックサーモン薄造り(平成24年 4月号)
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食品商業誌寄稿文

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平成29年 10月号 166

グチ

グチ

シログチの平造り刺身・にぎり鮨・切身


判別が紛らわしい魚種

今月もFISH FOOD TIMES No.163に続いて「魚の種類の泥沼」の中に埋没してしまいそうな予感がするのだが、今回はそこに深入りするのはやめておこうと考えている。

実はNo.163の内容で、読者の方から魚の名前はセンネンダイではなくヨコフエダイではないかとの指摘を受け、この魚は沖縄や南西諸島ではどれもが明確に区別されることなく、全て「サンバナー ( サンバラダイ)」などの地方名で呼ばれていることから、魚の名称は「サンバナー ( サンバラダイ)である」ということで、本文を書き換えることなく追補更新の形で勘弁を願った経緯がある。

今月号で取り上げるシログチはスズキ目スズキ亜目ニベ科シログチ属に属しているが、同じニベ科の魚には以下のような仲間が存在していて、全国各地の魚売場の現場ではこれらがそれぞれ勝手な名称で通用しており、魚種の区別を読者の誰もが納得するような形で正確に伝えるのはなかなか難しいことが予想される。

以下の画像は全て筆者が撮影したものであり、撮影した場所や時期はそれぞれ違うものの、大きさはほぼこんなバランスだったと、少し曖昧な記憶が残っている。

シログチ(ニベ科)の仲間の見分け方

シログチ

シログチ(グチ、イシモチ) ニベ科シログチ属

全体が銀白色でやや細長く、尾ビレは突き出た三角形。エラ蓋の後ろに黒い斑がある。

キグチ

キグチ(キングチ、フウセイ) ニベ科キグチ属

体色は黄色味のある銀白色で腹部は背部より少し黄色い。目が上あごの先端に近くて大きく、尾ビレの元が細い。

コイチ

コイチ(キングチ、キグチ)ニベ科ニベ属

全体に黄色味を帯び、側線の下方の黒点は筋状に並び上は乱れている。背ビレを除いた各ヒレの元の部分は黄色が強い。

クログチ

クログチ(カマガリ)ニベ科クログチ属

胸ビレが長くて第一背ビレよりも後方まで届き、全体的に黒い色をしている。

ニベ

オオニベ (ニベ、ミナミスズキ)ニベ科オオニベ属

頭が小さく、胸ビレの長さは第一背ビレ後方の端に達しない。尾ビレ端は中央部が少し出ている。

オオニベ

ホンニベ(アカグチ)ニベ科ホンニベ属

側線上に背ビレに沿って斜めに規則正しい褐色の斑紋(小黒色斑点列)が続く。


グチ類の特徴

上にある画像の魚はいずれそのうちに取り上げて詳しく記すつもりだが、今回記事として取り上げるのは最上段画像のシログチであり、その体色は全体的に銀白色で、下画像にあるようにノイズのフィルターをかけて意図的に浮き出させた丸い場所にある、エラ蓋の後ろにある黒い斑が大きな特徴である。

シログチ

ニベ科の魚は共通して浮き袋(鰾)を震わせてグーグーと鳴くことができるようだ。筆者はそれを聞いたことはないが、それがまるで愚痴を言っているように聞こえるので「グチ」の名が付けられたとのことだ。

それらが多く集まると400〜500m離れた場所でも聞くことができるということだが、この鳴き声は産卵が行われる大潮の時にほぼ限られていて、お互いの存在を認識するための音だと考えられている。

その浮き袋(鰾)には下の画像にあるように赤い筋肉が両側に付いていて、それを震わせて浮き袋(鰾)が共鳴し、それが鳴き声(振動音)となる構造のようだ。

グチの浮袋と筋肉(キグチでの例)
キグチ浮袋

1、背骨付近にくっついている乳白色が浮き袋(鰾)

キグチ浮袋
2、浮き袋(鰾)だけを指で外す
キグチ浮き袋

3、ニベ科の浮袋からは膠(にかわ)という接着剤ができる。愛想がないという意味の「にべもない」の語源である

キグチ浮袋

4、浮き袋を外した両側に浮き袋を動かす赤い筋肉がある

キグチ浮袋
5、この赤い筋肉は指でめくると外れる。
キグチ浮袋
6、この筋肉は牛や豚のヒレ肉のような位置づけにある。
キグチヒレ肉
グチのヒレ肉を添えた煮付け料理

 

また頭部を解体すると、下画像の白い丸い粒が出てくるが、これは耳石という平衡器官であり、この硬い石のような器官があることから、別名でイシモチ(石持)とも呼ばれている。

シログチ


最近はほとんど見かけなくなってしまった大衆魚

筆者がまだ鮮魚担当者として「ひよっこ」の頃の何十年か前は、シログチはまるで捨て値といった安い価格で山のように売られていた記憶があり、それもウロコが剥げ落ちて身は柔らかく、とても刺身などには出来ない鮮度であり、どちらかと言えば魚売場で扱うような鮮度の魚ではなく「カマボコ屋行き」としてバカにするようなものが多かった。

そういう鮮度のシログチというのは、そのほとんどが東シナ海・黄海などの海域で、2隻の船で袋状の網を引く以西底引き網漁業(1隻の漁船で網を曳くトロール漁業とは違う)によって一網打尽に漁獲されたものだった。

しかし最近はシログチが魚売場に並んでいるのをほとんど見かけなくなってしまったのだが、それは以下のような歴史的経緯がある。

昔、東シナ海や黄海には多様な魚類が生息し、大陸棚上で以西底引き網漁業によってシログチやキグチなどのグチ類や、タチウオ、ハモなどが漁獲されていたが、下の図にあるように1960年代以降1990 年代にかけて以西底引き網漁業の操業海域が狭くなっていき、1996年以降は東シナ海大陸棚の縁まで、そして2004年以降は九州西方の日中暫定措置水域を除く、我国 のEEZ 内だけでの操業が中心となっている。

以西底引き網

以西底引き網漁業の漁獲量は1960年代に30 万トン以上を維持していたが、1970年前半に漁獲量は約20 万トンとなった。そしてその後1980年頃までは 20万トン程度で安定していたけれども、1980〜1990年代には更に大きく減って、2000年以降は 6千〜9千トン台で推移し、2014年には約3.3 千トンを漁獲するのみとなっている。

以西底引き網船の許可隻数は、1965年に684隻もあったが、10年後の1975年には175隻減って509隻になり、10年後の1985年は424隻、さらに10年後の1995年には98隻となった。そして現在2017年は僅か8隻(長崎の8隻)にまで減ってしまっている。

これは1980年代からコストの高い日本漁船は採算がとれなくなって撤退が相次ぎ、撤退する日本の中古船を買った中国がこの海域で操業を開始したという事情がある。つまりこの漁場に中国漁船が進出してきたのは、日本漁船が撤退していった1980年以降であるが、その時点で東シナ海の資源は既に乱獲され漁場は枯渇していたようである。

以西底引き網

日本ではこのように以西底引き網漁業は、まさに風前の灯火となっている一方で、中国はFAO 漁獲統計によると、下の図に示されているシログチ・キグチの分布域や産卵場に当たる東シナ海、黄海の海域で底引き網漁によって活発な漁業をおこなっているが、それに加えて最近は悪名高い虎網というのが出てきた。

虎網というのは特殊な形の大型の網を使って漁を行う漁船のことであり、夜間に強力な集魚灯でサバやアジなどを引き寄せ、網船が長さ1キロの網をループ状に巻いて魚群を包囲し、水中灯を備えた小型艇が網の突端の袋状部分に魚を誘導する。網船の排水量は500トン程度で日本の巻き網漁船より一回り大きく、巻き網漁より少人数で済み、実質操業時間も短いが、網目が小さく稚魚まで大量に捕獲する。突端の袋状部分が広がると虎の顔のように見えるこの虎網によって、まるで海から絞り出すように数多くの魚を漁獲しているらしい。

グチ

中国ではどの魚種も1990 年代に漁獲量が著しく増加したが、近年の漁獲量はほぼ横ばいになり、2007〜2013年にキグチが約34万〜41万トン、ハモ類は約30万〜37万トン、マナガツオ類は約32万〜37万トンの漁獲が報告され、韓国でも2014年にシログチ、キグチをそれぞれ約2千トン、3万トン漁獲していることが下の表で理解できる。

China,Korea


中国や韓国の実情

シログチやキグチを含むグチ類は、中国や朝鮮半島では食文化を代表する魚として古くから親しまれ、特に韓国・朝鮮ではグチ類の干物を神事の供え物として用いるほど特別な存在だということである。

筆者が2016年10月に訪問した中国上海のMETRO(ドイツが本社のスーパー)の魚売場では、下の画像左下にあるようにキグチが生魚裸売りをしているコーナーの中でも一際目立つ形で陳列されていた。

メトロ

 

また2015年10月に訪問した釜山では、チャガルチ市場の近辺で以下のような光景が見られ、グチ類の存在感の大きさを感じることができた。

釜山魚

釜山のチャガルチ市場近辺にある干物屋の店頭に並ぶグチ類の干し魚

 

釜山魚

チャガルチ市場の魚屋の店頭に並ぶ、ニベ・キグチ・シログチ・レンコダイ・水カレイ・赤ムツなどの生魚

 

そして上の画像のような魚売場を今もしっかりと支えている裏付けとなるのが以下の釜山港の光景だった。

釜山漁港 釜山漁港

釜山港に係留された底引き網漁船の光景

筆者が何十年も前に福岡市の中央卸売魚市場がある長浜の港で毎朝見ていた、懐かしい底引き網船が多数係留されていて、今も韓国の魚はこの底引き網船が多数活躍し、韓国の人たちの魚食を支えているということが理解できたのである。この時の様子は No.143 海を隔てた魚食の違い(平成27年11月号 No.143-2 海を隔てた魚食の違い(平成27年11月号 も参照してほしい。


シログチの環境が変化した日本でのこれからの対応

さて、シログチを取り巻く日本の環境は、歴史的に中国や韓国との外交的な関係の変化にも翻弄されながらも、こうして大きく変化してきた。今や日本でシログチは沖合の以西底引き網で漁獲する魚ではなくなり、沿岸の小型底引き網などで細々と漁獲される魚となっているようであり、その点で鮮度についても昔とは様変わりしていると言える。

今回刺身や鮨に使用したシログチも沿岸の小型底引き網船で漁獲されたものらしく、素晴らしい鮮度だったので以下のような工程で刺身と鮨をつくった。

シログチの刺身と鮨の工程
シログチ

1、左手で左へ皮を強く引っ張り、身と皮の間に柳刃を入れ、右のほうへ動かす。    (三枚おろしまでの作業工程は省く)

シログチ
2、上身も下身も同じ要領で皮を引く。
シログチ
3、皮を引いた後に骨抜きで小骨をすべて引き抜く作業をおこなう。
シログチ シログチ
4、上身を尾の方から、平造りにしていく。 4、下身の皮側を下にして、柳刃の切っ先を左上に向け、頭側から引き切る。
シログチ シログチ
5、刃元から切っ先へと引いて切り、    左手の親指で包丁の腹を指送りする。 5、柳刃を引いたら、皮1枚分残して峰を起こし、起こした角度で切り離す。
シログチ シログチ
6、少し長めに同じ長さに切り揃える。 6、最後の一枚まで鮨ネタとして使える大きさと長さに切り揃える。
シログチ シログチ
シログチの平造り刺身 シログチのにぎり鮨
 

煮付け

昔は刺身に出来る鮮度のシログチは珍しかったので、もっぱら焼くか煮るか揚げるかが定番の料理だった。今回はシログチの柔らかい白身の味わいが一番出やすい煮付けを以下に紹介しよう。

シログチの煮付け
シログチ シログチ
1、カマを付けたまま切り落としの方法で頭部を除去し、水洗いの後に水気を拭き取る。 7、尾ビレ側は、尾ビレの根元付近を切って形を整える。
シログチ シログチ
2、背ビレを刃元で切り落とす。 8、3人用に3分割した切身。
シログチ シログチ
3、カマを上に起こして、胸ビレと腹ビレを刃元を使って切り落とす。 9、トレーに盛り付けた商品化。
シログチ シログチ
4、尻ビレを切り落とす。 10、煮汁を一煮立ちさせる。
シログチ シログチ
5、頭部の切り口から尾ビレの先端まで含めた長さの三分の一のところで胴切りをする。 11、煮立つまで待つ。
シログチ シログチ
6、頭部側は中骨の上に包丁を入れ、二枚おろしの2分割にする。 12、煮立ったら落し蓋をして4〜5分待ち、落し蓋を取ってから2〜3分待って仕上げる。
シログチ
シログチの煮付け

これからの位置付け

シログチやキグチなどのニベ科の魚はどんな料理にしても美味しく、東シナ海を囲む日本、中国、韓国朝鮮の国々にとって、昔から欠かすことのできない、同じみの大衆魚として存在してきた。

しかし中国や韓国はまだしも、現在の日本では必ずしも昔ほどの勢いを感じることはなくなってきており、国内沿岸域での小型底引き網による漁獲によって、昔の何万トンの時代と比較すると細々とした存在になってしまっているが、その存在感は薄れたとしても、逆に鮮魚としての価値は相対的に高まっていると見るべきであろう。

昨今の魚を販売している水産担当者は、かつてシログチやキグチが上記してきたような非常に大きな存在だったことを知る人は少ないようであり、今改めてこれらの魚をどう扱っていくのか、新しい視点で見直してほしいものである。


水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新してきたこのホームページへの

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更新日時 平成29年 10月1日