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令和元年 7月号 187
赤ウニイカ鮨
その味に高い評価の赤ウニ
今月号は旬を迎えた赤ウニについて記してみよう。
アカウニはホンウニ目オオバフンウニ科アカウニ属に属しているバフンウニの仲間である。
全体的にアカっぽい色をしており、トゲはバフンウニの仲間としては長いが、その尖って長いトゲはそれほど硬くもなく素手で触ることも可能だ。上の右画像は真横から撮ったものだが、少し扁平な形をしておりバフンウニの仲間の特徴を表している。
赤ウニは九州沿岸の北西部付近に多く、漁獲量が限られていることから九州域外に出ることが少ないため、これまで九州から遠い東日本の方ではほとんど知られていなかった。しかし最近は赤ウニの濃厚な甘みを知る人が増えているようで、今や需要と供給のアンバランスから価格がどんどん高くなっているウニであり、数あるウニの中で最も評価が高く値段も一番のウニとなっている。
赤ウニの漁期は、年間の中で7月から8月を中心とした夏場の3ヶ月間ほどしかない。水深の深いところに棲んで岩の陰に隠れるように潜んでいて、漁獲の際に少しでも傷つけてしまうとトゲを外して死んでしまうことから、他のウニと比較すると赤ウニ漁は難しいとのことである。昔ながらの素もぐり漁法で漁獲されることの多い赤ウニは、年々漁獲量が減少している希少種であり、その濃厚な甘みから「日本一旨いウニ」とも言われ、幻のウニとか、ウニの王様とも言われている。
北海道ではエゾバフンウニのことをアカウニとも称しているが、これは赤ウニのように外観が赤いのではなく、殻の中の生殖巣が赤っぽいので通称アカウニ(赤)と呼び、これに対してキタムラサキウニの生殖巣は白っぽいのでシロウニ(白)と称している。
これが板ウニの商品になると、以下の画像のようになる。
日本近海には140種類ほどのウニ類が生息しているとのことであり、そのなかで食用となるウニは赤ウニ、エゾバフンウニ、キタムラサキウニの他に、バフンウニやムラサキウニ、シラヒゲウニなど6種類(長いトゲに毒を持つガンガゼは例外として除外)である。この6種類のなかで漁獲量として一番多いのがキタムラサキウニであり、ウニ全体のほぼ40%を占め、これにエゾバフンウニを加えると約60%以上になり、赤ウニを含む他の4種類はすべてを合せても40%に満たない。
ウニの国内生産量と輸入の推移
近年全国でウニの生産は以下のような推移をしている。
このグラフから見えてくるのは、全国のウニ生産量はほぼ横ばいであまり増えていないが、生産金額は全体的に増える傾向にあり、ウニの価格は年を追って次第に高くなっていることが推測できる。
ウニの用途はほとんどが生の状態で鮨などに利用されていると考えられ、鮨の人気に支えられてウニの需要は高まり、日本での生産だけでは全く足りないことから、これまで外国から多くのウニが輸入されてきた。
殻付きの活きウニは2017年に8,353dが輸入され、2,018年には8,492dとなり僅かながら輸入量は伸びたけれど、むき身の生鮮ウニは17年の655dから18年は521dとなって前年比79.6%、同じくむき身の冷凍ウニは17年2,008dから18年1,772dで前年比88.2%となり、これらの輸入は前年を大きく下回ることになった。
このようにウニが今も日本国内で不足しているというのに輸入が減り始めた要因は、以前日本がほぼ独占的にウニを各国から輸入していた時代があったのだが、このところ世界各国で和食がブームとなり、鮨の人気がどんどん高まっていて、世界各国のウニが生産される地元でもウニが消費されるようになり、その価格も以前より高値で取引されるようになっていることが輸入の伸び悩みの背景にあるようである。
こうしてウニもまた他の魚と同様に世界の和食ブームと鮨ブームを背景にしてニーズが高まり価格も上昇しており、国内産のウニの代替として安さを実現してきた輸入の冷凍ウニも、この先簡単には食べられない時代になるかもしれない。
さてそのような時代の中で、魚の販売者でさえもがウニの元の姿をまともに見たこともなく、仮に丸のまま入荷したとしても、どう扱って良いのか分からない人も多いようなので、筆者は今月号で最高級の赤ウニを使ってウニに関する基本的な知識を記してみたいと思ったのだ。
赤ウニの生殖巣を取り出す作業工程を以下に記してみよう。
赤ウニの生殖巣取り出し工程 | |
1,作業に必要なものとして、左からピンセット、小スプーン、3%前後の塩水、ザルとボウル、それと画像にはないが料理鋏。 | |
2,赤ウニの下部にある口面を上に向ける。肛門は上部の背中側にある。 | 6,半分に割った殻の中から生殖巣を傷つけないよう気をつけて、スプーンで取り出す。 |
3,口や歯がある丸くて硬い部分を料理鋏でくり抜くようにして外す。 | 7,生殖巣は塩水とザルをセットしたボウルに入れていく。塩水の濃度が薄過ぎると形が崩れやすいので注意が必要。 |
4,丸くて硬い部分を外した状態。 |
8,生殖巣に絡まって残った食道や腸をピンセットで取り外す。 |
5,穴から料理鋏を入れて殻を半分に切る。生殖巣は五ヶ所の星形であり、形を確認し注意しながら切り進む。 | 9,食べられない不純物を取り外し、ザルに残った生殖巣。 |
10,赤ウニから取り出した直後の生殖巣の拡大画像。 |
上の拡大画像をよく見てほしい。少し赤っぽい黄色と白っぽい黄色の2種類に分かれているのが判別できると思う。オスの精巣は赤っぽく、メスの卵巣は白っぽいので、オスとメスはこれで判断する。そしてオスとメスは味が違っていて、赤っぽいオスの精巣の方がより濃厚で美味しく、この赤っぽいものだけを集めたものが市場相場は高いことも知っていた方が良いだろう。
ミョウバンの功罪
さて、殻の中から取りだした直後の生殖巣は上画像のように綺麗な形を保っているけれど、そのまま放っておくと直ぐに形がだらしなく崩れていってしまうので気をつけなければならない。
ウニの生殖巣の形が直ぐ崩れてしまう欠点を補うのが、明礬(ミョウバン)を0.25~0.7%の割合で水に溶かしたミョウバン水だ。ミョウバンは無水硫酸カリウムアルミニウムという鉱物の一種で、生殖巣の形を保つと同時に防腐剤の役割も担っている。これはお菓子を作る時のベーキングパウダーにも含まれていて、ほんの少量であれば人体に問題はないが、大量に摂取して蓄積していくと肝臓や腎臓に影響が出るとされている。
ウニが嫌いな人は「ウニの苦みや渋み」をその理由として挙げることがあるが、その原因を作っているのがこのミョウバンであることが多い。全国各地の漁師さんが板ウニの形で販売する時、基本的にほぼ100%がミョウバン水に浸して形を整えて出荷していると思って間違いないだろう。もちろんチリなどの外国から輸入される冷凍板ウニにもミョウバンは使われていると考えるべきであり、基本的に商品としてのウニとミョウバンは切り離せない関係になっているのである。
中には生ウニを塩水に入れた商品があり、これはミョウバンを使わないことを売りにしているようだが、残念ながら生殖巣の形は相当崩れていることを覚悟しなければならないだけでなく、一部の旨み成分が塩水に流れ出している可能性もある。
下の画像は板の箱に入れられた100g規格の赤ウニだが、この板ウニの購入に何千円かは覚悟しなければならない商品であり、これだけ大きさと形を整えた商品を作るにはどれだけの手間と労力が必要か、さぞ大変なことだろう想像するが、これもミョウバンとは無縁ではないと考えたほうが良い。
板ウニの規格は基本として内容量100gが基準となっていて、これより大きいのは150g、180g、230g、小さいのは80g、50gなどの規格で販売されている。この他、瓶入り、塩水入りなどの商品があるけれど、やはり一般的に馴染みがあるのは板ウニ100g規格の商品である。
板箱の赤ウニを刺身盛り合わせに一個分使うとなると、商品原価は途端に跳ね上がることになるので、最近では筆者が2012年に作成した下画像のような板ウニ一個分使った刺身鉢盛りなどを見ることは非常に少なくなってしまった。
このレベルの刺身鉢盛りのように、赤ウニだけでなくアワビ、本マグロ、ヒラメなどを材料に使うと、売価は軽く1万円を超えることになってしまうので、少しでも原価を抑えるために「板ウニの半割」を半分だけ使う以下の画像のような方法もある。
こうして板ウニ半割を使うとしても、刺身盛り合わせの材料としては非常に高価で贅沢な材料であることは間違いない。このため板ウニをもっと小さく小分けして使うことも考えられるが、これを小さくしてしまうと、ウニの原価が非常に高い割に見た目はあまり良くならないので、一般的にウニを小分けして刺身盛り合わせに使うことは少なくなる。
赤ウニとヤリイカ、二つの旬を組み合わせる
ウニというのは基本的に単体で販売しようとすると非常に割高感を感じさせてしまうことになることから、少し割安な材料と組み合わせることがウニのコストパフォーマンスを高めることになる。
例えば具体的には夏が旬のヤリイカである。これは九州北部での呼び名はヤリイカだが、山陰地方でシロイカ、関東でアカイカと称し、正式和名ケンサキイカ、英語名 swordtip squid のことである。
このヤリイカを使って、赤ウニと組み合わせた商品を作ってみた。先ずは鮮度の良いヤリイカを解体した後に、よく水洗いした耳とゲソを準備して、これを赤ウニと和えて刺身商品化をした。
ヤリイカの赤ウニ和え | |
1,ヤリイカを解体した後の耳とゲソ。 | 4,耳を細く切り離す。 |
2,ゲソを短くカットする。 | 5,赤ウニを準備する。 |
3,ゲソを細かくみじん切りする。 | 6,ゲソと耳を別々に赤ウニと和える。 |
ヤリイカの赤ウニ和え刺身 |
上画像の商品は本来刺身に使う部位ではないゲソと耳であるから、歩留まり率を計算して不用部位として位置づけているならば原価はゼロ円と見ることが出来るので、この商品は格安な売価で販売できることになるし、値入率も相当大きくなるであろう。
しかし、やはり何と言ってもウニの出番が多くなるのは、刺身ではなく鮨であろう。少し高級な鮨盛り合わせにはウニ軍艦が入るものだとの見方があるほど、ウニは鮨の高級ダネとして定着しているけれど、ウニ軍艦については特に目新しいことは記せないので、最後に巻頭画像の赤ウニとヤリイカを組み合わせた「赤ウニイカ鮨」について説明しよう。
これは作業工程の画像がないので以下に言葉で説明しよう。
1,ヤリイカは解体して開いた後、むき身の薄皮を取り、むき身の広い方を一丈の幅(約8p)で長方形に冊取りする。次に冊取りした表面に松笠模様の飾り包丁を入れ、湯霜をして冷水で冷やす。冷やし終えたら水分を拭き取り、鮨ダネの幅にカットする。
2,松笠模様を入れた鮨ダネは、大葉を縦に半切りにして銀シャリとの間に挟み込んでにぎり、最後に赤ウニの一塊をトッピングする。
3,短冊を長方形に取った後に残る三角形の部位は、細長くそうめん状に切り離し、ボウルに入れて赤ウニを加えて和え、これを軍艦の上にトッピングする。
4,上画像7カンの真ん中のウニにぎり鮨は、銀シャリをにぎって形を整えた後、スプーンを使って上にトッピングする。
こうして上画像の作品は出来上がったが、これらを食べた人たちの食後感は最高の評価であった。何と言っても「ミョウバン水に浸していない赤ウニ」は、やはりウニの王様と言われるだけの濃厚な甘みがあり、ウニ嫌いを自称する人に一度食べてもらいたいものだと思った。
ウニ養殖が開くかもしれない安定供給の可能性
流通している生のウニ商品は、そのほとんどが殻付きの丸の状態ではなく、解体されて可食部分の生殖巣のみを取り出した商品となっているので、容器以外は100%食べることが出来る。このため、その煩わしい加工手間賃なども含めたウニの商品価格は、100g当たり平均相場が1,000円〜2,500円ほど、つまり1kgでは1万円から2万5千円にもなる高級品となっている。なかでも最高級品の赤ウニは100g3,000円は覚悟しないと手に入らない代物であり、まさに特別な超高級品と言えるだろう。
そのような高値で取引されるウニであるが、一方では海草を主食とする生物なので「磯焼け」を起こす原因をつくる厄介者として嫌われる一面も持っている。ウニは基本として、海草のコンブだけでなくアラメ、サンゴモ、ワカメなど、様々な海草類を食べるけれど、実は海草でなければ生きていけないというわけではなく、動物性の餌でも食べる雑食性のようである。
最近話題になっているのが、これまで規格外の理由で廃棄されていたキャベツを使ったウニの養殖実験が盛んになっていることだ。また、ほんの最近2019年6月18日には、九州大学農学研究院の栗田助教が、誰でも比較的簡単に育てられるクローバーを使って、ムラサキウニを養殖できることを発表したばかりであり、栗田助教は放置竹林のタケノコを使ってのウニ養殖実験も開始しているとのことである。
ウニは増えすぎると磯焼けの原因となるので、ウニの漁獲期を終えて産卵の時期も過ぎた頃になり、個体数が増えすぎて過剰と判断された場合、ウニは駆除されて廃棄される。しかし上記したように、これまで駆除されていたウニが養殖されて生産が軌道に乗ることになれば、現在のタイトな供給が少しは緩和され、価格も少しは落ち着くことになるかもしれず、そうなればウニを食べる機会も少しは増えることになるかもしれない。ウニ養殖が技術的に産業として現実的な局面に入ることが出来れば、やはり一番の希少種となっている赤ウニをその対象としてもらいたいものである。
最近の学術的調査によれば、ウニの仲間の中で200歳を数える固有種もいるとのことで、なかには100歳でも10歳と同じくらいの生殖能力を保持している強者もいるとのことだ。ウニはあの丸い身体に大きな生殖巣だけを抱えて生きているような生物なだけに、なんとも恐ろしいというか・・・、羨ましい・・・?。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和元年 7月 1日