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平成30年 12月号 180
メスは冬、オスは夏
鳥取産ズワイガニ「五輝星(いつきぼし)」の落札価格1匹200万円
先月11月7日鳥取県鳥取港でズワイガニの今年の初競りがあり、その最高落札価格が甲羅の幅14.6p、重さ1.28kgのズワイガニ1匹が200万円となり、この価格が11月24日にギネス記録に登録された。
地元で海産物を扱う「かねまさ・浜下商店」の浜下哲爾社長は「競り落としたときはいき過ぎたかなと思ったが、県産のカニが世界で認識される機会になった」と述べ、このズワイガニはそのまま売りに出されず「PRに役立ててほしい」と鳥取県に寄贈され、鳥取港近くの「県立とっとり賀露(かろ)かにっこ館」で展示されることになった。
ズワイガニについて、FISH FOOD TIMESではちょうど1年前 No.168 ズワイガニ付加価値商品 平成29年 12月号 で取り上げていたので読者の方はまだ記憶に新しいのではないかと思うが、今年も12月号は同じカニの仲間である和名ガザミ通称ワタリガニを取り上げることにした。
12月に同じカニが続くことになったのは、ズワイガニだけでなくタラバガニ、毛ガニなどのカニ類の価格が、昨年から今年にかけて上がり続けていて高嶺の花になりつつあることから、日本にはこの他に大衆的な価格のカニもあることを伝えたいという気持ちが湧いたからである。
農水省が公表する「カニ類」の日本での漁獲量は、ズワイガニ、ベニズワイガニ、ガザミ類、その他のカニ類の合計は、ピークと思われる1983年の約10万tから、2015年には約2万8,700tまで減っている。
その中でガザミ類(ワタリガニ)は2014年以降全国で年間2,000t 強の水揚げで推移してきた。ところが近年面白い現象が起きている。それは昔は年間で数トンの水揚げしかなかった宮城県で、2011年の震災以降に異変が起きて、急激にワタリガニの水揚げが増え続けており、2015年には500tを超え、2016年にはとうとう年間662t になって、2010年比で330倍にもなったというから驚きである。
その後宮城県では、2017年にガザミ類の水揚げは少し落ちたものの、2018年も引き続き年間500tの水揚げが続く見通しであり、4年連続のガザミ類水揚げ日本一となりそうだということだ。なぜこのような異変が起きたのか明確な原因は不明だが、推測できることは津波によって宮城県の湾岸に泥が堆積し海底の環境が変化したことによるものと考えられている。つまりガザミ類は冬になると泥に潜って冬眠し越冬する習性があるので、宮城県の沿岸がガザミ類にとって都合の良い環境になったことで急増したのではないかと推測されている。
このように東日本の宮城県でワタリガニの水揚げが急増したものの、大阪以西の中国や九州地方ほどワタリガニを食べる習慣はなく、地元では安くしても売れなくて困っているという話である。
ワタリガニの価格は、まだ生きている状態のもので、200g1,000円、400g2,200円、600g3,600円、ほどが平均的なものだと見ていればよく、地域や季節、ブランド力、そしてオスとメスの違いなどによって価格は大きく上下する。基本的にワタリガニは大きいほど高くて小さいほど安く、そして死んでしまうと価値がガクンとは落ちてしまうので、場所や時期、需要と供給の関係次第では捨て値のような価格まで落ちることも珍しいことではない。
ワタリガニの生態と特徴
上の画像がガザミ(ワタリガニ)であるが、これとは別にタイワンガザミという甲羅が濃い藍色で白い斑ら模様のカニがいて、それらは四国・九州・沖縄などで多く漁獲され、ほぼ同じような扱いを受けている。タイワンガザミのオスは斑の模様がはっきりしているのでワタリガニと見分け易いがメスは見分けにくく、ハサミが付いている脚の下画像の円で囲んだ部分に、棘が4本以上あるのがワタリガニで、3本しかないのがタイワンガザミである。
いっぽう、一部の地域ではタイワンガザミのことをガザミと呼び、ガザミはワタリガニと呼んでいるところもあり、筆者もこれまでそういう呼び方をしてきたので、以下の文章での表現はワタリガニの言葉で統一していきたいと思う。
以下は参考資料で調べたところの、ワタリガニが生まれてから死ぬまでを簡略化した生態である。
ワタリガニは丸1年で成熟し寿命は約2年である。交尾は秋に行なわれ、オスはメスが脱皮して軟甲になるまでの2日〜5日間、脚でメスを背後から抱えたままの状態になる。メスが脱皮すると、オスはメスを仰向けにして上に乗り、脚でメスを抱えながら交尾針をメスの生殖孔に差し込んで、カプセルをメスの体内に送り込む。さらにオスはメスの生殖孔をセメント様の物質で塞ぎ(貞操帯...?)、カプセルは半年以上もメスの体内で保管される。そして産卵は、5月〜6月に生まれるのが一番仔、7月〜8月に生まれるのが二番仔である。 産卵は夜間に行われ、卵は産卵時にカプセルから受精する。産卵数は80〜450万粒であり、産卵した卵はメスの腹部のふんどしと呼ばれる部分の内側に付着して卵の塊となる。これが外子と呼ばれる卵であり、卵の色は黄橙色から灰黒色に変化し2〜3週間程度で孵化する。 孵化直後の幼生は約1週間で稚ガニに変態し、昼間は中層から上層に浮き上がって遊泳する。成長するにつれ軟泥質から砂泥底へと生息場所を変え、秋には甲幅が15cm前後になる。 一番仔は11月までに成熟して18cm程になり、9月頃に孵化する二番仔は7cm前後で越冬して、翌年の9月頃には25cmほどに成長し、この間に脱皮は10〜15回行われ、二番仔の幼生をふんどしの中から放した後、一生を終えることになる。 |
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ワタリガニの名前の由来となったのは、脚の最後端にある第五脚が潜水する時に付けるフィン(脚ヒレ)のように泳ぐのに便利な構造になっていることから、カニにしては泳ぎが得意で広い範囲を移動できるので、ワタリガニと呼ばれるようになった。海の中を自由に放浪するワタリガニは、別名「海の放浪者」とも呼ばれているのだ。
しかしワタリガニがいくら泳ぐのが得意であっても、こんな小さなフィンが二つあるくらいではその遊泳能力はたかがしれており、天敵のエイやタコに見つかったら簡単には逃げきれるものではない。彼らに脚などをパクリとやられてしまったら、その部分を自ら切り離して逃げるという得意技を持っている。このことは「自切」行動と呼ばれていて、その切り離した部位からは又同じように脚が生えてくるのだ。
またワタリガニは活きがよいものほど気性が荒く、カニの仲間同士であっても大きい方の爪を使って直ぐに争いを起こし、その争いの結果自切をして足がもげてしまうこともよくあることから、水揚げされたワタリガニを輸送する時は自切しないよう下画像のようにゴムで縛られているのが普通の姿である。
いっぽう、読者の皆さんはワタリガニだけでなく生きた毛ガニや車エビなどが、輸送のために以下画像のような大鋸屑(オガクズ)を入れた箱に入れられている姿を見たことはないだろうか。
カニやエビが、なぜ水の中ではなくオガクズの中で長い時間生きていられるのかを不思議に思ったことはないだろうか。これは先人の知恵というやつで、水で濡らしたオガクズは密封した箱の中で水分を保ち乾燥を防ぐことが出来るので、カニやエビに適度な水分を供給することが可能となるのだ。
しかし湿ったオガクズにいかに水分が多いとは言っても、そこは水の中でもないのに何故生きていられるのかということだ。面白い現象として、たぶん読者の皆さんはオガクズの中に入れられている生きたカニやエビが、口から泡を吹き出しているのを見たこともあるのではないかと思う。それが疑問を解くポイントである。
ワタリガニだけでなくカニ類全般は、水中に棲息していて両生類でもないのに陸上を平気で動き回ることが出来る。その理由はこの泡に秘密があり、もともとカニのエラというのは空気中から酸素を取り込み易い構造になっている。それだけでなく水分たっぷりのオガクズがあれば、口から泡を出すことでオガクズの中の水分を取り込んで泡の中に酸素を取り入れ易くしているのだ。
ワタリガニを美味しく食べる
ワタリガニの面白い生態が少しは理解できたのではないかと思うので、今度は食べるほうの知識へと移っていこう。
まずワタリガニを美味しく食べる季節となる旬はいつなのかとなると、その意見は全国各地で色々あるようだが、筆者としては「オスの旬とメスの旬がある」としておきたい。だから、季節によってオスとメスの価格は大きく違うことになるのだ。
画像は2匹のワタリガニをひっくり返して腹部を見せたものだが、上がオス下がメスであり、一般的にふんどしと呼ばれる腹蓋の形が細くとんがっているのがオスで、横に幅広なのがメスという大きな違いがある。
メスの旬は12月から5月頃迄の内子と呼ばれる赤い卵巣が美味しい時期であり、その濃厚な旨みと甘みは焼いたり蒸したりで色々な味が楽しめる。メスは基本的に冬の寒い時期が一番美味しいと言われているが、春の4月5月頃のメスは内子が一段とたっぷり入った真っ赤な内子となるので、この時期もまた美味しいと言われている。
オスの場合はメスのように内子は全く入っていないし、味噌と呼ばれる肝膵臓(かんすいぞう)もあまり期待できないけれど、7月から9月頃までのオスは、脚や脚の付け根にある肩肉の身詰まりがたいへん良く、この頃は身の甘さがメスの10倍になると言われることから、オスは暑い季節の夏が旬と言えるだろう。
関西の泉州ではお盆のご馳走とも言われ、泉州岸和田のだんじり祭りも別名「がに祭り」とも言われるほどであり、ワタリガニはお祭りやお祝いごとで食べられてきたこの地域に馴染み深い食材であり、地域の通人や漁師などは「ワタリガニの美味しさは夏のオスだ」と言って憚らないらしい。
以下にワタリガニの調理方法を紹介しよう。
ワタリガニの調理 | |
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鍋・味噌汁用 | 蒸しワタリガニ |
1、カニの表面とふんどしの中のゴミを洗い流す。 | |
2、ふんどしを起こし、甲羅を取り外す。 | 2、蒸し器に腹を上にして並べ、ふんどしの内側に一握りの塩をのせて蒸し上げる。 |
3、ガニと呼ばれるエラを取り外す。 | 3、甲羅を取り外す |
4、胴体を二つに切り分ける。 | 4、ガニと呼ばれるエラを取り外す。 |
5、肩肉を二つに切り分ける。 | 5、胴体を半割りにし、更に半分にする。 |
ワタリガニの鍋・味噌汁用 | 蒸しワタリガニ |
上に紹介したように、出来ればお湯の中で茹でるよりも蒸気で蒸すことの方がお勧めであり、腹を上にしてふんどしの中に塩をひとつまみ乗せて蒸し上げ、その状態から15分ほど放置しておくと、旨味が凝縮してさらに美味しくなる。
ワタリガニ料理
全国各地にはブランド化されたワタリガニが売り出されているが、筆者はそのうちの一つである大分県豊後高田市香々地の「香々地岬ガザミ」を賞味しに行ってみた。
農海産物直売所(漁師の魚屋)サンウエスタンという店名で、いかにも獲れ立てのワタリガニを食べさせてくれそうな店だった。
店内に入ると大きな水槽が幾つもあり、そこにはある程度の大きさに選別された無数のワタリガニが、緑色のカゴに入れられて並べられていた。
客はまずそこから自分の財布の中身に見合った価格のワタリガニを選ぶことになるのだが、下は2,000円前後から上は1万円近くまでの幅広い品揃えがあり、価格を指定するとそれに見合った大きさのワタリガニを店の人が水槽の中から選んでくれるのである。
ワタリガニを選んだら、扉一枚隔てた横の食堂にそれを持って行って、選んだワタリガニの料理方法を指定し、他の料理もスタッフに伝えて料理が出来上がるのを待つことになる。 筆者たちが選んだのは以下の大きさのメスだった。特別大きくはないけど、小さくはないほどほどのサイズだった。
そしてこれらのワタリガニと料理はこのように仕上げられて運ばれてきた。
上画像のワタリガニにタグはついていないけれど、運ばれてきた時は以下のようにタグが付けられたままだった。我々は「蒸し」にしてもらうことにしたのだが、茹でることもできるようである。
ワタリガニの料理で一つ注意点は「カニを食べてもガニ食うな」という警句があるように、ガニと呼ばれるエラの部分をきっちり外しておかなければ、これを口に入れるとワタリガニの美味しさが台無しになってしまう。この点さえ気をつければ、ワタリガニは蒸しても茹でても美味しく食べられる。
この料理屋ではゴムバンドがつけられたままで蒸しにするので、店の人が甲羅を開いて中身を扱うことはなく、画像で分かるようにガニはついたままである。だから料理を食べる時は、先ずガニの除去作業からスタートすることになる。
甲羅を開けてみると、内子と味噌は感激するほど大きくはなかったけれども、この時期にしては上出来だと思うことにした。いっぽうで肩肉のボリュームはたっぷりであり、カニスプーンでほじくってもほじくっても次々に身が出てくるほど多いと感じた。
そして、小さめのワタリガニが半分に割られ、お椀から飛び出して入れられていた味噌汁にはそのエキスがしっかり溶け込んでいて、その味噌汁もとても美味しくいただくことができたのだ。
12月になるとワタリガニのメスは内子が発達して大きくなり食べ応えが出てくるはずである。夏のオスも美味しいとは言えど、やはりメスは冬場が美味しいのは間違いない。
このところ天井知らずの高値を続けているズワイガニやタラバガニ、毛ガニなど、北海の寒い海域に生息している高価なカニ類ばかりを商売のタネとして追いかけるのではなく、どちらかと言えば南方系の比較的暖かい海に棲むワタリガニにも少しは目を向けてほしいものである。
ここ数年は日本一のワタリガニの漁獲を誇ることになっている宮城県の水産関係者も、FISH FOOD TIMES 12月号の記事内容を読めば、今後ワタリガニの流通活性化に活かせるヒントがいくつかあるのではないかと思う。そのようなことに少しでも役立てば嬉しく思う。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新してきたこのホームページへの
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更新日時 平成30年12月 1日