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Mar. 2015 No.110
生アナゴにぎり鮨
アナゴと鮨の関係はまさに切っても切れないほどの間柄だということは、今更改めて言うまでもないと思うが、アナゴのにぎりなら大好きという人でも、たぶん知っているのは「煮穴子」か「焼き穴子」にしたものではないだろうか。
画像ような「生アナゴ」にぎりは、あまり食べた経験がないだろうと思う。
普通アナゴは生のままでは食べないのが常識となっているのだが、これはウナギと同じで、血液と粘膜に「微弱なタンパク毒」を含んでいて、刺身などの生食は避けた方がよいとされているからである。
この毒はタンパク質なので加熱することで無毒化することから、煮たり焼いたりして食べるのがアナゴを食べる時の基本となっている。
アナゴは、ウナギやハモ、ウツボなどと同じウナギ目に属し、アナゴ科にはマアナゴ、クロアナゴ、ハナアナゴなど32属150種ほどがある。
その中でも中心となるのが、下の画像のマアナゴである。
最近の魚売場ではウナギはもちろんのこと、アナゴも店内では開かずに、開いたものを仕入れて売るのが当たり前になってきていることから、長物を開く訓練の機会が減って、工程のどこに気をつけなければならないかなど、タンパク毒の取り扱いポイントを学ぶ場がなくなっているようだ。
アナゴを開くまでの工程は、以下のようになる。
活きているアナゴは、丈夫なナイロン製ネットで5 〜10sほどで仕入れられる。
これを1尾ずつ締めながら開きにしていく。
1.目打ちをして、腹から骨の上に沿って、背の際ギリギリを尾ビレまで開いていく。 | 2.出来るだけ血が飛び散らないように、内臓をまとめて取り出す。 |
3.包丁を少し上に向けて、押し切りしながら、骨の下を滑らせるように切り開く。 | 4,尾の端に切り込みを入れ、背ビレの際に沿って包丁を動かし、背ビレを外す。 |
5,アナゴを開く前にお湯をかけてヌメリを完全に取るのはもちろんのこと、 開いた後に血液などを完全に除去するために、軽くていねいに水洗いをする。 |
この段階までに、微弱なタンパク毒のある血液やヌメリなどをキッチリ除去する。
アナゴを包丁で締める時、頭部に近い部分が血で染まっていることが多いので、血液がしみこんだ部分は大きく取り除くようにすることが大事である。
頭を取り除いたら、次に皮をすく。
上の身が皮側の外身で、下の身が開いた骨側の内身。
この状態まで仕上げたら、あとは普通の魚と何ら変わりはないので、開いた状態のまま鮨ネタ用に切っていけば良いし、腹骨は非常に小さくて特に気にならないから無理に外す必要もない。
白くて透明感のある身質は、見た目が淡泊な感じだが、大きさ次第では脂も乗っていて、とても味わい深い旨味があるのだ。
もちろん生のままにぎるのではなく、火を通しての商品化も可能なので、
皮をすいた身の方を炙りにすると、
生アナゴの炙りにぎり
皮を炙りにすると、
生アナゴの焼き霜にぎり
などにも商品の幅を拡げることが出来る。
このように表面を炙れば、タンパク毒の心配は基本的にゼロに近い。
これらは当然ながら従来品の煮穴子でもないし、焼穴子でもない。
あくまでも「生のアナゴ」の加工度を極力高めず、鮮度感を狙ったにぎりなのだ。
基本は生魚のジューシーさを保ちながら、表面だけを火で炙って、焼きの香ばしさを引き出すのが目的なのである。
例えば煮穴子はメソアナゴと呼ばれる、成長途上で小振りのものが好まれ、どちらかと言えば脂タップリよりもサッパリ味の方が評価されるようであり、しっかりと煮ているので、鮨ネタでは湯ダコやボイルエビと同じで、基本的に鮮度感は感じられず、ワンランク下の地位に甘んじさせられている。
煮穴子も焼穴子も、きちんと料理していればとても美味しいのだが、スーパーや外食用に外国産の固くて美味しくない粗悪品が安く出回った結果、鮨ネタとしてアナゴの評価はあまり高くなく、不当な扱いを受けているようだ。
アナゴの本当の美味しさを多くの人達に知らしめる方法というのは、「生」の美味しさを活かした形で「鮮度感」をアピールすることではないだろうか。
今回使用したアナゴはとても脂が乗っていて美味しさが格別だったのだが、これは長崎県対馬のブランドアナゴである「黄金あなご」を使ったからだ。
「黄金あなご]とは長崎県対馬市西沖の韓国との国境付近の海域で、 水深150m〜200m、水温約6℃ほどの環境に生息し、 良質なエビ・タコ・イカなどを餌としているアナゴであり、 大きく脂がのっていて、丸々とし身は締まり、独特な歯ごたえが楽しめる。 |
・・・と、ホームページでアピールされているので、「黄金あなご」にご興味のある方は、以下にご連絡をどうぞ。
有限会社 対馬かまぼこ店
販売責任者 島居 孝廣
所在地 817-1201 長崎県 対馬市 豊玉町仁位 2091-3
電話番号 0920-58-1662
FAX番号 0920-58-1705
アナゴという魚はウナギと同じで産卵場所や詳しい生態など、まだ解明できていない部分が多く、謎の多い魚でもある。
春になるとアナゴはレプトケファルスと呼ばれる葉のような形で沿岸域に出現し、これが長い形の本来の姿に変態した後に、甲殻類などを食べながら成長する。
3年から5年ほどで成熟するようだが、寿命はオスよりもメスの方が長く、大きさについても、オスは40p位までなのに対して、メスは90pまでなるらしい。
アナゴの産卵場はまだ正確には分かっていないということであり、最近の研究では、マアナゴはウナギと同じように南の方へと産卵回遊を行い、産卵されたレプトケファルスが黒潮で日本沿岸へ運ばれて来ると推定されている。
これまで産卵は一生に一度と考えられていたけれど、複数回の可能性もあるようだ。
今回は冒頭で「今、脂が乗った旬?」と疑問符の投げかけを行っているが、アナゴは一般的に夏の暑い盛りの時期が旬とされている。
これはサッパリ味で好まれる生後1年から2年目のメソアナゴが、この時期に多く漁獲されることから「旬」とされているようである。
大きくなった大人のアナゴは、冬場になると脂肪も蓄えていて美味しいのだが、この冬の時期を旬と位置づけているのは少数派でしかないのである。
しかし「生」での商品化を前提とするならば、間違いなく美味しいのは冬だ。
アナゴというのは人気度をウナギと競り合っても勝ち目はないはずであり、夏場に同じような出番をウナギと競うのは不利な展開だと心得るべきであろう。
アナゴの身質は、ウナギよりは生の商品展開に向いている。ウナギのように資源枯渇の心配もなく、価格もずっと安定しているのだから、その活用方法を見直すことで新たなエース級に育ててみてはどうだろうか。
更新日時 平成25年 2月1日 |
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