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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和 2年 6月号 198
スズキの商品化
魚の世界のメジャー
今年も暑い夏になるのだろうか・・・。今年は暑い夏でも家の外に出たらマスクをしなければならないことを考えると、筆者はとても億劫になってしまう。特にマスクの裏面に唾の匂いがついてしまうと、その匂いに耐えられなくなる感覚はたぶん筆者だけではないのではないかと思う。早くマスクを付けなくても良い日がやってくることを切に願っている。
暑い季節がやってきたから、氷で冷やした「スズキの洗い」でもテーマに採りあげてみるか・・・、といきたいところだが、FISH FOOD TIMESでは、No.17 平成17年5月号で「スズキの氷洗い」を取り上げていたので、二番煎じは止めておこうと思う。FISH FOOD TIMESがスタートして間もない15年前にスズキを採りあげた時は単なる商品紹介のレベルに留まり、そのコンテンツはあまりにもお粗末であったことから、筆者としてはスズキというメジャーな魚をしっかりした内容で改めて記してみたいという思いをここまで引きずってきていたのだ。
スズキという魚はメジャーな魚と記したけれども、まさにメジャーと言える魚であり、スズキ目は20亜目160科1,539属10,033種の仲間がいて、魚類のみならず脊椎動物で最大の勢力なのである。この中で、スズキ亜目、ベラ亜目、ハゼ亜目にはそれぞれ2,000種以上が属し、これらの3亜目だけでスズキ目の75%以上となる。スズキ目の多くが海水魚であるが、淡水のみに生息する種が2,000種、そして成長や回遊のために一時的に淡水で生活する種が2,300種いるとのことである。
今回記事として採りあげる 英名Japanese seabass のスズキは、冬に河口などの水域で産卵や越冬をおこない、春から秋は内湾や河川内で暮らす比較的規則的な回遊をおこなう。冬に産卵をおこなうので、内湾に産卵のため回遊したスズキが旬とされることもあるようだが、この時期は生殖腺に栄養が集まるために身は痩せていてあまり美味しくなく、産卵のために栄養を貯める途上の6月から8月頃の夏の季節が一番太っていて美味しいとされる。
以下の画像がスズキ目スズキ亜目スズキ科スズキ属のスズキであり、その学名はLateolabrax japonicusである。
スズキと非常にそっくりなのが、以下のヒラスズキである。
このヒラスズキについては、FISH FOOD TIMES No.178 平成30年10月号でとりあげていたので、まだ日が浅くご記憶の方もおられるのではないかと思う。未読の方は、是非こちらも参照してほしい。
この他に、タイリクスズキと呼ばれる中国原産の大型種やアリアケスズキと呼ばれるスズキとタイリクスズキの交雑種もいるらしいが筆者は見たことがない。さらに、ヨーロッパにはヨーロピアンシーバス(スズキ目スズキ亜目モロネ科ディケントラルクス属)という近縁種がいるが、これは一般にブラックバスと呼ばれている特定外来生物のオオクチバス(スズキ目スズキ亜目サンフィッシュ科オオクチバス属)とはまた違う別の種類である。
また、気をつけてほしいのは「白スズキ」である。これはアフリカ原産のナイルパーチ(スズキ目スズキ亜目アカメ科アカメ属)の日本での呼び名であり、このナイルパーチを冷凍したものがレストランや給食などで白身フライの材料として使用されている。だが魚売場ではナイルパーチに白スズキという名称を使うことは禁じられているので、正確にアフリカ原産ナイルパーチと表示しなければならない。
スズキの商品化
さてスズキの解体調理工程については、ヒラスズキとほぼ一緒なので調理の工程を知りたい方はヒラスズキの方を見ていただくことにして、今月号ではこれを割愛することにする。
刺身の商品化は以下のようにしてみた。
容器の左側に背身の平造りを9切れ、右側に腹身の薄造りを6切れの合計15切れの商品である。
スズキの刺身は良く売れる商品なのかと問われれば、残念ながらYesとは答えがたいものがある。その理由は皮下の紋様がマダイのように色鮮やかではなくて少しくすんだような赤い色合いなので、その鮮度が良くても少し古い刺身だと勘違いされてしまう側面があり、白身の刺身としては決して動きが良いとは言えないのである。このため、白身で鮮度の良さをアピールするために平造りだけではなく、薄造りも加えた商品化にしてみたのである。
こうすると、皮の下のくすんだ色の紋様が目立つ平造りより、白身の白さが目立つ薄造りの方が鮮度感は出しやすいのだ。そして、にぎり鮨の鮨ダネも同じ薄造り技法の一つなので、以下の画像のように皮下の紋様のくすんだ色合いは目立たない。
スズキは地域によって毀誉褒貶が激しい魚の一つである。本来は非常に美味しい魚なのに一部地域では下魚並の扱いをされているところもある。低い価値の魚にしか見られない原因の一つは、スズキが河口域や汽水域に生息するために、過去に工場排水や家庭排水で汚れた水が垂れ流しをされていた高度成長期の時代、その汚染された川の水の影響を受けて、石油臭さや泥臭さのあるスズキが流通していたために価値が暴落し、その風評がいまだに抜け切れていないものがあるためである。スズキもボラなどと同じように河口域や汽水域に生息する魚として、どうしてもそういった環境要因に価値や取引相場が左右されてしまう側面があるのである。
日本固有種のJapanese seabassと呼ばれるスズキは古事記に大国主命が祝宴の席でスズキを食していたとの記述もあり、貝塚からは食べた後に捨てられた骨が多数出てくるるほど古来から馴染みのある魚であり、そのクセのない白身は日本料理はもちろんフランス料理などにも多用される魚なのである。
スズキの洋風料理
スズキを三枚におろして、半身を刺身と鮨に商品化し、後の半身は切身用に3切れカットして商品化した。
そのスズキの切身を使った簡単な洋風料理を紹介しよう。
ラタトゥイユ風ソテーの料理工程 | |
1,フライパンにバターを入れる。 | 5,コンソメスープを少々入れて、塩コショウで味を調える。 |
2,粗みじん切りにしたタマネギを加える。 | 6,バターを溶かした別のフライパンに、皮を下にして切身を入れる。 |
3,カットしたなすびを入れる。 | 7,皮側に火が通ったら裏表を返す。 |
4,小片にカットしたトマトを加える。 | 8,全体に火が通るまで焼く。 |
ラタトゥイユ風ソテーが完成 |
魚の栄養とセレン
日本の非常事態宣言はやっと解除されたけれど、まだ新型コロナウイルスが終息したとはとても言えない状況にあり、日常の経済活動は6月から少しずつ手探りで動き始めるに過ぎない。こんな状況にあって、今の世の中の関心事はやはり健康に関することが一番であろう。いかにして新型コロナウイルスに感染しない抵抗力をつけるか、現時点でそのことは人々の大きな関心をひく事の一つではないかと思える。
スズキは典型的な「低脂肪高タンパクの白身」で病人の滋養食としても使える栄養たっぷりの魚であるが、先月のFISH FOOD TIMES No.197 5月号ではカツオの栄養素の一つセレンについて次のように触れていた。
<略>・・・カツオはタンパク質が豊富なだけでなく、良く知られたDHAやEPAの他に、下の表にあるようにビタミンD、B6、B12、ナイアシンなどが豊富であり、そして最近は長寿ホルモンDHAEを副腎から活性化させるセレンを多く含んでいることが注目されている。・・・<略> |
そのセレンが新型コロナウイルスを弱毒化するという論文が、4月28日に米国臨床栄養学会誌に発表されたのである。
以下はそのことを報じた「みなと新聞5月17日の記事」である。
セレンはカツオに多く含まれていることが、日本食品標準成分表2015年版(7訂)で、以下のように記されている。
このセレンという物質はいったい何者なのか、以下にその素性を簡単に記してみよう。
セレンは元素記号Se、原子番号34、ギリシア語の月(selene)を意味する金属であり、昔は毒性の強い元素として知られていたが、最近は人にとって必須の微量元素であることが認識されるようになった。身体の中で、酵素やタンパク質の一部を構成し、抗酸化反応において重要な役割を担っている。しかし必要量と中毒量の差が小さいために、その摂取には注意が必要とされている。
食品中のセレンはタンパク質に結合して存在し、このタンパク質と同時に体内に吸収される。人の体内には体重1kgあたり約250μgのセレンが存在しており、摂取したセレンは尿の中に排泄されることでこの値が恒常的に保たれている。
日本では通常の食生活をしていればセレンが不足することはほとんどないとのことだが、不足すると皮膚の乾燥、心筋障害、発がんのリスクが高まるなどが示唆されている。そのいっぽうで、セレンは毒性が強いことから慢性的に過剰摂取すると胃腸障害や神経障害、腎不全などを引き起こす可能性がある。
それではセレンはどのくらい摂取すれば良いか、各年齢別の食事摂取基準(日本人の食事摂取基準2020年版)は以下の表の通りである。ちなみに、日本人の平均摂取量は約100μg/日とされている。
基本的に偏りのない普通の食生活をしていればセレンが不足することはないとのことだが、日本の食生活の基本に「カツオ節で出汁を取った食事」が存在していることが、日本人のセレン不足ではない事実に大きく貢献しているのではないかと見ることも出来るだろう。
新型コロナウイルスの弱毒化にセレンが有効かどうか、現時点において十分に検証されたわけではないようだが、カツオ節を使った吸い物や味噌汁などを飲むこと自体が新型コロナウイルスに対する抵抗力をつけることにつながるとすれば、これは日本人として非常に嬉しい幸いなことである。
今のところ日本の新型コロナウイルスの感染者数は世界の感染状況からすると圧倒的に少ない事実がある。もし魚をベースとした日本人の食生活そのものが新型コロナウイルスに強い抵抗力を示しているとすれば、これまで魚離れの現象を起こしてきた日本において、このパンデミックは改めて魚食のメリットを再認識させてくれる良い機会になる可能性もある。
スズキの栄養
今月号はスズキのテーマがセレンの話に置き換わったかのような印象を持たれている読者もあるかもしれないが、そうではなく日本古来から食してきたスズキという魚の素晴らしい栄養バランスのことを伝えるためにセレンという物質の話題を活用したのである。
スズキは典型的な「低脂肪高タンパクの白身」で病人の滋養食としても使える栄養たっぷりの魚であると上記していた。脂質は100gあたり4.2gと少なめだが、その中にはオメガ3系のDHAやEPAがしっかり含まれているし、高血圧を予防したり、LDL(悪玉コレステロール)を低下させる一価不飽和脂肪酸オレイン酸が100gあたり620mgも含まれていることが大きな特徴となっている。
この一価不飽和脂肪酸オレイン酸とは何者なのか、このことについてもセレンのように魚の栄養の知識の一つとして言及してみよう。
オレイン酸は一価不飽和脂肪酸の一つで、特にオリーブ油などの多く含まれていて、下の図のような位置づけになる。
不飽和脂肪酸はコレステロールを減らす作用があるけれど、酸化して過酸化脂質になりやすいという欠点がある。いっぽう、オレイン酸は過酸化脂質を作りにくい性質があり、酸化に対して安定性を示すことができる。また血中コレステロールを減らして生活習慣病を予防する働きもある。オリーブの原産地の地中海沿岸に住む人達は心筋梗塞の発症率が極めて低いとのデータがあり、この心疾患の発症率の低さとオリーブ油に含まれるオレイン酸には深い関係があるとされている。
こういう働きを持つオレイン酸がスズキには目立って多いのである。いっぽう、スズキの多価不飽和脂肪酸はマグロやカツオなどの赤身の魚と比べると少ない量しか存在していないけれども、逆にこのことが「低脂肪高タンパクの白身」の代表と言われるゆえんなのである。
せっかくなので、魚の栄養としてそのメリットが喧伝されている不飽和脂肪酸についてもう少し深く知識を深めてみよう。
下の図は脂肪酸の種類と構造、その特徴を簡単に表している。
脂質は三大栄養素の一つであり、炭水化物やタンパク質に比べて、同じ量ではエネルギーが高いため、多く摂り過ぎると生活習慣病のリスクが高まることが知られている。脂質から得るエネルギーの割合は「脂質エネルギー比率」と呼ばれ、これが高くなると肥満やメタボにつながりやすいとされている。
厚生労働省の平成30年調査では、日本人成人男性の約35%、成人女性の約43%が脂肪酸目標値(総エネルギー摂取量の20%以上30%未満)を超えていたということである。
「低脂肪高タンパクの白身」であるスズキは、脂質の過剰摂取の予防にも効果的であり、エネルギーとなるタンパク質も豊富なことから、まさに理想に近い食べ物の一つなのである。
いまだに魚の相場は全般的に低いレベルで推移しており、スズキの栄養面のメリットをアピールし、お客様が購入しやすい価格で大いに売り込んでほしいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 2年 6月 1日