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令和 2年 2月号 194
ニシン骨切り
ニシンの漁獲が回復している
年末商戦が終わって間がないこの時期に、カズノコに関連する話題は食傷気味かもしれないが、2月というのは主に北海道日本海側の小樽、留萌、稚内にかけての地域では、カズノコの原料となるニシンの漁獲が始まる時期なので、旬魚の記事として今月号で取り上げてみようと思う。
ニシンは19世紀末から20世紀にかけて、北海道とサハリンに群れが非常に大規模な資源を形成したことから、漁獲量は年間40万トン以上で推移し、1987年には97万dもあった。しかし以下のグラフが示すように、20世紀中頃になると漁獲量は極端に減り、1975年以降は 漁獲量は極めて低い水準で推移してきた。
ところが、直近の5年間(2,013年〜2017年)の沿岸漁業による漁獲量は年に2,980dから4,775dに増え、そして沖底漁業による漁獲は887dから5,287dとなった。この間の両漁業での合計漁獲量は2013年4,549d、2017年9,191dに増えており、下のグラフにあるようにニシン漁はこのところ増加傾向にあると言えるのだ。
停滞するカズノコ消費
ニシンが増えたのだから、その子供であるカズノコも増えて黄色いダイヤが安くなったかと言えば、現時点ではカズノコの相場を左右するほどの量ではないようで、価格は特に安くなっていない。なぜなら、比較として2017年の同じ年に、外国から冷凍ニシンは2万9,000d、そしてカズノコが5,477d輸入されたのだから、ニシンの漁獲が増えたとは言っても、まだとてもカズノコの相場に影響を与えるだけの力はないようなのだ。
その黄色いダイヤと呼ばれる塩カズノコは、下画像のように鮮やかな黄色をしているが、元々こんな色ではない。
下の画像が本来の色である。
塩カズノコは過酸化水素という薬品で漂白されているが、過酸化水素は消毒液オキシフルの成分であり、活性酸素を発生させて竿金の細胞を破壊して殺し、同時活性酸素は色素も壊すので強烈な漂白作用も持っている。
過酸化水素には発がん性もあることから、漂白した塩カズノコは過酸化水素を取り除くためにカタラーゼという酵素で分解し、残存量がゼロであることが証明されなければ商品として出荷されない。そのため漂白塩カズノコに過酸化水素残存量がゼロであることを証明しているのが以下の証紙であり、贈答用の化粧箱には必ずこれが添付されているはずである。
黄色の色が派手で見かけの良い漂白塩カズノコは、これまで贈答用として根強い需要はあったものの、昨今消費者の健康志向の高まりから消費の伸びは鈍く、生産量は2017年2,306d、2018年2,064d、2019年1,950dと漸減を続けており、いっぽうで家庭用カズノコは無漂白品や味付け品などへ消費傾向は移行している。
カズノコの原料となる抱卵ニシンはほとんど外国からの輸入に頼っていて、2019年度の漁獲量は前年比でアラスカブリストル産が5割増え、ロシア産も5割増えて、カナダ産も4%増と順調だったために、原料価格は20%ほど安くなった。ところが、日本での価格はカズノコ加工業界のコストアップが理由で前年とほぼ変わらず横ばいだった。これはある意味で縮小均衡してしまったこの業界が生き延びるための管理価格と言える状態になっていると考えられないこともない。
こういうニシンの一番金になる魚卵の動向ばかりに目を向ける業界環境の中で、日本での資源が好転していると見られるニシンという魚そのものの方には目が向いていかないのであろうか。今月号では、高価な魚卵の方ではなく、主にニシンの魚体の方に焦点を当てた内容を以下に記してみたい。
日本と世界のニシン
AnimalSakeのホームページに記された内容によると、ニシンは分類学上の学名でClupeiae科に属し、この科には約200種のファミリーがいる。ニシンという名前はこのファミリーの幾つかで使用されており、そのなかでもClupea pallasii属の大西洋ニシンAtlantic herring(Clupea harengus)や太平洋ニシンPacific herrig(Ckuupea pallasii)などの数が多く、このうち大西洋ニシンが半分以上を占めている、としるされている。
またAnimalSakeのページには、それらの魚種の生息海域が下の図に示されておうり、代表的なニシンの 画像もその下に表示されている。
カズノコには歯応えが非常に固い食感の種類とそうではないものがあるが、固い食感のカズノコが太平洋ニシンであり、大西洋ニシンのカズノコの場合は歯応えがないので日本での市場価値は低く見られている。
筆者はその歯応えのないカズノコの親である大西洋ニシンを見たことがないので、AnimalSakeに記述されている内容を訳してみよう。そにによると、大西洋ニシンは45pの長さまで成長し、体重は最大で700gほどになる。魚体は両端が細長い形で、背ビレはほぼ真ん中にある。背中は緑や灰色がかった青色で、腹部は銀色である。口の上にある小さな歯に独特の輪があることで他のニシンとは区別できる、と記されている。
ついでに、アラウカニアニシンAraucanian herringとバルト海ニシンBaltic herringのこともそこには記されていて、チリニシンとしても知られるアラウカニアニシンは、腹部が銀色で背中が濃い青色で、バルト海ニシンは比較的小さくて、長さは僅か14〜18pほどの大きさ、と記されている。
日本で主に漁獲されるニシンは、下画像の太平洋ニシンである。
ニシン目(Clupeiformes)は硬骨魚類の分類の一つであり、下位のニシン亜目にはウルメイワシ、カタクチイワシ、ヒラ、コノシロ、エツなどがいて、姿形がイワシの仲間に良く似ている。イワシに似ているのは姿形だけではなく鮮度落ちが早いのも似ていて、少し時間が経つと眼の周りが赤くなって鮮度劣化が確認できるのも同じである。
ニシンは鮮度劣化が早いために生の状態では日持ちがしないので、昔冷蔵の技術が発達していなかった時代は内臓や頭を取り除いて乾燥させるのが一番合理的な方法だった。そして大量に漁獲されていたニシンを日本各地に流通させるために、干物として加工されたのが身欠きニシンである。その「身欠き(みがき)」という名称は、米のとぎ汁なのの水で戻すと、筋ごとに身が欠き易くなることから命名されたようである。
身欠きニシンという乾物については、世の中に料理方法等様々な情報が溢れているので、この紙面で詳しく記述する必要はないと思われ、敢えてこれ以上はこのことに触れないことにしよう。
それよりも、ここでは近年水揚げが増えている生のニシンをもっと活用することができないか、以下で考えてみたい。
生のニシンを活用
筆者は沖縄に毎月仕事で訪問しており、今年であしかけ通算13年になったが、筆者が指導している沖縄の会社の魚売場には、北の果ての北海道から新鮮な生魚がどんどん運ばれてきている時代である。それも港に水揚げされて間もない獲れ立ての鮮魚が航空便を使って翌日には南の果てに到着するのだから、沖縄の店では立派に刺身や鮨にできる鮮度の魚をいくらでも手に入れることができるのである。
鮮度劣化が早いニシンを刺身や鮨に出来るかと言えば、そのハードルは高いことから無理にそうすることはないが、せめて煮魚や焼き魚にして身欠きニシンという干し魚では味わえないニシン料理を提案したいものである。
しかし生ニシンの料理ではネックになることがある。それは「小骨の多さ」である。
この画像は「かかしさんの窓」というブログで見つけ参照させてもらったが、
< 略・・・ニシンって小骨の多い魚だというのは当然子どものころから知っていましたが。大して気にもせず、小骨ごと食べていました。年取ったら、「飲み込む」という動作が下手になってきましたね。昔気にしなかった小骨が気になる。・・・略 >
ブログにはこのように記されている。
ニシンと同系統のヒラやコノシロ、エツなどは同じように小骨が多いので、料理をする前に包丁で事前処理をしなければならない。だからニシンはこれらの同系統の魚と同じことをすれば良いのである。それは、骨切りという包丁技法である。
ニシンの骨切り | |
1,腹部を向こう側にして、出刃包丁でたすき掛けに切り込みを入れる。 | 7,中骨がある上身の皮の方に、一定間隔で切り込みを入れ、骨切りをする。 |
2,腹部を手前側にして、たすき掛けに切り込みを入れ、頭部を切り離す。 | 8,皮の方から切り込みを入れて、骨切りをした状態。 |
3,魚卵を傷つけない目的で、肛門から逆手包丁にして腹部を切り開く。 | 9,大名おろしの技法で、三枚おろしにした状態。 |
4、魚卵を丁寧に扱いながら、内臓も同時に除去する。 | 10,小骨が多い腹部の腹骨を切り離して除去する。 |
5,腹腔の背骨に付いている血合いを除去して、水分を拭き取る。 | 11,中骨が無い下身は、身の方から柳刃包丁で切り込みを入れ、骨切りする。 |
6,大名おろし技法で下身を切り離す。 | 12,皮一枚を残して骨切りした状態。 |
二枚おろし状態での骨切りニシンの商品化 | |
三枚おろしにした骨切りニシンの商品化 |
生のニシンは広く活用されているか
ニシンが産卵のため大群で海岸に集まって、産卵と放精によって海面が白くなる現象を「群来(くき)」と称するらしい。昔は北海道の近海で毎年必ず見られていて、長い間途絶えていたその現象が、近年は時々見られるようになってきたとのことで、このことはニシンの漁獲復活の兆しとも言われている。
ニシンの漁獲が往年の100万d近くまで復活するのかどうか今のところ不明であり、本格的なニシン漁獲復活はまだ夢物語のレベルでしかないかもしれない。しかし同じように多獲性魚種のマイワシは一時期「幻の魚」と言われていたが、近年はめざましい勢いで漁獲が復活している例もあり、ニシンも同じように今後どんどん勢いを増してくる可能性も有り得ると思われる。
令和2年の2月から始まるニシン漁はどうなるのであろう、今年も群来が見られるのであろうか。もし北海道のあちこちで何度も群来が見られるようであれば、そのまま冷凍や身欠きニシンなどの加工へと回すのではなく、生鮮出荷にも力を入れてほしいものである。
ここ数年、秋サケやサンマが歴史的な不漁となっている影響も少なからずあり、魚売場の売上げは漸減傾向の不振が続いているが、魚売場ではマイワシ以外にも大衆的な価格で販売できる商材を渇望している現実があるので、ニシンを全国各地に生鮮出荷すればそれなりの売上げにもつながるはずである。
先にも記したように、沖縄の魚売場に北海道で水揚げされた魚が翌日には納品できる時代である、昨今の急激に進歩した鮮度管理技術を活用すれば、沖縄でニシンの刺身や鮨が食べられるようにすることは不可能ではないはずであり、現に北海道産のマイワシは沖縄の魚売場でも刺身や鮨で販売されているのだ。
身欠きニシンという商材を否定するわけではないが、大昔から続いてきたニシンの保存食品としての知恵を今になっても後生大事に抱え続けるべきなのだろうか。今の時代にはそれに相応しい食の提案があるはずであり、そのためにはニシンを生のままで生鮮出荷することに力を入れることによって、ニシンの料理提案の幅が格段に大きくなるに違いない。
小骨が多いニシンを生の状態で美味しく食べるためのコツは、今月号で紹介した「骨切り」もその一つに挙げられると思われる。こんな簡単なことを面倒くさいとか言って嫌がらずにやってみてほしい、事前にこのような処置をした商品を販売すれば、お客様はきっと喜んでくれるはずだ。
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更新日時 令和 2年 2月 1日