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平成28年 12月号 156
ヒラアジ薄造り刺身
非常に旨い魚
この魚の標準和名はカイワリと呼ぶそうである。しかし筆者はその名前はどうしてもしっくりこないので、あえて地方名のヒラアジで表現することにした。
筆者はこれまでこの魚をヒラアジではなくメッキという呼び方もしてきたが、メッキの場合はどちらかと言えば小型の場合を指し、ヒラアジは成長した大型のものという分け方をしてきたので、今回の場合1尾560gの大きさの大型を使用したことから、今月号ではヒラアジの名称を使うことにした。
この魚は日本各地でそれなりの漁があるので、各地に様々な呼び名があることで知られており、カイワリ、ヒラアジ以外の呼び名は、メッキ、シマアジ、カクアジ、ギーギ、ギンアジ、ゼンメ、バケラ、ピッカリオキアジ、ギンアジ、ギンウクゴ、ギンタイ、ギンベイアジ、グイ、コシアジ、コセ、コゼン、シモアジ、セイマイ、ナガカマジ、セイマイ、ゼンマイ、ベイケン、ベケン、ベンケイ、メイキ、メジマアジ、メッキュウ、などたくさんの呼び名があるようだ。
FISH FOOD TIIMES では、これまで巻頭を飾る商品名には基本的に標準和名を使うことを原則としてきたけれども、今回は養殖シマアジと比較する意味でもヒラアジにしたのだ。
ヒラアジは動物界の分類で、スズキ目 Perciformes : アジ科 Carangidae : ヨロイアジ属 Carangoides : カイワリ C. equula であり、高級魚の養殖シマアジと姿形が似ている。
シマアジが属するのは、スズキ目 Perciformes : アジ科 Carangidae : シマアジ属 Pseudocaranx : シマアジ P. dentex であり、両方とも同じアジ科なので下画像のように良く似ているのは理解できるはずだ。
英名でも、White trevallyとSilver trevallyとが混同されて使われており、どちらかと言えばヒラアジの方が白に近い。ヒラアジはWhitefin trevallyとしておこう。
どちらの名前か混同するほど似ている魚だが、市場での扱いには大きな違いがある。
養殖シマアジの市場での取引価格は、2,000円/kg前後を覚悟しなければならない高級魚であり、ヒラアジの場合は鮮度にもよるけれど、500円/kg〜1,000円/kg前後だと見ていたら大きな狂いはないだろう。
このようにヒラアジはシマアジの半分以下の価格で手に入るのが普通だが、それではヒラアジの味がそれほど不味いのかと言えば全くそんなことはないのだ。逆に「ヒラアジとはこんなに美味しいのか」と唸るくらいのレベルである。
ヒラアジを刺身用に皮を除去した時の脂肪層の銀色は、下画像のようにまさにシマアジと見紛うほどの見た目なので、もし巻頭画像の薄造りをシマアジだと嘘を言っても、そのまま信用してしまう人もいるのではないかと思う。
しかし養殖シマアジの場合は、身質が養殖魚独特の脂分で白っぽい特徴が出ているが、ヒラアジの場合は養殖の餌で太らされた白い身ではなく、スマートな体型に適度な脂が乗って赤っぽい色をしているので、両者の違いはその色目で見分けがつく。
ヒラアジ煮付け
高級魚養殖シマアジはその流通価格からすると、基本的に料亭や高級和食店以外では刺身や鮨への用途に 限られると考えられるが、ヒラアジの場合は仕入れ価格がシマアジほど高くつかないので、刺身・鮨以外にも煮付けや塩焼きなどへと料理用途を広げることができる。
骨付き片身を頭も含めて三等分になるように切り分ける |
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ヒラアジの煮付け用切身 |
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ヒラアジ煮付けの工程 | |
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1、出し汁1C、砂糖5T、醤油4T、みりん3T、の煮汁を準備する (1C=1カップ200cc、1T=大さじ1杯15cc) |
4、真ん中に穴を開けたアルミホイルを被せる |
2、煮付け用の煮汁を一煮立ちさせる | 5、全体に茶色の色目がつくまで煮付ける |
3、煮汁の中にヒラアジ切身を入れる | 6、煮立ったら粗熱を逃す |
ヒラアジ煮付け |
ヒラアジの薄造り刺身とにぎり鮨
次は中骨なしの半身を、背身の方は刺身に、腹身はにぎり鮨にする。
まずは薄造り刺身の工程である。
ヒラアジ薄造り刺身工程 | ||
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1、皮を除去した下身を準備する | 2、下身を背身と腹身に分離する | 3、包丁の刃元から、背身を薄造りにする |
4、包丁の刃渡りをフルに使う | 5、2つの山に盛り付ける | 6、胡瓜をスライスしてあしらいにする |
ヒラアジ薄造り刺身の完成 |
ヒラアジの刺身は背身を使って出来上がったので、次のにぎり鮨は腹身を使用して作成する。
にぎり鮨の商品化工程は、身体を左向きにして、腹身の皮側を下に向けて作る。そぎ造りの方法でネタ切りをして5カン分 確保できた。
1尾560gのヒラアジの原価は300円以上しないと見て良いので、今月号で商品化した切身、刺身、にぎり鮨のすべてを仮にどれも398円の売価をつけたとすれば、売価合計は1,194円となる。容器代、あしらい、シャリ代などの合計を高めに見て200円だとしても、魚代を含めた総原価は500円となるから、値入れ率は58.1%という計算になる。
読者の中には「どれも398円というのは安すぎるのではないか・・・」と思う方もおられるとは思うが、もちろんこれは仮の話なので、読者の皆さんは自分ならこの売価にするというシミュレーションをして遊んでみたら良いと思う。
もし、同じ500g強のサイズで2,000円/kgの養殖シマアジを使って同じ商品化をしてみたら、あしらいと資材費を同じ200円だとして合計すると、シマアジを含めた原価は1,200円になるから、同じ売価であれば儲けはゼロということになるのだ。
このように養殖魚というのは、安定的に仕入れができるというメリットと引き換えに「高値安定」という代償を払わななければならなことを覚悟して臨まなければならないのだが、そのいっぽうで天然のヒラアジという魚は不安定な仕入れを覚悟すべきだけれど、どちらかと言えば市場ではあまり高く評価されていないために安い価格で手に入ることも多い。
ヒラアジの産卵期は秋であり、旬はその前の夏だと一般的には言われていて、それをFISH FOOD TIIMES ではなぜ12月号で紹介するのかと疑問に感じておられる読者もいらっしゃるのではないかと思う。その理由は、ヒラアジは日本の比較的南の方に棲息していて、漁獲は散発的であまりまとまらず、季節を問わずに入荷があり、冬だからと言って不味いということもなく、年間を通して美味しい魚なので、ヒラアジを扱うのは冬こそ狙い目だと筆者は考えたからである。
アジとは真鯵だけではなく、その仲間は日本近海だけでも30種類ほど棲息しているようで、アジと言えば夏というのは非常に単純な一面的見方であり、いろんなアジの種類を色々と追いかければ、1年中どこかでアジのどれかが美味しく食べられることがわかるはずだ。
過去に FISH FOOD TIIMES では、他のアジの仲間について No.69 平成21年9月号 ロウニンアジ平造り でも紹介しているので参考にしてほしい。
現在日本で養殖シマアジは非常に高価な高級魚として扱われているが、天然のヒラアジは脂の乗りも控えめで、食べると舌にジワっとくる美味しさは天然の本物の味を感じさせられる。
ヒラアジを安いからと言ってバカにするのではなく、養殖シマアジを高いからと言って有り難がるのでもなく、何が本物なのか、何が正しいのか、世間の一般的風評などに惑わされず、自分自身の眼と力で極めてほしいものである。
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更新日時 平成28年12月1日