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本マグロづくし刺身盛合わせ
この画像は生の本マグロだけを使った刺身盛合わせである。
マグロ好きの御仁は見ただけで涎が落ちてくるのではないかと思う。
これが天然本マグロであれば、ものによってはとんでもない価格となる可能性があるが、これは「養殖本マグロ」を使用しており、この場合のマグロ正身原価は997円ほどで計算することも出来るので、大トロと中トロ入りでもその売価は随分とお手頃な価格を提示することも可能なのである。
これくらいの原価に抑える計算が可能となるのは、今年の2月になって生の養殖本マグロの相場が下落したからである。
日本のマグロ相場の指標となる築地市場の2月中旬相場は前年より10%以上も安かったようで、特に空輸されたメキシコ産養殖本マグロの搬入量が例年よりも多かったことから、このメキシコ産が相場の足を引っ張る要因となったと見られている。
当然言うまでもないが相場というものは時々刻々変化するものなのだから、読者諸氏がこの紙面をご覧の時点で、その後相場がどうなっているのか何の保証もない。
その時点での相場は国産養殖ものは、50〜70sで3,300円/kg、30〜40kgで2,900円/kg、メキシコ産にいたっては、60sで2,200円/kg前後、30kgで2,000円/kg前後と大変お買得な価格となっていた。
しかし、そのいっぽうで天然の本マグロは2月中旬以降の同じ頃に、大雪など荒天の影響でトラック便の運休が相次ぐという物流網の混乱が生じ、2月20日には長崎壱岐産の126kgの天然ものが27,000円/kgという超高値がついたのだ。
100kgを超す天然生本マグロなのだからその希少性から高値がつくのは分かるとしても、メキシコ産の養殖と比較すると同じ生本マグロなのに10倍前後にもなる価格というのは、正月初競りの見世物興行的なご祝儀相場とは違い、普通の食材として使う魚なのだから、やはり常識的な感覚からはとても理解できないと言うしかない。
本マグロに限らず他のマグロも含めて、生の価格は需要と供給のバランスで成り立つが、そのような常に不安定な価格変動に曝されるのを避ける目的の一つとして、 養殖マグロというのがこの世に現れたはずである。
しかし、養殖されたマグロの全て行き先が決まっているわけではないことによって、その何割かは魚市場に上場され価格という評価に曝されることになるのだ。
トップ画像の「本マグロづくし刺身盛り合わせ」は養殖本マグロを使って、大トロ10c3切れ、中トロ12c4切れ、赤身15c5切れ、という組み合わせだ。
仮に国産養殖本マグロのエラ腹抜き40sものを3,000円/kgで仕入れて商品化する場合、歩留まり率を50%と仮定して、その構成比が大トロ15%、中トロ25%、赤身60%になったとすると、それぞれが351円、331円、315円となるので、マグロだけの正身原価は上記しているように合計997円となる計算が出来る。
養殖本マグロの場合、大トロと中トロの割合というのはこんなものではなくもっと高くなることが多いので、同じ国産養殖本マグロの構成比が、赤身40%、中トロ35%、大トロ25%であったと仮定すると、それぞれは270円、316円、270円と換算することが出来るから、その正身原価合計は856円となり、この場合1パックで141円は安くなる計算だ。
更に国産ではなくメキシコ産の2,000円/kgのものを使った場合はどうなるかというと、仮に部位別構成比が同じであったとすると、それぞれ180円、212円、180円となるので、正身原価合計は何と「572円」まで下がる計算になるのである。
仕入れ原価3,000円/kgが2,000円/kgになったのだから、正身原価合計は簡単な割り算によってその結果は出せるではないかと言われるかもしれないが、これは先に部位別の原価計算が出来ているから簡単になるのであって、元の計算が出来ていなければそれほど簡単には出てこない。
しかし上記してきたマグロの部位別原価計算は、実際のところ仕入れ原価などの変化した数字をパソコンに打ち込むだけで簡単に計算できたのである。
このマグロの原価計算は歩留まり率の計算だけではなく「部位別の価値」を変数によって換算し直す「換算原価変数」という独自の数値を使用している。
この「換算原価変数」は、鮮度、季節、ニーズの高低、などの様々な要因を踏まえて、任意に変更させる性格のものであるので、それは一定のものではなく意図的に変化をさせるものだと考えてほしい。
この「換算原価変数」を活用するマグロの計算方法は「樋口式マグロ部位別原価計算」と名づけているものであり、大トロ、中トロといった部位による価値の違いをどのように評価し、刺身や鮨種の一切れ当たり原価をどれだけ簡単に導き出すかを狙ったものである。
例えば、この鮨盛り合わせは「本マグロづくし鮨盛合わせ」の例であるが、養殖ではなく天然の生本マグロを使って商品化している。
この場合読者諸氏は、大トロと中トロ、赤身の部位、そして鉄火巻きに使った分かれ身の部位などを、どのようにして原価を計算されているだろうか。
今時は最初から赤身や中トロなどに分かれている部位を、別々な原価で仕入れることが多いのでそんなの簡単だと言われるかもしれないけれども、もし本マグロの腹節をロインで仕入れたとして、それぞれの価値をどのように計算するのだろう。
更にロインではなく1尾を丸で仕入れて解体した場合、これらを瞬時の内に簡単に計算できる人は必ずしも多くはないと思われるが、ここに紹介する「樋口方式」は実に簡単に計算が出来るのだ。
残念ながら、これは弊社のノウハウの一つでもあるので、この紙面でこの詳細を発表するわけにはいかないが、パソコンでエクセルを使うことが出来る人であれば、ただ数字を打ち込むだけで簡単に部位別の原価を導き出せる非常に便利な方法である。
ご興味のある方は「 info@fish food times 」までご連絡いただきたい 。
さて、幣紙FISH FOOD TIMESではマグロに関連することについて、これまでも平成24年1月号(97)マグロづくし鮨盛合わせ、平成23年8月号(92)本マグロのホオ肉炙り薄造り、平成20年10月号(58)イソマグロ平造り、平成19年10月号(46)大学卒業マグロなど、色々な観点からマグロについて何度も触れてきた。
そして今回は、これまで日本において流通してきたところのマグロと言えば、基本として「冷凍もの」が前提であった過去の時代から、今や全国的に「生マグロ」の存在感がどんどん増してきているという点に着目している。
冒頭から触れてきたマグロの相場に関することやマグロの原価計算などは、バンドソーで部位別に切り分けられ、発泡スチロール箱で納品される冷凍マグロのことではなく、すべて生マグロに関連する事なのだ。
皆さんがいざマグロを食べようという時に、冷凍か生かのどちらかの選択を迫られるならば、たぶん迷うことなく生の方を選ぶ人が多いのではないかと思うけれども、これはやはり冷凍魚の限界である「旨味の抜けたような水っぽさ」が冷凍マグロでは避けられないものがあるからである。
時代の最先端として「CASマグロ」という素晴らしい技術に裏打ちされた冷凍技術が存在しているものの、やはり何と言っても鮮度の良い生のマグロには味の点で一歩譲らざるを得ないのも事実であろう。
また時代の流れとして、昔は日本の遠洋マグロ船が長い日数をかけて日本から遠い外洋へ出かけ、そこでマグロを漁獲して日本に持って帰っていたけれども、今では例えば南洋の国々の漁船が現地で自分達の力で漁獲して、それを生のまま飛行機で日本へ運ぶことも可能となっていることから、遠洋マグロ船が漁獲する冷凍マグロの位置づけは昔ほどの存在感を示せなくなっているのである。
下の左グラフは地球の比較的暖かい地域に生息するキハダマグロなどは、現地の人達がこれらを競って漁獲をするようになってきたことが示しており、いっぽう右のグラフでは比較的寒い地域に生息する価値の高いクロマグロなどはどんどん水揚げが減っていることが表現されている。
そして今では天然のクロマグロやミナミマグロの漁獲減少と反比例するように、マグロの養殖が世界の至る所でおこなわれるようになってきたことが下のグラフに示されており、これらも生のまま輸入されることが多くなってきているようなのだ。
こうやって、いよいよ冷凍マグロの全体に占める割合は薄れてきていることはほぼ間違いないようで、その典型的な例としては三菱商事系で冷凍マグロの相場を左右するほどの力を持っている東洋冷蔵という冷凍マグロ業界の巨人が、最近は生マグロの取り扱いに力を入れ、更にはマグロ養殖事業にも進出したというのだから、その辺の事情が垣間見られるというものである。
最近はクロマグロやミナミマグロの養殖だけではなく、メバチマグロ、キハダマグロも養殖(畜養)の対象として捉えられるようになってきており、ブリやタイと同じようにマグロも養殖魚を生で食べることが普通になる時代がそこまでやってきているようなのだ。
日本では近くの海で天然マグロがよく漁獲される南九州や南西諸島、沖縄の地域では、昔からマグロは生で食べるのが普通であったけれども、これは比較的安価な天然のビンチョマグロやキハダマグロ、そしてシビと呼ばれるそれらの幼魚が主体であって、高価な養殖本マグロを普通に食するということはそもそも有り得なかった。
しかし、これからはこういう日本の南の地域だけではなく、全国的に「養殖を中心とした生のマグロ」が普及していこうとしている時代に入ってきていると見て良いだろう。
養殖マグロは畜養するための幼魚を確保する難しさや、餌代が非常に嵩んでコスト高ということなど、その越えなければならないハードルは高いようであるが、遠洋漁業による冷凍マグロが時代の流れで縮小せざるを得ない環境にあることから、間違いなく主力は生マグロへとシフトしていくと考えられる。
日本人にとって不動の人気ナンバーワンであるマグロを今後どのように扱っていくか、そこに多少とも関係する人達はこのことを真剣に考えていくべきであろう。
更新日時 平成26年 3月 1日 |
食品商業寄稿文
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