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平成24年 5月号 No.101
キビナゴ開き造り
キビナゴは本州中部以南から南日本にかけて多く、フィリピンからポリネシア方面の暖海性の海に大群をつくっている。
産卵期以外は外界を好む外洋性の魚であり、海の表層を泳ぎ、マグロやカツオの餌としても重要な存在である。
透明感のある黄土色の背と、頭から尾まで銀色に輝く立て帯が目立つ。
鱗は薄くてはがれやすく、漁獲された時はほとんど残っていないため、鱗はない種類だと見られているようだが、生きている時は立派についている。
ニシン目ウルメイワシ科に属し、ニシン目の中では最も小さく、体長は10a前後までしか大きくならない。
同じニシン目でも、ニシンは40aまでなることもあり、カタクチイワシでさえ20aまではなるものもある中で、キビナゴの小ささは際だっている。
キビナゴは黍魚子と書くが、黍とは稲科の一年草で、昔はこの黍を度量衡の最小単位としていた。
これは黍の粒が大小なく均一なので、昔はこれを最小の基準としていたようで、一黍の直径が「一分」であり、2,400黍が「一合」となっていた。
つまりキビナゴの黍とは最小を表したもので、小さな魚という意味での名称らしい。
夏が近づいてくると、キビナゴは産卵期が近づき旬を迎える。
産卵期を迎えると内湾部に接近してくるので、多くを漁獲することが出来る。
夏に相応しい酢味噌や酢醤油で食べる料理が多く、夏が旬ということが肯ける。
キビナゴを酢味噌などで食べる時、一般的には開きにして中骨は除去するのだが、普通は手開きにするのだけれども、大男が太い指でこれをやると、キビナゴが小さすぎて、下の画像のように必ずしも上手くいくとは限らない。
そこで開きの成功率が高く、しかもスピーディで、仕上がりのきれいな方法を、特別に・・・、FISH FOOD TIIMESの読者の方々だけ(?)に紹介しよう。
料理鋏で頭を切り落とす。
切り口が鋭角にスッキリ。
料理鋏の片方を腹に入れる。
切り開くと腹の切口がきれいになる。
ここまでの工程が重要で、後は普通の手開きの要領で、下の画像のように、どれも失敗はほとんどなくきれいに仕上げることが出来る。
これを盛り付けると、このように腹の切口がスキッとした開きの商品となる。
いっぽう、下の画像は上と同じ容器にキビナゴ入れたものだが、見た目だけではなく、キビナゴを開きにせず、そのまま盛り付けている。
豪快に中骨はついたまま食べようという提案である。
この食べ方は決して珍しいことではなく、昔はこの形でもよく食べられていた。
キビナゴという小さな魚は骨も小さく、口の中でそれほど気になるものではない。
唐揚げや丸干しは当然ながら骨ごと食べるのだが、生でも大きな問題はないのだ。
キビナゴは鮮度が良ければ生で食べることが出来るが、鮮度の落ち方が非常に早く、まさに時間との勝負であり、時間が経過すればするほど生食からは遠くなる。
このためキビナゴ生食の地域は、水揚げされて直ぐに食べられる九州地方が多く、産地から遠く離れた地域ではほとんど生食をする習慣はないようである。
しかし産地から遠い地域でも、鮮度の良いキビナゴを生で食べる方法がある。
読者諸氏にお尋ねしよう。
上の画像の左と右は、どちらの方が鮮度が良いと判断されるだろうか。
そして、質問をもう一つ。
どちらかは生ではなく、冷凍なのだが・・・、
さて、どちらでしょう?
一つ目の質問の答えは「左」である。
そして、二つ目の答えも「左」なのだ。
左の冷凍キビナゴは、間違いなく右の生よりも鮮度が良い。
実は青い容器に入れた「開きと筒切りの画像」は、そのどちらも冷凍原料であり、その原料となった冷凍キビナゴはこのような形で入荷してきた。
これを解凍すると、左上のようにまるで獲れたてのような鮮度が蘇ったのだ。
このキビナゴはアルコール凍結という方法で急速凍結をしたもので、
鹿児島魚類市場内 鮮魚冷凍魚仲卸 津曲商店 |
この会社から袋入りの状態で直接仕入れたものである。
アルコール凍結とは、エタノール(凍結点-114℃、消防法危険物第4類アルコール)
などを使って魚などを「液体で凍らせる」という手法であり、これまで冷凍の常識だった「冷気(エアーブラスト)にさらす凍結」ではなく、「冷たい液体(リキッド)に浸す」凍結法である。
マイナス30℃から、マイナス40℃のエタノールフローズン液に浸すことで、エアーブラストの20倍、チッソ凍結の8倍の速度で凍結を実現する。
気体より熱伝導率の早い液体を介して冷凍するため、凍結速度が圧倒的に早い。
またアルコール凍結は、ドリップがほとんど出ない。
ドリップというのは、冷凍の過程で細胞内外にできる氷の結晶が、細胞をズタズタに壊すことで発生すると言われている。
この氷の結晶は、凍結するスピード(-1℃〜-5℃を通過するスピード)
によって大きさが異なり、凍結速度が早いほど結晶は細かく、細胞の損傷が小さい。
エアーブラストでの凍結では、水分が約100〜200ミクロンの氷の結晶と化すが、この結晶が形成する段階で食材の細胞を壊すことになり、これが原因で解凍時のドリップを生み、旨み成分や食感を損なうことになるのだ。
しかしアルコール凍結では、氷の結晶は約5ミクロンと極小なので、肉や魚の細胞破壊を防ぐことができ、解凍後も食品の旨味成分や水分を逃さず、生と変わらない瑞々しさを維持する。
高品質な凍結に必要なのは、より低い温度ではなく、氷のできる温度帯(最大氷結晶生成帯)を通過させるスピードなのだ。
キビナゴは非常に小さい魚なので鮮度劣化も早いが、小さい分凍結スピードも早い。
その小さい魚を「獲れたて」で急速凍結すれば、鮮度面でのメリットは道理だ。
鮮度落ちして赤くなったキビナゴを安く売るよりは、安定した価格の刺身用冷凍キビナゴを解凍して売る方が賢いのではないだろうか。
もちろん、釣り餌用の冷凍キビナゴは全く別物なので混同しないでほしい。
ご興味のある方は津曲商店へご一報を・・・。
更新日時 平成24年 5月1日 |
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