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平成25年 7月号 No.115


ヤリイカ姿造り


このヤリイカという名称は福岡、佐賀、長崎の玄界灘に面した地方での通称で、正式には「ケンサキイカ」というのが正しい。

しかし本誌は博多から発信しているので、博多での呼び名であるヤリイカを使用する。

このイカを動物学的に正式な分類をすると、ツツイカ目 Teuthida ヤリイカ亜目 Myopsida ヤリイカ科 Loliginidae ヤリイカ亜科Loligininae ケンサキイカ属 Photololigo ケンサキイカ P. edulis 英名 swordtip squid 。

ヤリイカは本州中部以南に棲息し、剣先するめ、一番するめなどと呼ばれる原料であり、干しものになる時は庶民的なスルメイカとは違って高級品となる。

身は柔らかく、味は甘さがあって、煮たり焼いたりしても甘味が残るのが特徴である。

山陰では「シロイカ」と呼び、関東では「アカイカ」、広島では「ミズイカ」と呼ぶ。

 このように全国で呼び方が違っていて、北部九州での呼び方は「ヤリイカ」なのだ。

下の画像は魚市場に水揚げされて、まだ時間は余り経過していない状態で、胴体の透明感は失われて赤くなりつつあるが、耳などはまだ透明のままである。

 ヤリイカは初夏の頃から秋にかけて入荷する。

漁獲してすぐは白っぽい透明感があり、そのうちに体色は赤くなり、時間をおくと今度は赤色が飛んでくすんだ白色に変化する。

このように色が様々に変化するからか、全国で赤や白などの呼び方をされて紛らわしく、特に小型のときは近縁のケンサキイカ、ブドウイカ、ジンドウイカとも見分けが難しい。


この画像は九州でケンサキイカと呼ばれている正式名称ヤリイカである。

このイカも動物学的に正式な分類をすると、

ツツイカ目 Teuthida ヤリイカ亜目 Cephalopoda ヤリイカ科 Loliginidae ヤリイカ亜科 Loligininae ヤリイカ属 Loligo Lamarck ヤリイカLoligo bleekeri 英名Spear Squid

九州(福岡)では、これが「ケンサキイカ」であり、秋から晩春にかけて出回る。

関東以北ではスルメイカの別名は「夏イカ」だが、九州ではスルメイカは「冬イカ」で、そして九州ではヤリイカが「夏イカ」であり、このケンサキイカは「冬イカ」なのだ。

ケンサキイカは春に産卵するため、秋から冬までが旬であり入荷の時期でもある。

師走になり春先になってくると 「子持ち」になって、 そして春に産まれたものは、秋になると「小ヤリ」や「新イカ」として市場に並ぶ。


ここまでヤリイカとケンサキイカについて色々と記してきたが、地方によっては、ヤリイカのことをケンサキイカと呼び、また別の地方では、ケンサキイカのことをヤリイカと呼ぶ。

   

左 ケンサキイカ(標準和名ヤリイカ) 右 ヤリイカ(標準和名ケンサキイカ)

ケンサキイカは三浦半島沖以西、若挟湾以西、特に九州西岸、五島周辺で漁獲され、耳は縦長のひし形で、身の長さの70%ほどで、長さは35a体重600cまで成長する。

上の右画像のヤリイカは触腕と呼ばれる2本の腕が細くて小さくて目立たず、左画像のケンサキイカは2本の触腕が長くて太く、この違いで両種を見分ける。

ようするに元々これらを明確に区別するのが、一般的には簡単ではないことから、各地で誰か権威のある人が勝手に呼び名をつけ、それがそのまま通ってきたのであろう。

魚は地方名を使うことが許されているのだから、地方名に従っていれば良いのであって、そんな呼び名にやたら拘っているよりは、地方名で堂々と表現すべきなのだ。

例えば巻頭の「ヤリイカ姿造り」であるが、これは佐賀県呼子での名物料理でもある。

標準和名の「ケンサキイカ姿造り」ではなく、地方名「ヤリイカ姿造り」が正しいのだ。

だから本誌の巻頭でも博多の地方名である「ヤリイカ姿造り」で表現しているのである。


そのヤリイカ姿造りの方法を紹介しよう。

ヤリイカ姿造りの作業工程
1 舟を上にして、足の方向から舟の際に包丁を入れる。 2 舟の際に沿って、耳の下を潜るように包丁を入れる。
3 足を手前にして、耳の下から舟の際に包丁を入れる。 4 舟の際に沿いながら足の方へと包丁を動かす。
5 足,舟,耳,内臓が一体で残り、イカ墨などを除去する。 6 胴体の皮をむき、繊維と直角に飾り包丁をする。
7 飾り包丁と直角に等間隔で引き切りをする。 8 足,舟,耳,内臓の一体物を大根けんの上に乗せる。

イカの姿造りというのは、端に姿を良く見せるということだけではなく、一緒に盛りつけているゲソや耳も塩焼きや天ぷらで食べることが、刺身を食べた後に出来るので無駄はないのである。

しかし、姿造りまでは面倒だし、そんなのを造る余裕もないとの考えもあるだろう。上の工程画像を見てもらえば解ると思うが、実はそんなに面倒なことではなく、姿造りの必要性がない場合は、以下のような方法ならいかがかな。

この場合ゲソは半割にして、これを軽く半ボイルしてから、あしらいとして添えている。

イカゲソの扱いにも色々な考えがあって、刺身に添えるべきではなく、別売りすべきとの考えもあると思うが、この場合は価値を高める手段として使っている。

例えば下の画像はイカゲソの別売りの方法だが、

  

左画像は烏口を除去しているし、右画像は開きにして食べやすくしている。

さらにイカの調理をしたら必ずでてくることになる耳の取り扱いはどうしているだろう。

これらは普通、二束三文の価格で処分されていることが多いのではないだろうか。

例えば、以下のような方法もある。

これはヤリイカの耳を使った糸造り刺身だ。

胴体部分より少し堅い食感でコリコリして美味しいけれども、それだけでは物足りないので、大葉の刻みを加えて風味を出している。


そして、ヤリイカで最高に美味しいのが煮付けである。

ヤリイカの煮付けはスルメイカのものとは別世界の柔らかさと甘みがある。

上の画像はただ輪切りにしただけではなく、チョット手を加えて見かけを良くしている。

それは軽く半ボイルして氷水で冷やすことで、プリッと丸まって見えるようになるのだ。

完全に熱してしまうと真っ赤になって鮮度感はなくなってしまうので、生ものとして位置づけるためには、軽く湯に通して直ぐに冷やし込まなければならない。


最後にこれもヤリイカを美味しく食べる方法として外すことの出来ないのが、

この「鳴門造り」である。

鳴門造りについては幣紙の平成22年12月84号「アオリイカ鳴門造り」でも触れている。

その84号のなかで「鳴門造り」のことを以下のように表現している。

その味は「甘いほどの旨味」を感じることが出来る。

アオリイカに、海苔を貼り付け、マグロを巻いて商品化したのが、

この「鳴門造り」という刺身である。

こうすると更に海苔の風味が加わり、マグロの旨味がミックスされ、

まさに「絶品の味わい」となる。

この表現はそのままヤリイカの場合にも使えるのである。

アオリイカとヤリイカはケンサキイカと共に、ほとんど兄弟のようなもので、その「甘みのような旨味」という味わいを持つ点ではほぼ共通しているのである。

この三種のイカは、刺身はもちろんのこと、煮ても焼いても美味しく、イカ類の中では、味という点でトップランクに位置するのは間違いない。

その中の「ヤリイカ」が今、旬を迎えている。

水揚げが増え相場もこなれている今こそ、大いに売り込むべきだ。


更新日時 平成25年 7月1日


 



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