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メバル薄造り
春告げ魚と呼ばれるメバルの漁獲が増える季節となってきた。
この画像はメバルの中でも「アカメバル」という種類であり、この他に黒っぽいクロメバル、銀色っぽいシロメバルと3種類に分けられている。
以前この3種類は同じメバルとして考えられていたが、近年DNA鑑定の結果から別種として扱われるようになったという経緯があるほど見分けは難しい。
北海道から九州まで全国各地の沿岸域に棲息しているので、全国で色々な呼び方をされており、瀬戸内海の一部ではカサゴのことをメバルと呼んでいるなど、非常に紛らわしい扱い方をされる魚の一つである。
メバルはカサゴ目カサゴ亜目フサカサゴ科メバル亜科メバル属に属し、フサカサゴ科の魚だけで400種近く、そして食用になる同属だけでも日本に30種以上もいることから、似たような姿の「メバルと呼ばれる魚」が日本のあちこちに色々と棲息しているということになるのだ。
メバル属の仲間であることが意外と知られていないのが、関東地方では根強い人気のある高級魚アコウダイや、冷凍商品としてお馴染みの赤魚と呼ばれるアラスカメヌケである。
とにかく日本の沿岸域には、カサゴ、メヌケ、ソイ、オコゼなどを含め、メバルの仲間がやたらと多いのだ。
4月頃になって海水温が少しずつ上昇してくると、日本全国の沿岸域で様々な魚の産卵で生まれてきた稚魚が湧くように次々と増えてくる。
メバルも2月頃までに「産卵」を終えて体力も回復してきていることから、沿岸域に増えた稚魚などのエサを求め活発な索餌活動を行うようになり、この時期のメバルは釣りだけでなく定置網などにかかる可能性も高くなり、水揚げ高も増えてくるようである。
しかし上の表現でメバルの「産卵」と記したけれども、それは正確に言えば「産卵」ではなく「仔魚放出」なのである。
「仔魚放出」とは雌の腹の中から「卵ではなく魚の形」となって出てくるということであり、メバルは魚類としては珍しい「胎生魚」なのだ。
下の画像は胎生魚として生まれてきたキツネメバルの仔魚ということなのだが、メバルの腹の中からはこんな姿で出てきて、海中のプランクトンを食べながら育っていくということだ。
このように魚の形をした胎生魚で生まれてくるのはメバルだけではなく、ウミタナゴや熱帯魚のグッピーもそうであり、あのサメやエイも胎生魚なのだ。
胎生魚というのは、卵が腹の中で魚の形になって生まれてくるのだから、その前に卵子と精子による受精という行為が行われるけれども、メバルのそれは哺乳動物のように身体をくっつけ合って交尾をするとのことである。
下の画像はページ前方に貼り付けたメバルの画像を大きく拡大したものだが、強調表示している円の中に赤い突起物が少しだけ見えている。
これはたぶん想像するに「雄の生殖器官」ではないかと考えられる。
他の魚にはこんなものは見当たらないのだから間違いなくそうであり、こんなものが現認出来るのだったら「雌のアレ」はどうなっているのだろうと想像したくもなるものだ。
そしてその行為はいったいどんな動きなのか、それそのものの画像ではないが、それらしき行動に移る前と思える動画が見つかったので紹介しよう。
その「瞬間」というのは、お互いに海水面に向かって顔を上げ、腹どうしをくっつけるということであるが、実際に見たわけではないのでその言葉を信じるしかない。
さて、魚類の中では特殊なメバルの繁殖行動について言及するのはそれくらいにしておいて、メバルというのは4月頃からエサとなる稚魚の増加に伴って索餌活動が旺盛になり、結果として漁師の罠にはまることも多くなり、その水揚げも増えてくるようだということは上記した。
下の画像は4月下旬の長崎県対馬の、あるスーパーにある魚売場の生魚対面裸売りコーナーの様子である。
4月になって漁獲が増えてきている旬のアマダイやメバルが、漁港に水揚げされてから直ぐに店へと直送され、魚売場にはそれらがまさにピチピチの鮮度のまま所狭しと並べられていた。
1尾は300c前後の大きさで、100c160円で売られていたメバルは1尾で約450円前後だったが、朝のうちから次々と売れていって昼過ぎの頃には早くも完売であった。
お客様の調理要望はほとんどが「エラ腹出し」であり、刺身用に調理を頼む人は皆無だったけれど、このことは何とももったいない話だと感じるものがあった。
確かに「メバル=煮付け」というのは、言わば「数学の公式」のようなものであり、メバルを美味しく食べるには最高の料理方法には違いない。
そのオーソドックスな料理法である煮付けは外すことが出来ないので以下に紹介しよう。
メバルの煮付け | |
1,エラ内臓を出して飾り包丁を入れる | 4,メバルと竹の子を一緒に煮る |
2,調理済み商品化 | 5,中火で煮詰める |
3,ボイルした竹の子を櫛形に切る | 6,竹の子はあしらいとしてメバルに添える |
メバルは脂肪分が3.5%ほどのサッパリ系の白身なので、少し濃いめの味付けをして丸の姿のままで甘辛く煮込み、竹の子などを一緒に煮ると春から初夏の季節感も味わえる。
これはまさに定番とも言える料理法なのだが、必ずしも1尾を丸の姿のままこうしなければいけない決まりはないのだから、少し頭を捻って丸ごとの煮付けだけではなく、刺身も同時に味わうことも出来る方法を以下に紹介しよう。
メバル1尾を切身と刺身にする方法 | |
1,鱗を取り、エラを外す | 6,下身を除去した状態 |
2,下身のカマ横から腹部まで包丁を入れる | 7,骨付きの胴体は横半分に切り分ける。 |
3,下身の尻ビレに逆手包丁を入れカマ横切り口とつなぐ | 8,煮付けだけでなく、唐揚げ、塩焼きにもなる切身 |
4,腹部の内臓を全てかき出し、水気を拭きとる | |
5,尻ビレの切り口から片面おろしで下身を外す | 9,骨なし半身は刺身、骨付きは切身にして出来上がり |
水揚げされたばかりでピチピチの鮮度のメバルであれば、このように半分は刺身へと価値を高めることが出来るが、時間が経過してしまうとこういう形へは展開できず、火を通した料理しか出来ないことになる。
やはり魚というのは、いかに「煮付け魚」と呼ばれている大衆魚でも、出来るだけ鮮度の良い内に仕入れ、これを鮮度が落ちないうちに商品にしていくことを心がければ、これまでにはない高い付加価値をアピールすることが出来るということである。
「メバルの刺身なんて食ったことないけど美味しいのか?」と疑問を持たれる方も多いのではないかと思う。
そんな思いを抱かれた方は、今この時期に飛びっきりの鮮度のメバルを手に入れて刺身だけではなく鮨にも応用してみてほしい。
煮付けにしかならない魚と決めつけていた常識が覆るほどの美味しさを堪能できるはずである。
更新日時 平成26年 5月 1日 |
食品商業寄稿文
食品商業寄稿文(既刊号) |