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平成27年8月号 140

グルクマ刺身平造り


生息域をどんどん拡げているサバの仲間

グルクマという魚は日本の北の地域でほとんど馴染みのない魚だと思われるが、日本の南西諸島からインド太平洋の熱帯域に広く分布しており、和名のグルクマは「グルクマー」と語尾を伸ばして発音される沖縄の方言から来ている。サバの仲間であり、成魚は全長40cmになるが、マサバなどに比べると小型で体高が高く太くて短い。

     

グルクマ ( 英名: Indian mackerel、学名 Rastrelliger kanagurta )は、スズキ目 Perciformes、サバ亜目 Scombroidei、サバ科 Scombridae、グルクマ属 Rastrelliger に属し、沿岸域の表層を大群を作っているらしい。食性は肉食性で、動物プランクトン、小魚などを捕食するが、プランクトンを濾過摂食するために、鰓(エラ)の中の鰓耙(サイハとは口から吸い込んだものを餌や小石などの異物と水とに分離する鰓の濾過器官)と呼ばれる部分がよく発達している。

ネット上でグルクマ画像を探していると、「えいこのモルディブここだけの話&どうでもいい話」 というブログの中に、ダイビング中に撮られたと思われる、海中で大きな口を開けてプランクトンを漉しとって食べようとしているグルクマの画像が載っていた。

  恐いほど迫力あるグルクマの捕食シーン

これを見ると、グルクマのエラが大きく発達していて、生命維持には重要な器官であることが理解できる。
日本の南西諸島からメラネシア、オーストラリア北岸、アフリカ東岸まで、インド洋と西太平洋の熱帯海域に広く分布しており、グルクマには種の勢いがあって地中海の東部にも分布を広げているとのことだ。

フィリピン・マレーシア・タイなどの東南アジアでは重要な食用魚であり、群れをなして回遊するので漁獲もしやすいとのことで、定置網、刺し網、巻き網などで一度に多量に漁獲される。

グルクマが群れで泳ぐ様子を撮った動画も見つかったので、興味のある方は以下の グルクマ - YouTube を見てほしい。

グルクマが遊泳している様子を撮った動画 mitsunori taniguchi 


下の画像は奄美大島で漁獲された鮮度バリバリのグルクマ(現地ではアジャーと呼称する)だが、価格的には非常に安く常に300円/kg以下で取引されており、扱いとしては下魚の部類に位置づけられていて、奄美や沖縄などの南西諸島では夏に多く漁獲され、主に唐揚げや刺身などで食べられている。

            

木製のトロ箱に入れられて入荷したグルクマは、15尾入っていて1尾当たりの重さはほぼ600gから700g位だった。

ところで「トロ箱」とは一般的に魚を入れる箱の通称であるが、なぜトロ箱と言うのか理由はご存じだろうか。

トロ箱のトロとは、底引き網漁の一種であるトロール漁で収穫した魚を入れる箱という意味なのだが、水揚げ時に大量の魚を箱に詰めるために、木製の特殊な箱が用いられていたことから、魚を入れる箱の全てがトロ箱と呼ばれるようになっていったようだ。

トロ箱は大きく分けると発泡スチロール箱・薄箱・本箱の3種類になる。発泡スチロール箱は数え切れないほど様々な種類のものがあり、今やこれがトロ箱の主流となっている。

木製のトロ箱は薄箱と本箱があり、薄箱が外寸で37.5×60.0×9.0p、本箱が外寸37.5×60.0×13.0p(深さだけは内寸でタテヨコは外寸)である。

本箱はその深さが4寸3分(約13p)であることから、四三箱(よんさんばこ)とも呼ばれ、底びき網漁のものは四三箱が標準で、まき網漁などで漁獲された青物(アジやサバなど)は三八箱(さんぱちばこ)と呼ばれる深さ3寸8分(約12p)の箱が標準である。

四三箱と三八箱は、内寸の深さだけではなく、幅も板の厚さ一枚分違っていて、三八箱の方が、板一枚分狭く36.5×60.0×12.0pとなっている。

下の画像はもう何年も前の九州北部にある魚市場での早朝の風景であるが、真アジが三八箱に入れられ、上に重ねた箱に下の箱の真アジが潰されないよう、箱の上下の間に横棒を挟み何段にも重ねて積まれていた。

        
これらの箱には札が入っていないのでまだ競り前の状態であり、これから仲買人に競り落とされることになるのだが、思えば筆者がまだ若かった30年以上前の頃、福岡市にある長浜魚市場ではアジやサバが上の画像のような細々とした量なんかではなく、本当にこの何十倍もの大変な量の魚が一度に水揚げがされていた時は、荷受けの競り人がまさに山のように積み上げられた三八箱の木枠の上に器用に乗って、お山の大将のような感じで仲買人を見下ろして、大声を上げてこれらの魚を競りをしていたのを懐かしく思い出す。

        

上の画像は西日本のある漁港でキビナゴが水揚げされている風景だが、やはり三八箱に入れられていて、三八箱には一箱で15kgから18kg位の重量の魚が入っているとのことだが、魚の種類や大きさなどによってその重さはだいぶ違っているらしく、密度が濃くて空間のないキビナゴの場合はしっかり18kg位は入っているようだ。

        

また別の上画像を見ると、まき網船によって一度に大量に漁獲されるサバなどの青物の水揚げと仕分け作業は、画像にあるようにやはり従来の三八箱を使用した作業が一番効率が良いようで、魚市場の現場ではいまだにたくさんの人手を使って昔ながらの三八箱が大活躍している。

そしてこれらの三八箱に入った魚が競りにかけられて、仲買人などに競り落とされて以降は東京や大阪の大消費地へ運搬するために、そこから「たて直し」と呼ばれる作業が入ってきて、そこで初めて発泡スチロール箱で5kg〜10kgほどの単位で小分けされて出荷されていく。


日本で一番水揚量が多いのはサバ類で、2013年までの過去10年間平均50万トンあり、日本の総漁獲の約1割を占めている。今年は漁獲枠(TAC)が70万トンから90万トンに増加したので水揚げ増が予想されている。マサバ資源が増えている原因は、2011年3月に東日本大震災があったことで、マサバの産卵時期である3〜6月の漁獲を逃れたサバが大量に産卵し、その時の卵のサバが2013年春に大量に産卵し、今年はその2013年生まれの2歳魚サバが順調に漁獲されていることが、以下の「みなと新聞」の記事で報道されている。

               

しかし記事によると、漁獲されているサバの中心サイズは200gから250gと小振りなので、浜値は38円/kgほどでしかなく、ミールや養殖用冷凍エサ向けにしかならないようだ。

このような充分成長していない子どものサバが日本ではどんどん水揚げされているが、ノルウェーでは30cm以下のサバを食用以外で漁獲することができないとのことであり、漁業者も個別割当制度があることから、わざわざ小サバを獲って貴重なその漁獲枠を使うことはしないとのことだ。

ノルウェーは日本よりも漁業先進国と言われていて、何がどのように先進的なのか筆者は何も知らないのだが、その先進性の一部を知ることの出来るYouTube動画が見つかったので皆さんに紹介しておこう。

ノルウェーのサバ漁業(1/3) 撮影者 勝川俊雄(東京海洋大学 産学・地域連携推進機構 准教授)

この動画をみると、確かに日本の港の水揚げ風景とは大きく違っていることは間違いない。しかし、上記してきた中のいくつかの画像にあるような「たくさんの人が息づく魚市場の風景」というのを筆者は否定したくはない気持ちがある。

早朝の魚市場の活気ある雰囲気というのは、魚に携わる人間だけが知っている一種独特のものであり、魚市場には水揚げされた魚だけではなく、それに関わるたくさんの人がいてこそ価値が高まるのだと思う。

ノルウェーで水揚げされたサバは、ポンプの力によって人の手に一切触れられることなく冷凍工場へと運ばれていくとのことだが、これではまるで工場製品であって「魚屋さんの手で売られる新鮮な魚」という感じからは随分かけ離れた感じがある。

日本でも今やサンマなどは同じようにポンプで吸い上げられる光景が珍しくないようになっているようであり、サバもイワシも同じように国内の先進地での水揚げの風景はノルウェーのような方法へと変化しているのかもしれないけれど、筆者はこのような状景を好んで受け入れる気持ちにはなれそうもない。


さてトロ箱入りのグルクマの話がいつのまにかノルウェーサバに話題が移行してしまったので、グルクマに話を戻そう。

グルクマはサバ科に属していることからサバ一般のことにも言及してしまったけれども、この魚は多獲性魚種という割にはサバのように店頭にどんどんお目見えすることはない。たぶんこれは市場価格が非常に低いために漁師さんが好んで漁をしたがらないからではないかと推測している。

グルクマは味という点では、サバ科の仲間であるマグロやカツオにも近い赤身の魚なのでその味が悪いはずがなく、この魚は「味と価格と漁獲のバランスが良い」という点でもっと注目されても良いではないかと思う。

南西諸島の近くでは、ある意味「なんだ・・・グルクマーか・・・」といった感覚で扱われており、一昔前の真イワシのような下魚扱いというところであろうか。

        

上の画像はまな板の上に置いたグルクマだが、これを調理すると、

    

上の画像のように、身質と身の色は、サバでもなく、カツオでもなく、マグロでもない、どれにも似ているような似ていないような、そんな感じである。

グルクマの皮はサバと同じ要領で、包丁ではなく手で引っ張りはがすのが都合が良く、この方法で皮を取ると下の画像のようにサバと同じような皮の紋様がそのまま表面に出てくることになる。

           

巻頭画像の刺身平造りは半身分を盛り付けているが、上の画像は1尾分を盛り付けている。これだけのボリュームでも1尾分の原価は150円にもならないのだから、相当安い売価をつけたとしても余裕の値入率を確保できることになるのだ。

     

グルクマ1箱を仕入れた内の10尾分を三枚におろして並べてみると、チョット見はカツオのように見えないだろうか。

これから先の商品化は刺身でも切身でも何でも良いのだが、とにかく仕入原価は半身で100円以下なのだから、どんな形にしても儲からないはずがないのだ。

このグルクマは滅多に手に入らないような魚ではなく、世界中の海にその勢力を伸ばしている多獲性魚種であり、その気になれば仕入れる方法はいくらでもあるはずである。

読者の皆さんは、いつでも手に入れやすく、売れなくて困るような仕入リスクもなく、誰もが普通に知っている、だから比較的高値に張り付き安定している、そんな魚ばかりを追いかけていませんか。

日本の近海には、まだまだ食べる対象としては充分に活かされていない魚がたくさんいる、ということを読者の皆さんにも改めて考えてほしいものである。



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更新日時 平成27年 8月1日