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平成31年 4月号 184
ヨコワでつくる刺身と鮨
ヨコワ・・・、扱いに困ったものだ・・・
昔から天然クロマグロの水揚げが比較的多い漁港の近くに位置する魚売場で、このところ魚を納品する水産関係者から、度々「ヨコワが定置網に入り過ぎて困っている・・・」との声を聞くことが多くなってきている。
ヨコワとは下画像にあるクロマグロの幼魚であり、別名メジとも呼ばれる大きさは30kg未満の成熟前小型クロマグロのことである。
このヨコワが網に多く入って困るとの発言は聞き捨てならず、本来漁師さんが決して発するようなことではないはずなのだが、これは本当に漁師さんを現場で悩ませている現実の姿なのである。
一昨年の北海道でヨコワにかかわる一つの事件が起きた。それは太平洋クロマグロの小型魚(30kg未満)の定置網などでの沿岸漁業による北海道漁獲枠は2017年7月〜2018年6月の期間で57.3d割り当てられていた。しかし函館の南茅部地区で9月28日から10月2日の5日間で356dものヨコワの大量漁獲があり、それまでの期間の水揚げ累計は漁獲枠の10倍近い540dとなって枠を大幅に超過した。定置網の漁獲枠を共同管理している20道府県での合計数量の上限も超過したことから、水産庁は北海道以外の府県も含めた操業自粛を要請する事態となり、このことによって北海道以外の他地区沿岸漁業にも大きな影響を及ぼすことになったのだった。
国は平成26年12月の中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)Western and Central Pacific Fisheries Commission の会議で、平成27年1月から自主的取り組みとして小型クロマグロ4,007d、大型クロマグロ4,882dに漁獲枠を設定し、それ以上のクロマグロは漁獲しないと宣言した。ところが北海道で小型クロマグロ漁獲枠の大幅な超過が発生したため、このようなことを繰り返さない方策として、法律に基づく漁獲可能量(TAC)total allowable catchを、沖合漁業が平成30年1月から、そして沿岸漁業は平成30年7月からの実施へと移行することになった。
しかし北海道の定置網でヨコワがたった5日間で356dも漁獲されるということは、日本の他地域でも多かれ少なかれ似たようなことが起こっているかもしれないし、これからも起きないとは言えないと思われるのである。
クロマグロの生息状況と漁獲実態
例えば水産庁の発表によると、以下の図のようなクロマグロの生息状況があり、日本近海のクロマグロ資源は着実に増加していることを認めている。
上の表の中に「南西諸島生まれの指標」との表示があるが、その意味は水産庁の発表資料である以下のイラストを見ると理解できる。
北太平洋まぐろ類国際科学小委員会 ISC:International Scientific Committee for Tuna and Tuna-like Species in the North Pacific Ocean が発表した「太平洋クロマグロの資源評価結果」によると、2016年の親魚資源量は約2万1千トンと推定し、2010年に底を打って以降ゆっくりと回復しているとしているとのことである。
日本は中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)の中の、北太平洋まぐろ類国際科学小委員会( ISC)の評価に基づいてクロマグロの保存管理をしており、水産庁が昨年12月27日に発表した資料によると、クロマグロの保存及び管理計画の基本方針は上のグラフに記されているように「現在の親魚資源量を2024年までに60%の確率で歴史的中間値(4万3千トン)まで回復させる」ことを目標としているとのことだ。
3月15日に発表された直近のクロマグロ漁獲状況は以下の通りであり、
そして、次の第5管理期間(沖合漁業平成31年1月以降1年間、沿岸漁業平成31年4月以降1年間)は以下の表にある漁獲量となることが決まった。
第1種特定海洋生物資源 | 管理の対象となる期間 | 漁獲可能量 |
---|---|---|
クロマグロ | 第5管理期間 | 8,889d |
小型魚 | 第5管理期間 | 3,757d |
大型魚 |
第5管理期間 |
5,132d |
漁業の現実と国の対応の矛盾
日本は平成26年12月の中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC) の国際会議で、平成27年1月から自主的取り組みとして小型クロマグロ4,007d、大型クロマグロ4,882dに漁獲枠を設定し、それ以上のクロマグロは漁獲しないと宣言したとのことは前述の通りである。
ところがクロマグロ資源は2010年(平成22年)に底を打って毎年増えてきていて、2017年の南西諸島生まれのクロマグロは、2014年比で4倍の水準になっていると水産庁が自ら発表しているにもかかわらず、今年の第5管理期間の総漁獲総量は漁獲制限を自主的にスタートした頃とまったく同じ8,889dのままに据え置くというのだ。
クロマグロ資源は増えているのに、漁獲量は増やさないとはどういうことなのか。
こうなると、特に漁師さんが網に入る魚の種類を選ぶことの出来ない定置網漁業では、北海道南茅部地区での出来事と同じようなことがこれから他地区でも起きてしまうことも考えられる。水産庁はこのような事態に対しては、クロマグロだけを定置網から放流することを勧めており、その具体的方法として操業方法、漁法(漁具・網)、放流手法、機器導入などの工夫によってクロマグロの漁獲が増えないようにしなさいと指導しているのだ。
しかしこういう指導内容というのは、お上の立場でいうのは簡単だが、漁船の上ではとても厄介なことになるに違いないのだ。筆者も定置網の漁船に乗り込んで網をあげる現場を見せてもらったことがあるけれど、様々な魚がごちゃ混ぜ状態で入っている網の中からクロマグロだけを逃がすなんてことは、それほど簡単な作業ではないということが漁師ではない筆者でも想像できる。こういう本来漁業としては決してあってはならない苦し紛れの方法を漁師さんに押しつけなければならない原因はどこにあるのだろうか。
一つ考えられるのは、先に示したグラフの中にある以下の文章が、どう理解しようとしてもそこに説得力を感じることができない理論が前提となっているからではないかと思われる。
先に示していたグラフを部分的に強調してみたので、もう一度よく見てほしい。一番下の部分に小さな文字で「初期資源量」との説明があるが、そこには「資源評価上の過程を用いて、漁業が無い場合に資源が理論上どこまで増えるかを推定した数字。かつてそれだけの資源があったということを意味するものではない」と記されている。つまり、これは単に机上で推論した数字であって、現場に即した事実に基づくものとは違うものだということをここで宣言しているのだ。
また真ん中の赤い文字には、初期資源量の20%は13万トンとの前提で目標値が定められたようであるが、この「初期資源量の20%」というのは、一つの資源をある水準に維持しておけば、毎年最大の漁獲量が得られるという考え方である MSY理論(Maximum Sustainable Yield 最大持続生産量)に則った論理のようである。
初期資源量とは「いつの頃が初期なのか?」少なくとも太古なのか近代のある頃なのか、初期とされるその時代くらいは明確にしてほしいものである。しかし、この初期資源量という言葉を使用している MSY理論はまさにそれは仮定であって、かつてこのMSY理論が実証されたことは一度もないというのだから驚きである。
これまでのMSY理論の誤りと新しい環境変動理論
この実証されたことがない MSY理論については、東京海洋大学の櫻本和美教授が水産振興第605号の中で「マグロ類の資源管理問題の解決に向けて - MSY理論に代わるべき新しい資源変動理論 - 」という論文にその問題点を論理的に記されている。そして、このMSY理論を前提として現在日本の水産業界を混乱させているクロマグロ漁獲総量規制の数字をだしているのが、中西部太平洋マグロ類委員会(WCPFC)の委員たちなのである。
櫻本和美教授によると、WCPFCの資源研究者たちは「資源変動を決定する主要因は密度である」と主張しているが、教授は「資源変動の主因は密度ではく、環境変動である」と記されており、MSY理論で「クロマグロの親と子の再生産関係は不明」としている密度効果を前提ににした考えは誤りであると結論づけられている。
櫻本教授は以下のイラストで、資源変動はaとbの二つのプロセスが交互に繰り返されることによって起こると記されている。
上の図aのプロセス1で表されているのは、太平洋クロマグロは0歳の内に全年齢で漁獲される尾数の65%以上が漁獲され、常に他の魚に食われるか、それとも人間に漁獲されるかの脅威にさらされていることである。これは産卵が出来る成熟年齢まで生き残る過程のことであり、このことを「生残過程」と呼んでいる。
そしてbのプロセス2は、子が親になり、親が子を産み、その子が親になり子を産むという循環の「再生産関係」のことを示している。MSY理論の密度効果を重視する考え方は、このプロセス2の「産卵親魚の密度によって決定される」としているが、櫻本教授の資源変動理論はプロセス2で「環境変動の影響を大きく受けて決定される」としている。
櫻本教授が記された学術論文の内容を、筆者が解りやすく説明するのは難しい。もし読者が詳しい内容を知りたいのであれば http://www.suisan-shinkou.or.jp/promotion/pdf/SuisanShinkou_605.pdf にアクセスしてその内容を自分で読んで理解してほしい。筆者が詳しい論文の内容を説明することは割愛し、そのポイントとなる箇所だけを以下で取り上げたいと思う。櫻本教授は面白いことにその論文の中で赤い矢印を添えて「ここまで読み飛ばしてください」と記されているのである。
筆者も教授の助言に従うことにして、その赤い矢印までほとんど読み飛ばし、そのポイント部分だけ要約してを説明したいと思う。これ以降の文章は櫻本教授の考えを要約したものであり、筆者が考え出した理論などではないのだが、まるで筆者の意見のように表現されてしまうことは説明の都合上お許し願いたい。
まず解りやすい比較例として、マイワシ太平洋系群の加入量、産卵親魚量の62年間の経年変動がグラフで示されているのでここから始めよう。
上の折れ線グラフを散布図(XYグラフ)に置き直すと、下のように右回りのループが描かれる。
そして次は、太平洋クロマグロの加入量、親魚量の61年間の経年変動と再生産関係を同じようにグラフ化すると以下のようになる。
そして、上の折れ線グラフを同じように散布図(XYグラフ)に置き直すと、今度は以下のような左回りのループが描かれる。
シミュレーションにより得られる再生産関係は8っのパターンがあるが、上のマイワシとクロマグロの散布図(XYグラフ)の下部の文章に記述されている「マイワシは図8のbに相当し、クロマグロは図8のgに相当する」の説明は、そのなかの以下の2っのパターンであることを補足しておきたい。
このマイワシとクロマグロの散布図(XYグラフ)を単純化してイラストにすると、以下のように3っの期間(低水準期、高水準期、中水準期)がお団子を串刺しにしたようなパターンになり、マイワシの串団子は傾きを持ち、クロマグロの串団子は傾きを持たないという違いが出る。
マイワシの串団子は産卵親魚量の増加と減少の傾向が大きいので、団子同士が重ならず別々の形で串刺しになっているが、クロマグロの場合は同じように3っの団子があるけれど、増加減少傾向がマイワシほど大きくないので、団子が重なり合って横に広がった串刺しになっているという違いがあり、クロマグロはマイワシのように再生産関係がはっきり認識されにくいという特徴がある。
これらのシミュレーション結果から「再生産関係の形状(傾きとループの向き)は成熟年齢と環境変動の周期との比で決まる」ことが導き出される。
成熟年齢とは「平均成熟年齢」という意味であり、太平洋クロマグロの平均成熟年齢は9.79〜13.8歳であり、5歳になると100%成熟年齢に達する。いっぽう成熟年齢8歳の大西洋クロマグロ西資源の平均成熟年齢は16〜22.8歳となり、成熟年齢が4歳の大西洋東資源の平均成熟年齢は8〜11.2歳と推測されている。環境変動の周期は地域によって異なるし、同じ地域でも時代や時期によっても異なる。さらに、平均成熟年齢は年齢別の体重や産卵数、死亡係数や寿命などにも大きく影響される。
以上に記してきた論理的展開の結果、クロマグロは「再生産関係の形状(傾きとループの向き)は成熟年齢と環境変動の周期との比で決まる」との結論に至り、櫻本教授は「密度効果を主要因として導き出されたこれまでの再生産モデルは誤りである」と明確に断定され、その結果「これまで密度依存的再生産モデルから導き出されてきたMSY理論も誤りである」と指摘され、以下の計算式を呈示されている。
そして論文の最後に、マイワシとクロマグロの再生産関係を、以下のように赤のシミュレーションと黒のデータを同じ散布図(XYグラフ)のなかに表現されている。これらを重ね合わせてみると、すべてドンピシャではないけれど「赤と黒の動きはほぼ合致している」と言えるだろう。
つまりこれらの2っの図によって、櫻本教授の資源変動理論に基づくシミュレーションが、実際のデータによって科学的に裏付けられたことになるのである。
クロマグロ未成魚の漁獲規制
マグロやカツオの国別漁獲規制を国際会議で決定しているのは、RFMO:カツオ・マグロ類の地域漁業管理機関 (Regional Fisheries Management Organisation) という国際組織であり、このRFMOのなかには魚の種類や海域ごとに5っの地域組織が存在する。それらは、 @ ICCAT:大西洋マグロ類保存国際委員会(International Commission for the Conservation of Atlantic Tunas)、 A IOTC:インド洋マグロ類委員会(Indian Ocean Tuna Commission)、 B IATTC:全米熱帯マグロ類委員会(Inter-American Tropical Tuna Commission)、 C WCPFC:中西部太平洋マグロ類委員会(Western and Central Pacific Fisheries Commission)、D CCSBT:ミナミマグロ保存委員会(Commission for the Conservation of Southern Bluefin Tuna) である。
しかしこれらの国際会議では「未だクロマグロ資源の再生産関係が科学的に明らかにされていない」とされているのだ。その再生産関係が科学的に明らかにされていない問題について、櫻本教授は「その原因は資源研究者たちが従来の密度効果を中心とした再生産関係や、それから導き出されたMSY理論に異常なまでに固執してきたからである」と指摘されている。誤った理論に基づいていくら議論をしても時間と経費がムダなだけであり、そこから導かれる見当違いの結論は効果がないばかりでなく、被害を受けるのは見当違いの結果に振り回される漁業者であるとも述べられている。
そしてこのMSY理論から導かれた「初期資源量」という概念は、架空の概念というよりも「誤った概念」であり、水産庁が打ち出している「初期資源量の20%を管理目標にする」という議論はバカげているので中止すべきであると櫻本教授は断じておられる。
しかしいっぽうで櫻本教授は、日本沿岸のクロマグロ未成魚(ヨコワ)のなかで、0歳魚、1歳魚の漁獲圧に対して一定の漁獲規制をかけることは妥当な判断であるとも述べられている。
そのことは水産庁発表の以下の資料でも明らかになっている。
ただしその漁獲規制の方法に問題があり、日本が「小型クロマグロ漁獲枠を4,007dに固定してしまったことによって混乱を引き起こしている」と櫻本教授は指摘されている。
櫻本教授の資源変動理論によれば、産卵親魚量が増大期に移行する可能性は既に2015年の時点で指摘していたとのことであり、産卵親魚量が増大すれば加入量も増大することも考慮した対策を立案しておくべきだったとされ、その方法として、例えば「漁獲を2002年から2004年の3年間の30kg未満未成魚に対する漁獲係数の50%に規制する」という内容にすべきであったとの具体的な提案をされている。
こういう方法にすれば、加入量が倍になれば漁獲枠も倍になるし、加入量が3倍になれば漁獲枠も3倍になるので、現在日本の水産業界全体を巻き込んだ大きな混乱は防げたはずだとの考え方である。
もう、ヨコワは手に入らない?
さてそれでは、これまでヨコワを商売のタネの一つとして活用してきた水産関係者はどうすれば良いのか。ヨコワを漁獲する人、漁獲されたヨコワを卸しする人、卸しから仕入れたヨコワを小売りする人、小売りされたヨコワを料理して販売する人、それぞれの立場で受け止め方は違うと思われるが、やはり何と言ってもヨコワは未成熟魚と言えども、そんじょそこらのマグロとは格が違うマグロの中のマグロと称される別名は本マグロなのである。
だからヨコワの市場での取引価格は決して安くはないので、これまでの取扱量が大きかったところほど、それらを扱えなくなるとその影響は大きいのである。こうした小型クロマグロ漁獲枠の規制による収入減少には、漁業者にだけは漁業共済などによって金額補填をすることになっているのだが、その影響は漁業者だけではないことも理解してほしいものだ。
筆者は実際にヨコワの漁獲規制の影響が漁業者だけには留まらず、末端の小売り現場でも出ていることを示すある出来事に出会したことがある。
それはあるスーパーの魚部門作業場でのことである。ある時いつもの定置網業者が日頃は目にすることのない大きな箱に入った魚を納品してきた。納品業者と仕入れ責任者はまるで筆者の目を避けるようにしているので、気になってその魚は何なのか確認すると20kgほどのヨコワが2尾入っていたのだった。コソコソしているということは、想像するにたぶん「無申告のヨコワ」ではないかと感じることになった。
そのスーパーの魚部門は、ある養殖業者から30kg〜40kgの養殖生本マグロを1尾単位で定期的に仕入れているのだが、その仕入れ価格はエラハラ抜きで3,000円/kgで取り決められている。この日定置網業者からはこれらのヨコワを1,500円/kgの価格で提示されたようだ。こういう破格の値段で獲れ立てのヨコワが手に入るとすれば、仮にそれは無申告で闇流通の魚だという後ろめたさはあっても、それは養殖マグロの半値でしかないので仕入れ責任者はそちらの方を仕入れたくなるのは心情であろう。定置網業者にしてみれば、網に入って死にかけているヨコワを網から逃がしても生き延びるわけではないし、水揚げすればそれなりの金額になるのだから、それらをみすみす海に捨てることも出来ず、馴染みの納品先に仕入れをお願いすることになったのだろうと推測される。
こうして日本の水産業界を混乱させているTACという法律に基づくクロマグロの漁獲規制は、これまでは何の問題もなかった普通の魚の取引において、ある意味で小さな犯罪行為に近いことを水産関係者にさせてしまうことになっているのである。それだけではなく、その取引に直接関係していないマグロ養殖業者にとっても、ヨコワの需要と供給にもとづく正式な価格形成ではなく、闇流通として出された破格の値段で取引された結果、養殖業者が養殖クロマグロをそこに販売することで、予定し計算していた売上を横取りされてしまうことになり、売上減少という間接的な影響を受けてしまうことになったことも考慮すべきである。
漁業の現場だけでなく、水産卸売業、鮮魚小売業、マグロ養殖業など、クロマグロTACの影響は様々な形で影響を及ぼしていることを理解しておくべきであり、このような「闇に紛れた過少申告の実態」が、今後ヨコワの資源増加に伴って更に日本各地で増えていく可能性も有り得るのである。
例えば、これは日本ではなく大西洋クロマグロ東資源のことになるが、2008年に ICCAT:大西洋マグロ類保存国際委員会の中の SCRS:科学委員会は、下の図で1998年から2007年の公式報告漁獲量では深刻な過小報告が存在していたと指摘している。
2007年の大西洋クロマグロ東資源は、公式報告漁獲量3.5万dであったが、推定された実際の漁獲量は6.1万dだったとのことだ。当時 ICCAT:大西洋マグロ類保存国際委員会が設定していたクロマグロのTACは2万dから3.6万dであり、そのほぼ2倍が実際には漁獲されていたということであり、日本でも近年のクロマグロ資源の回復ぶりをみると、似たようなことが起きないとは断言できないと思われる。
小売り現場におけるヨコワの扱い
さて、今月号は当初いつものようにヨコワの商品化なども記すつもりだったのだが、ヨコワが現状置かれている日本での難しい環境にまつわることを記していくうちに、この魚が日本の水産業界だけではなく、世界各国の水産業の利害も密接に関わっていて、それらに関わる問題に言及していくと、どんどん深みにはまっていくことになってしまい、筆者が事前に考え予定していた本来のテーマからは大きく外れることになってしまった。
ここまで記してきたことはヨコワに関することなのだが、テーマが日本だけでなく世界の事情まで含めた話へと大きくずれ、文章もこんなに長くなってしまうと、これからヨコワの商品化といった技術的なことに触れても、たぶん読者の興味は既に違う方向へ飛んでいるだろうと判断したので、今月号ではそのような技術的側面の内容に言及するのはやめることにしたいと思う。
今月号の最後に記しておきたいことは、魚小売りの現場においても今後ヨコワを扱う局面では色々と難しいことが起こるかもしれないので、読者の方々は厄介な問題に巻き込まれないようにしてほしいということである。
今後正規ルートのヨコワは、これまでのように豊漁になったからと言って相場が暴落することは基本的に考えられないのだから、取引価格は常に高値安定となっていくであろう。そのいっぽう、どこからか非正規ルートでの格安なヨコワの売り込みが舞い込んでくるかもしれず、それらはたぶん正規品とは比べものにならないくらいの安値で手に入れられる可能性がある。
例えばシラスウナギは国によって厳しく管理されるようになった近年においても、やはり相変わらず闇ルートの動きが蠢き闊歩しているようであり、ヨコワについてもTACによって理想と現実にギャップが生じてきているこの時に、その裏で一儲けしようとする動きというのは必ず出てくるものである。そして、そのような環境から思いもよらなかった事件が発生するといったことも過去に繰り返されてきたのである。
小売りの現場に対しても、そういうあまり好ましくない方向から目を向ける人たちは必ずいるものであり、その対象にされて餌食になるのは「あるべき姿の理念よりも目先の利益を追う考えを持つ人物」である。
お客様から信用され、息の長い商売をコツコツと築き上げる人は、目先の利益は追わずこの先の長い将来を考え、どうあるべきか正しい決断を下しているはずである。読者の方々も、このような大きな環境変化に際しては、商売人として本来はどうあるべきかを正しく判断してほしいものである。
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更新日時 平成31年 4月 1日