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平成29年 8月号 164
オオシタビラメにぎり鮨&薄造り刺身
名前はヒラメ? でも、ウシノシタ(牛の舌)はカレイの仲間
今月号も少し区別が紛らわしいシタビラメについて記すことにしよう。
以下の画像は巻頭画像の刺身と鮨の材料となったカレイ目ウシノシタ亜目ウシノシタ科オオシタビラメ属オオシタビラメである。
一般的名称は単にシタビラメで通用しており、画像のように有眼側の表面が黒っぽいことから、クロシタビラメとかクロベロ、クロベタとも呼ばれているところもあるけれど、正式なクロシタビラメというのはカレイ目ウシノシタ亜目ウシノシタ科タイワンシタビラメ属に属するクロウシノシタであり、このオオシタビラメとは別種である。
上の画像のオオシタビラメを無眼側から見ると周囲のヒレは白っぽいけれども、下の画像にあるクロシタビラメは無眼側のヒレが黒く縁取りされ、有眼側の表面全体もオオシタビラメの茶色がかった黒よりも一段と黒い色をしているのがその違いである。
またウシノシタ科の仲間にはこの他に、黒ではなくて赤っぽい茶色が基調となっていて一般の人にはそれぞれの見分けが非常に難しい、アカシタビラメ、コウライアカシタビラメ、イヌノシタ、デンベエシタビラメなどの種類がある。
それらは総称アカシタビラメで呼ばれることが多いので、この記事ではその細かい比較ではなく、オオシタビラメとクロウシノシタと比較するために、以下にウシノシタ科イヌノシタ属アカシタビラメだけを画像で紹介することにしよう。
アカシタビラメは梅雨の頃から盛夏の頃が旬となり、今が年間の中で一番美味しく安く食べることのできる季節である。有明海に面する地方の魚売場では、夏場にかけて以下の画像のような形で、今が盛りとばかりに売り込まれている光景を目にすることができる。
7月時点の魚売場でのクチゾコ(シタビラメ)の小売光景 | |
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大型サイズは1尾780円〜980円 | |
小型サイズは1尾380円〜480円 | 切身は小型サイズが1尾398円、 大型サイズは100g198円 |
アカシタビラメはその形が「靴の底」に似ていることから、九州の有明海に面する地方でクッゾコやクチゾコなどと呼ばれ、下画像のように主に煮付けなどで食されている。
英名では Red tonguesoleや Red tonguefish で呼ばれていて、やはり赤い舌とか赤い靴底みたいな表現をされているのは同じである。
クチゾコ(シタビラメ)煮付け 福岡県柳川市 夜明茶屋の料理(2017年7月初旬)
本物のシタビラメムニエルとは・・・
しかし一般的にはシタビラメの名前を聞くと、反射的に「フランス料理のシタビラメムニエル」という料理を思い浮かべる人も多いと思う。フランスなどのヨーロッパの国々で高級料理として名高いこの魚は、動物界の種別としてはカレイ目 ササウシノシタ科 ソレア属ヨーロッパソール に分類され、別名はドーバーソールという名称でも呼ばれている。
下の画像は、筆者が2010年10月末に訪問したパリで、宿泊したホテル内に併設されているレストランで食べたシタビラメムニエルだ。
Sole entiere grilee au meuniere(シタビラメムニエル)€28 Hotel Bedford (Paris)
運ばれてきたこの料理を見て、それは予想よりも大きく、分厚く量感があるので、筆者の頭の中にあった日本のシタビラメの形とは随分違っているものだと感じたのを覚えている。
その疑問は後で解消することになったのだが、ドーバーソールの画像は今のところ手持ちしていないので、そのことを説明する手段として同じカレイ目ウシノシタ亜目ササウシノシタ科に属している仲間のミナミシマウシノシタ属アマミウシノシタと思われる画像を以下に紹介しよう。
見た目で分かるように、ウシノシタ科のアカシタビラメとは違って、ササウシノシタ科のアマミウシノシタは少しずんぐりと丸くて、短く肉厚で、いかにも食べ応えがありそうな印象である。
これを以下のように三枚おろしにしてみた。
アマミウシノシタの三枚おろし工程 |
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1、ウシノシタ科の場合は基本的に頭の方から皮を取るが、この場合は実験的に尾の方から皮をとってみた。 |
2、特に力を加えることなくすんなりと皮を除去できた。 |
3、三枚おろしにした後の中骨部分は予想以上に大きい。 |
4、三枚におろした手前の方が有眼側で、奥が無眼側。 |
改めてパリのレストランで出されたシタビラメムニエルの画像を再確認すると、この盛り付けは「有眼側半身の皮側を下にして盛り付けている」のが理解できる。また、日本では貴重とされている「エンガワ」の部位はスッパリ切り落とされて、その形状が元より細くなっているのも理解できると思う。 |
フランスではこのヨーロッパソール(ドーバーソール)は小売店でどうやって売られているかと言えば、筆者が7年前に訪問したフランスでレンタカーを借りて動いていたところ、パリ近郊のベルサイユ近くにあるCHAVILLEという小さな街で、ある市場の中に2軒の魚屋さんが軒を並べているのを偶然発見した。そこにはヨーロッパソール(ドーバーソール)だけでなく色々な魚が売られていたのだが、その時のことは FISH FOOD TIMES 平成22年11月号 No.83 の中で詳しく述べているのでその記事を覗いてほしい。
そこでは以下の画像のような形でヨーロッパソール(ドーバーソール)が売られていた。
そこでは対面裸売りの形で氷の上に生魚も冷凍魚も一緒に陳列されていたのだが、下の拡大画像にあるように、その中には発泡スチロールの箱に投げ込まれるようにしてヨーロッパソール(ドーバーソール)が並べられていた。価格はよく確認しなかったのでまったく記憶にないが、もちろんその扱いは当然ながら生で食べるという前提ではないようだった。
日本のシタビラメの位置付け
日本においても「シタビラメは刺身で食べるものではない」というのが常識のようだが、それはこれまでの歴史からすると生で食べるという習慣はなかったということだけであり、刺身や鮨で食べてはいけないということではないだろう。
ササウシノシタ科の魚は皮が固いことから、ムニエルなどに料理するときは皮を除去するのが常識とされ、確かに実際に扱ってみたササウシノシタ科の皮は非常に固かったので皮を除去したほうが良いだろうとは思った。しかしウシノシタ科のアカシタビラメなどは特に皮を除去する必要はないと思われ、煮付けにするときも皮を除去しないで全く問題はなく、例えばこのページの前の方の部分で紹介した夜明茶屋で出されたクチゾコ煮付け料理も皮はそのまま残して煮付けされていて、それはなんら問題はなく普通の魚と同じように皮に箸を入れることができたのだ。
ウシノシタ科の魚を料理する時にササウシノシタ科と同じように皮を除去する必要はないにもかかわらず、もし皮を除去するのであれば、日本では鮮度さえ良ければその先にあるのは刺身や鮨に変化させるのが普通ではないだろうかと筆者は考え、巻頭画像の刺身と鮨を作成して試食をしたのだった。
それはどこかで食べてみて美味しかったからというのではなく、手に入れたオオシタビラメの鮮度が良かったので刺身や鮨で食べてみようと思い、生まれて初めてその生の味を経験したのだが、もともとヒラメやカレイの仲間は全体的に良い味を持っていることから、オオシタビラメも味が悪いはずがないという前提で調理をしてみて、やはりそれは筆者の予測に違わず実に良い味だったのである。
以下にオオシタビラメの皮を除去する工程を紹介しよう。
オオシタビラメの皮の除去工程 | ||
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1、オオシタビラメを準備する。 | 2、無眼側の鱗を除去する。 | 3、有眼側の鱗を除去する。 |
4、無眼側の胸ビレ横から包丁の切り込みを入れ、皮一枚だけ残して切り終える。 | 5、無眼側を下にして、左手で頭部を掴み、尾ビレの方に向けて頭部を引っ張る。 | 6、右手で魚体を押さえ、左手で頭部を掴んだまま尾ビレの方に向けて引っ張る。 |
7、尾ビレの最後のところまで、左手で引っ張り皮を外す。 | 8、有眼側の皮と頭部をつけたまま胴体から皮を分離した状態。 | 9、無眼側を下にして、頭部側の端に皮一枚残すところまで包丁の切り込みを入れる。 |
10、無眼側を上に返して、切り込みから皮を左手でつかんで、尾ビレの方へ引っ張り外す。 | 11、無眼側の皮を除去した状態。 | 12、有眼側と無眼側、両方の皮を除去し終えた状態。 |
皮を除去する段階までは終えたので、次は 三枚おろしと刺身、鮨ネタカットの工程である。
1、有眼側の背身の方から、柳刃包丁を使って、中骨の上に切り込みを入れる。 | 2、柳刃包丁の刃先を、そのまま中骨の上を滑らせるように切り進む。 | 3、山高骨を超えて、そのまま腹身の方まで切り進む。 |
4、有眼側の身を二枚おろしにして分離した状態。 | 5、次は無眼側を腹身の方から柳刃包丁で中骨の上を切り進む。 | 6、柳刃包丁で切り進み、山高骨を超えて背身の方まで切り進む。 |
7、三枚おろしにした有眼側と無眼側の両方の身。 | 8、型が大きい場合は背身と腹身に分ける。 | 9、薄くて細い身なので無駄が出ないように、両身の端と平行に包丁の角度を決めて切り進む。(左姿勢) |
10、オオシタビラメはヒラメのように身は堅くないので薄造りするのは簡単ではないが、味は実に良い。 | 11、右の姿勢も無駄を出さないために、身の端の角度に合わせて包丁の角度を決めて切り進む。 | 12、にぎり鮨の場合は薄造り刺身の場合よりも厚めで大きめにしないと美味しく感じられない。 |
和風・・・、シタビラメ天ぷら
最後に、これもあまり一般的ではない「シタビラメ天ぷら」を紹介しよう。
シタビラメの仲間は基本的に身が柔らかい素材であり、煮付けにしたら身崩れして箸で取りにくいこともあるので、天ぷらのような衣で包み込む形にすると、ひと塊りになって食べやすくなる。
ムニエルはササウシノシタ科のヨーロッパソールが料理として最適かもしれないが、ウシノシタ科の細くて薄い身はムニエルよりも天ぷらの方が向いているのではないかと思われる。
オオシタビラメの天ぷらは白身魚特有の上品な味で本当にお薦めの料理なのである。
オオシタビラメ天ぷらの作り方 | |
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1、オオシタビラメを背身と腹身の二つに分割する。 | 2、天ぷらとしてちょうど良い大きさとして細く長く切る。 |
3、ほぼ同じ大きさに切り揃えて、塩コショウを振って下味をつけた天ぷら用オオシタビラメ。 | 4、振るいにした小麦粉と少量の片栗粉に冷水と卵を加え、ダマにならず粉が少し残るくらいの粘度に混ぜ合わせる。 |
5、天ぷら衣にオオシタビラメの切身全体をつける。 | 6、天ぷら油を準備して温度を180度にする。 |
7、天ぷら油に入れて、沈んでいた具が上に浮かんだら菜箸で裏表を返し、色が均等になったら取り出す。 | 8、天ぷらにしたオオシタビラメ。 |
9、爆発しないように少しだけ切れ目を入れたシシトウに、残りの天ぷら衣を絡めるようにつける。 | 10、油の温度を少し低めの170度にして、菜箸で裏表を返しながらシシトウを揚げる。 |
11、揚げが終わったオオシタビラメとシシトウ。 | 12、敷き紙の上に盛り付けて完成。 |
シタビラメを日本風にアレンジして食べてみよう
アカシタビラメやオオシタビラメを含む通称シタビラメと呼ばれるウシノシタ科の魚は、日本では昔から底引き網漁で一度にたくさん水揚げされるので、獲れる時は一気に相場が安くなる傾向があり、料理方法としても煮付けなどに限られる典型的な惣菜魚として扱われてきた。
しかし近年はフランス料理のシタビラメムニエルなどの影響もあって、その地位は以前よりは高まったようであるけれど、その後料理方法が大きく拡大しているとは思えない現実もあるようだ。
上記してきたように、本来のシタビラメムニエルに使う魚はササウシノシタ科の別種の魚であり、ウシノシタ科の魚を無理やり同じようにムニエル料理にしたとしても、それらを比較すると美味しさにはどうしても限界があると筆者は感じる。
筆者は、日本においてウシノシタ科の魚を本当の意味で活かす料理は、やはり日本料理の「刺身、鮨、天ぷら」などではないかと考える。
底引き網で獲れたシタビラメ類の中には、まだピンピン生きているものも店頭で売られており、そんな鮮度のシタビラメが流通する日本だからこそ、もっと日本流の食べ方をするべきではないのだろうか。
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新してきたこのホームページへの
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更新日時 平成29年 8月1日