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平成28年 9月号 153
アオハタ薄造り刺身
この魚は標準和名のアオハタよりも、一般的にはアオナとかキアラ、キハタ、ナメラ、タカバなどの地方での呼び方のほうがよく耳にする名前で、スズキ目スズキ亜目ハタ科マハタ属に属している。
FISH FOOD TIIMES の既刊号では、No.149 スジアラ炙り刺身(平成28年 5月号)、No.108 アラちゃんこ鍋(平成24年 12月号)、42真ハタの薄造り(平成19年6月号)、これまで合計3度マハタ属の仲間のことを取り上げてきたので今回で4度目となる。
日本において魚屋さんが販売の対象として扱っていて、料理店でも料理材料として使われているハタ科マハタ属の仲間は、日本各地でアラやクエとも呼ばれ、沖縄ではミーバイ、南西諸島でネバリなどとも呼ばれていて、何しろ数えると30種類以上もあるのだから、 FISH FOOD TIIMESで取り上げられる機会も増えるというものである。
アオハタはマハタ属の中ではあまり大きくならない小型のハタであり、水揚げ量は最近かなり増えてきているようで、このところ比較的手に入りやすくなったことから店頭での価格は昔より随分とこなれた価格で提供されているのを見ることが多くなった。
一般的にハタの仲間は高級魚の代名詞なのだが、アオハタは仕入れ時のkg単価が他の大衆魚より多少高くても、比較的小型のものが多いことから1尾あたりの売価はそれほど高くならず、魚売場の裸売り対面コーナーでの「見せ筋商品」として陳列して見せるのに、仕入れ負担があまり重くならない便利な魚として担当者に重宝がられている魚でもある。
最近スーパーの魚売場では対面裸売りコーナーを備える店が増えてきているけれど、新たに裸売りを始めた店はもともとその手法に慣れていないだけに運営には苦労しているところも多いようだ。上の画像は筆者の指導先の一つで対面裸売りをしている様子だが、この店のように10kgほどの大きさのアラ(クエ)のような1尾の売価が25,800円もする高価な魚を品揃えしても、その運営を難なくやっていける店というはそれほど多くない。
上画像のほぼ中心に並べられているアオハタは1尾2,500円と1,480円の売価がつけられていて、その上にデーンと置かれている大きなアラの十分の一以下の価格であり、白身の高級魚としては手に入れやすい存在として位置付けられることは理解できるであろう。この生魚裸売りコーナーには、この他に15,000円の天然ブリ、7,000円の天然ダイなども品揃えされているので、2,500円や1,480円のアオハタは手に届かない高価な魚ではなく割安な魚に感じさせるように見せる「松竹梅の法則」が使われている。
生魚の対面裸売りに不慣れで未熟な魚売場は、いわゆる「茶を濁す方法」でなんとか対面裸売りの格好をつけようとすることが多いが、そんな付け焼刃的なやり方をして誤魔化そうとするから対面裸売りが成功しないのである。対面裸売りがなぜ必要なのかの根本的な考え方を理解しないままこれを実行しようとしても、そのうちに対面裸売りの売場そのものがお荷物となって崩れ去っていくのが関の山だ。
生魚の対面裸売りがなぜ必要なのかについて、FISH FOOD TIIMESでは 平成23年 1月号( No.85) の中で「今年度水産部門指導にあたって、魚売場は対面販売が・・・」という文章を載せた。この文章が食品スーパー業界の経営と運営の専門誌である「食品商業」編集部の目に留まり、筆者は平成24年9月号の食品商業に「丸魚対面販売と調理サービス強化(改装・導入で実現した前年比200%)」という文章を記すことになったという経緯がある。
その発端となった平成23年1月号の文章を少し長いけれど、魚売場の対面裸売りを理解してもらうため、以下に再掲載したい。
対面販売は黄金の法則 <樋口知康 文責> 平成23年1月 |
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水産部門の指導という仕事に携わってから20年を超え、最近改めて強く感じていることがあります。 |
スーパー業界の過去5年ほどの魚売場の動きを振り返ってみると、新店オープンの時に生魚対面裸売りコーナーを導入したり、改装に際して新たにこれを設けたりするところが増えてきており、それを契機として売上が順調となっている会社がある一方で、根本的な考え方が理解されていないために、魚売場のお荷物となっているところもあるようだが、上記の考えからするとスーパーの魚売場に「生魚対面裸売りコーナー」は基本的に必要なのである。
生魚対面裸売りコーナーを上手に運用できていない会社は、対面売場に陳列されている魚をそのままパックしても何ら問題はないような生魚が、申し訳程度ほんの少しだけの数がパラパラと氷の上に並べられているだけで、それらは単に「生魚が姿のまま飾られている」にすぎないことが多い。それも、養殖鯛、イカ、サバ、アジなど、どこの競合店でも普通に品揃えされている魚がトレーに入っていないだけであり、しかもそれらの魚が売れないからと従業員から見向きもせずそのまま放置されているようでは売れないはずだ。
そんな方法で茶を濁すのではなく、対面裸売りでなければその良さを発揮できない生魚を品揃えすべきであり、それは例えばアオハタの品揃えも豊富感を出すには格好の魚となるし、他社とは違う高級感も打ち出しての差別化ができることになる。
アオハタを品揃えするとなると、売価は最低でも2,000円前後を覚悟しなければならず、そういう価格の魚が次から次へと売れていくのを期待するのはよほどの繁盛店でもない限り無理というものであり、それを何日も飾って最後に値下げ処分をして半額で処分するというのは愚の骨頂というものである。裸売りで陳列するのは1日が限界であり、理想は朝陳列して昼過ぎには引っ込め、午後には切身や刺身や鮨、さらには煮付けや塩焼きなどの魚惣菜に変化させて閉店までには売り切ることだ。当日売り切ることが出来ないならば、翌日にそういう商品に変化させていかなければならない。
アオハタというアイテムを丸のまま売り切ることが出来ないならば、このように切身、刺身、鮨、魚惣菜などのSKUに展開していかなければならず、対面販売を実施する店は生魚を消化するこういう様々な手段を持っていることが重要になる。もしその店が付加価値の高い商品である刺身や鮨といった商品に対するお客様の評価が高ければ非常に有利であり、多少価格の高い高級魚を仕入れても刺身や鮨に変化して無理なく消化していけることになる。
つまり生魚の対面裸売りを成功させるためには、どこの競合店にも品揃えされていて、その魚の品揃えでは差別化できない大衆魚を扱うことのできる程度の技術や知識のレベルでは難しいということであり、アオハタのような高級魚だけではなく、簡単には手に入らない珍しい魚や、あまり一般的ではない未利用魚などを含めた様々な魚に対応できるような知識や技術を磨いていくことが重要なことになるのだ。
生魚の対面売場に黄色いアオハタが品揃えされていると、他の魚とは違う一種独特の色合いによる存在感があり、それだけでお客様に少し高級な良い魚を品揃えしていることをアピールできるのが一つのメリットだが、大きなアラ(クエ)のようにとても手が出ない価格でもないので、高級なイメージを打ち出しながらも値頃感を失わない魚でもあるので、高級魚としては比較的取り組みやすい魚種の一つに数え上げられる。
しかし、やはりそのまま1尾で売るとなるとそれほど簡単ではない。その身を刺身や鮨ですべて使い切ることが出来ればそれが一番値入れが取れる方法だと思うが、鮨を扱っていないなどのハンディがあると半身は切身で売らなければならないということもあるだろう。以下の画像は比較的小型サイズのアオハタの切身と刺身の商品化工程である。
小型アオハタの煮付け鍋用切身の商品化工程 | |
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1、鱗を取り、エラと内臓を除去する | 6、中骨のない方の半身の頭部を除去する。 |
2、頭をつけたまま、尾の方から包丁を入れる。 | 7、中骨がついている身の背ビレを切り離す。 |
3、頭までそのまま包丁を入れ、頭を半割りにする。 | 8、背ビレと尻ビレを除去して頭部を切り離す。 |
4、つながったままの尾ビレ付近を切り離す。 | 9、背側を優先して平行に幅をとって切り離す。 |
5、頭をつけたままで、二枚におろした状態。 | 10、骨付半身は出来るだけ均等な大きさの切身にする。 |
骨付半身で2パックできた切身 | |
皮のボイルをあしらいとして活かす | |
1、包丁で除去した皮を熱湯でボイルし、氷水で冷やす。 | 3、ボイルした皮を細く斬り刻む。 |
2、皮を除去した骨なし半身 | 4、切り刻まれたボイル皮。 |
ボイルした皮をあしらいにしたアオハタの薄造り刺身 |
これから気温が低下してくる季節を迎え、アオハタを鍋にすれば最高に美味しい料理となる。また透き通った白身の刺身は平造りでは商品原価が高くなってしまうので、やはり薄造りが基本になると思われるが、さすがにハタ類の仲間であるだけに、同じような美味しさを何十キロもの大きさがなくても味わえるのだ。
しかしベースとして決して安くはない魚だけに、刺身に盛り付ける量も限られ、ボリューム感では勝負できない商品となる。そこで付加価値を高めるために旨味が凝縮された皮をボイルして切り刻み、これをあしらいとして添付すると巻頭画像のような薄造り刺身が出来上がるのである。
アオハタは大衆魚ではないけれど、その大きさも手頃な高級魚として魚売場のイメージアップに活用できるはずである。資源が枯渇し数が激減しているという話も聞かず、水揚げ量は安定しているようなので、身近な高級魚として活用していきたいものである。
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更新日時 平成28年 9月1日