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平成27年9月号 141
ヒラマサ切身姿売り
ブリ類の中では格上の高級魚
ヒラマサは、スズキ目 Perciformes、スズキ亜目 Percoidei、アジ科 Carangidae、ブリ属 Seriola、ヒラマサ種 Seriola lalandi に属し、英名 Amberjack。九州の地方名はヒラス、他の西日本ではヒラソなどと呼ばれている。
下の画像は天然のヒラマサ。
アジ科魚類のなかでは最大の大きさとなり、成魚は1m前後になる。前後に細長く、体色は背が青緑色、腹は銀白色、体側には太い黄色の縦帯がある。
上の画像は1月下旬の頃、年間で一番脂が乗った時期の天然ブリ9.5kgの画像である。
ヒラマサはブリと非常によく似ていて、見ることに慣れていないと簡単にはブリと見分けがつかないが、下の画像の円で囲った部分の違いがヒラマサとブリを見分けるポイントで、左がヒラマサ、右がブリである。
この見分け方については、FISH FOOD TIMES 59フクラギ姿造り(平成20年11月)でも触れているので参考にしてほしい。
ところで、少しややこしいことに本マグロの完全養殖で名高い近畿大学は、ブリ属の品種改良としてブリよりも商品価値の高いヒラマサとかけ合わせて、その交雑種であるブリヒラ(ブリの卵にヒラマサの精子をかけて受精させる)という魚を1970年に誕生させている。
このブリヒラの成長はブリよりは遅いものの、2歳魚で全長約65cm、体重約3kgに成長することから、養殖業者にとっては成長の遅いヒラマサの2倍のスピードで大きくなるメリットがあり、その味や刺身の色合い、そして歯ごたえや身持ちなどについても、ブリ以上であるという評価を魚関係者や調理人などから得ているようだ。
筆者は残念ながらブリヒラを見たことも食べたこともないので何ともコメントし難いが、もともと見分けがつきにくいブリとヒラマサなのに、その交雑種となるといったいどこで見分けることになるのだろうとの素朴な疑問が湧いてくる。
またヒラマサとブリに関して以下のような面白い記事があったので紹介しよう。
これは水産業界紙みなと新聞の8月19日号に掲載されていた記事であり、その詳細は自分で記事を読んでほしい。
記事の要点を簡単に記すと、養殖業者がブリとヒラマサを同時に別の生け簀で養殖し、冬場にニーズの高まるブリは冬、そして夏場に需要の高いヒラマサを夏という形で、それぞれ需要の高まる時期に集中して出荷することで、夏場と冬場の売上高低差をなくし事業の安定化を図っていこうという養殖業者の試みを紹介しているのである。
ブリよりも色変わりが遅くカチッとした身質が似ていてヒラマサと比肩されることの多いカンパチは、ブリよりも高い価格で取引されており、その養殖生産量は平成22年に40,465dあった。ちなみに平成25年のブリの養殖生産量は158,300dであり、カンパチの4倍の生産量である。
これに対してヒラマサは、平成25年にカンパチより一桁少ないレベルの年間で4,500dしか生産されておらず、養殖魚としてメジャー的存在のブリやカンパチと比べると、それはまだあまりにも弱小な存在でしかないのだ。
これはヒラマサの養殖種苗がほとんど天然のものに依存しているために計画的な生産が難しく、しかもヒラマサの天然種苗が高価であることが養殖魚として生産量を増やすための阻害要因となっているようである。
天然のヒラマサは日本近海においては北海道南部以南で見られ、沿岸や沖合いの浅い海に生息し、ブリよりも高温の水域を好み、産卵期はブリより遅く4月から8月の頃である。
下の画像は5月初旬に入荷した長崎県対馬産の天然ヒラマサであるが、11.8kgの大きさであった。
このヒラマサの腹を開けると、
このように立派に成熟した真子状態の魚卵が出てきて、5月初めの時点で産卵はもう間近であることを伺わせた。
「ヒラマサは初夏から夏にかけてが旬」と言われていて夏のイメージがあるのだが、4月から5月頃の早い時期に産卵を終えたヒラマサは、秋の頃には体力も回復して脂が乗っておいしくなり、初夏から夏の産卵の頃よりは秋のほうが美味しいとの評価もあり、筆者もその意見は間違っていないのではないかと思うことがある。
ヒラマサは高級な刺身や鮨の商材として位置づけられていて、ブリのように脂ぎることがないのでその身自体の旨味をしっかり味わうことが出来るのだ。
11.8kgの天然ヒラマサを三枚におろすと上の画像のようになった。
上身は背身と腹身に分け、皮をすいた。
これを冊取りしていくと、これだけの量の長冊が出来る。
そして更に短い短冊の商品にすると、このようにたくさんの短冊商品が出来る。
これを刺身の平造りと薄造りにすると上の画像のようになり、
鮨にすると、このようになった。
これらを全て刺身や鮨にするのでは面白くないので、切身にもしてみることにした。
ヒラマサは基本的にブリよりも仕入れ値が高く売価も高くなることから、通常ヒラマサの切身というのはあまり見かけるものではなく、ヒラマサの切身をトレーに入れてパックしただけでは、見た目もブリと同じように見られかねず、高級感のあるトレーにでも入れない限りブリとの差別化は難しいものがある。
そこで、これらの切身は高級なヒラマサであって大衆的なブリではないということをお客様に伝える狙いで、巻頭画像の「切身姿売り」の形を執ってみたのである。
切身姿売りの進め方としては、
まずは、例えば対面販売用木板に熊笹を方円状に並べていき、その上に長い業務用クッキングペーパーを敷いて、頭をつけたまま三枚おろしにした中骨をその上に置く。そして頭は包丁で切り離さず、背骨を手でポキンと折って曲げたまま、アゴを上の方に向けて立てる。
その頭付き中骨の上に、尾ビレの方から順にカットした切身を等間隔並べていく。
元重量11.8sのヒラマサは三枚おろしの半身でも3.5s以上の重さがあり、約70c前後で切っていくと半身で44切れの数が確保できた。
この天然ヒラマサは900円/kgで仕入れられていて、1切れあたりの原価は約120円の計算になったので、1切れ売価は刺身や鮨と値入ミックスすることを前提に「1切れ180円」に設定して販売した。
ヒラマサはブリよりも脂が少ないために、切身を使った料理としては照焼きや煮つけの料理よりもムニエルなどに向いているようだ。
ヒラマサのムニエル料理例
姿売りの販売促進のPOPには、身質の特徴の説明と共に上のような料理画像も添付して提案すると良いだろう。
「姿売り」という手法は、切身をその鮮度感や価値感で売り込む手法として、ヒラマサだけではなく他の比較的大きな魚の販売にはとても有効である。
例えば上の画像は、時期的には非常に安い価格で手に入ることもある天然ブリを姿売りしているのだが、この場合は切身は仕入れ価格が500円/kgと安かったので、1切れを大きく100c近くの大きさに切って100円という安い売価をつけた。切身は背身だけを使い、腹身は平造り刺身の大盛りも併売して、切身と刺身を値入ミックスをして売り込みをかけている。
そしてこの画像は6sほどの大型サイズ天然鯛を切身ではなく刺身だけで姿売りした方法だ。これはせっかく活魚で手に入った天然鯛であり、仕入れ価格も1,000円/kgを超えていたから、これを切身で売るのはもったいないとの判断で、切身ではなく薄造り刺身だけで姿売りにしたのだ。
このような「姿売り」手法というのは、切身にしても刺身にしても「この魚を調理したのがこれですよ!」ということを、お客様に言葉で説明しなくても黙っていても伝えることが出来る。
魚売場の店頭に並んでいる切身などのパックは「いつ何処で獲れた、どんな鮮度の魚が、どこで解体され、それはいつどの場所で切身になり、いつこの場所に並んだのか」といったことをなかなか知りようが無いのだが、この姿売り販売手法というのは「自分の目で確認できるこれくらいの鮮度の魚を、たぶん間違いなく店内の作業場で解体し、まだそれほど時間が経たないうちに並べられたもの」であることが、お客様も容易に察しがつくのである。
魚の切身を販売する時に、例えばサケの切身は100円以上の売価ではなかなか売りづらいといった声を聞くことがあるけれど、それはこれまで通りのやり方で何ら工夫のない売り方であれば、自ずと安い価格にしか頼るものがないということになるのは仕方ないことだろう。
しかし「切身姿売り」のように「売り方や発想」を変えてみると、1切れ200円や300円はおろか、1切れ500円を超える売価の切身でさえも決して売れないことはないのだ。
水産部門の作業を進める上で、合理化、省力化、効率化といった考えの元で、人手をかけない簡単で楽な販売方法ばかりを優先すると、こういう切身姿売りのようなことは敬遠されてしまうけれど、このような方法というのはそんなに難しいことではなく、ほんの「一手間を加える」ことを実施すれば、安さだけには飛びつかない本物の魚好きのお客様の信頼を得ることも出来るはずである。
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更新日時 平成27年 9月1日