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旬鮮刺身盛合わせ
(チコダイ姿造り入り)
約10年ぶりに久々の「旬鮮刺身盛合わせ」登場である。
そもそも、このFISH FOOD TIMESのWeb版は「旬鮮刺身盛合わせ」という商品の価値や位置づけ、そしてその存在意義やメリットを世に知らしめたいという目的を一つのきっかけとして、平成16年1月にスタートしたのだった。
平成18年12月 36でも「旬鮮刺身丸皿15点盛り」を取り上げているけれども、これは旬鮮刺身盛り合わせを活用した応用版として、通常ではあまり見かけない大型鉢盛りを正月などの「ハレの日」用に提案していたものである。
つまりこのような特別なハレの日用などのニーズに応えた商品ではなく、通常生活の「ケの日」を想定した旬鮮刺身盛り合わせを取り上げるのは、平成16年1月〜3月にかけてのFISH FOOD TIMES 1〜3 以来となるのだ。
平成16年1月のFISH FOOD TIMES のWeb版創刊号では以下のように記していた。
最近刺身が売れないと嘆く前に考えてみてほしい。 お客様はいつも同じ顔触れの養殖魚や解凍魚で満足しているのか、という疑問を感じたことはないだろうか。 海で「つくられた魚」が、まるで豆腐と同じように毎日安定した価格で、いつでも入ってくることを良いことに、定番刺身と称していつも同じ魚の組合せで刺身を造っていないだろうか。 それが自分たちの売上限界をつくり、自分の首をしめているということにどれだけの人が気づいているのだろうか。 「魚屋の刺身」というのはどうあるべきなのか、いちど原点に戻って考えてみてはどうだろう。 考え直すことで、もしかすると今まで気づかなかった「宝の山」を発見することになるかもしれない。 |
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この記述から10年が経過し、魚売場の刺身はどれだけ変わったであろうか。
この10年間の中で弊社が指導に関わってきた会社の中には、旬鮮刺身盛合わせのメリットを理解した上で、そのことを実現する施策にしっかり取り組み、結果として荒利益率を格段に違うレベルへと向上させてきたところも存在する。
しかしそのいっぽうで、現場レベルではその良さを理解出来ているとしても、上位職にあたる管理層や経営層の理解を得られないために、必要な環境が整わず必ずしもその効果を享受できていない会社もある。
逆に経営層の一部にその理解者はいても、現場は聞く耳を持たず旧態依然としてルーティンワークレベルの刺身を繰り返している例もあるようだ。
FISH FOOD TIMES はWeb版を開設以来、今や月間合計で12万ヒットレベルに成長し、2013年3月に英語版を開設して以降は外国の読者も増えておきており、定期的に毎月欠かさずFISH FOOD TIMESにアクセスしてくれている勉強熱心な読者が日本だけではなく海外にもたくさんいてくれるようになった。
そんな熱心な読者に限って、変化を忌避するような頭の固い頑固な人はいないだろうとは思うが、やはり世の中にはたまたま幸運にも出会うことが出来た商売のヒントを、進化への一歩に結びつけられる人とそうではない人の2種類が存在しているようだ。
例えば10年前に旬鮮刺身盛合わせのことを知る機会があったけれど、これを進化した形の商品へ結びつけられなかった人と、そのいっぽうでそのメリットに気づいて早々と行動し、まるで自分の手柄のような形で周囲からその着眼点を褒められるような結果へと結びつけている人もいるはずで、いったいあなた自身はそのどちらに属しているのであろうか。
あれから10年が経過したが、今回は改めて旬鮮刺身盛合わせという商品の意義というものについて、今が旬のチコダイを例にとって違った観点から言及してみたい。
以下の画像の上がチコダイで、下は真鯛の幼魚で小ダイと呼ばれている。
チコダイ
小ダイ(真鯛)
こうやって上下に並べて比較すると分かりやすいが、単独の場合はどちらなのかを簡単に判断できない人もいるのではないかと思う。
そういう人は、以下の画像の部位に注目してほしい。
下の頭部画像のエラブタの端が血が滲んだようになっているが、これが血子鯛とか血ダイとよばれるようになった一つの特徴となっている。
また下の左画像はチコダイで右が真鯛だが、尾ビレの端が右の真鯛は少しだけ黒く縁取られているのに対して、左のチコダイは黒い部分がないという違いもある。
このチコダイの旬が初夏から夏の季節であることを知らず、冬から春過ぎにかけてが旬である真鯛の幼魚期の小ダイと明確に区別しないところもあるようだが、チコダイは初夏から夏にかけてが旬なのである。
山口県では山口県水産研究センターの分析によって、以下のようなグラフでチコダイの粗脂肪率分析結果が発表されており、これによると6月から9月頃までの時期がチコダイの旬であることをグラフが如実に物語っている。
しかしチコダイはどちらかと言えば真鯛よりも格下の位置づけで見られる傾向にあり、価格的にそれほど高いものではないというのが一般的である。
下の画像はある2社のスーパーで購入したものだが、上の白トレーのものは締まりの200c前後が2尾で480円、下の透明トレーは活き物の300c前後が2尾で506円だった。
原価は消費税を外した売価の6掛け程だと見て、1尾の仕入れ原価はそれぞれ130円と140円くらいだと推測してみて大きく外れることはないだろう。
天然物で300cの大きさの鯛が活き物で140円だとすると、これを刺身にしないで端にパックして丸のままで売るという選択はもったいない話だ。
しかし300c以下の魚体を刺身にするとしても、その単体だけではボリューム感もなく、その価値感をアピールしにくいのが実際のところである。
そこで考えられるのが、様々な種類の魚を組み合わせることによって、総合的なバランスのとれた刺身盛合わせにすることだ。
一般的にスーパーの魚売場で売られている刺身盛合わせと呼ばれるものは、良く知られた養殖魚や解凍魚を4切れとか5切れずつ盛合わせたもので、どこも似たようなもので売価も大きな違いは感じられない。
上記したように、平成16年1月のFISH FOOD TIMES のWeb版創刊号ではそのことへの警鐘を鳴らしていた。
そして、その2ヶ月後の平成16年3月の第3号においては、さらに以下のように記述していた。
普通スーパーの魚売場で刺身盛合せと言われているものは、どこでもいつでも手に入る養殖魚や解凍魚を基本素材として使っている。 このため各社に技術の上手下手の違いはあっても基本的に中身の違いはほとんどなく、同じような商材のために価格競争になりやすいという側面をもっている。 しかし、この「旬鮮刺身盛合わせ」は今のところこのような商品化の存在に気づいて、これを進んで展開している会社はまだあまり例がなく、その特異性の差別化によってこの商品は「良く売れて儲かる」という嬉しい商品となっている。「旬鮮刺身盛り合わせ」とは、このような「生魚」を使った刺身ということである。 基本的に「高値安定」の養殖魚や解凍魚を使わず、新鮮な生魚を使って「刺身盛合せ」にするという「発想」を実行しているスーパーはまだほとんど存在しない。 この商品は少し大げさに言うと「水産部門の作業体系を変え、利益構造を変える可能性」を秘めた商品ではないかと感じている。 新鮮な生魚を使った単品の刺身はそれほど珍しくはないが、これらを組み合わせることによって可能となる「組合せの妙」というものを「商品化」に結びつけている例は少ない。 これらはこれまでの刺身盛合せでの値入れ率の常識を超えることが出来るうえに、お客様には「破格値」と思っていただけるほどの「安さ」をアピールすることが出来る。 しかも、これがどんどん売れるようになれば、利益率はこれに比例して向上していくことになるだろう。 |
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つまり、その課題に対する解答が「旬鮮刺身盛合わせ」としていたのである。
例えば以下の旬鮮刺身盛り合わせの場合を見てみよう。
旬のチコダイの他に、やはり旬真っ盛りの「イサキ、真アジ、ヤリイカ、生バチマグロ」を盛り付けた「旬真っ盛り刺身盛合わせ」である。
購入した小さい方のチコダイを1尾姿造りにして、その原価は130円、真アジの1/4身は40円、イサキ1/6身で50円、小ヤリイカ半身70円、小振りの生バチマグロは70cで100円、あしらいが60円だと計算すると、容器代を含めない場合での原価は合計で450円となる。
生魚のネタだけを組み合わせ、しかも鯛の姿造りが入った刺身盛り合わせの売価をどれくらいの価値があると見るか、これは店の業態やその店が位置する地域性などの違いで大きく変わってくるとは思われるが、それほど安い売価にする必要はないと考えられる。
その組み合わせ方法はトップ画像のように大きいチコダイを使い、盛りつける数も増やして6点盛りにすれば更に価値感は高まることになる。
そしてこれらの姿造り入りとは少し趣向を変え、姿造りを入れずにチコダイの湯霜を入れ込んだ以下のような盛り付けにすることも出来る。
チコダイ湯霜 | 真アジ | チコダイ | イサキ | 生バチマグロ |
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さらに刺身という発想だけではなく、以下のように「旬鮮にぎり盛合わせ」という商品にすれば、その値入率はもっと大幅に高めることが出来ることになるのだ。
生バチマグロ天身 | 生バチマグロ中トロ | 生バチマグロ腹身 |
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チコダイ | 真アジ | チコダイ皮霜 |
このように旬の生魚を多用した刺身や鮨のことを「旬鮮刺身盛合わせ」や「旬鮮にぎり盛り合わせ」と、わざわざ「旬鮮」の名称をつけているのは、今や旬とは関係なく養殖魚や冷凍解凍魚だけが盛り付けられた刺身や鮨の盛り合わせが、まるで工業製品のごとく「定番刺身」という名目で、毎日毎日同じ形で品揃えされていることに対し、売り手としてそのことに何ら疑問を感じないで良いのか?・・・と、業界に警鐘を鳴らしたいがためであった。
そしてこの10年の間に、旬の生魚というだけではなく例えば今回のチコダイのように「あまり注目されていない比較的安価な小魚」を上手く活用すれば売価を低く抑えながら値入率も高く出来るということが少しずつ分かってはきたようで、このことを実施すればお客様にも売り手側にも互いにメリットのある「Win-Winの関係」の可能性があることに気づくところも出てきているようなのである。
その名称は必ずしも旬鮮という名称ではなく、旬彩、海鮮、鮮々、地場物、獲れ立て、といった色々な名称がつけられているけれども、新鮮な生魚を使用していることをアピールする商品があちこちのスーパーの魚売場にチラホラと出てきたことは歓迎すべきことだと見ている。
しかしまだそれは一部分でしかなく、相変わらず「商品絞り込み、省力化、パート化、合理化、時短、人件費削減、・・・」といった後ろ向きな守りの発想が主流を占めており、例えば今回取り上げたチコダイのような小魚を調理するための細かくて面倒臭い作業を、人手不足だとか時間が足りないといった理由で「本当はやりたくてもやれないのだ」と言い訳をする実態があることも厳然たる事実なのである。
そしてまた「水産部門は人件費ばかりかかってなかなか儲からない」と嘆くスーパー経営者がいるけれども、水産部門の最大の特徴である「日々仕入れ原価が変動する天然の生魚を、水産商品の中でも特に値入率を高く設定しやすい刺身や鮨へと、連動した形で活かす作業体系を構築できていない」ことからそのような悩みにつながっている、ということにスーパー経営者は気づいてほしいのである。
もっぱら高値安定の傾向があり、どこも横並びの仕入れ価格のために差別化が難しい養殖魚や解凍魚は、安定した仕入れと品質の信頼性という側面以外でメリットは少なく、これらを毎日マニュアルに従って商品化している定番刺身と呼ばれているものが、何処の店でも似たり寄ったりで面白くもないからお客様はそんな刺身や鮨に食指を動かさないので売上げも上がらないのである。
これからは天然の生魚、それも誰もがあまり注目してないけれど飛びっきりの鮮度を持った比較的安価な生魚に目をつけて、これらを活用して美味しい「旬鮮刺身盛り合わせや旬鮮にぎり盛合わせ」をつくることでお客様に喜んでもらう作業体系を構築するべきだ。
天然の生魚の仕入れが増えれば増えるほど、そしてこれらを材料として活用した「旬鮮刺身盛り合わせや旬鮮にぎり盛合わせ」の構成比が高まれば高まるほど値入率は高まって、荒利益率も高くなる可能性があり、それと同時に魚売場の商品に対するお客様の満足度も高くなることが考えられる。
「旬鮮刺身盛り合わせと旬鮮にぎり盛合わせ」とはこのような存在なのである。
更新日時 平成26年 7月 1日 |
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