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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和元年 10月号 190
ハガツオ刺身&鮨
対馬暖流のカツオ
「玄界灘のカツオと言えば、ハガツオ」という表現は少し無理があるかもしれないと思いながら、見出しタイトルの言葉に悩んだ末、思い切ってこうしてしまった。なぜならば、筆者が何十年も前に初めて魚の仕事に就いた福岡市を含む近辺では、生の本ガツオを見ることはほとんどなく、生のカツオと言えばハガツオのことを「ハ」の字を冠せず単に「カツオ」と表現していたからだ。
ちなみにその当時は、生のマグロと言えばメバチマグロやキハダマグロではなく、カジキマグロ全般を総称して「マグロ」と呼んでいて、赤いマグロではなくオレンジ色のマグロだったことを記憶している。今時こんないい加減な商品表示をしていたら不当表示の嫌疑で営業停止処分になってしまうことだろうが、筆者が若かりし頃の半世紀近くも前は何ともおおらかなもので、そんなことが堂々とまかり通っていた時代だったのだ。
南洋海域で生まれた本ガツオはそのほとんどが黒潮に乗って太平洋側を北上するので、日本海側の対馬暖流に乗って北上する本ガツオは非常に少なく、日本海側の漁港に本ガツオが水揚げされることは少ない。しかしハガツオは対馬暖流沿いの海域に多く棲息していて、九州北部を含む対馬暖流沿いの漁港にはハガツオが多く水揚げされることから、福岡などでは本ガツオよりも馴染み深い魚なのである。
昔から日本海側の地域ではハガツオを本ガツオとほぼ同じような扱いをしており、例えば魚体表面を炙ってタタキにしてカツオタタキと称しているし、五島列島ではカツオ節と同じように燻製にした生節を作って食する食習慣があり、これが以下の画像のように郷土の名物にもなっている。
ハガツオが漁獲される時はソウダガツオなどが一緒に網に入ることが多く、下の画像のように定置網で漁獲された魚が漁船から水揚げされて、漁協の床に海水入りボックスから放り出されると、ハガツオだけでなくソウダガツオやスマなどが混じっていることがあるのだ。
ハガツオはマグロやカツオなどと同じ種に分類されるサバ科の魚であり、その中でマグロ属やカツオ属などに分かれた一つであるハガツオ属に属している。
その形で特徴的なことは鋭い歯が目立つことであり、この特徴からハ(歯)ガツオとなったようで、その鋭い歯と細長い顔から狐に似ているのでキツネガツオとも呼ばれ、背中の縦縞からスジガツオの名前が通じる地域もある。
ちなみに定置網でハガツオと一緒に漁獲されたソウダガツオは下画像のヒラソウダであり、良く似たマルソウダとの違いはヒラソウダの胴体は丸いけれど体高が高く、マルソウダは体高が低く丸くて細く小さめで、ヒラソウダの弟分のような存在である。
ハガツオは本ガツオよりもこのヒラソウダの方に似ているが、ハガツオはその魚体の細長さが示すように本ガツオほどの脂の乗りはなく比較的淡泊な味であり、脂が少ないから不味いかと言えばそんなことはなく、脂が目立たない分旨みが程よく感じられる美味しさがある。
ついでに良く似た魚を知って区別するための豆知識として、以下の画像も紹介しておこう。
これはヤイトガツオとも称されるスマである。スマについては FISH FOOD TIMES 平成28年3月号 No.147 で記しているので、こちらも参照してほしい。その特徴としては、胸ビレの下にある数個の斑点であり、これが灸(ヤイト)に似ているので、ヤイトガツオとも呼ばれ、別名ホシガツオとも称されている。
スマがハガツオやソウダガツオと違うのは、体高と比べて体長が短く、魚体がズングリムックリとしていることである。この姿はこの魚が本来的に脂が乗りやすい身質であることを示しており、この点に注目した近畿大学や愛媛大学が年月をかけてスマの養殖に取り組み、何年か前には完全養殖に成功して一定の成果をだしたようで、これから量産化の道筋が開けようとしているとのことだ。
ハガツオの身の色は赤くない?
さて、カツオと言えば赤い身の色が特徴だが、ハガツオはそれほど赤身は強くないと言えるだろう。これはハガツオの鮮度が多少良くても身の色が直ぐに飛びやすいという特徴によって、結果的に身の色が薄いと決めつけられているだけであり、実はまだ素晴らしい鮮度の段階ではそれなりの赤さがあるのだ。
例えば水揚げされて数時間の左下画像と、魚を購入してから数時間しか経過していないけれども、それまでに何時間経っているか不明な右下の画像とを比較してみれば理解できるのではないかと思う。
つまり身の赤色が薄くなったハガツオは色の飛び方で鮮度もそれなりに判断できるが、そのこと自体はマグロ・カツオ類に共通した特徴でもある。しかしハガツオの身の色は鮮度が良くても元々右上の画像の身の色だと思われていることが多いようだけれど、本来のハガツオはこんなに赤い身の色を持っていることを知ってほしいものである。
だがハガツオの産地でもない消費地の魚市場で流通しているのは、刺身に出来る鮮度でもそのほとんどが右上画像のレベルの色しか期待できないと覚悟するべきであり、左上画像はハガツオが水揚げされる産地漁港近辺だけで可能なことだと思っていた方が良い。
そういう産地漁港近辺で、まさに獲れ立て鮮度抜群のハガツオを使って刺身商品化をすると、以下のような赤い色が残った刺身商品をつくることが出来る。
こんなに色の良いハガツオの刺身は何処でも商品化出来るものではなく、例外的な位置づけになるのでこの画像を今月号の巻頭画像として使用するのは遠慮することにした。なぜなら、このハガツオがこのような赤い色であるということは、このハガツオの刺身を食べた時に死後硬直の歯応えを感じることが出来るほど鮮度レベルであり、ハガツオの身は柔らかいという常識も覆ってしまいそうだからである。
ハガツオの身は柔らかい
このハガツオを手に入れたのはある年の7月のことで、腹を開けると中から立派な大きさになった魚卵が出てきた。
この画像からも解るとおり、ハガツオの産卵時期は7月頃であり、この魚卵も商品として価値があるので売り物になる。夏の初めまでに産卵を終えたハガツオは、その後魚卵に吸い取られた栄養を回復するべく脂肪を貯めはじめることになり、秋の10月頃から一段と美味しくなってくるので、ハガツオが美味しい時期は秋から冬だということになる。
このハガツオを三枚おろしにすると、以下のようになった。
サバ科に属するマグロ・カツオの仲間は全般的に身が柔らかいのが普通である。ハガツオも例外ではなく、下手をすると三枚おろしが上手くいかないと身割れして商品価値が落ちてしまうことは決して珍しいことではない。
筆者がまだ若かりし頃、最初にハガツオの三枚おろしを先輩から伝授してもらった時、出刃包丁ではなく柳刃包丁を使うことを教えられ、その時何故出刃ではなく柳刃なのか不思議に思った。先輩たちはマダイを三枚おろしする時は出刃包丁を使うのに、ハガツオの時は何故柳刃を使うのか疑問であった。そのことを質問すると、先輩は「この方がやりやすいから・・・」というだけで具体的に理論的な根拠を示してくれる人は誰もいなかった。
しかしハガツオの三枚おろしを何度も繰り返していると、そのうちに自分なりの解釈として、その疑問は解けることになった。実際に柳刃で解体するとハガツオは身割れしにくいのである。身割れしにくい理由は、出刃包丁に比べて柳刃包丁は全体に厚みがないため、柔らかい身のハガツオ切り開いていく時、身を圧迫することが少ないからだと理解したのだった。
このように理解した筆者は、それから今日までカツオと名が付く魚を三枚おろしする時は必ず柳刃包丁を使うようにした。そのための柳刃包丁は使い古して刃渡りが短くなったり、研ぎを繰り返して霞焼きの鋼が狭く薄くなったものをカツオ類のおろしだけでなく切身などにも使うようにして、刺身用として切れ味を重視する柳刃包丁とは別扱いをするようにしてきた。
今回ハガツオを三枚におろす時も、その専用の柳刃包丁を使うようにしたが、頭部を落とし内臓を出して背ビレを除去するまでは、以下のように出刃包丁を使うようにした。
ハガツオ背ビレの除去方法 |
1,背ビレを動かす筋肉である分かれ身の右下に出刃包丁の切っ先を入れ込み、そのまま頭部側へ切り進む。 |
2,同じように背ビレ左下の分かれ身下に出刃包丁の切っ先で切り込みを入れ、頭部側へと切り進む。 |
3,第二背ビレ付近の下に出刃包丁の刃先を食い込ませ、押し切るように頭部側へと進めていく。 |
4,背ビレを除去し、分離した状態。 |
次はハガツオの二枚おろし工程を省いた、三枚おろしの工程である。
柳刃包丁を使ったハガツオの三枚おろし工程 | |
1,中骨を上にして、尻ビレ下に柳刃包丁の刃先を切り入れる。 | 5,中骨と身の間に切っ先を切り入れ、尾側に向けて少しだけ切り進む。 |
2,包丁の刃先を山高骨まで切り進める。 | 6,切り込みを入れた穴の部分に、柳刃包丁の刃先を頭部側に向け、そのまま頭部側へと切り進む。 |
3,頭部と尾部を180度回転させ、背ビレを外した切り口に柳刃包丁の刃先を切り入れる。 | 7,頭部側の最後まで切り進み、中骨と切り離す。 |
4,刃先を山高骨まで切り入れ、そのまま刃先を当てながら頭部側へと切り進める。 | 8,最後に尾部付近に残った結合部分を切り離す。 |
柳刃包丁を使って三枚おろしにされたハガツオ |
身が柔らかいハガツオもこうやって柳刃包丁を使うと身割れの可能性も低くなり、商品価値を落とすことが避けられるようになる。
炙りによる付加価値アップ
三枚おろしにしたハガツオは本ガツオと同じように炙り(タタキ)にして商品化することが、昔から普通におこなわれてきたが、ハガツオの魚体が比較的に小さければに三枚におろした半身をそのまま炙り、もし大きな魚体が手に入れば節に分けて炙るなど、魚体の大きさによって使い分けるのが良いだろう。
魚体が小さいハガツオを半身のまま炙りにする工程 |
1,金属の網の上でバーナーを使って炙りにする。 |
2,皮目を炙りにする時は、丸い膨らみが出来るだけ破裂しないように気をつける。 |
3,身の方は全体的に焦げ目が均等になるように炙る。 |
背身だけを使用したハガツオの炙り(タタキ) |
次は大きな魚体のハガツオを節に分けて炙りをする工程を紹介しよう。
比較的大きなハガツオを節に分けて炙る工程 |
1,穴開きの金属バットに氷を敷き詰め、その上にハガツオの節を置いて炙りにすると、氷で炙った面の冷やし込みが出来る。 |
3,炙りにしたハガツオの4っの節 |
背身と腹身を組み合わせたハガツオ炙り刺身 |
カツオの相場状況
ハガツオの仕入れ価格はどうなのかと言えば、これは地域によってずいぶん開きがあるけれど、相場感覚として頭に入れていて良いと思うのは、鮮度が同じレベルであれば本カツオよりも高い価格が付くことはあまり考えられないことである。
何と言っても、やはり基本的には質量共に本ガツオが主役であり、市場動向としてハガツオだけでなくスマもソウダガツオも本ガツオの補完的な存在でしか捉えられない位置づけにあり、本ガツオの相場動向がハガツオの価格推移にも参考になる。
以下は生鮮釣りカツオの価格推移を示したみなと新聞の2019年9月24日の記事である。
このグラフを見ると、生鮮釣りカツオの相場は8月の漁獲増によって価格は下がったことが確認できる。この先9月以降どのような展開になるかまだ判断できないけれど、例年に比べて扱いやすい価格状況となることも期待できるのではないかと思われる。
上記したように、ハガツオが同じ鮮度レベルの本ガツオと比べて、それ以上の価格で取引されることはないとすれば、今年はハガツオも取り扱いしやすい価格になるかもしれず、秋から冬にかけて美味しくなるハガツオを積極的に販売することを考えてみても良いのではないかと思う。
カツオと名が付く魚も色々あり、本ガツオだけがカツオではないことを少しは理解してもらえたと思う。それぞれの「カツオ」にはそれぞれの味があり、本ガツオでなければ美味しくないというのは偏見であり、今月号のハガツオも間違いなく美味しいのである。スマガツオと称されているスマは今後養殖魚のホープとして大きな期待がかけられ、本マグロほど巨大ではない手頃な大きさは販売者側からすると扱いやすいサイズであり、ゆくゆくは本マグロの代替商材に成り得るかもしれないほどの大きな可能性を秘めた「カツオ」なのである。
ハガツオは地域性からくる毀誉褒貶が激しく、関東地方では切身用の下魚として扱われることが多いとのことだが、それは鮮度落ちしたハガツオしか扱ったことがない経験しかないことから来ていると思われ、一度鮮度の良いハガツオを仕入れて刺身や鮨で試食してみれば、ハガツオに対するイメージは大きく変化するはずである。本ガツオ以外のカツオの販売にも積極的に取り組んでほしいものである。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和元年 10月 1日