ようこそ Fish Food Times  

The Fish Food Retail Net

The Fish Food Laboratory Inc.


平成24年 8月号 No.104



活鱧の刺身

 


エッ・・・、ハモの刺身?

ハモが刺身になるの? という疑問を持たれる方もあるのではないかと思う。

全国でも一部の地域や、ある限られた階層の人々からすると、必ずしも「そんなに珍しいことではない」となるのであろうが、

やはり大半の人にとっては「生まれてからまだ一度も口にしたことがない」というレベルの珍しさだと思って間違いはない。


画像のハモは約500gの大きさで、ちょうど「湯引き」には手頃なサイズである。

体表面の色は赤銅色なので「赤ハモ」と呼ばれる雌であることが見ただけで判る。

ちなみに雄の体表面の色は青みを帯びた黄褐色をしていて「青ハモ」と呼ばれる。

赤ハモは4sから5sの大きさが珍しくないが、青ハモは2sを超えるのは少なく、ハモの世界で図体の成長度は断然女系優勢になっているようである。

下の画像の赤ハモは7月に仕入れたものだが、卵巣がだいぶ大きくなっていて、9月から10月頃の産卵時期に向けてセッセと栄養を溜め込んでいたようで、まさに「旬の真っ只中」という状態だった。

普通ハモで連想される料理は、刺身ではなく「湯引き」が一般的であろう。

骨切りしたハモの身を氷水に落としてつくる「湯引き」は別名「落とし」とも呼ばれる。

「落とし」をつくるには骨切りをしなければならないが、その専用包丁がこれだ。

刃先は「そり」のカーブがなく、ほぼ真っ直ぐの形をしている。

厚みもあるので、その重さで切り込みを入れるのが楽に出来るようになっているけれど、骨切りをたくさんやると、包丁が重たい分作業者の負担が高まるデメリットもあるので、負担軽減のために重量の軽い柳刃しか使わないという人もたくさんいる。

その「落とし」をつくるのは以下のような流れになる。

1、1寸を24丁(1.3ミリ)幅を目途に骨切る。 2、2〜3a幅に切り離す。
3、沸騰したお湯で湯引きする。 4、氷水に落として粗熱を取る。

 

 

梅肉を添えて「落とし」が出来上がり。


でもこのハモ料理なら特に珍しいことではなく、何処でも食することが出来る。

これではなく普通はあまり見たことがない「ハモの刺身」はどうするのか・・・

開きにして中骨と腹骨を除去するところまでは「落とし」の工程と一緒である。

しかし、これから先は骨切り包丁ではなく柳刃に持ち替える。

1.皮を除去する。 2.皮を取られた身の表面には小骨が無数にある。
3.皮目を下にして、小骨の際に柳刃を入れる。 4.小骨を避けるようにして身をそぎ取る。

 

棒のような形になった上身を薄造りにして、出来上がりである。


今回刺身に使用した500gというサイズは「落とし最適サイズ」であり、料亭相手の活きハモを得意とする業務筋専門店は特にこのサイズを狙って扱うので、この大きさは一番高く取引され、刺身としてのコストパフォーマンスは決して良くない。

また作業面の観点からすると、刺身用としては小さすぎて調理作業が面倒である。

刺身にするならば1sアップサイズの方が使いやすく価格も随分と安くなる。

大きさは2sを超えても全く問題はなく、逆にその方が扱いやすいのだ。

ハモというのはウナギ目ハモ科ハモ属に属するウナギの仲間なのだが、ウナギとは比べものならない程大きくなり、10sを超える大きさも珍しくはない。

こういう大きさになると、食べ方としてはすり身にするしかないので、価格は1sあたりで100円から200円ほどへと極端に安くなってしまう。

何と言っても仕入れで一番高くなるのが、500cから600cの大きさであり、これは骨切りするには大きさと骨の固さが丁度良く料理人から好まれるからだ。

また同じウナギの仲間でも「メソコ」と呼ばれる50cから100cほどの穴子、そしてウナギの場合は5Pの200cから4Pで250cくらいの大きさのものが、料理には一番の最適サイズだということだから、同じ仲間でも随分違いがあるものだ。


この3魚種に共通しているのは、皮膚の表面がしっかりとヌメリに覆われており、湿り気があってヌメリもあるなら皮膚呼吸が出来るので、水中でなくても生きていける。

非常に生命力の強い魚種であり、特にハモは貪欲に「何でも食む(はむ)」ので、この食欲の強さによって、ウナギの仲間で最大の大きさになるようだ。

昔から京都はハモ料理が色々と豊富にあり、7月の京都祇園祭はハモ祭りとも呼ばれ、ハモ料理がしっかり根付いているが、これはハモの生命力と大きく関係している。

昔、活魚運搬車などがなかった時代に、海から遠く離れた京都に魚を運ぶ時、ハモは皮膚呼吸が出来る能力で、多少のことなら生き伸びることが出来た。

内陸の京都では、時間が経過しても活きの良さが残るハモはとても使い勝手が良く、地理的ハンディとハモの生命力が結びついて、京都のハモ料理文化をつくったのだ。

ハモの生命力の強さが内陸部のハンディを乗り越え、京都にハモ料理を育てたように、今や遠く外国の韓国や中国からもハモが生きたまま運ばれるようになってきており、関西空港は活きハモの一大輸入基地になっているということだ。


ハモは生きていると獰猛にやたら何でも「食む(咬む)」ことから、食む(はむ)が訛って「ハモ」という名前になったと言われている。

また毒蛇のマムシのことを古名では蝮(ハミ)と呼んでいたが、ハモの姿が蝮(ハミ)に似ていたことから、これも訛ってハモになったという説もある。

(毎年8月3日は、そのハミにちなんで「ハモの日」である)

漁師さんもハモ漁はとても危険なために敬遠したがるようで、全国何処でも水揚げされるわけではなく、水揚げは九州や四国方面の一部に偏っている。

このためハモを食べる食習慣がある地域は非常に限られており、徳島とハモ水揚げ日本一を競う長崎でも、その地の人が好んで食する習慣はないらしい。

長崎や博多は東シナ海の以西底引き網漁によって全国有数のハモ水揚げを誇っていたが、以西底引き網漁業の衰退に伴って、ハモの水揚げそのものも減少することになり、今や瀬戸内海へとつながる紀伊水道や豊後水道がハモの主な漁場となっている。

多くの水揚げがあってもハモを好んで食べることがほとんどない九州の中で、大分県の中津市だけは別で、ハモ料理は地域が誇る食文化として根付いている。

実は筆者も17年前に中津で初めてハモの刺身なるものを食したのであるが、その「上品な美味しさの感動」は、今でも舌の記憶として残っている。

中津はハモの骨切りという包丁技法の発祥地と言われており、この包丁技法は、昔京都から天領日田に召し抱えられた料理人が京都へ帰る際に、立ち寄った隣接する中津でこの技法を覚えて京都に帰り、京都で広まったということだ。

京都や大阪はハモ料理の食文化があることは周知の事実であるが、中津がハモの食文化にこういう歴史があることはあまり知られていないと思う。


ハモという魚は落としや刺身だけでなく、どんな料理にしても「旨い」のだが、最後に今年の暑い夏に最適なハモ料理を紹介して今号は終わりにしよう。

1、2〜3aの食べやすい大きさに切る。 2、骨を5aの長さに切る。 3、身と骨に片栗粉をまぶす。
4、余分な粉ははたいて落とす。 5、170℃の油に先ず骨、次に身を入れる 6、身の方から取り出す。
7、骨はキツネ色になるまで揚げる。 8、骨がキツネ色になって取り出す。 9、身も骨もよく油切りする。
10、容器に玉葱と人参を散らす 11、唐揚げした身と骨を入れる。 12、南蛮タレと鷹の爪を入れる。

 

ハモ南蛮

 


更新日時 平成24年 8月 1日


ご意見やご連絡はこちらまで info@fish food times


その他、過去に掲載した商品化例


The Fish Food Retail Net

The Fish Food Laboratory Inc.

(有)全日本調理指導研究所


<home>