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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
平成31年 1月号 181
魚売場の活性化
本当に魚は売れないのか
「どうする魚売場・・・?」と問いかけられるほど、巷間では魚が売れなくなっているらしい。確かに魚は昔のように売れなくなったのかもしれない。海に囲まれた日本において、昔から動物性タンパクを摂取するのに一番手っ取り早いのは魚類だった。そして獣肉は仏教で食することを禁じられていたのだから、そんな環境だった昔と比較すると日本人は魚を食べなくなったことは間違いないだろう。
そして今や、現代の日本では世界中の国々から多様な食べ物の知識や料理の方法などが情報だけでなく商品としても入り込んできていて、以前日本では見たことも食べたこともなかった種々雑多な食べ物が溢れかえっていることから、日本で日常的にそういうものに囲まれ「昔ながらの魚料理の存在感は薄れてきている」のも事実だ。
つまり日本には今や数え切れないほど多くの食べ物や料理の選択肢があり、それらの中から消費者に魚料理に使う魚の材料を少しでも多く購入してもらえるようにしなければ魚売場の売上は上がらないのであり、そんな種々多様な選択肢の中から選ばれるために熾烈な競争環境を勝ち抜くのは今や簡単ではなくなっていると言えるだろう。ここ最近スーパーの魚売場で売上が上がらなくなっているのは、そういった様々な料理候補の中から「家庭料理として魚が選ばれるチャンスが減っている」からなのである。
魚が売れない理由として、@日本人が魚を嫌いになった、A子供が食べない、B洋風のライフスタイルが増えた、C肉より魚の価格が高い、D骨がある、E調理が面倒、などといった魚が売れない色々な言い訳は、言わば瑣末な問題なのである。これらの魚が売れない原因をまともに受け止めていたら、魚部門は「この先ずっと魚は売れなくなる」ことを認めることになり、魚売場は漸減的な衰退部門としてこの先の暗い未来を認めることになってしまうことになるのだ。
実際にこのところイオングループの店舗では魚売場はどんどん縮小する傾向があると筆者は感じており、たぶんイオングループの経営層にとって「水産部門は売上を伸ばせない利益を出しにくい代表的な部門」として捉えられているのではないかと思われ、昔から日本の食品スーパーの基本的形態として位置付けられていた「魚売場は生鮮食品の柱の一つ」という考えは、既にイオングループの会社の中では形骸化しているのだろうと推測している。
確かに肉売場と比べると、魚売場は人手が多くかかり非効率で儲からないので、魚売場に力を入れるのはほどほどにして、肉売場のように機械化ができて、仕込みもできて、取扱いアイテムは牛豚鶏が主力なので多くはなく、しかもそれほど奥深い高度な技術を必要としない運営が楽な肉部門の方に力を入れた方がスーパーを経営する立場として合理的である、と考えてもおかしくないはずである。
筆者はその考え方を否定することはしない。謂わゆる「頭の良い人」が論理的な思考で合理的に考えを積み重ねていくと、たぶんそういう結論にたどり着くだろうと思われ、日本の一大流通グループの雄として揺るぎない地位に君臨するイオングループでは、そのような考えでやっていける自信があるのだろうから、それはそれで良いではないか。
そこがそのような形でどんどん突き進んでいけば、逆の意味で地方の中小小売企業はイオンが意識的に、また戦略的に弱体化させている魚部門の弱みに付け込んで、魚売場の強化に力を入れることで、イオングループのような大手にない魅力を打ち出して、その存在感を高めることが出来ることになるのだ。
水産部門の売上高が10年で2倍以上
その典型的な一つの例があるので紹介しよう。下のグラフは筆者が11年間水産部門の指導に関わってきている地方所在のA社の数値推移である。水産部売上は指導前の2007年当時と比べると、10年間で220%の売り上げとなった。
この間に店舗数は4店しか増えていないので、店舗展開による売上増の要因は微々たるものであり、主に既存店の水産部門が順調に売上を伸ばしてきたことによる数値結果である。もちろんA社の他部門はこのような売上増加の事実はなく、水産部門だけが突出した形で売上を伸ばしてきたので、社内における部門売上構成比は10年前に5~6%程度だったのが、今では2017年度全店ベースの水産部門売上構成比は実績数値で10%を超えていて、水産部門は年々社内における存在感を増してきたのである。
このグラフは具体的な売上高数値を示していないが、これは具体的数値を出さないとの条件でA社から筆者の発表が許されたものであり、2015年までの数値変化グラフは既に講演会などで公に発表済みの資料であり、今回は2016年と2017年の分を新たに加えたものになっている。 念のために言い添えておくと、このグラフの数字は一円足りとも脚色はしておらず、数値の誇張は一切ないことを断言しておきたい。
世の中は魚が売れないと嘆いているご時世にあって、こういう数字を「有り得ない数字だ!嘘を言え!」とのたまうのは勝手だが、11年間実際にA社水産部の指導をしてきた筆者は過去の数字を全て保持しており、嘘ではないことを立証することは簡単である。しかし具体的数値は公表しないと約束している手前、どうしても表現には限界があり、もし具体性に欠けると言われれば引き下がるしかない。
A社の水産部門はどうして10年間で2倍以上に売上を伸ばすことができたのか、そのことを一言で表現すると「時代の流れと置かれた環境を踏まえた政策と戦術が功を奏した」からだと考えている。
A社が位置している地方では小売業界において、10年以上前の頃から時代の流れとして「合理化、効率化、省力化」が声高に叫ばれていたようで、その方向性を先頭に立って実現した会社が一人勝ちするような状況にあり、例えば政策として「センター化」を導入した企業が我が世の春を謳歌していた。
その地方はそういう環境の中にあり、その成功の後追いをしようとする企業が多い中にあって、筆者は方向性として「合理化、効率化、省力化を前面に打ち出さず、一歩距離を置くスタンス」の考え方に基づいた政策と戦術を提案した。筆者は基本として「センター化政策は反対」の立場を表明し、お客様が店舗で商品を購入する際に「価格よりも品質の面で、より満足度を高められる商品」を提供できる魚売場にする方向性へと導いてきた。
商品は多少高くても美味しいものを優先し、買い易さを無視するわけではないが、無理して安さを実現するよりは品質に相応しい価格で提供することに躊躇はなかった。品質と価格に相応しい価値ある商品を店の魚売場で実現するには「包丁技術と商品知識を兼ね備えた人材」を育成する必要があり、新入社員を始めとしてパートや嘱託の中から中途入社した社員を戦力化する目的で、筆者は毎年毎月コツコツと継続的に水産部門の教育を実施してきたのである。
その結果、今では全店で養殖生本マグロの40~50kg級を毎月40尾以上仕入れて鮨や刺身に商品化し陳列している魚売場の姿が当たり前の光景となっている。 仕入れ価格がGGの形態で3,000円/kg以上もする養殖生本マグロをこの規模のスーパーでこれだけ売ることの出来る力を持っている企業は、全国を探しても他にはほとんど見当たらないと見てよく、このようなことを実現できる知識と技術を持った人材が育っているからこれが可能となっているのだ。
つまりこの企業の水産部門が売上を伸ばしてきた要因の一つは「人材育成投資」だったと言えるのである。
食べたい魚を販売強化する
筆者はこの記事の前半で、魚が売れない色々な言い訳のことを記していたが、そんな言い訳をしたくなる環境はこのA社が位置する地方でもほぼ同じであり、魚を購入し消費するのに何かが有利に働いている環境にあるかというとそういうわけでもないけれど、水産部門の売上は毎年伸び続けてきたのである。
魚が売れないと嘆いている企業とA社は何が違うかと言えば、ここまで記してきた内容から「戦略や戦術の違い」と「人材育成投資」の違いを多少感じておられる方もあるのではないかと思うが、それだけではないのだ。
もう一つは、現在日本の消費者が食べたいと感じ、ニーズが高まっている魚商品にターゲットを絞って販売を強化してきたことも成功要因の一つとして挙げられる。お客様が魚を購入する時に面倒な調理をせず直ぐに食べられる商品のニーズが高まっている時代背景を踏まえ、魚売場の「即食商品」を販売強化する戦略を立て、これを実現するための様々な戦術を提案し実施してきたのも売上増の大きな要因なのである。
魚売場における即食商品の代表となる第一は、昔から存在している「刺身商品」であり、第二に近年大きく需要が高まっている「鮨商品」であり、第三にはまだ発展途上にある「魚惣菜商品」である。
中でも特筆すべきは鮨商品である。筆者がA社に指導に入る前の2007年当時、全店の中で鮨売場は1店舗が細々とやっている状態であり、水産部門の中で鮨の売上構成比はほぼゼロに近い数字だったと記憶している。それが今や鮨商品の水産部門内での月間売上構成比は20%を割ることは有り得ず、年間でも平均すると部門内構成比は27%程あり、水産部門のなかでナンバーワンの売上を誇る商品群となっているのだ。
寿司とも記述される鮨は、世界中でもSUSHIとして大変な人気となっており、日本でも老若男女を問わず人気料理メニューの上位に位置づけられる常連となっているが、これほど人気のある鮨(以後旨い魚を意味する鮨の漢字で統一)という商品を、同じ魚を扱う水産部門として放っておくということ自体、魚の商売に関わるものとしてあるまじきことではないかと筆者は考えてきた。
このA社でも鮨の販売を強化する方策を執ったことによって水産部門の売上を上げてきたのだが、A社では年を追うごとに鮨商品の売上が上がれば上がるほど、それに連れられるようにして水産部門売上も同時並行的に売上が上がってきたと考えてよく、水産部門の売上げ好調要因の最大の立役者は間違いなく鮨商品なのである。
また昔から水産部門の売上と利益を大きく左右する大きな存在として君臨してきた刺身商品は魚屋鮨とは不即不離の一体的存在だと筆者は考えており、例えば仕入れ価格が非常に高い生本マグロを使った商品を魚売場の目玉に据えようとするならば、鮨だけでなく刺身も含めて一蓮托生的な一体のものとして強化していかなければ片手落ちとなり成功は遠のくことになると考えている。
そしてまた刺身も即食商品の一つであり、時代のニーズに合っている商品の一つと考えられる。だが刺身の商品化というのは技術的なハードルが非常に高く、例えばこの刺身鉢盛り画像のような1万円クラスの商品は筆者がパンフレットに掲載するために10月にある企業で作ったものだが、このような商品を上手にゼロから作る技術というのはとても1年や2年の経験で上手く作ることが出来るような代物ではない。やはり相当の年数を経験し鍛錬を積み重ねなければ、お客様を納得させるレベルに達するのは難しいものなのだ。
ところが、いっぽうで鮨はどうだろう。例えば下画像のような3,000円クラスの商品であれば、初心者のパートさんでも何ヶ月か訓練すれば、それほど問題のない商品を人並みに作れるようになるのである。この画像は筆者が作った商品ではなく、ある指導先企業のパートさんが実際に作った鮨鉢盛り商品なのである。
つまり魚屋鮨というのは、それほど技術的なハードルの高い商品分野ではなく、どこでも店の現場では基本的に男性正社員が鮨製造に関わることはなく、ほとんど全てをパート社員だけで切り盛りしているという事実があり、もし魚屋鮨の商品展開を上手い具合に軌道に乗せて、お客様から高い評価を得ることが出来るようになれば、経営としては人件費的に非常に魅力的なレベルに収まる生産性の高い商品群となるのである。
ちょうど1年前の No.169 魚屋鮨スタイル(平成30年 1月号)のなかで、魚屋鮨のメリットについてスーパーの社長さんに読んでいただくことを想定して「まだ気づかない?魚屋鮨のメリットに・・・」というサブタイトルをつけ、自分なりにしっかりと魚屋鮨のことを記していたのだが、スーパーの社長さんにどれだけ目を留めていただけたか筆者は知るところではない。
お客様から高い評価を受けているもう一つの魚売場
さて読者の中には零細な小規模スーパーの経営者もおられるのではないかと思うが、そういう方から「A社は複数店舗を持ってチェーン展開している規模の有利性があるから出来たことではないか」との疑問もでるのではないかと思われ、そのことに答えるためにもう一つ別の参考例として、以下のグラフも見てもらいたいと思う。
このグラフはある地方スーパーB社1店舗の水産部門6年間の売上推移である。筆者が水産部の指導に入ったのは2013年度であり、まだ指導をしていなかった2012年度の年間売上高と、2013年から2018年までの年度別(1月〜12月の期間)売上高の対比を表したものである。このなかで2018年12月度の数字は最終的な月末際の数字は推測に基づいているので正確な数字ではないが、年間からするとほんの微々たる誤差でしかないので細かいことは許してほしい。
B社水産部門の2018年度売上高は2012年度対比で176.3%ほどになったと推測され、2017年に前年売上を僅かに下回ったものの、再び2018年には売上を盛り返して上昇軌道に乗っていて、6年間にわたる水産部門の上昇トレンドは今も続いており、2019年度も水産部門の売上は間違いなく前年以上に伸びるはずだとの確信的な裏付けを筆者は持っている。
B社の水産部門内における魚屋鮨の売上高構成比はほぼ安定的に30%を維持しており、魚屋鮨のお客様からの支持率という点ではA社よりも高いと評価できるし、刺身商品の売上構成比も常に25%平均はあるので、B社で鮨と刺身の構成比が合計50%を割ることはないと見て良い。ちなみに、B社ではこの何年もの間継続して、1店舗で3,000円/kg以上する養殖生本マグロをGGの形態で週に平均2尾以上仕入れており、そのことがどれだけ凄いことか現場を仕切る鮮魚主任レベルであれば理解できるはずである。
このようにB社の場合、A社と同じく「ニーズの高い即食商品の販売を強化する戦略を立て、その中でも特に人気の高い鮨という商品に目をつけ、これらを様々な手段を使って販売強化してきたことで水産部門の売上を高めてきた」という点で基本的に一緒であり、A社もB社も商売の基本理論の一つである「売上を作るには、強力なリード商品を大きな柱として位置づけることが重要」との法則に法っている。
しかしB社がA社との決定的な違いとして挙げられるのは、A社のように複数店舗をチェーン展開している中堅企業と違って、人材を新入社員からコツコツと時間をかけて育成していくことが、ほぼ全くといって良いほど出来ないという点にある。
何しろ新卒の新入社員を採用すること自体が簡単ではないので、水産部門ではどうしても他社で鮮魚の仕事を経験した中途採用の人材に頼らざるを得ない実情がある。社員を募集しても男性の魚経験者の応募があればまだ良い方で、それもかなわない時は女性の未経験者に頼ることになるのだが、やはりパートさんは長期に安定して働いてくれる人が少なく、人材面での苦労がつきまとう小規模企業に共通する悩みを常に抱えている。つまり限られた人材、それも必ずしも高い能力を備えた人材ではないことも有り得ることを前提にして、水産部門の売上を伸ばしていかなければならない難しさがあるのだ。
B社水産部門で働く人の平均年齢は男女とも若くなく、それぞれに人生経験を重ねてきた人たちの集まりなので、部門運営の考え方や手法を一つの方向性にまとめていくのも簡単ではなく、上に立ってリードしていく責任者の男性正社員は人をまとめるのにいつも苦労している。
そのような事情を抱えるB社水産部門のようなところでは、筆者のようなコンサルタントが少しはお役に立てることになるのである。筆者はそこで働く誰よりも年齢が高いのが普通であり、魚の経験は40年を超えているので現場の誰よりも長く、魚の知識面でも長い間に蓄えてきたものがあり、包丁技術についても鍛錬し磨いてきたものを持っていると自負しているから、水産部門の運営について様々なアドバイスができるのだ。
B社には毎月2日間入り、魚売場の運営方法、技術指導、商品提案などをおこなっているが、6年目ともなってくると技術指導や商品提案より、行事催事への対応方法や盆や年末年始商戦など繁忙時の作業方法など、水産部門の運営方法のアドバイスに時間を割かれることが多くなってきていると感じている。
例えば、これまで何度も持ち上がってきた魚売場運営手法の一つとしてよく議題になるのは「生魚対面裸売り」の運営についてである。
即食商品とは対極に位置する生魚対面裸売りによる差別化
B社は6年前の指導当初から生魚対面裸売りを実施してきたのだが、生魚の品揃えの良い時と悪い時の差がとても大きくて、対面売場を理想に近い姿で維持することはとても大変なことだということは現場の誰もが承知しているようである。また筆者はA社でも魚売場のあるべき姿の一つとして、改装店や新店で生魚対面裸売りの売場を必ず設けることを提案し実現してきたのだが、やはりA社でも理想的な姿を実現できる店は希にしかないというのが実態である。
しかし今の時代に、水産部門にとって生魚対面裸売りコーナーは重要な差別化の武器であると考えており、両社に生魚対面裸売りコーナーの品揃えを軽視しないよう指導してきたのだが、残念ながら筆者が理想とする姿からはほど遠いと言わざるを得ないことが両社の店舗とも日常茶飯事である。しかしだからといって筆者は無理して形だけを整えることは強要しないことにしており、その日の水揚げや入荷状況を踏まえて、当日出来る限りの品揃え努力をすることを求めることにしている。
生魚対面裸売りコーナーというのは、坪当たり生産性からすると決して高いものではなく低い方だと考えるべきであり、経営者からすると「売れもしないのに場所と手間ばかりとって、こんな非生産的な売場は必要ない」と断言されてしまうような売場なのである。だからこれまでスーパーの魚売場における過去の歴史を辿っていくと、このような考え方を持つ経営者によって生魚対面裸売りのコーナーは魚売場から次々と姿を消していったのである。
こういう非生産的な売場に「売り子」をつけて販売促進のフォローをしなければ成果は出せないとする意見があるが、生魚対面売場に売り子を侍らすなんてことは、客数が非常に多い都市型百貨店とか、よほど集客力のある大型スーパーの魚売場でしか出来ないことで、一般的なスーパーではとても考えられない絵空事なのである。
このため筆者が指導している普通の規模のスーパーの魚売場で生魚対面裸売りを実施する場合は、@その売場の後ろにまな板を設置して、A真横にはスイングドアの付いた出入り口をつけ、B従業員はまな板で通常作業を進めながら、Cお客様から調理注文が入れば横の出入り口からサッと出て行って魚を受け取り、Dその調理をしながらお客様と魚料理などの会話をして飽きさせず、E同時に売場に並ぶ他の魚商品の売り込みもして売り子にもなるなど、一人で何役もの仕事を受け持たせるようにして少しでも生産性を高めるようにさせている。
更に、もしそのような坪当たり生産性の低い生魚対面裸売りコーナーに「人時生産性」などという訳のわからない指標を持ち込んだら、大型スーパーや都市型百貨店の魚売場以外では生魚対面裸売りコーナーを設置することも出来なくなるのだ。そもそも水産部門のように包丁技術の熟練度や経験、知識などによって人材の大きな差が出る部門では、人時売上高や人時生産性は熟練した包丁技術や魚の豊富な知識を持つ能力がある人がやれば高くなるし、そういう能力がなければ極端に低くなるものなのである。
極論を言えば、現場叩き上げ30年選手を何人も集めたら非常に高い人時生産性が実現できるけれども、それでは部門損益は大赤字になるであろう。そういった指標は結果論として参考にはすべきであるが目標値としては何ら役に立つものではなく、人時売上高や人時生産性というのは目標数値として設定すべきものなんかではないのだ。
そういった一見立派そうに見えて、実は現場でほとんど何の役にも立たない数値は、現場で働く人たちを数字で締め付けて息苦しくさせ、部門損益がなかなか出せない水産部門の人を削られる道具として利用され、魚売場は省力化されたことによって商品内容の魅力を無くすことになり、そのことによって「魚が売れないようにしていった張本人とも言える数値」の一つが人時生産性であることに気づくべきなのである。
生魚対面裸売りについて筆者は、以前 No.85(平成23年 1月号)のなかで、今年度、水産部門の指導にあたって「魚売場は、対面販売が・・・」という文章を載せ、その後 No.133 生魚対面裸売りの勧め(平成27年 1月号)でも言及し、月刊食品商業誌の2012年9月号には「丸魚対面販売と調理サービス強化」のタイトルで寄稿するなど、機会があればこれまでにたびたびその重要性を発信してきた。
そしてここ最近は、全国各地で筆者の考えを理解してくれるスーパー経営者が少しずつ増えてきているようであり、そのこと自体は歓迎すべき現象だと思っている。魚売場は鮨や刺身のように加工度を高めた即食商品を強化していかなければいけない方向性の一方で、その対極に位置する生魚対面裸売りという素材そのものを陳列して販売する魚屋の原点とでも言える販売手法も重要であることを、もっと多くのスーパー経営者に知ってもらいたいものである。
魚売場に生魚対面裸売りコーナーという非生産的な売場が存在していても、今月号で紹介したA社やB社の魚屋鮨のように、お客様が少し高いけれど美味しいのでもう一度買いたいと思わせる商品を提供し、どんどんリピーターを増やしていくことで、水産部門の売上を上がり続けさせることが出来るのである。
魚は考え方と方法次第でまだまだ売れる
2019年スタートの1月号テーマとして「どうする魚売場・・・?」という表題で「魚売場の活性化」の方法を筆者なりの考えとして言及してきたが、ここまで読み進まれて何か参考になるものがあっただろうか。
筆者が関係している企業の中で、活性化の実績を残せた例を二つ紹介したが、いっぽうでは活性化指導の成果をあまり出せていない企業が存在しているのも事実である。そのどちらに転ぶかは色々な条件が関わってくるけれど、やはり水産部門活性化指導の成果を出せるか出せないか、その分かれ目となる最大の分岐点は「人の意見に耳を貸す率直な姿勢を持っているかどうか」だと思われる。
活性化の指導をする上で一番難しいのは「自分の力にやたらと自信を持っている人」である。そういう人はだいたい世間知らずの人が多く、自分が一番だと思い込んでいる節がある。自分の狭い行動範囲の中ですべてを判断しているので、広い世間には自分以上の力を持った人がたくさんいることを知らないのか、それを敢えて知りたいとも思っていないのではないかと感じられる意固地なところがあるのだ。
結局は物事の可能性を狭い範疇で捉えてしまうと選択肢は少なくなってしまうはずであり、あれもダメこれもダメと否定的に考えていくと、最後には何も出来なくなってしまうだろう。確かに魚は昔に比べると売れなくなっているかもしれないが、それをマイナス側面からばかり捉えていては売上が上がるはずはなく、一縷の望みでもあればそこを果敢に攻め込んで、そこから可能性を引き出していく、謂わば少し楽観的だとも言える前向きな姿勢で魚の売上げを作っていかなければいけないのである。
一縷の望みの先に見える仄かな光は、もしかすると魚屋鮨なのかもしれないと考え、それが魚売場の救世主となりうるとすれば、その方法をしっかりと前向きな形で考え積極的に動くことによって、魚売場を再び活性化させることは可能なのである。
食品スーパーだけでなく、百貨店や専門店などの魚売場を展開している会社が魚が売れない現象を捉えて、何ら確たる根拠もなく魚売場を衰退部門として軽視していくとすれば、日本の食文化の衰退に自らが積極的に手を貸していくことに他ならないと覚悟すべきなのである。もしそのような会社の責任ある立場にある人が、日本の食文化のルーツを大事に残していきたいと考えるならば、もっと魚売場に対して肯定的な目を向けてほしいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新してきたこのホームページへの
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更新日時 平成31年 1月 1日