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平成25年 9月号 No.117

カンパチ腹トロ薄造り


今年に入って養殖カンパチの相場が右肩上がりの上昇曲線を辿り、8月末現在ではとうとう1,400円/kgを超え、頭は1,700円/kgの声を聞くところまできてしまったところもある。

今年7月迄約3年間のカンパチ相場は、以下のグラフのような動きを示してきた。

8月に入り更に上昇しているから、相場上昇がいかに急激なものかが理解できるだろう。

みなと新聞の記事によると、

ということで、取引価格は高くなってしまったらしい。


カンパチの相場が今後どのような展開となっていくのか不明だが、秋になるとそろそろカンパチが美味しくなってくる。

カンパチが美味しいのは夏という意見があるけれども、本当にそうなのか・・・?下の3魚種は、その違いを見るために一緒に並べて撮影したもので、過去に FISH FOOD TIMES 平成20年11月号 に載せていた画像だ。

上から順に、

@ スズキ系スズキ目スズキ亜目アジ科ブリ属 カンパチ(養殖)

A スズキ系スズキ目スズキ亜目アジ科ブリ属 ヒラマサ(養殖)

B スズキ系スズキ目スズキ亜目アジ科ブリ属 ブリ  (養殖)

の3魚種で、このように見た目がとてもよく似ているブリ属3兄弟である。

カンパチの産卵期は4月〜6月 、ブリとヒラマサは3月〜5月と大きく変わらないが、ブリの旬は冬、カンパチとヒラマサは夏と一般的には言われている。

「旬」というのは、一般的な意味からすると次のように説明できるだろう。

「子孫繁栄のため、産卵前から産卵期にかけて栄養を溜めて魚体を充実させる時期」この理論からすると、ブリとカンパチやヒラマサの旬が全く違うというのは、本当に正しいのかと疑問を挟まざるを得ないということになる。

本当はカンパチもヒラマサも、ブリと同じように秋から春にかけての季節が、「魚体が最も充実し美味しい」のではないだろうか・・・


天然カンパチは全国各地でアカバナ、シオ、ネリ、ソージなどの地方名で呼ばれている。

ブリと同じように、小さい順にショッコ、シオゴ、アカハナ、カンパチへと、大きく成長するに従って名前が変わる「出世魚」でもある。

上の画像は体高が高く、横縞が明確に目立つ比較的小型の「天然カンパチ」である。

天然のカンパチは、日本近海での産卵期は5月〜7月だと言われており、養殖カンパチより少し夏場へとずれた時期に産卵するということだ。

上の画像は産卵期の6月に、鹿児島県奄美大島の魚市場に並べられた天然カンパチだ。

魚体は5キログラム前後ほどあり、地方名は「ソージ」と呼ばれている。

ブリ属3兄弟の中でも一番南方の暖かい海を好むカンパチは、ブリよりもはるかに大きな30s以上の大型老成魚に成長することも珍しくなく、このような天然の大型のものはシガテラ中毒というのに気をつけなければならない。

シガトキシンという神経毒を抱えた大型天然カンパチを刺身で食べると、皮膚が痛くなったり発疹したりする中毒症状を起こすことが稀にあるということだ。


そしてこの画像は天然ではなく、お馴染みの養殖カンパチである。

養殖されると、まるで天然とは別の魚のように全体の印象が変わってしまう。

今や全国の多くの魚売場で養殖カンパチは刺身や鮨ネタとして欠かせない存在であり、このところの仕入れ価格上昇は、水産部門にとって本当に頭の痛い悩みの種なのである。

例えば、上の画像のカンパチ刺身平造りの原価を考えてみると、カンパチを1,500円/kgで仕入れ、その歩留まり率は45%だったと見てみる。

8切れ盛り1切れ平均を10gカットだと計算すると、魚だけの正身原価は267円となる。

それにトレーやあしらいの原価を50円と仮定して加えると原価合計317円になるのだ。

この刺身はいったい幾らの売価であればお客様は購入する気になるであろう。

398円?・・・、これでは商売として話にならない!

値入率30%では458円というところだが、刺身の値入率が30%では苦しい。

刺身の値入率は、せめて40%ほしいとなると、売価は528円となる。

カンパチ刺身が8切れ528円の売価でどれだけ売れるのか・・・?

消費税分を考慮しないで計算しているので、正確には更に値入率は低下する。

この平造りは10gと比較的薄めに切っていてこれなのだから、もう少しまともに12g程にカットにすれば、正身原価は320円となる。

これにトレーとあしらい代の50円をプラスすると、商品原価は370円なのだ。

この数字は商品の原価であって売価ではない。

仮に40%の値入率で売価を設定すると617円、30%でも529円になってしまう。


刺身を引くために手間をかけて、値入率は30%しかなく売価は500円を超すのだ。

これでは本当に売り手側として妙味はないと言わざるを得ない。

刺身の消費期限は「D+0」が基本だから、製造した日に売り切ってしまう必要がある。

このため値下げ率や廃棄率が他の商品よりも比較的高くなる傾向があり、現状の実態としてのロス率分は値入率に考慮しておかなければ利益は残りにくいのだ。

刺身のロス率というのは、繁盛店なのかそれとも不人気店かで雲泥の差があり、超人気店の中にはロス率1%以下というのを平気で出し続けるところがある一方で、刺身ロス率は20%を一度も割ったことがない、という憐れな店も存在している。


カンパチの刺身がたった8切れ入りで、売価500円以下では売れないとなると、あまりにコストパフォーマンスが悪く、本当にこの先の売れ行きが心配になってくる。

このようなことに対して、いったいどんな形で対策を講じたら良いのだろう。

一つの対策案は以下の画像だ。

こうやって盛り付ける切れ数を半分の4切れだけにするのが一つの方法だ。

トレーやあしらいの原価はそのまま半分ではなく、商品原価を半分の計算は出来ない。

そのため、トレーとあしらいの合計を40円だと見てみると、10gカットならば商品原価174円、12gならば200円程で計算することが出来る。

この原価ならば、298円の売価を付けることが出来ないこともないだろう。

中身は4切れなので、食べることで量的な満足感はとても期待できないが、中には様々なおかずの中の一品として少しだけあれば良いとする人もいるかもしれない。

いわゆる「個食刺身」と呼ばれる商品で、これは本来こんなボリュームしかない。

しかし、カンパチだけではなく色んな種類の個食刺身が数多く集まれば、その組み合わせ次第でどんな盛合わせでも作ることが出来る魅力を打ち出せる。


いっぽう、更に違った方法でコストパフォーマンスを高めることも出来る。

それが巻頭画像の「カンパチ腹トロ薄造り」である。

これは比較的大きなトレーに、カンパチをボリューム感タップリに盛っているが、正身原価230円、商品原価は300円以下で計算できるのだ。

つまりこれならば、このボリュームで500円以下の売価が可能だということになる。

刺身は11切れだが、重さはせいぜい6gから7gなので合計で約70グラム前後だ。

トレーとあしらいの原価は多めに70円で計算するとこの原価になるのである。

腹トロという脂が乗った部位なので、少し強気に500円以上の売価に設定にすれば、値入率は50%近くを確保出来る可能性も出てくる。

カンパチの身質はブリよりも硬めなので、薄造りも技術的に比較的容易であり、しかもその硬さ故に、ある程度は歯応えも残すことが出来るのだ。


次に魚の薄造りと言えば、やはり忘れてならないのは「鮨ネタ」であろう。

カンパチの腹トロを使って、以下のような商品を簡単につくることが出来る。

この商品の利益の構造はどう見たら良いかというと、カンパチの仕入れ原価が刺身と同じ1,500円/kgの仕入れの場合、このにぎり5カン盛りのネタの正身原価は7gカットとして120円程になる。

シャリのコストは、自家炊飯なのかそれともシャリ玉仕入れなのかによって大きく違い、シャリ5ヶの原価は、安い自家炊飯の方で20円、高いシャリ玉の方では60円となる。

それにトレー代とガリ10g分のコストを20円を加えても、その原価総合計は最低で160円、最高でも220円ほどに納まるはずである。

売価は398円でいけるはずだから、値入率は60%から45%ほど確保できることになる。


今年の水産物は輸入サーモンなどを始めとして多くの魚が値上がり基調にある。

魚売場では必ずしもその値上がり分をそのまま売価に反映することも出来ず、利益面で苦しい展開を余儀なくされる場面も増えてきている。

水産部門において今や重要な位置づけにあるカンパチもその一つであり、この扱いを間違えてしまうと、その影響は水産部門全体に大きく及ぼすことになる。

今月号は、原価から値入率、売価に関わる計算面に多く触れてきたが、 こういった急激な値上がり局面を利益を落とさずに乗り切るオーソドックスな手法は、やはり「付加価値商品の割合を増やす値入ミックス」で乗り切るのが一番であろう。

様々な知恵と工夫で利益を落とさない努力をしていきたいものである。


更新日時 平成25年 9月1日



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