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平成28年 1月号 145-2

ナマズにぎり鮨


日本に生息している淡水魚ナマズ属は、マナマズ、イワトコナマズ、ビワコオオナマズ、それに外来種のアメリカナマズ である。

日本では昔からナマズを食用として利用してきたが、昭和40年代に河川の護岸化、水田での化学肥料や農薬使用などによってナマズの生息環境が悪化しナマズの生息数が減少していった。そこで1980年前後からナマズの養殖技術開発がスタートし、1990年代後半には仔魚期の共食い問題も解決されて埼玉県などで本格的な養殖事業が進んでいった。しかしナマズは茨城、長野、愛知、岐阜、岡山以外の県では漁業権魚種に指定されていないため、日本全体での養殖を含めたナマズの漁獲高が数値として示されず、ナマズが日本ではいったいどれだけ漁獲されているのかほとんどわからないのが実態なのである。

そして現在の日本においては、ナマズが魚料理としてナマズの名前が冠せられて日本の食卓に上がることはほぼ皆無であり、地方の名物郷土料理として細々と食べられているのが現状であり、ナマズが日本の魚屋で売られているのを見ることもほとんどない。

しかし実は日本人の多くが、ファーストフードのフィッシュバーガー、居酒屋や大衆食堂のフィッシュフライ、お弁当パックの白身魚、惣菜売場の白身魚、スーパーの冷凍白身魚、などという形で、その中身が外国から輸入されたナマズだとは知らされずに相当な量を食していることが以下の文章を読むと理解できるはずだ。


日本以外の世界へと目を移すと、ナマズという魚は「食用魚」として非常に大きな存在であることが見えてくることになる。

世界の養殖ナマズ生産量は、1995年は45万トンほどであったが、2005年には166万トンに急増し、2008年は280万トンと1995年当時の5倍以上に増え続けていて、2008年の国別ナマズ類生産量は、ベトナムが126万トンで断トツの1位、2位中国69万トン、3位アメリカ23万トン、以下はインドネシア、タイ、マレーシアと東南アジアの国々が続いている。<数値参照 Fishstat Plus 2010:FAO(国連食料農業機構)の時系列世界水産統計>

そしてナマズ属の中でも一番養殖生産量が多いのは、学名Pangasius bocourti ナマズ目パンガシウス科ギバチパンガシウス属バサであり、東南アジアでは一般的にバサの名前で通用するナマズで、2008年には138万トンが生産されており、世界のナマズ生産量のほぼ半分はこのバサなのだ。また学名Pangasius hypophthalmus ナマズ目パンガシウス科ギバチパンガシウス属チャー と呼ばれているそっくりな魚もいるが、その外見だけではなく解体してしまえばほとんど見分けが出来ないので、2種の魚はあまり明確に区別されていないようで、138万トンの中にはチャーも含まれていると考えたほうが良いようである。

このバサまたはチャーに関しては FISH FOOD TIMES 平成23年11月号 No.95-1 及び No.95-2 でも取り上げているので、できれば参照してほしい。この時の誌面でも「実はバサなのかチャーなのか正確には分からない」と記していたけれど、バサとチャーは本来別種であるにもかかわらず、米国での呼び方であるサワイやヨーロッパでのパンガという呼称も巻き込んで、様々な文献で様々な解説がされていて混乱しているようである。 以下の画像は2011年にホーチミンの市場で筆者が撮影したバサかチャーか判らない画像だ。

このようになったのは、ナマズ取扱業者が自分たちの都合で意図的に紛らわしい呼び方をしているうちに混乱が乗じてきたようなのだが、近年の輸出用養殖ナマズはチャーの味が欧米人に好まれているようで、生産者も生育スピードが早いチャーにシフトたほうがコストパフォーマンスが良いため、欧米市場ではほとんどがチャーになりつつあるとのことだ。

これらのナマズは欧米などにおいて、フィッシュバーガー、冷凍フィッシュフライ、フィッシュ&チップスなどの料理素材向けに、主に工場生産商品の原材料として冷凍食品メーカー重宝され、今や魚の原料としてなくてはならない重要な位置付けとなっている。これは欧米のみならず昔から魚食文化を誇ってきた日本においても、食の簡便化志向の進行に伴って「白身魚の何とやら・・・」などの名称の、冷凍食品、ハンバーガー、ほっか弁、スーパーのパック弁当、大衆食堂の白身魚メニューなどで、知らず知らずのうちにベトナムなどの外国産ナマズを食べているのである。


つまり日本においても、その料理に魚は何を使っているのか、その正体が商品名として分からなくても通用する安価な魚料理メニューの材料として、日本の食品産業界全般でも重宝されてきたのが外国産ナマズなのである。

しかしその一方で、その出所を明らかにしてナマズを販売していこうとしているスーパーも現れたようである。

このスーパーの上の画像のような方法で販売する試みがどれだけ上手くいっているのか知るところではないけれども、大量販売を得意とする大手量販店がその販売力にものを言わせて、外国から安価な魚の原材料を大量に仕入れてきて一儲けしてやろうという発想は理解出来ないことはない。

しかし日本で昔から食べられてきた英名でjapanese common catfishと呼ばれる日本固有種のマナマズには目もくれず、安い外国産の原料に飛びついて日本の食文化をかき回し、日本の水産業を更に弱らせるような動きを先頭に立って行うというのが、本当に日本の小売トップ企業が行うことなのか疑問を感じざるを得ない。

そういう観点からすると、近大が取り組もうとしている「ウナギ味のナマズ」というのは、ウナギの資源枯渇によって養鰻業者が死活問題となっていることを、近大が一緒になって問題解決していこうという試みであり、事に対処する姿勢と今後の方向性には大手スーパーとは根本的に大きな違いがある。

日本におけるナマズという魚の存在は、内水面に棲息する淡水魚としては比較的大きな魚であることから食べる部分が多く、海のない内陸地域では貴重なタンパク源の一つであった。近年ナマズの天然資源は棲息環境の悪化によりどんどん減少している現実がある一方で、既にナマズは卵からの完全養殖技術というのが科学的に確立しているのだから、昨年の近大の動きを端緒として日本におけるナマズの生産や消費というのを見直してみるべき時期に来ているのではないかと考える。

日本のマナマズは蒲焼のように焼いて食べるだけではなく、生のままで刺身や鮨にしても美味しいことは筆者自身が自ら体験して確認することができた。やはり鮮度を最も重視する日本人の食性の傾向からすると、出来ることならばナマズも活魚として流通させることで本当の価値が見出されるのではないかと思われる。

ナマズは成長が早く、養殖しても生産コストはウナギの三分の一だということなので、仮に活魚流通をしても「水産業界で使える価格」が実現するのではないだろうか。

2016年は「ナマズ元年」になってくれればと思うところである。


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おまけ

今回はテーマと関係のない「おまけ」の画像を掲載しよう。 

それは先月2015年12月の FISH FOOD TIMES No144で作成途上だったカラスミの完成画像である。

上画像は約2ヶ月後のカラスミ完成品。

薄くスライスするとこのようになった。2ヶ月という乾燥の期間は少し長すぎたようで、カチカチの状態になっていた。

カラスミをスライスした味は、よく噛むと旨味は感じられるが、程良く熟成した味というものではない。仕上がりは今回の半分の1ヶ月程度で食べたほうがもう少し美味しく食べられたのではないかと思った。

しかし、これを晩酌の時に一切れずつじっくりと味わいながら噛むと、噛めば噛むほどに微かだが舌に美味しさが伝わってくるものがあり、なるほどこれがカラスミの味かと合点するものがあった。

自分なりにはカラスミを自作した甲斐はあったと納得したのだった。

 


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更新日時 平成28年 1月1日