SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
ようこそ FISH FOOD TIMES へ
鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和元年 12月号 192
マダラの鍋用切身
前置き
今月はメジャー級の魚の扱いである。あまりにも良く知られた魚というのは、何を記しても「そんなこと誰でも知っているよ・・・」と言われそうで、記事とするにはチョット書きにくいものがある。特に九州福岡に居住する筆者は、北の海に棲息している魚を扱う時は日頃から馴染みがない分「何か間違ってないだろうか・・・」と思うことがよくあって表現にあまり自信がないのが事実なのである。しかしそういうことを恐れているようでは何も書けなくなるので、意を決して以下に文章を綴っていきたいが、もし誤解していることなどが見つかったら是非そのことを連絡していただきたい。
実は、ホームページ冒頭の「ようこそFISH FOOD TIMESUへ」が、長い間「・・・TIIMESへ」となっていたのだ。筆者はそのことに全く気づかずに3年3ヶ月も放置したままだった。そしてほんの最近11月23日(土)にある読者の方から、そのケアレスミスをメールでご指摘していただき、サイト管理人である筆者は慌てて39ヶ月を遡って一つ一つ修正作業をおこない、改めて各ページをアップしたばかりだったのである。
自分ではどうしても気づかない「正しいとの思い込み」は、やはり自分ではなく他人の目があって初めて気づかされるものであり、それが文章における「校正」の重要性なのだと思い知ることになった。残念ながら筆者はサイトの管理だけでなく記事も画像も更新もすべて自分一人でやっているので、この「校正」の部分が大きな弱点である。
このようなことは以前にもあって、平成29年7月号No.163「センネンダイ薄造り&炙り刺身」の時に、ある読者の方から「7月号の件で疑問に思った事があったのでメールしてみました。今回掲載されたお魚、センネンダイではなくヨコフエダイではないでしょうか? 私自身、何度も大型のセンネンダイを見たことがあるんですが、老生魚でも薄く横縞が残っているように思われます」 とのメールが送られてきた。
筆者は魚市場からセンネンダイの名称で届けられたので、何の疑いもなくそう思い込んでいたのだが、メールが届いてからよく調べてみると、確かにセンネンダイではなくヨコフエダイなのかもしれないと思うことになった。しかし筆者が魚市場の担当者の言葉を鵜呑みにしたのが問題だったのかもしれないけれど、基本的に魚を小売りする立場として伝票に記入された魚の名称を勝手に変えるのも問題だと考えた。
仮に間違っていたとしても、後になって7月号の全文を前後の文意を損なわずに書き直すのは大変なことなので、自分なりに文章を補完する救済策として、これらの魚は沖縄や南西諸島ではどれもが明確に区別されることなく、全て「サンバナー ( サンバラダイ)」などの地方名で呼ばれているから、今月号の魚の名称は「サンバナー ( サンバラダイ)である」ということで締め括りたい、との記事を追補して決着を図ったのである。
FISH FOOD TIMES を足かけ16年継続していると何人もの熱心な読者の方がいらっしゃって、時々このようなメールをいただいて筆者も勉強させられることがある。もしかすると、今月号は間違いの指摘が山のように届けられるかもしれないが、それはそれで快く受け止めることにして、長い前置きは終えたいと思う。
たらふく食べる
マダラは漢字で真鱈と書く。雪の字が付くことを本朝食鑑では「鱈は初雪の後に獲れる故、これに従う」と記しているように、マダラは雪が降る寒い季節の12月頃から旬となる。
マダラを仕入れるとこんな感じの姿で入荷するのが珍しくない。まさに、腹の胃袋一杯に「タラ複」食べたまま漁獲されたマダラである。
大きく膨れた腹を開けると、大きな胃袋、肝臓、白子(菊ワタ、クモコ)などが所狭しと入っている。特に大きさが目立つ胃袋を開けると、その中にはイカや小さな魚などマダラに捕食された様々な魚が入っていることが多い。
真鱈を仕入れる時の価格には胃袋の中の使えない魚の重量までカウントされているのだから、腹が膨れていればいるほど結果的には歩留まり原価は高くなるので、商品売価は不定貫よりも定貫で販売する方が良いと思われる。
胃袋の中身は販売できないけれど、胃袋そのものは鍋の食材の一つとして活用できる。胃袋は半割にして、その表面にこびりついた粘膜や汚れなどを、裏表共に包丁の刃先で擦って削り取り、これを塩もみし、水洗いしてから、最後にボイルした後カットして切身の商品に添えることになる。
また肝臓や白子もマダラの身と同じように重要な食材である。左下は肝臓と胃袋、右下は白子。
更に小さな魚などはアラとして捨てることが多い頭部なども、大きな魚体をしたマダラは鍋に活用するが基本だ。例えば青森のジャッパ汁、山形ではドンガラ汁という鍋料理は、それぞれの地域で「捨てもの」を意味するジャッパとかドンガラと呼ばれる魚のアラを活用した漁師料理であり、それはマダラのアラを捨てることなく味噌味などに仕立てて美味しく食べる方法である。
マダラの頭部を鍋用切身として形良く切り分ける方法は以下のようにする。
マダラ頭部の切身作業工程 | |
1,頭部のカマを切り離す | 4,頭部を半割にする |
2,カマのヒレを切り落とす | 5,エラ蓋などを切り離し除去する。 |
3,カマを切り分ける | 6,頭部を均等な大きさに切り分ける |
マダラの鍋用商品化
マダラの切身を商品化する際、付加価値を高める意味では重要なアラや内臓の処理方法を上記した。次は魚体を鍋用として切身にする方法である。中骨付きの半身だけを鍋用切身にし、中骨なしの半身は煮付けやフライ用の切身にすることにして、以下のように作業をおこなった。
マダラの鍋用切身の作業工程 | |
1,大きな腹骨があるマダラは、腹の方から包丁を入れて腹骨を切る。 | 6,背骨を下にして皮の方から包丁を入れ、50g前後の大きさに切り分ける。 |
2,腹骨を切ったら、そのまま片面おろしの方法で、下身を分離する。 | 7,腹部を更に二つに切り分ける。 |
3,二枚おろしにした状態。 | 8,できるだけを幅広い形になるように切り分ける。 |
4,骨付き半身のヒレを全て切り離す。 | 9,腹部の一番端の部分も、身が薄いので、出来るだけ幅広く切る。 |
5,骨付き半身の胴体を、腹の方から大きく二つに切り分ける。 | 10、骨付き半身を、同じような大きさに切り分けた状態。 |
そして以下の画像は、マダラの骨付き半身の胴体、頭部、内臓などを鍋用として商品化するための準備を終えた状態である。
これらを使って商品化すると以下のようになる。
パイレスに盛り付けられた鍋用材料でこの3パックの商品ができたが、売価はせめて一つで1,980円にはしたいものだ。
11月下旬現在、北海道の釧路や花咲でのマダラ相場は、3入が高値で600円/kg強、8入りが底値で200円/kg ほどしている。どの大きさのマダラを幾らで仕入れるかで商品の価値は左右されることになり、やはり小型のものは歩留まり率も悪く、アラや内臓の大きさなども含めて考えると、魚体が小さければそれなりの価値しか実現できないことは覚悟すべきであろう。
このマダラには、まだ二枚におろした中骨なしの半身が残っているので、これらは以下画像のような切身にした。
中骨なし半身の切身の方は付加価値をつけるのがなかなか難しい。なぜなら、このような形の切身ではアラスカマダラなどの冷凍輸入品とまともに競合してしまうことから、売価はどうしても抑え気味なものにならざるを得ないからだ。
マダラの世界的な需要
その競合相手となるアラスカマダラ冷凍品の相場は昨年と比べると1割以上安くなっているようだ。世界中で底堅い人気を保持しているマダラの価格は、以下の図にあるように2018年は2016年当時と比較すると50%ほど高くなっていたが、この高騰した価格の反動で需要減の現象を引き起こし、今年になってからは価格調整局面に入っているようなのである。
今年11月現在での米国産マダラ価格の相場は、頭と内臓が除去された冷凍ドレスで550円/kgほどになっていると新聞には記されているが、冷凍マダラの取り扱いはそれほど簡単なことではない。
なぜならマダラの水分含有率が非常に高いからである。冷凍されたマダラは解凍を上手におこなわないとドリップがたくさん出てしまって、解凍歩留まりの悪化による原価が上昇するだけではなく、同時に旨み成分も一緒に出てしまい、マダラ本来の美味しさを損なう恐れがあるのだ。
以下の資料は静岡女子大学の上柳富美子氏が研究発表された資料であり、これを見ると食用として代表的な魚のなかでマダラの水分含有率は飛び抜けて高く、逆に脂肪含有率はとても低く、しかも筋繊維も非常に少ないという特徴が数値として示されている。
つまりマダラの身質は「とても水っぽくて、柔らかく、あっさりとした味」の魚だと表現できるだろう。こんな特徴を抱えた魚の扱いは一歩間違えると、非常に不味い魚だとの烙印を押されてしまう可能性がある。しかしマダラは世界各国で幅広く食されているということは、美味しく食べるためにそれなりの上手な扱い方があるということなのだろう。
やはりそのポイントはマダラの一大特徴である水分の多さをどう処理するかであり、そのために一つは塩をすること、そしてもう一つは乾燥させることでではないかと思われる。
まず塩をすることに関しては、軽く塩をすることである程度の水分を抜いた甘塩タラという商品があるけれど、これは水分が少なくなることで旨み成分が凝縮されるだけでなく、塩の力でタンパク質が凝固し弾力性が増す効果もある。マダラが冷凍のカチカチ状態ではなく、弾力性のある鮮度感を打ち出すならば、冷凍よりも甘塩の方がが良いと思われるが、消費期限はあまり長くできないデメリットもある。
いっぽう昔からおこなわれてきたのが干しダラという乾燥の方法がある。昔から保存食として存在感を誇ってきたのがこの干しダラであり、世界各国のタラ料理はほとんどは基本的に干しダラを原料としているようである。例えばポルトガル料理のバカリャウ、フランス料理のブランダード、スペインバスク地方のパカラオ・アル・ピルピル、イタリアのバッカラ、イギリスのフィッシュ&チップス、韓国のスープ料理グー、ノルウェーのルーテフィスクなど、そのほとんどが基本として干したタラを料理の前提としている。
日本の干しダラ料理
これは日本でも同じように干したタラがあり、それが以下画像の棒ダラである。
棒ダラは寒い北国の寒風に2ヶ月ほど晒し、カチカチになるまで屋外に吊し乾燥させて作るようだ。
水分を極限まで減らした棒ダラは、昔から北海道や東北などでは長い期間蓄えておくことが出来る保存食であり、棒ダラ煮など北国の料理に色々と活用されてきたようだが、それらは北国だけではなく北前船で関西まで運ばれ、里芋の一種の「海老芋」と一緒に棒ダラを煮込んだ料理「芋棒」と呼ばれる京都の名物料理なども産み出してきた。
そして干したタラは関西に留まらず、昔から南国の九州でも昔から食されてきたのである。
上の画像はブラシではない。これは博多や日田では「タラオサ」と呼ばれるマダラの干し物であるが、これは棒ダラのような肉の部位とは違い、内臓のエラと胃袋を一体として乾燥したものであり、これらの地域では昔から盆には必ず食べたので盆ダラとも呼ばれてきた。
よりにもよって、まあこんなものを好んで食べなくても良いではないかと思う方もいらっしゃるかもしれないが、実は筆者も福岡の生まれなので、幼少の頃からお盆になって親戚の家などに行くとタラオサの煮付けを必ず食べさせられていた。本音で言えば、あまり好んで食べたという印象はなく、どうしてこんな変わった食べ物が良いのだろうと子供ながらに首をかしげていた記憶がある。
博多や日田ではなぜタラオサのような魚の内臓を好んで食べるようになったのだろう。昔、棒ダラやタラオサは松前から北前船に乗って各地に届けられていた。船は京都の舞鶴の港も経由するので身の部分の棒ダラはほとんど京都で売られてしまい、その残りの棒ダラより安価なタラオサが博多に届き、博多商人が煮付けを作って食べるようになったと言われている。なぜなら商人は食べ物にあまりお金をかけないので、当時は棒ダラと比較すると安い食材だったタラオサの方を好んで食べたと推測されるからだ。また日田は江戸時代は天領であり、各地から物資が集まる要衝の地だったので、博多商人は日田への商売に出かけたついでに、タラオサのことも伝えたと考えられる。そして博多から日田へ向かう途中の甘木や周辺の筑後地域でも同じようにこれらが食べられるようになり、タラオサを食べる地域が福岡や大分だけでなく佐賀や熊本へも次第に広がっていったようである。
筆者は毎年盆を迎えてもほとんど盆ダラを食べることがなくなった今となって、久しぶりに食べてみたいという懐かしい気持ちがないことはない。自分で作った経験はないが、資料によるとタラオサの煮付けを作る時は、タラオサを水の中に浸して何度も水を換えながら3日間の手間が必要で、水が内臓に浸透し水分で膨れた状態になってから、煮付けの料理を開始することが出来るということだ。
そして出来上がりのイメージは以下のようになる。
タラオサ煮付けはマダラの内臓だけではなく、干しタケノコも一緒に煮付けることもあるようだが、マダラの肉での柔らかい食感とは違っていて、エラはプリプリとして、エラ付け根の固い部分は歯応えがあり、胃袋はもちもちとしているなど、それぞれの部位によって違う味が楽しめる。
内臓に価値あり
さて、今月号もそろそろ終わりにしたいと思う。今回の記事を振り返ってみると、あえて意図したことではないのだが、記事内容は内臓に始まり内臓で終わるという展開になってしまった。
マダラだけでなく、例えばアンコウのような貪欲に手当たり次第に捕食する魚を食する時の共通点は、骨と胃袋の中の消化物以外はほとんど捨てずに食べられることだ。特に胃袋や肝臓、魚卵や白子などを含め、内臓を活かした美味しい食べ方が出来るという点でどちらも似たところがある。
アンコウを商品化する時、もし胃袋や肝臓などの内臓、そして皮、ヒレもなく、魚肉だけしか手元にないとすると、それは価値を出すことが難しいのと同じように、マダラについても中骨なし半身の切身だけでは冷凍マダラとの差別化を打ち出すことがしにくいのは理解してもらえると思う。巻頭画像のマダラの鍋用切身は魚肉の部分だけでなく、頭部や内臓などが添えられて付加価値をアピールできているのであって、それらが存在しなければ随分魅力のない商品になってしまうはずなのだ。
また日本だけでなく世界の各国で、水分含有率が高いために鮮度落ちが激しいマダラを無駄なく活用するために干しダラが存在しており、各国でそれらを水に戻して様々な特色ある料理として使われている事実があるけれども、こと内臓に関してはタラオサのような魚を一切ムダにしない究極の一品は外国に存在しないようである。
そもそもの驚きは、北の北海道などで獲れた魚の内臓を遠く離れた南の九州の地で美味しく料理して食べるということ自体であり、そこには漁獲された魚を一つもムダにしないで活用しようとした先人の知恵が感じられる。
今時の消費者が、魚の内臓も極力ムダにしてはいけないということで知恵を働かすようなことがあるだろうか。刺身を食べる時、魚1尾の30%から40%しか利用せず、後はゴミとして捨てているという事実をどれだけの数の消費者が理解しているであろう。
このところ世の中では「限りある資源の有効活用」などといった美辞麗句が喧伝されているけれども、昔の人たちはマダラをいかに無駄なく利用してきたか、その知恵を学び、考え方を見習うことがどれだけ有効か分からないという気もする。魚一つとっても、考えさせられることがあるものだ。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
https://secure02.blue.shared-server.net/www.fish-food.co.jp/ |
水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
このホームページへのご意見やご連絡は info@fish food times
更新日時 令和元年 12月 1日