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令和元年 9月号 189
塩茹で花咲ガニ
今が旬、根室では9月1日に「カニ祭り」
今月のFISH FOOD TIMES更新日である9月1日(日)は、ちょうど北海道根室市で「カニ祭り」が実施されている真っ最中である。
このカニ祭りは根室市花咲港が日本一の水揚げ高を誇る花咲ガニをアピールするイベントとなっている。日本で花咲ガニは根室半島の納沙布岬付近の海域でほとんどが漁獲されるということであり、花咲ガニの漁獲量が少なくズワイガニやタラバガニのようにその気になれば何処かで直ぐ簡単に購入できる代物ではなく、全国的には何処でどの店が売っているかを探す必要がある希少な存在である。
上の画像は平成29年11月に北海道根室市で販売されていた花咲ガニの様子を筆者が撮影したのだが、これらはたぶん夏に漁獲されたものをボイルして冷凍していたのだと考えられる。なぜなら根室で漁が許されているのは毎年7月から9月迄の3ヶ月間だけなので、水揚げされた花咲ガニを次の年のシーズンまで解凍しながら少しずつ販売を続けていると推測されるからである。
画像にあるように花咲ガニは1杯3,500円から4,000円で販売されている。こんなに高価な花咲ガニだが実はカニではなくヤドカリの仲間である。その理由は爪のある部分を除いた脚がカニは左右4脚ずつあるが、花咲ガニは3脚ずつしかないのでヤドカリの一種に分類されるのだ。分類としてはタラバガニ科タラバガニ属に属しているタラバガニの親戚筋に当たり、タラバガニと比較すると小ぶりで、脚は短くて太く、表面に長いトゲが数多くあるのが特徴である。
花咲ガニは花が咲くという名前から、元々赤い花のように真っ赤な色をしているというイメージを持たれていることが多いようだが、それはボイルした後の状態であって生の時は以下の画像の色をしている。
この画像の花咲ガニを購入した時に雄なのか雌なのかが判らなかったので、どこでどう見分けるのかを色々と調べたが、結局その資料を見つけ出すことは出来なかった。普通カニの雄雌の見分け方は、例えばワタリガニのようにふんどしの部分が広ければ雌であり狭い方が雄であると判断できるが、購入する時に見た生の花咲ガニのふんどしはすべて同じ形をしていたのだった。
そして後になって、この花咲ガニは雄だと判断することになった。なぜなら漁獲対象となる花咲ガニは「甲羅の長さが8p以上に成長した雄だけ」という取り決めがあるということが分かったからである。昔は花咲ガニの漁獲は年間1,000トン程度あったということだが、今や10分の1の100トン未満となっていて、乱獲による資源減少を防ぐために3年間禁漁したり人工育成種苗の開発をしたりして、やっと今の漁獲高を維持しているという状況にあり、雄しか漁獲しない取り決めは花咲ガニの子孫を残し続けるための苦肉の策のようである。
花咲ガニの塩茹で商品化
たまたま8月下旬に、生の花咲ガニが運良く手に入ったので早速商品化することにした。花咲ガニだけでなくカニ類は一般的に生の状態のまま販売すると足が速くて直ぐに腐敗してしまうことから、活ガニでない限りボイルなど熱を加えた状態にして販売することが普通である。だから、これも塩茹でにした。
花咲ガニの塩茹で作業工程 | |
1,沸騰したお湯に塩度3%になるよう塩を加える。 | 6,茹で上がったら粗熱をとる為に氷水に入れると身が殻から外れ易くなる。 |
2,花咲ガニの旨み成分を少しでも残すために甲羅を下にして、沸騰したお湯に入れる。 | 7,水分を除去するために、1分ほど簡単な水切りをする。 |
3,茹でていると花咲ガニが浮き上がってくるので、浮かないように落とし蓋をする。 | 8,花咲ガニの塩茹でが完成した状態。 |
4,浮き出てきた灰汁を掬いだしながら、15分から20分前後茹でる。 | 9,トレーでの商品化は殻を見せる方が見栄えは良いが、殻の中からドリップが出て旨み成分を逃がしてしまう。 |
5,茹で上がると、花咲ガニの表面が真っ赤な色になる。 | 10,ドリップと一緒に旨み成分を逃がさないために裏返して商品化する。 |
このようにして塩茹で商品化までは終えたが、このままではどうやって食べたら良いのか分からない人やこの先の作業が面倒だと感じる人もいると思われるし、やはり上画像のようにボイルしただけでは加工度も低くて販売しにくいので、更に手を加えて付加価値を高める商品化をおこなうことにした。
塩茹で花咲ガニ姿盛りの作業工程 | |
1,甲羅を下にして左端の3番目の脚の第2関節を料理鋏で切る。 | 6,旨み成分が流れ出ないよう甲羅の外側を下に向けた状態で肩肉を分離する。 |
2,下から順番にカニ爪へと切り進み、左側のカニ爪部位まで切り離す。 | 7,肩肉内側のガニと呼ばれるエラ部分を指でつまんで除去する。 |
3,そのまま右回りに、右側のカニ爪から右側の第3脚まですべて切り離す。 | 8,肩肉部分はハサミを使って切れ目を入れ、食べ易くするために半割にする。 |
4,次に、ふんどし部分を開け広げ、肩肉とつながった部分を切り離す。 | 9,甲羅の内側を覆っている膜を指でつまんで除去する。 |
5,甲羅と肩肉の部分を開け広げる。 | 10,甲羅、肩肉半割、ふんどし。 |
@ 見栄えを重視した塩茹で花咲ガニ姿盛り | |
A 見栄えは悪いが、脚や爪にハサミを入れて食べ易くした塩茹で花咲ガニ姿盛り |
花咲ガニを生の状態から塩茹でして商品化し、次の作業として脚を切り外し胴体を解体して@の形にして商品価値を高めた。次に脚を料理鋏で半分に切って食べ易くした画像Aの商品にして更に付加価値を高めた。これでAの花咲ガニを購入したお客様は直ぐに箸をつけて食べることが出来ることになり、Aは@よりもゴチャゴチャしていて多少見栄えは悪くなっているけれど、食べ易さの点をお客様には評価していただけるのではないかと思う。
しかし花咲ガニを1杯購入するには、3,000円、4,000円どころではなく、それ以上の価格を覚悟しなければならないとなると、普通の金銭感覚ではやはり何か特別なことでもない限り、それらはそれほど簡単に購入できるものではない。例えばインターネットの通販サイトでは、800g程の大きさで元の姿を残したままの花咲ガニボイル商品は、1杯5,000円から7,000円ほどで売られているほど高価である。
花咲ガニは漁獲される地域が限定され、漁獲高も年間100トン未満と少ないことから全国の流通量も限られていて、どちらかと言えば北海道東部地区の地域限定商品という扱いを受けていることが多いけれど、いっぽう同じように北海道が主産地である毛ガニが今年は非常に高値となって関連業界を騒がせている。
毛ガニの不漁と価格高騰
下の画像はページトップの方で紹介した平成29年11月に北海道根室市で販売されていた花咲ガニの様子であるが、その横には毛ガニが花咲ガニよりも更に高い売価がつけられて販売されていた。
この画像は一昨年のものであるが、2年後の今年は毛ガニの相場が更に高くなっているようであり、豊洲魚市場での卸売り平均価格は以下の表のようになっている。
今年は毛ガニの漁期である春から夏の時期にオホーツク海域が深刻な不漁となり、8月の終漁を待たずに漁獲高が昨年比で半減することがほぼ確実になるなど、毛ガニの不漁によって相場が高騰しているのである。
毛ガニは年末商戦の需要期に向けて相場は上がっていくのが例年のことだが、この時期に1kgで6,000円以上ともなると、いわゆる「高値疲れ」によって毛ガニの需要は今後停滞していくのではないかと見られており、これからの毛ガニ相場は多少落ち着くことになるかもしれないとの見方もある。
毛ガニだけでなくタラバガニやズワイガニも含め、ここ10年ほど長い間に渡りほとんどのカニ類価格は上昇を続けてきたけれど、このようなカニ類の強気の価格形成が今年は一体どこまで続くのか疑問も出始めてきている。それは世界経済情勢が米中経済摩擦や日韓関係悪化などの影響で今後どのようになっていくのか不安なものもあるからである。特に日本国内では10月の消費税率アップという国民すべてに影響を与える税制改革があることから、それがこれからの日本の景気にどういう変化を及ぼしていくのか、こういう経済のマイナス局面で、高級贅沢食品の代表であるカニ類がそれまでと同じような登り調子の価格形成を続けられるかは不透明なものがある。
高級食材カニは贅沢の象徴
カニ商品は食用として良く知られているタラバガニ、ズワイガニ、毛ガニ、花咲ガニ、ワタリガニだけでなく、あまり知られていない上海ガニ、アサヒガニ、イチョウガニなども含め、食用のカニは概して非常に高価であり、カニという食材は言わば「贅沢の象徴」なのである。
例えば外国の例で言えば、以下の画像は左下が上海の銅川水産市場、右下が釜山のチャガルチ魚市場であるが、タラバガニやズワイガニなどのカニ類はほとんど活魚水槽に入れられて、生きたままの活ガニとして販売されていた。
これらの画像は、上海が3年前、釜山が4年前のことであり、両国とも景気は順調で特に中国は飛ぶ鳥を落とす勢いがあり、昨年から生じている米中経済摩擦による中国経済の変調など誰も考えてもいなかったであろう頃のことである。この頃ロシア産の活きガニはほとんどが中国と韓国に渡ってしまい、日本は買い負けてしまってロシアから国内には僅かしか搬入されなくなってしまったという悩みを抱えていたのだった。
そして現在の国際情勢を考察してみれば解ることなのだが、中国や韓国が3〜4年前当時の経済的な勢いをこれからも維持できるであろうかという疑問が湧いてくるのだ。トランプ大統領は中国のこれまでの経済的な発展手法というのを関税という手段で強圧的に封じ込めようとしているのは明らかであり、これからもトランプが大統領であり続ける限り、中国はその保守主義的な考え方に翻弄され悩まされ続けることになるのは間違いないだろう。
つまり中国は、これまで謳歌してきた国内の安い労働力を武器にして生産してきた、種々雑多な製品を外国に輸出することによって成り立ってきた経済の発展手法が根底から揺るがされることになりかねず、既に変調を来している中国経済は更に大きく揺れ動くことも考えられるのだ。それはそのまま世界の経済動向を左右してきた中国の購買力が低下することにもつながりかねず、回り回って贅沢品の象徴であるカニ類の消費にも影響してくることも充分に考えられるのである。
様々なカニ類の商品というのは、基本的に経済的に豊かな国のなかの裕福な人たちがお金の力にものを言わせて食べるような贅沢な商品という位置づけは諸外国でも同じようなものである。日本においても年に1回正月だけは豪華なカニを食べてみたいという考えがあるから、スーパーの魚売場では12月の年末商戦だけでカニの年間売上高の80%が販売されるという特異な現象を引き起こすのだ。
ここ10年間ほどカニ類の相場は上昇を続けるばかりだったのは、大きな人口を抱える中国が順調に経済発展を続けた結果、中国ではお金持ちになった富裕層も増え続け、そういう多くの富裕層の購買力がカニなどの贅沢品の価格を押し上げてきたという側面があったからだと見ている。
しかしここにきて、上記したように昨年から生じている米中経済摩擦が中国経済にこれからどんな影響を及ぼしていくのか、まだ見えない部分が多々あるけれど、これまでのような勢いは影を潜めて変調を来しているのは間違いなく、これによって贅沢の象徴であるカニ商品が今後どのような相場推移をたどることになるのか興味あるところである。
今月号は花咲ガニのテーマから、カニ商品の相場動向によって見えてくる世界経済の動きにまで言及することになったが、カニ商品の相場は不漁や豊漁による影響は大きいものの、それだけではなく経済的な動向による需要と供給のバランスも大きく影響する側面があることも記したかったのである。
花咲ガニだけでなく、タラバガニもズワイガニも毛ガニも正月だけでなく、年に何回か食べられるようになれればと思うのは筆者だけではないだろうと思う。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和元年 9月 1日