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平成24年 12月号 No.108



アラちゃんこ鍋

 

 


11月18日に終了した大相撲九州場所は白鳳が優勝し今年の大相撲を締め括った。

大相撲が終わった頃から日本の気温は全国的に急激な低下をしており、月末にかけて北日本は雪と風を伴う大荒れの天気となって各地で被害をもたらしたが、12月の月間天気は気象庁が以下のような日本地図によって月間予報を出している。

 

 

今年の9月頃までは、暖冬との予報を出していたけれども、11月になって急にこれまでの長期予報を覆す予報となったのである。

これまでに出してきた発言を自己否定することになる発表なのだから、曖昧に誤魔化して逃げることが出来ないことが今後予想されるのであろう。

つまり、今年の冬は例年よりも「寒い」ことが有り得るのである。


「寒い!」となったら、やはり定番の「鍋料理」だ。

そして今回紹介したいのは「アラのちゃんこ鍋」である。

冬場所と呼ばれる九州場所になると、お相撲さんが密かに楽しみにしているのは、この「アラちゃんこ」だとのことである。

九州の玄界灘沖ではアラが多く漁獲されることで有名であり、福岡の長浜魚市場は九州場所を狙うようにして長崎方面からも大物のアラが入荷する。

 

 

上の画像は長浜魚市場の仲買売場店頭で無造作にゴロンと並べられていたアラだが、その大きさはブリやタイと比較してもらえば、大体は想像できると思う。

これで48sであるから、1尾で30万円以上は覚悟しなければならない。

こんな高い魚を誰が買うかと言えば、料亭以外では例の「タニマチ」である。

金にものを言わせ、後援する贔屓の相撲部屋に1尾をまるごと差し入れするのである。

こういう「太っ腹」を見せるのが、財力の証であり、タニマチたる所以なのだ。

ちなみにタニマチとは、昔大阪の谷町に住んでいたお金持ちが、大阪場所がある期間に相撲取りの面倒をよく見ていたということで、その人物のことを「タニマチさん」と呼んでいたことから来ているということである。


アラというのは白身高級魚の代名詞となっており、簡単に賞味できないのが普通である。

アラはスズキ系スズキ目スズキ亜目ハタ科アラ属という仲間であり、スズキ系スズキ目スズキ亜目ハタ科マハタ属のハタとは違う魚種である。

ハタはクエとも呼ばれていて、九州の北部地方ではハタもアラと呼ばれている。

アラは南西諸島ではネバリ、沖縄ではミーバイと呼称されている。

アラとハタの見た目での大きな違いは、ハタは成魚になっても横縞の模様があるが、アラは下の画像のように模様がなく茶褐色の体色をしているのだ。

 

 

しかしこの2魚種はハタ科という分類までは一緒なので、よく似た兄弟の間柄であり、人間でも兄と弟がよく似ていて間違えられやすいのと同じと考えて良く、各地での表現はあまりにもたくさんあって簡単に整理できるものではない。

その難しさをFISH FOOD TIMES (平成19年6月号)でも真ハタを取り上げ述べた。

ハタは日本の房総以南の暖かい海にだけ生息している魚だが、アラというのは日本全国の北から南にかけ、沖合のどこの海にも棲んでいるのが普通で、ハタの棲息地より更に南方のフィリピンに近い海域にもいるようだ。

その身体的特徴としては、深海の海底近くにいて上の方ばかり見て餌を探すことから、両目は頭の真上についているし、大きな口は受け口になっているのである。

だから「眼下の敵」ではなく「眼下の餌」には目もくれず、全く気づかないとのことだ。


アラの仲間は日本全国何処へいっても高級魚であることに変わりなく、食べる人にとってアラ、ハタ、クエ、ネバリ、ミーバイのどれでも大きな違いはない。

気をつけなければならない違いを取り上げるとするなら「季節」であろう。

アラが美味しい季節は冬である。

産卵期は7月から8月にかけてであり、産卵期が近づくと卵巣と精巣は巨大化し、通常の3倍にもなってハタよりもスマートな外見のアラも太鼓腹を抱えた肥満体となる。

肥満体となった太鼓腹から産卵される卵の数は100万粒にもなると言われ、この時期の栄養分はほとんど生殖行動のために吸い取られることから、魚体の脂肪分は非常に少なくなってしまい、あまり美味しくないということになる。

九州場所が開催される11月というのは、夏に産卵を終えたアラが体力を付けるため、貪欲な食欲を発揮し、セッセと栄養を溜め込んでいる時期に当たり、お相撲さんが涎を垂らして喜ぶ料理へと変身することになるのである。


その高級魚アラを余すところなく活かすための方法としては、身を傷めず、皮も活用するために「すき引き」という技法を推奨することになる。

すき引きを使った商品化行程
1.尾の方から包丁でウロコだけをすき引く。 2各ヒレの端の方まで全体のウロコをすいていく。
3.頭の部分も含めてすき引いた状態。 4,腹を開け内蔵を取り出す。
5,三枚におろす。 6.ウロコ無し皮付きのまま鍋用の大きさにカットする。
7,骨も小さすぎず大きすぎない程度に切り分ける。 8,骨やカマなどのアラの部位。
9,アラのアラ。 10,アラも加えた鍋用カットの商品。

ここまではすき引きという点を除けば、その他は特に珍しくもないと思うが、アラちゃんこの真骨頂はこれからで、骨以外のすべてを食べるというところにあるのだ。

これは高級魚だからというのではなく、アラが今よりもまだ手に入りやすかった昔から、内臓まで全てを利用して食べてきたという歴史があるのである。

内臓の商品化行程
1.アラの腹部から取り出された内臓。 2、胃袋は半割にする。
3.半割にされた胃袋内部を包丁で掃除する。 4,胃袋の外側も包丁でヌメリをこそげ取る。
5,エラは一枚ずつ分離する。 6.エラについている血液の塊をこそげ落とす。
7,消化物が入ったままの小腸の部位。 8,小腸の消化物を包丁で押さえながらかき出す。
9,肝臓を含む処理された内臓。 10,内臓は全て沸騰したお湯で湯通しをする。

 

中国の蒙古系民族は、羊など畜肉の内臓を全て無駄にせず利用してきたように、海に囲まれた日本は魚食民族であったから、同じように魚の全てを無駄にはしなかった。

これは「アラのしゃぶしゃぶ鍋」の商品化である。

すき引きした皮がついたまま身を薄造りにして、しゃぶしゃぶ用にしているだけでなく、容器の真ん中には、胃袋、肝臓、エラ、小腸などの内臓も盛り付けている。


世の中は昨年の原発事故以来、俄然再生可能エネルギーが注目を浴びるようになって、石油を湯水のごとく使ったエネルギー浪費の時代が終焉を迎えようとしている。

消費財の生産と消費のフル回転が国力を増し、景気を上向かせるという、使い捨ての論理に乗っかった経済というのは、言わば「無駄の論理」でもあった。

この空虚な論理というのが行き詰まりを見せているのは誰しもが認めるところであり、日本はそこからどうやって抜け出していくのか、その的確な方法が見つからず、行き場のない局面をグルグルと廻るだけで、国力を摩耗しているのが今の現実のようだ。

昔今ほど国力がなく貧しかった日本は、貴重な天然資源を大事に扱っていたはずで、そのような貧しくても生きる知恵を、一度見直す時がやってきているのかもしれない。

アラという魚は、昔から天然ものが何時でも何処でも手に入る魚ではなく、やはり希少な存在なので高値がつき大事に扱かわれてきたからこそ、骨以外の全て部位を、十全に活かして食べようという知恵が生まれてきたのである。

この発想はアラという高級魚だけではなく、その他の魚にも活かすことは出来るはずで、それは魚を扱う立場の人それぞれが、どのような考えでそこに臨むかということである。

今一度各人が魚の扱い方は本来どうあるべきなのか、しっかり考えてほしいものである。


更新日時 平成24年12月 1日


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