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平成28年 6月号 150-2
アユの姿鮨
次に、アユの食べ方の一番人気である塩焼きについて触れてみよう。
夏の アウトドア料理と言えば肉のバーベキューが一番人気なのは分からないわけではないけれど、夏のキャンプの時に河原で火起こしをしたら、火の側でアユを串刺しにして塩焼きで食べるというのも、自然の風景に馴染んで一興なのではないかと思うのだが、今時はそんな光景をなかなか見かけなくなってしまい残念である。
アウトドアでアユを串に刺したまま頭からカブリつくのは、ワイルドで豪快な食べ方なのでいつもとは違う格別な美味しさを感じることが出来るが、そのようなシーンではアユの串刺しの形に美しい見栄えなどは特に求められない。しかしこれが魚売場でのアユの塩焼き提案となると、やはりお客様の食欲をそそるには少しでも見栄え良く見せる必要が出てくると思われるが、そのためには多少の技も必要となってくる。
例えば、登り串や踊り串と呼ばれる魚の串刺しの技法がある。
これらは日本料理の店ではごく当たり前に使われている技法であっても、スーパーの魚売場においてそのような姿を見かけることはほとんどなくなっており、今やそんな技法があることさえ知らない水産部門の担当者が増えてきている事実もあることから、この機会に比較的やりやすい方法である「登り串」の工程を以下に紹介しよう。
アユの登り串技法 | |
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1、ウロコを包丁でこそげ取る。 | 4、エラ蓋から串を出し腹部に刺す。 |
2、腹部を押して糞を押し出す。 | 5、腹部を貫き再び串を外に出す。 |
3、口から串を入れ込む。 | 6、魚体がうねるような形にする。 |
アユの串を打つ時に商品として仕上げる時1番注意しなければならないのは「左頭の腹手前にして魚を盛り付ける和食の基本」を踏まえ、表側に串が絶対出ないようにすることである。この点が河原で火を起こして串刺しのアユをパクつくプライベートな集まりの時とは大きく違うところであり、串打ちをする時の最大のポイントである。
ところでアユの塩焼きには蓼酢が付きものなのはご存知の通りであり、下の画像は春光園で出された蓼酢である。この蓼酢は蓼の葉を擦りつぶし酢でのばしたもので、アユの塩焼きにつけると独特の辛味が感じられた。
蓼は特有の香りと辛味を持ち、香辛料として薬味や刺身のつまなどに用いられ野生の紅蓼がもっとも辛く、栽培種の青蓼は辛さが少ないということだ。品種としては、柳蓼(下の画像)、紅蓼、青蓼、細葉蓼などがある。
「蓼食う虫も好き好き」という謂れがあるが、これは蓼のような苦味のあるものでも好んで食べる虫がいるように、人の好みは様々であるとの喩えである。
上の画像は紅蓼(ベニタデ)であり、これは柳蓼の変種で本葉が出る前の幼芽を収穫したもので、普通は刺身のつまに使われることが多くピリッとした辛みが少しある。紅蓼は比較的安価なので色合いをつけるあしらいとしても使い勝手は良い。
次はアユを使った鮨である。姿鮨とにぎり鮨の2種類を作ってみたので、工程を同じくするものは一つとして表現し、違う工程となるものは画像を横に並列して別々に表現している。
アユの姿鮨とにぎり鮨 | |
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1、アユの表面のウロコを包丁でこそげ取る。 | |
2、頭部を切り落としする。 | |
3、腹部を縦に開く。 | |
4、包丁で内臓を掻き出す。 | |
5、中骨の上を包丁で切り進み開く。 | 5、柳葉で下身側を大名おろしする。 |
6、上身側の中骨を切り進み開く。 | 6、上身側を大名おろしする。 |
7、開きの最後に中骨を切落とす。 | 7、上身側の腹骨を除去する。 |
8、両方の腹骨を除去する。 | 8、下身側の腹骨を除去する。 |
9、下部に空間を設けたバットにキッチンペーバーを敷いておろし身を並べる。 | |
10、ペーパーの上に塩を振り、身の上からも振り塩して放置し水分をとる。 | |
11、開き身の塩を水洗いする。 | 11、三枚おろしの塩を水洗いする。 |
12、水分を拭き取った身を酢に漬けて1時間ほど放置する。 | |
13、開き身の上にシャリを丸める。 | 13、三枚おろし身を斜め二つ切り。 |
14、巻き簀で開き身でシャリを巻く | 14、表面の皮に飾り包丁を入れる。 |
15、横に六つ切にする。 | 15、別の身にも飾り包丁する。 |
アユの姿鮨 | アユのにぎり鮨 |
上に紹介した二つの商品の場合は皮はそのまま残して商品化をしたけれど、方法としてはもちろん皮を外しての商品化も可能である。個人的な好みとしては確かに皮なしの方が上品にはなるが、皮があると歯応えが出て見た目もアユらしさを表現できるので、筆者は皮有りの方が好ましく感じる。
さて、2ページに渡って特集した今月号のアユの記事もそろそろ終わりにしよう。
アユは川魚として括られているが、春から夏は確かに川に生息しているけれど、寿命1年の儚い命の3分の1程度を占める仔稚魚期の秋から冬は海で生活するので、このような生活のことを「両側回遊」と呼んで他の川魚とは区別されている。
そしてアユは日本だけでなく、北は北海道付近から南の国のベトナム付近まで東アジア一帯に広く分布しているけれど、どちらかと言えば長大な下流域をもつ大陸の揚子江や黄河、メコン川といった大河川よりも、石についた藻類を食べるという習性から、そういう環境のある比較的小さな河川に好んで生息し、特に日本の川には一番適応している魚なのである。
このためアユは英名で「Ayu」となっていて、まるで日本の固有種のような扱いを受ける魚でもあるのだ。
初夏の風物詩であるアユは暑い季節を強く感じさせる格好の魚であり、食のシーンが自ずと目に浮かぶ日本を代表する魚である。
アユは1kg当たりの単価からすると安い魚ではないけれども、魚体が小さいことから1尾当たりの価格は決して高いとは言えない魚であり、魚売場の店頭では本マグロの大トロとは違って意を決することなく誰でも購入できる魚なのだから、お客様にはもっとたくさん食べてほしいものである。
6月はアユをたくさん販売しよう。
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更新日時 平成28年 6月1日