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平成27年11月号 143-2

海を隔てた魚食の違い


さて、韓国釜山の二日目であるが、釜山での一日目は予想外の驚きがあり、半日にしては収穫は大きかったと言える。

二日目の帰国は遅い時間の18時発の飛行機とは言え、移動や出国手続きの時間を考えると実質15時までしか行動は許されないと考え、見学場所を北東の繁華街西面(ソミョン)地区に昔からある大きな釜田(プジョン)市場を訪問し、魚だけではなく他の食材を含めた韓国の食文化の一端に触れることにした。

地下鉄西面駅近くは様々な近代的ビルが建ち並び、大きな広い地下商店街があって、近代都市の様相を醸し出している一方で、その中心地にある釜田市場は迷路が入り組んだ昔ながらの形で存在しており、この巨大市場はチャガルチ市場のように魚が主体ではなく、野菜果物、肉類、魚類そして生活雑貨まで揃っており、まさに釜山市民の台所といった風情であった。

この釜田市場の中をグルグルと廻りながら見学し、韓国の魚食文化というものを自分なりに考えてみた。
そして筆者には韓国には本来「魚を生で食べる」という食習慣は存在しなかったのではないかと思えたのだった。

最近でこそ日本からの「サシミ文化」の影響や活魚水槽の登場などによって、生の魚を食べる機会が増えたとは言え、本来は肉と同じで「焼く」ことが主な魚料理だったのだろうと感じることになった。

そのように思ったのは下の画像のように「魚の干物」が韓国では非常に充実しており、チャガルチ市場だけではなく釜田市場でも至る所で干物が売られており、昔は干した魚を焼いて食べることが主な食べ方だったのではないかと思えた。

 

 

 

また下の画像のように、コンガリと色良く焼き魚にしたものも至る所で売られており、このように焼き魚が食文化としてしっかり根付いているようだった。

 

そして近年は底引き網漁船の登場によって冷凍魚が充実してきた結果、魚を干す前段階の冷凍解凍魚がシェアを伸ばし、干し魚の存在は以前より希薄になってきているのではないかと思われる。

釜山のチャガルチ魚市場の横の埠頭では、下の画像のように以前の西日本における博多や下関といった底引き網漁船の基地風景を彷彿とさせるものがあり、この風景に筆者はなぜか昔懐かしい思いを抱くことになったのだった。

 

ズラリと並ぶ底引き網漁船の数々 元日本漁船「ISHIDAMARU」がペンキの下に見える

        

 

底引き網漁船から水揚げされている昔懐かしい風景 今や日本では希少な存在となった木製トロ箱

 

この風景から釜山で水揚げされる魚の主体は今でも「底引き網もの」であることが推測され、露店で魚を売っているオバちゃんたちは客の前で堂々と底引きものの冷凍魚を包丁の先などを使って引っ剥がし、それをまだガチガチのまま皿の上に並べて売っているのである。時間が経てば解凍されるので、まあ鮮魚のように見えないことはないのだが、その基本はほとんど冷凍解凍魚ばかりなのである。

また韓国釜山で目立った魚は上画像にあるような、グチ(イシモチ)やキグチ(コイチ)などであったが、これらもやはり底引き網漁船が得意とする魚種なのだ。この他レンコダイ、ミズカレイ、アカムツ、アンコウ、マトウダイ、タチウオなどの魚も目立ったが、いずれも共通しているのは底引き網船のものであることだった。

それにしても釜田市場では本当にたくさんの露店や行商を営む多くのオバちゃんたちが、底引き網ものの解凍された魚を以下の画像のように少し衛生的にはお寒い形で商売している光景が目立った。しかし韓国の保健当局はこれを黙認しているようであり、オバちゃん達が身体を張って生活していることに対して、日本の当局のようにいちいち細かいことに口出しをしない姿勢を持っていることには少し感動するものがあった。

 


そして、2日目最後の締めとして昼過ぎにはチャガルチ市場に戻り、昨日の「変わり者ネタ」ではなく、二日目は少しまともなものを食べてみようと思った。

筆者が毎月仕事で訪問している対馬では、対馬海峡西水道で獲れる「黄金アナゴ」という絶品のアナゴがあり、その美味しさは格別のものであることを知っていたので、その対馬の北端の地から釜山の山並みが見えることもあるという近さの場所で、アナゴはどんな食べ方をしているのか、そしてそれは美味しいのかどうかを知りたかったのである。

筆者は前日から何度も通っている露店と屋台が並んでいる通りを行き来しながら、その中で一番活魚水槽のアナゴが目立っている店に入り、人の良さそうなオバちゃんに覚えたての韓国語で「チャンオ、チュセヨ」と言うと、いきなり「30,000ウォン」という答えが返ってきた。1尾3,000円は高いなと思ったので身振り手振りで小さいので良いと表現したのだが、その意味を理解してくれなかったので英語で「スモール、スモール」と繰り返したら、オバちゃんは店の中から息子のような若い人を連れてきて交代し、彼との間で英語での交渉が始まり、やっと自分の言いたいことが何とか伝えられるようになったのだった。

彼に太刀魚の焼き魚も食べたいと伝えると、アナゴと太刀魚込み1セットで30,000ウォンという交渉が成立したのだった。

ビール2本も頼んだので支払いは総額35,000ウォンだったけれど、最後は韓国の食文化の本道をいく食べ方をしたのではないかと満足したのだった。

下の左画像が太刀魚の焼き魚を含む一人分のセットであり、右が後から出されてきた「アナゴの鉄板焼き」である。

 

太刀魚は特に辛い味付けをされているわけではなく、軽く振り塩をしている感じだったので太刀魚の上品な白身の味は十分に楽しむことができた。

しかしアナゴは最初に間違えて箸をつけたのが開いた身から出た中骨だったようで、筆者の歯は堅い骨にガチっと当たってしまい少し痛い思いをしてしまった。アナゴの中骨もしっかり焼けば美味しいのかもしれないが、まだ火が通っていない骨は硬くて、いきなり「何だこれは!」と思ってしまったのだった。

それから鉄板の上で焼きを進めていくと、アナゴの柔らかい身がプリプリと丸くなっていって美味しく食べられるようになったのだが、やはり昨日のコムジャンオと同じように唐辛子の味が強すぎて、結局のところ筆者はアナゴの微妙な味というのは分からないままに終わってしまったのだった。


さて、そろそろ「韓国釜山のお魚事情見て歩き」も終わりにしよう。

たった2日間だったけれども、筆者にとって「近くて遠い国」であった韓国は以前から一度は行ってみたいと思っていた国であり、やっとそれが実現して一つの課題をクリアーした気持ちである。

約3年前から対馬に毎月仕事に行き始めて、そこには大勢の韓国人観光客が訪れていることを初めて知り、本当に目の前とも言えるような距離の海の向こうにある韓国という外国はどんなところなのだろうという思いがますます募っていたのである。

これで自分も一丁前に韓国のことを多少知ることが出来たのだから、今後仕事の上でも韓国に関する知識を活用できるようになるのではないかと思った。

今回のように短い時間の滞在ではあっても、外国の食文化に触れる経験というのは自分にとって刺激が色々とあるものだということを改めて感じた二日間であった。

機会があればまた次の未知の国を訪問したいものだ・・・・・。


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更新日時 平成27年 11月1日