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令和元年 11月号 191
バンコク魚食事情
広大な湿地帯
今年の海外お魚事情はタイのバンコクである。10月下旬から4泊5日で、実質3日間のバンコク及び周辺の訪問だった。東南アジアの国の訪問は平成23年10月のベトナムホーチミン以来8年ぶりだ。
微笑みの国と呼ばれているタイとはいったいどんな国なのか、筆者の小学校以来の友人は毎年のようにタイだけを訪問するほど惚れ込んでいる。日本人のタイ長期滞在者は7.3万人(2018年調査)もいるらしく、長期滞在者の多くは、日本の大手企業などが海外工場の一つとして進出した海外法人の駐在関係者や家族が多いようだが、大手企業だけではなく一人の人間として新たな可能性を求めてタイで生活をスタートした人たちも多いようであり、今回はそのような例の典型的な人と巡り会うことにもなった。
バンコクは池と運河に囲まれた街で低い標高の湿地帯にあり、その湿地帯はバンコク周辺だけでなく、広大な地域に延々と広がっていて、飛行機がベトナムとラオスの山々を越えて暫くすると、次第に見えてきたタイの湿地帯の様子は、時速1,000qを超えるスピードの飛行機の窓から眺めていても、一体何処まで続くのかと感じるほど本当に広い地域に広がっていたのだった。
タイは北部の山岳地帯と東北部の高原地帯を除いたほとんどの地域が平坦な土地になっているようで、飛行機の窓から見える大きな道は非常に長い一直線だった。それは実際に車に乗って走っても本当に飽きるほど真っ直ぐな道路が多く、筆者が行動した範囲のなかで言えばタイ国土の印象は「山が全くない平坦な土地」というものであった。
なぜ土地が平坦なのかと言えば、それは水の力によって土が平らに均され広大になった地域のようであり、大小の河川と無数の運河や池の存在がその成り立ちを証明していて、そのことは淡水魚の存在の大きさとも密接つながっている事実だった。
バンコクは大小の河川と無数の運河や池に棲息するエビやナマズ、そして様々な淡水魚、プラー・ニンと呼ばれているアフリカ原産の養殖魚ティラピアなど淡水魚の存在が圧倒的であり、海に面しているので海水魚も存在しているのだが、やはり淡水魚の大きな存在感には敵わないと感じた。
メークロン線路市場
1日目はバンコクへの移動で終わり、2日目の朝5時30分にホテルを出発して、先ずはメークロン線路市場に向かった。
メークロン線路市場はバンコク市内から約80q西へ行った海岸沿いの町にあり、ここは市塲の店が線路の中に飛び出して営業している珍しい光景で世界的によく知られた場所である。上画像で分かるように、線路の上まで売場の売台が飛び出してきており、レールとレールの間が歩行者が歩く通路になっている。この線路は廃線などではなく、実際にジーゼル列車が1日5回ほど行き来していて、列車が来ると急いではみ出した売場を通り過ぎる一瞬だけ片付けるのである。そのために売台にはキャスターが付いていて、サッと後ろへ引いて列車の通行を妨げないようになっている。
なぜ列車が通過する前に片付けるようなことが出来るかと言えば、線路市塲のすぐ先は下画像のように行き止まりの終点メークロン駅になっているので、列車は駅へ停車するために減速する必要があり、非常にスローなスピードにせざるを得ない事情があるのだ。この列車のゆっくりとした動きを利用して、店は売台を邪魔にならない奥へ引っ込めることが出来るのである。
メークロン線路市塲は海岸沿いの町にあるので、淡水魚だけではなく海水魚の品揃えも豊富であり、以下の画像のようなものが売られていた。
ナマズ(キャットフィッシュ) | バラマンディ |
イチョウガニ | 淡水産エイ |
ヤリイカ | 干しサワラ |
蒸しプラートゥ(グルクマ) | 干しプラートゥ(グルクマ) |
干しエビ | 干しカエル |
この中で面白いのがプラートゥである。日本ではグルクマと呼ばれる海水魚で、サバの仲間に属するが短い魚体なので、最初は干しアジと勘違いした。
プラートゥのセイロ蒸し |
プラートゥは街の至る所で売られていて、発泡トレーに入れられたものもあるが、そのほとんどが竹で編んだ丸い蒸し器に調理もせず丸のまま入れられ、その全てが同じように首を折られて無理矢理丸い蒸し器の中に入れられている形を面白く感じた。
プラートゥーはまさにタイ人のソウルフード的な大衆魚であり、汁物に入れたり、辛味噌や野菜を添えて食べるし、レストランでは揚げたプラートゥーの身をむしり、エシャロットやレモンなどと一緒に、コショウの葉で包んで食べるミエン・プラートゥーという料理もあるとのことだ。
ダムヌン・サドゥアック水上マーケット
この後、メークロンから約20qほど北にあるダムヌン・サドゥアックの水上マーケットに向かった。水上マーケットとはいったいどんなもので、何故そのようなものが必要なのか、といった疑問が行く前からあり、興味津々だった。
水上マーケットが位置する運河 | 運河沿いに並ぶ店と飲料売りの小舟 |
カットフルーツ売りの小舟 | フライパン料理の小舟 |
揚げバナナ売りの小舟 | 妙齢の女性の水浴シーン |
水上マーケットを訪ねてみて自分なりに理解できたのは、やはり湿地帯と運河との密接な関係だった。バンコク周辺の湿地帯は「運河が道」であり、そして「小舟が車」だから、道路代わりの運河沿いにある店が水上の小舟に向けて商いをおこない、その反対に車代わりの小舟は運河沿いに住む人々や店で働く人に向けて商売をしようとしているという関係が成り立っていると理解した。本来その関係は生活の一部分として細々と営まれてきたはずだが、今や観光客相手にショー化して集客することが目的となっているようであり、以前の姿とは違ってきているのであろうとも感じたのだった。
この後、途中で昼食を挟んで約3時間かけて北へ160kmほど離れたアユタヤ王朝遺跡に向かい、象乗り体験などを含めた観光をしたが、午後の内容は今回の記事とはあまり関係ないので省くことにしたい。
こんな荒っぽい運転をする国は見たことない
この日1日で約400kmを車で移動したが、自分で運転したのではないけれど非常に疲れてしまった。その疲れた1日に400kmの車の移動で感じたタイの交通環境についても少し触れてみよう。
率直な気持ちでいえば、こんな荒っぽい運転をする国は今まで見たことないというのが筆者の印象である。筆者は一昨年まで外国での旅行はほとんどレンタカーを借りて移動することにしていたけれど、一昨年のイタリアでウインカーをほとんど出さないイタリア人の運転マナーに嫌気が差し、ピサとフィレンツェの間の高速道路ではあわやの交通事故となりかねない冷や汗をかき、おまけにフィレンツェでは進入禁止ゾーン入ってしまって交通違反の罰金を取られるなど散々な目に遭った。そこで昨年のアメリカ・カナダ旅行からは現地の1日や半日ツアー、そしてトラベロコガイドなどを頼むことにして、もう外国では自分で運転しないことに決めていた。
だから今回のタイでもそうしたのだが、本当にこの判断で良かったと心から思うことになったのだった。それはとにかくタイは「車の運転が荒い」からなのだ。バンコク市街地を時速80q以上のスピードを出すのはどの車も当たり前で、ウインカーはほとんど出さず、仮にウインカーを使うとしてもそれは無理矢理に車間へ割り込む時だけであり、歩行者専用の横断歩道の信号で車の方が赤になっても停車してくれる車は1台もなく、普通にどんどん横断歩道へ突っ込んで歩行者はとても渡れはしないのだ。そしてもし交通違反が警官にバレたとしても、そのほとんどの場合は警官への少額賄賂を渡して帳消しになるのである。これは聞いた話ではなく、実際に筆者は白バイ警官に賄賂を渡す現場に出くわした。だから交通マナーなどないようなもので、誰もがとにかく何でもかんでもし放題の無法状態という状況なのである。
現時点のバンコクはまだ有料高速道路は少なく距離も短いようで、郊外に出ると片道3車線の無料ハイウェイが真っ直ぐどこまでも続いており、どこにも信号がないのでどの車も時速120qから150qほどのスピードでガンガン飛ばして進み、そこは立体交差の仕組みも整備されておらず、歩行者が道路を横切るのは一体どうしたら良いのかと考えると、日本人の感覚からするとそれはほぼ不可能だと思ったのだった。
2017年2月のアメリカのリサーチ会社による調査の発表で、タイは人口10万人あたりで36.2人が死亡していて(ちなみに日本は4.7人)、交通事故死亡率で世界ワースト1位であり、交通事情で世界最悪の不名誉を手に入れている。タイは飲酒運転による交通事故やバイクでのヘルメット未着用走行などが問題とされて久しいとのことだが、WHOはタイの道路交通事情について、道路の保全管理、車両の整備基準、道路交通法規の執行などが不十分と指摘している。この他に統計上表れていない事故も多数あると見られており、実際の数値はその1.5から2倍になると言われているのだ。
またタイに入国する前にイメージしていたベトナムホーチミンのような「2輪車の洪水」のような数多くの2輪車の存在はなく、筆者の事前の予想を覆した圧倒的な車社会であった。それもピックアップトラックが本場アメリカ以上のレベルで浸透していて、セダンなどを含めた車全体の90%近くは日本車だと推定された。その理由を推測してみると、タイは車が左側通行右ハンドルの日本と同じなので、過去の時期に日本からの輸出もしやすかったと考えられ、自動車メーカーはこぞってタイに現地法人の工場をつくり、現地生産による価格的な優位性を築き上げ、このように日本車が圧倒的シェアを占める地位を築き上げることになったと思われる。
いっぽうタクシーもすべて日本車であり、筆者はタクシー運賃が安いので市内の移動はバスも地下鉄も一切使わず100%タクシーを利用した。しかしタクシー運転手のマナーは悪く、乗客はタクシーに乗車する時に行き先を伝えなければならないので、必ずドアを開けて先に運転手に行き先を告げるのだが、メーターを倒さずにほぼ1.5倍の料金をふっかけてくることが多いのには閉口した。
タクシー料金は日本に比べると格段に安いが、不愉快な態度には慣れていったものの「微笑みの国タイ」という事前のイメージは次第に薄れていくばかりだった。
タイの魚市場
バンコクでのメインテーマは3日目にしていた。タイ在住のトラベロコさんにタイの魚市場を案内してもらえることになっていて、その後はスーパー・デパートなどの小売り事情も調査する計画をしていた。
ホテルでの待ち合わせ時間は午前3時に指定された。それは魚市場の競りのスタートが4時なのでそれに間に合わせるための出発時間だということだった。目的の魚市場はサムットサーコーン市場であり、魚だけでなく他の生鮮食料品なども大きく扱っている東南アジア最大級の卸売市場である。
4時にスタートするのは「競りではなく入札」であり、その開始時間には間に合ったのだが、運悪く市場の役人のような人物からいきなり撮影はダメと注意され、思う存分に撮影は出来ずカメラのタイムラプス機能を利用した隠し撮りしか出来なかったので、まともに焦点の合った画像は一つも撮れなかったのが非常に残念である。
タイムラプス機能による一定間隔のカメラ任せの自動撮影のため焦点はボケてしまっているが、多少まともな部類に入る画像数点を以下に紹介したい。
カマスサワラとイチョウガニ | たぶん、冷凍鮨ダネ用の小ヤリイカ |
これがプラートゥ(グルクマ) | 魚種不明だがイシモチ系のキグチか? |
カマスサワラ | ヤイトガツオ、スギ、ロウニンアジなど |
こうして撮影の目的は非常に不満を残しながらも、バンコクにこれほど大きな卸売り魚市場が存在し、朝早くから入札が行われていることを知っただけでも充分な収穫であった。
そこで仕入れられた魚たちが運ばれて売られている小売り市場が近くにあった。そこはマハチャイ市場であり、面白いことにその市場に隣接してマハチャイ駅があり、そこにはメークロン線路市塲と同じような線路の上で商売する露天商の売場風景もあったのだった。
マハチャイ市場の様子 | マハチャイ駅近くの線路市塲 |
麹のようなものに漬けられた魚の切身 | 魚醤の製造工程と思われる |
川ガニ | 様々な種類のエビ |
この後、今度は魚の水揚げの様子を見るために近くのマハチャイの漁港に向かった。そしてマハチャイ漁港ではちょうど魚の水揚げがされている最中だった。
マハチャイ漁港で魚を水揚げしている漁船 | 魚が水揚げされている様子 |
水揚げされたメアジ | 魚がサイズ別に仕分けされている様子 |
魚市場の右端では別の漁船が別の魚を水揚げ中 | 水揚げされたばかりのプラートゥ |
これでタイの漁港での水揚げ状況も確認することになり、卸売市場の様子も視察したし、小売店での販売状況も確認することが出来たので、次はスーパーやデパートでの魚の販売状況も見学する順番である。
タイのスーパーの魚売場
朝食をとるために入ったのは、タイでバンコク首都圏とパタヤ、コラートに21店舗を展開する24時間営業のスーパー FOOD LANDだった。
ここでは魚売場の写真撮影の許可をもらって撮ったが、下画像のこれだけの魚売場しかないので、1日に一体どれだけ魚が売れているのだろうと疑問を感じざるを得ないレベルだった。
魚の品揃えは基本的に刺身や鮨は無しで生食用として生サーモンブロックとティラピアの半身フィレがあるくらいで、その他は全て加熱用だと推測できる内容だった。バンコク市内サイアムのグルメスーパーサイアムパラゴン店では、刺身があるにはあったのだけれどキハダマグロの刺身が1切れ120円ほどで売られており、刺身というのは一部の高所得者層向けに特化された商品となっている判断したのだった。
ちなみにバンコクにある和風居酒屋「円」の刺身と、鮨店「鮨正」のにぎり鮨を紹介しよう。
399バーツ(1,436円) | 1,300バーツ(4,680円) |
この刺身と鮨の価格がタイでどんな風に受け止められるかをされるかを想像してみてほしい。現在のタイで働いている人の給与平均的金額は1日当たり300バーツと言われているので、コストパフォーマンスのレベルは皆さんで想像してほしいのである。
上画像の刺身はキハダマグロが解凍もの、生サーモンは空輸もの、ブリは血合いが変色していたのでおそらく解凍ものと推測した。鮨はこの店の特上の部類で「MASA GRAND SET」と名づけられ、大トロ中トロ入りなので質的には悪くないと判断したけれど、1カン500円の計算に2回目の利用はないと思った。
タイのシーフード料理
料理のついでにバンコク滞在中に食べたタイのシーフード料理を以下に紹介したい。料理名と金額はすべて把握していないのはお許し願いたい。なぜなら、レシートに必ずしも英語表記はなく、帰国した後で整理をしても何がどれか解明できないものが幾つもあったからである。
POO NIME PRIK THAI DUM 250バーツ | PAD THAI GOONG MAE NAM YANG 220バーツ |
(揚げソフトシェルクラブのブラックソースペッパー) | (タマリンドソース添え川エビの麺入り炒飯) |
ブー・パッ・ポン・カリー (ふわふわとじ卵入りカニ入りカレー) | お粥入り魚スープ |
トム・ヤム・シーフード(シーフードトムヤム風) | カウ・パット・プー(カニ炒飯) |
ホイ・シェル・オブ・チーズ(ホタテのチーズ焼き) | パム・バット・カイケム(イカ炒め黄身入り) |
パム・クヤーン(イカ焼き) | カーオ・ニアオ・マムアン(マンゴースイーツ) |
タイのお魚事情総括
さて今月号もそろろそ総括することにしよう。タイのバンコクとその周辺を4泊5日動いただけでは表面上のことしか分からないのは百も承知だが、やはりテレビの映像や本の知識ではとても得ることの出来ない貴重な体験がバンコクの旅で出来たことは間違いない。
旅行の姿勢としては、出来るだけ事前に調べた情報では得られないことを知りたいと思っていたのだが、そんな思いとはほぼ関係なく次々にタイの様々な事情を知り得ることになって充実した5日間だった。
例えば以下の画像は知っているようで実は知らないことの一つだった。
左上画像はアフリカ原産のティラピアであり、タイではプラー・ニンと呼ばれている。そして赤い魚はティラピアの人工的な交配種プラー・タプティムである。赤い方は本来の黒い方に比べると1.5倍から2倍の価格がするということなのだが、筆者は赤いティラピアがいることを初めて知ったのである。
さらに右上画像はテナガエビなのだが、テナガエビにこんな馬鹿でかいサイズのものがいることも知らなかったのだ。実は目にするもののほとんどが知らないことばかりであり、まさに知っているようで知らないことの連続だったのである。
「微笑みの国タイ」とは何を指すのか、結局のところ解答は出ずじまいだったのだが、筆者がほんの3日間で受け止めたタイの印象は「適当で好い加減が許されている国」というものだった。日本のように国や県による雁字搦めの法律的締め付けがほとんどなく、タイの人々はバイタリティー溢れる形で自由に生活し、決して高くはない収入であっても、それはそれなりに生きていけるのがタイではないのだろうかと思うことになった。
タイは東南アジアでは発展した途上国であり、工業面でも一番近代化が進んでいるようだが、やはり根本的な部分ではまだ農業国の一線を抜け出してはいないレベルのようだと感じた。国としてまだ発展途上にあって、行政上の法律的な部分は色々と緩いことがあり、それが良くないことかと言えば決してそうではなく、逆にそういう「適当で好い加減が許されている国」という特徴は、良い意味でこれからも維持し続けた方が良いのではないかと感じたのだった。
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更新日時 令和元年 11月 1日