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The Fish Food Retail Net
平成22年11月号 No.83
英・仏 お魚事情
今月号はイギリスとフランスのお魚事情をレポートしよう。
上の2枚の写真はパリ近郊ベルサイユ近くにあるCHAVILLEという小さな街で、10月31日(日曜日)に偶然発見した市場にある、2軒の魚屋さんの風景である。この場所に来るまで、イギリスからフランスにかけての旅も6日目となり、「魚のニーズと小売り事情は、なるほど、こんなものなのだ・・・」と、ある意味で、食文化の違いのような判断をしかけていた。
今回の旅は、英国スコットランドの首都エディンバラからスタートしたのだが、例えば下の写真はエディンバラ市内にある、WaitRose Market というスーパーである。
生魚は基本的にブロック売りで丸魚は少なく、鮮度もあまり良くないという印象であり、魚がどんどん売れているという風な情景はなかった。
次に上の写真は、英国イングランドのリバプール郊外にあるMorrisonsである。
思った以上に魚の種類は多いと思ったが、鮮度的に刺身になるようなものは皆無と見た。
基本的に魚売場はブロックやフィーレだけであり、トレーにパックされた魚はなく、壁際の冷蔵ケースに真空にされたスモークサーモンなどが並んでいるだけだった。
これらの魚は、英国で例えば以下のような食べ方をされていることが想像出来た。
Salmon Grill £9.95(英)
Fish&Cipps £8.99(英)
リバプールのレストランで食べた、上の写真のSalmon Grillは、鮭の皮がカリカリと焼けて美味しく、厚切りの身はとてもジューシーだったし、ロンドンのパブでは、昼食に有名なFish&Cippsを食べてみたが、独特の味付けをしたフライの衣が美味しく、中身の白身も上等であった。
しかし、英国ではレストランで魚料理を探すのに苦労した。
基本的に魚料理は非常にマイナーな存在でしかなく、英国の家庭には、魚料理が浸透しているとはとても想像出来なかった。
やはり、英仏における魚の事情というのはこんなものかと、フランスを含めた形を勝手に想像をしていた。
ところが、それまでの魚事情の思い込みを根本的に覆すような場面に遭遇したのである。
下の写真は、巻頭写真の魚売場があるパリ近郊ベルサイユ近くの、CHAVILLEという小さな街の古い建物である。
そこは古い老朽化した大きな建物をガランドウにして「市場」にしたようで、写真のように表には看板も何もないのである。
ところが日曜の昼の12時前後の時間だというのに、お客様は市場の中にある2軒の魚屋さんの前に、5〜6人は列を作って待つほどの賑わいであり、ほんの真横にあるmonoprixというチェーンストアの魚売場の閑散さとは大きな違いだった。
monoprixも上の左写真のように「対面裸売り」をしているのだが、
あまり売れている風ではなく、市場の魚屋さんに圧倒的な差をつけられていたのだった。
どうしてこのような違いがあるのかを比較してみると、結論は、まさに日本の魚事情にも通じる、
「鮮度、品揃え、サービス」の違いだったのである。
市場の中の2軒の魚屋さんは肉屋さんを間に挟んで、競い合うようにして「鮮度、品揃え、サービス」の魅力を放っており、これでは肉屋の担当を兼任しているmonoprixの魚屋は、市場の魚屋さんにとても敵わないと感じた。
市場の魚屋さん A
市場の魚屋さん B
その日の2軒の魚屋さんの前には、常に5〜6人のお客さんが調理の順番を待っており、それぞれの店には、夫婦とおぼしき二人組みの店と、共同経営者らしき男性二人組の店は、ずっと何十分もの間、応対と調理対応でテンテコ舞いだったのだ。
実際のところ、フランスの家庭でこれだけの魚のニーズがあるのが大変な驚きだった。
そこまでは、英仏において「魚のニーズは非常に乏しい」と決めつけようとしていたのだが、その矢先にこのような偏見を覆すような光景を見させられると、断定をしようとしていた自分を反省せざるを得ないことになったのだ。
フランスではそれぞれの家庭において「魚をそれなりに食している」という実態が見えてきた。
monoprixと市場の魚屋さを比較して感じたのは、日本の小売り環境と同じ「消費者心理」というものだった。
世界中、どこへ行っても「鮮度、品揃え、サービス」の魅力は同じなのだ。
商売において、この原則をしっかり確立したものがお客様に選ばれる。
そしてこの旅で、魚売場にとって一つの重要な基本原則を発見したと思った。
それは「対面販売の重要性」である。
今回イギリスでもフランスでも感じたのは、魚の販売方法の基本は「生魚の対面裸売り」であり、これは過去に見聞したアメリカでも同じだったのである。
やはり魚売場は「ニーズに100%応えられる対面販売」が大事だという実感だった。
日本のように魚の需要はあまり多くない英仏においても、魚の販売の基本は、やはり「対面売り」なのである。
経験上、魚売場における対面販売の重要性は解っていたつもりだったが、改めて今回「世界共通の魚を売る基本型」は対面販売だと認識したのだった。
日本において、これまでは「対面販売」よりも効率的で合理的な、プリパッケージ手法が尊ばれ、今もそれが売上の大半であることは事実であるが、お客様の本当のニーズはもしかすると、それとは少し違うところにもあるかもしれないと考えていくべきであろう。
丸の生魚を対面販売する前時代的な方法と見られている、その手法というのは、実は「黄金の法則」なのかもしれない。
もう一つ、大事なことに言及することを忘れていたので、今日は2日だが追伸しよう。
それは、鮮度についてである。
今回スコットランドのエジンバラから、パリ郊外のイルドフランスまで、数多くの魚売場を視察したけれども、ハッキリ言ってどこも日本の感覚からすると、魚の鮮度はもう一つだった。
しかし鮮度がもう一つとは言えども、そこには各店明らかな差があったのである。
パリ近郊ベルサイユ近くにあるCHAVILLEという小さな街の2軒の魚屋さんは、他店と比較すると、明らかに「鮮度」が一番良かったのである。
これはなぜかと言うと、独特の販売方法にポイントがあるようなのである。
フランスは金曜日に魚市場が開くので、金曜と土曜が週で一番鮮度の良い魚が手に入る。
だから、魚を買いたい消費者は金曜か土曜に購入する傾向にあるらしい。
また、大手スーパーのカルフールなどは、日曜日が一般企業と同じように公休日なので、この市場の魚屋さんは逆手を執って日曜日を「かき入れ時」としているらしく、月曜から木曜日は店を閉めているようなのである。
つまり、市場というそれぞれ独立心の強い店の集まりなのだから、店を週の中で何時休もうとも自分たちの勝手であり、2軒の魚屋さんの間にあった肉屋さんは日曜日が休みらしく、魚屋も肉屋も都合の良い日を店休日にしているようだ。
2軒の魚屋さんは、1週間の中で金曜、土曜、日曜の3日間だけ営業を行い、他店と比較すると鮮度の良い魚を回転良く販売しているようなので、その結果として、ひっきりなしの忙しさが続くほどの繁盛をしているようなのだ。
イギリスやフランスの消費者は、刺身に出来るような魚を求めているのではないとしても、実は間違いなく「鮮度の良い魚をほしがっている」ということなのだ。
両国の消費者は「出来れば少しでも鮮度の良い魚がほしい」ということを購買行動によって示していると判断すべきだと思う。
つまり、これも万国共通のニーズだと考えるべきであり、「鮮度、品揃え、サービス」は、魚部門が確立しなければならない命題であることは、外国も日本も同じだということを今回の旅で学ぶことが出来た。
ちなみに、フランスでの魚料理はどんな食べ方をされているかを想像するために、下の写真で、フランスのレストランでの魚料理を紹介して、今回の外国編は終了することにしよう。
Filet de doudraud royale poele, rissoto et aspelagas vertes(鯛) €24
Sole entiere grilee au meuniere(舌平目) €28
(France Paris Hotel Bedford にて)
更新日時 平成22年11月1日 |
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