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令和 6年 12月号 252
クロムツ
見分けが困難
11月下旬にクロムツが手に入った。クロムツを扱うのは初めてではなく、これまでに何度もその機会があったけれど、FISH FOOD TIMES の題材として採りあげるには、画像の内容が物足りないと感じていた。しかし今回は、クロムツという魚の魅力をそれなりに伝えられる材料が揃ったようだと判断し、今月号のテーマとすることにした。
以下の画像は筆者が過去に扱ったクロムツの画像である。日付はデータが記録されているので間違いないものの、これらの重さについては画像の環境から推測したものなので、過去に遡るほど正確さから遠ざかっていると思った方が良いだろう。
また、更に問題なことは、実は上の画像の魚がクロムツなのかムツなのかが判然としないのである。その理由は、クロムツとムツが水産流通段階において明確に区別されておらず、基本的にすべてクロムツの名称で取り引きされているからである。
何しろ、クロムツとムツの違いは、ウロコの大きさはムツのほうがクロムツより少しだけ大きく、側線にあるウロコの数が、クロムツは60枚以上、ムツは58枚以下であり、また上あごの歯の数がクロムツが12ヶ以下でムツが13ヶ以上ということである。更に魚体色がムツよりもクロムツの方が黒っぽいらしい。
しかし、普通の水産関係者がこれらの情報を踏まえて、クロムツかムツの判別を正確におこなうのは簡単ではないことは皆さんに理解してもらえるのではないかと思う。これらを間違いなく峻別することは魚市場関係者でも難しいと言われていて、その結果どちらもクロムツの名称で魚市場段階から魚小売店の現場レベルまで流通するようになっているのである。
鹿児島県奄美大島産のクロムツ切身
15年前の5月に、奄美大島にあるスーパーの水産部門を指導していた時、自分で調理した魚を撮った画像が上画像のなかで一番大きな約600gの大きさのクロムツである。この時の記憶を辿ると、明確には覚えていないけれど、クロムツにしてはあまり脂肪がのっていなかったことから切身にしたようだ。
クロムツの切身 |
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1,約600gの大きさのクロムツ |
2,頭部を付けたまま魚体を縦半分に切り分ける。 |
3,頭部の後方に身を多めに残す形で、半身4分けの切身にする。 |
筆者の経験からすると、奄美大島が位置する南西諸島や、さらに南の沖縄諸島では同じクロムツであっても比較的脂肪分が少なく感じられ、ムツの語源となった「ムッチリ感=ムツ」が弱いと感じる。この時は特に産卵後の季節に当たる5月だったので、そのことが強く感じられたかもしれない。
長崎県対馬産のクロムツにぎり鮨
次は2016年11月8日に調理した約120gのクロムツである。この大きさとなると、いかにも成長途上の若魚であり、それは定置網で水揚げされ、店に運ばれてきて数時間しか経っていない鮮度抜群のクロムツだった。その大きさはとても小さかったので、店で調理をして販売するにはやや面倒であることから、価格は驚くほど安かったと記憶している。
こういう大きさの魚を一尾ずつ丁寧に調理していては作業効率が悪いので、筆者は鮨ダネにすることを目的として、一気にスピード感をもって調理する方法をおこなうことにした。以下がその作業工程である。
クロムツのスピーディー調理 | |
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1,約120gのクロムツ | 7,上身側も下身側での方法と同じく、中骨の上までやや斜めに切り込みを入れる。 |
2,ウロコを取らず、内臓も出さず、下身側の胸ビレ横に切身用の柳刃を使って、やや斜めの角度に中骨の上まで切り込みを入れる。 | 8,そのまま中骨の上を尾ビレの方に向けて柳刃を切り進める。 |
3,そのまま中骨の上を尾ビレの方に向けて柳刃を切り進める。 | 9,尾ビレの近くまで切り進めたら、皮を切り離さず、皮と身の間に刃先を切り入れる。 |
4,尾ビレの近くまで切り進めたら、皮を切り離さず、皮と身の間に刃先を切り入れる。 | 10,内引き方法で頭部側の端まで皮を引いて皮と身を分離し、小骨上部を削り、腹骨を除去する。 |
5,内引き方法で頭部側の端まで皮を引いて、そのまま皮と身を分離する。 | 11,すべての不可食部分を除去した後、短時間でウロコや汚れを水洗いし、水気を除去する。 |
6,分離した半身の小骨上部を刃先で削り、そのまま腹骨の下に刃先を切り入れ、腹骨部分を除去する。 | 12,キッチンペーパーなどで水気を除去したら、仕上げとして小骨の残りを引き抜けば完璧だが、実はクロムツの小骨は頭部側に少ししかなく、柳刃の調理で既にほとんど切り落としているので、小骨抜き作業は省略し、これをそのまま食べても小骨は口の中でほとんど気にならない。 |
小さいサイズのクロムツなので、半身を鮨ダネ1カンとして商品化した。 |
ここで紹介しているスピーディー調理の方法は、小さなサイズで比較的安い魚を調理する際に、@ウロコ取り、A内臓の除去、B頭部の分離、C三枚おろし、D皮引き、E小骨引き抜き除去、など一つ一つの作業を別々におこなうのではなく、大胆に一部の作業を省略しながら、一連の流れとして効率的におこなう方法である。
これは実にスピーディーな作業ではあるが、ウロコ・内臓・血など魚身に付いて残っている不可食部分を手早く水洗いして洗い流し、さらにしっかり水気を拭き取ることを最後の作業工程として、きちんとやらなければならない。この最後の仕上げさえ丁寧におこなうことが出来れば、比較的安く手に入る可能性が高い小魚を素晴らしい値入率のある商品とすることが出来る。
福岡県で手に入れたクロムツの商品化
今年の11月22日に、いつものお馴染みで親しくさせてもらっているスーパーの魚売場で購入したのが約250gの大きさのクロムツである。かつて5年ほど筆者が水産部門の指導を担わせていただいたこの店の魚売場は、この11月度に売上高が4,700万円を超えそうな勢いというのだから驚きである。魚売場にはクロムツのようなどちらかと言えばマイナーな魚を含め、全国から仕入れした様々な生魚を、これでもかとばかりに裸売りの形で品揃えしている。あの角上魚類を例に出すまでもなく、魚売場のこのような数多くの生魚の品揃えに惹かれて、広い商圏から長い時間をかけ、この店にわざわざ魚を購入しに来店されるお客様がますます増えているようなのである。だからこそ大きな規模とは言えない約300坪ほどのスーパーで、これだけの水産部門売上高を示しているのだろうと推測したのだった。
その店で約250gのクロムツを2尾購入した。これらを刺身と鮨にはしてみたいと決めていたが、サイズ的には塩焼きにも手頃であり、塩焼きでも食べてみたいと思った。そこで、半身を塩焼きとすることにして、以下のように調理作業をおこなった。
クロムツの塩焼き用作業工程 | |
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1,約250gのクロムツ | 7,刃先をそのまま頭部に切り入れ、半割にする。 |
2,ウロコを取り、内臓を除去し、水気を拭き取った後、頭部を残したまま下身の尻ビレの際に切り入れ、山高骨まで切り進む。 | 8,口先部分が切り離せない時は、刃先をまな板に圧力をかけ押し込む。 |
3,下身の背ビレ際に切り入れ、山高骨まで切り進む | 9,口先を切って分割する。 |
4,頭部まで中骨の上を切り進める。 | 10,尾ビレの近くを切り離す。 |
5,尾ビレの近くに切っ先を切り入れ、中骨の上を貫通させる。 | 11,上身側の中骨付き半身を、尾ビレの長さは計算に入れず、斜めに二分割する。 |
6,貫通させた穴から、刃先を頭部に向けて切り進める。 | 12,クロムツの塩焼き用商品 |
そして、焼き上げたクロムツが以下の画像である。
食した感想は「実に旨い・・・、冷めても固くならず、ずっと美味しさを味わえる」ということだった。
クロムツという魚は「素材そのものとして美味しさのレベルが高い」ということが、塩焼きに限らず、火を通さずに食した刺身や鮨でも感じられた。
以下が、クロムツの刺身と鮨の作業工程である。
クロムツの刺身とにぎり鮨作業工程 | |
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1,下身側の頭部をたすき掛けに切り離す。 | 7,皮を除去した下身の表面は脂肪がたっぷりと付いている。 |
2,下身の腹骨下に切り入れ、切り進める。 | 8,左の姿勢のそぎ造りで刺身と鮨ダネにする。 |
3,腹骨の下を端まで切り開き腹骨を除去。 | 9,もう1尾分の下身を炙りにする。 |
4,腹骨と小骨を除去した下身。 | 10,氷の上に皮付き下身を置いてバーナーで炙る。 |
5,尾ビレ側から皮と身の間に刃先を切り込む。 | 11,炙りにした皮付き下身 |
6,頭部側の端まで皮引きをして皮を除去する。 | 12,左の姿勢でそぎ造りをするが、皮下の脂肪が多く皮がめくれるため、形良く切って仕上げるのが難しい。 |
この刺身は左上の7切れが皮なし、右下に炙りを5切れ盛りつけた。 | |
にぎり鮨は上の7カンが皮なし、下の3カンが炙りである。 |
クロムツはアカムツに劣らない
クロムツはどのように料理しても美味しいように思えた。とにかくこの魚は料理素材としてのレベルが高いのである。いっぽう、クロムツという魚名を耳にすると、誰しもが美味しさで全国にその名を轟かせているアカムツ(通称ノドグロ)のことを反射的に思い浮かべるのではないだろうか。
そのアカムツとクロムツは、形そのものは似ているけれど、赤いか黒いかだけでなく基本的に別の魚として括られる。クロムツはスズキ目スズキ亜目ムツ科クロムツ属であり、アカムツはスズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科アカムツ属 である。
この際だから、画像で比較してみよう。
上の画像にあるクロムツとアカムツを並べて比較すると、クロムツの方が細長くスマートで、アカムツはクロムツより体高が高くて丸みを帯びている。形が似ているとは言っても別の魚種であることは明白であり、兄弟でも何でもないことは誰でも理解できると思われる。
10年前に扱ったこのアカムツの重量は、ほぼ450gほどで間違いないと思われる。なぜなら、これは以下の画像の中から取り出した1尾だからである。
このアカムツが入れられていたスチロール箱には、以下のような表示がされていた。
これは筆者が14年前から水産部門の指導をさせていただいている、長崎県対馬市に所在しているスーパーの鮮魚部門作業場で、2015年6月8日に入荷したアカムツを撮影したものである。その仕入れ原価についてはほとんど記憶していないけれど、産地だからといって必ずしも飛びっ切り安いというわけではなく、アカムツに相応しいそれなりの価格だったような覚えがある。
クロムツとアカムツを食べ比べてみると、脂肪の違いを感覚的なレベルで表現すれば、アカムツは濃いめの脂肪であり、クロムツのそれは全体的にバランス良く散っていて、アカムツよりも薄めのようだと感じた。
クロムツとアカムツは同じムツという名称がくっついているが、これは脂肪のムッチリ感から派生したものだということを既に上記したけれど、どちらもその脂肪が美味しさを際立たせている別の科に属する魚種である。たぶん一般的な評価としては、アカムツの方が赤い見栄えの良さもあり高く評価されているかもしれないが、クロムツはアカムツに決して劣らない味の良さがあることを改めて強調しておきたい。
クロムツはこれから寒い季節を迎え、さらに脂肪を蓄えてどんどん美味しくなっていく。春の産卵シーズンを迎えると、ムツコと呼ばれる魚卵が珍重されるようになる。魚卵が大きくなればなるほど魚体の脂肪分は卵に吸い取られる仕組みを考えると、真冬の魚卵がまだ成長し切れていない時期にこそ、お客様がクロムツを購入し賞味されるようにお勧めしたいものである。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 6年 12月 1日