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令和 7年 4月号  256

ミズカレイ(ムシガレイ)

ミズカレイ


ミズカレイとは・・・

重さ367gから412gの大きさのミズカレイを3尾購入した。いつもの店で責任者の方が1尾400円にしてくれたので、kg当たり価格は1,000円ほどだと見て良いと思われる。

ミズカレイ(ムシガレイ)

この魚の標準和名はムシガレイということらしいが、そもそも筆者はこの名称に昔から馴染みがない。またその名前の付け方が「虫食いされた葉っぱのような形状のカレイ」というのもあまり気にくわないので、一般魚名として通用するミズカレイで、今月号は通していきたいと思う。

別名ミズカレイという魚名は、その身の特徴が水っぽいことからきたようで、刺身や鮨などにはしないのが普通であり、一般的には価格的な意味で必ずしも高い評価は得られていない魚である。

今回購入したミズカレイはどれも魚体上面部が丸く盛り上がり、卵巣も外側からその存在がハッキリ判るほど成長していて、まさに旬の真っ只中にあるのが確認できる状態だった。

ミズカレイ(ムシガレイ)

ミズカレイを裏返して下面部を見ると真っ白な色合いを保っており、その表面は表裏ともにタップリのヌメリで覆われ、エラの色も赤くて良い色が残っていて、鮮度は上々だと判断した。

筆者はふと「ミズカレイの刺身や鮨はどんな味がするのだろう」と思った。そこで、ミズカレイが並んでいた魚売場の方に「ミズカレイの刺身は美味しいと思いますか?」と聞いてみた。すると、その返事は「腹を壊しても責任持ちませんヨ・・・」と笑いながら答えてくれたのだった。

それはそうだろう、そのような反応というのは言わば想定内のことであり、筆者自身でさえも誰かにこういう質問をされたら、似たような返答をするかもしれないからである。

水産業界に長く関わり、年齢を重ねてきた福岡など北部九州の地域に住む水産関係者にとって、ミズカレイの昔からのイメージというのは「以西底引きもの」とイコールであり、以西ものを刺身にするという発想には基本的につながらないからである。

昔、筆者が福岡市にある長浜魚市場に毎朝通っていた1970年代の頃、以西底引き網漁は漁業としてまだまだ盛んな時代であり、それは朝3時の一番競りとかではなく、6時や7時など少し遅めの時間に、魚市場の岸壁に横付けされた以西底引き船からの水揚げ光景を筆者はよく見ていたものである。水揚げされる魚はまさに種々雑多そのものであり、そのなかにはミズカレイだけでなく、先月号で採りあげたアカムツやレンコダイ、アンコウなど、本当に色々な魚が混じって水揚げされていた。

その時代は、まだ質より量の考えが支配していた頃であり、木製のトロ箱には基準の約15kgを明らかに超えた魚が山盛りに入れられていた。そして、そのトロ箱が山(2段や3段ではなく、まさに山)のように積み上げられ、荷受けの競り人がその山の上に登って、眼下に大勢たむろしている地元仲買や出荷仲買いの人たちを見下ろし、大声で「 ワサゲン! ゲンゲン! ガタボー!」などといった業界隠語を叫んで、競りのやり取りしていたのを覚えている。ちなみに、福岡魚市場に関連する魚業界内で使用されている業界隠語の1から10の数字は、ソク リャン テン ワサ ゲンコ ガタ ヨシ タメ キワ パイであり、ワサゲンとは450円または4,500円のことである。

つまり、以西ものというのは今の時代のように1尾1尾を大事に大切に扱われるようなことはなく、トロ箱に15kg以上が山盛りされ、小売店の仕入れでも1尾ではなく箱単位で取り引きされる「惣菜魚」と呼ばれる比較的安い魚が大半だったのだ。だから、用途としては刺身向けの魚は少数派であり、大半が塩焼きや煮付け向きの魚ばかりであり、ミズカレイもそういう魚の一つとして括られてきた歴史があるのだ。

しかし思い起こしてみてほしい、今や超高級魚として知れ渡るアカムツでさえも、その当時はミズカレイと扱いは同じであり、当時の筆者もアカムツを刺身で食べるなんてことは考えもしなかった。以西底曳きものアカムツは赤い色が飛んで白っぽくなっているだけではなく、ウロコはほとんどなく、魚体は柔らかく張りがないのだから、一般的な鮮度判断基準で言えば刺身にしないのが順当なのである。

同じように、ミズカレイも魚体の色は白っぽく、身は柔らかく張りがない、その上肛門から内臓が飛び出していることも珍しくないと来たら、普通は生で食べようとしないだろう。そのようなミズカレイのイメージは、長年水産業界に携わってきた人からすると簡単に消し去れるものではなく、ミズカレイという魚の印象として深く刻み込まれているはずなので、ミズカレイを刺身してみたいと言うと「腹を壊しても責任持ちませんヨ・・・」と笑いながら警告されたのである。


ミズカレイの生食商品化

今回購入したミズカレイは長崎県産ということだが、どんな方法で漁獲されたかは不明であり、推測するしかないが、その丁寧な扱い方や鮮度感からすると、近海の小型底引き網漁によるものではないかと思った。

ミズカレイ3尾の内1尾は唐揚げ、1尾は煮付けにすることにして至極まっとうな料理にすることにした。そして、残り1尾の卵巣が一番小さくて鮮度が良いと感じるミズカレイを刺身と鮨にすることにした。それを食べるのは自分であり売り物にするのではないのだから、自分が「腹を壊す」のを覚悟すれば良いのだ。とにかく人生初経験、ミズカレイを刺身と鮨を食べてみることにした。

まずは、ミズカレイを刺身と鮨にするための三枚おろしと皮引きまでの作業工程である。

ミズカレイの刺身・鮨用三枚おろし
ミズカレイ ミズカレイ
1,ミズカレイは腹部を向こう側、頭部を左にして置き、出刃包丁の切っ先を右上方向に向ける。

8,有眼側の尾ビレ近くを切り離す。

ミズカレイ
2,価値のある卵巣を傷つけない角度で出刃包丁を切り入れ、頭部を切り離し内臓を除去する。 9,無眼側の背ビレ際に、逆手包丁で切り口をつける。
ミズカレイ ミズカレイ
3,腹腔内の血合い膜に包丁の切っ先で切り口をつけ、血合いを洗い流す。 10,逆手包丁のまま、背ビレ際を頭部側へと切り進める。
ミズカレイ ミズカレイ
4,有眼側の腹ビレ際を浅く切り開く。 11,無眼側の腹ビレ際の切り口から、山高骨の方へと切り進める。
ミズカレイ ミズカレイ
5,価値のある卵巣を指で魚体から分離する。 12,山高骨を超え、腹部の方へ切り進め、無眼側を切り離す。
ミズカレイ ミズカレイ
6,卵巣を包丁で傷つけないよう、頭部側へ指を使って押しやる。 13,三枚におろしたミズカレイの有眼側が上の位置、下の方が無眼側。
ミズカレイ ミズカレイ
7,卵巣をどかした後、山高骨の方へ切り進み、最後に有眼側の背ビレ際を切り開く。 14,上が皮引きをした無眼側、下が有眼側。

 

ミズカレイの皮引きをする作業まで終了した。これを背身二つと腹身二つに分け、背身だけを使って刺身、腹身はにぎり鮨にすることにした。

ミズカレイのにぎり鮨作業工程
ミズカレイ ミズカレイ
1,皮を引いたミズカレイを、有眼側、無眼側ともに、背身と腹身に分割する。 3,有眼側の腹身を左の姿勢でそぎ造りにする。
ミズカレイ ミズカレイ
2,背身と腹身に分けられた状態。 4,無眼側の腹身を右の姿勢でそぎ造りにする。
ミズカレイ
ミズカレイの腹身を使用したにぎり鮨10カン盛り
 
ミズカレイの刺身作業工程
ミズカレイ ミズカレイ
1,有眼側の背身を右の姿勢でそぎ造りにする。 3,並べた刺身が動いたりしたら、柳刃で調整。
ミズカレイ ミズカレイ
2,有眼側の背身を切り終わり、下面部の背身を切って並べるために、レモンスライスを配置。 4,無眼側の背身を左の姿勢でそぎ造りにする。
ミズカレイ
ミズカレイの背身を使用した薄造り刺身

 

このようにして、ミズカレイのにぎり鮨と薄造り刺身が完成した。商品1パック原価は魚の原料だけをカウントするなら、それぞれ200円とみることができる。それに、にぎり鮨はシャリや容器その他の材料費が加わり、刺身は大根ケン、あしらい、容器代の費用が加わる。会社によって、その辺の原価計算には多少幅が出て違いがあると思われるが、たぶん売価は500円以上1,000円以下の間ほどになるのは間違いないと推測され、値入率については歓迎すべき優等生の部類となるはずである。

これらの商品は利益面で優等な部類に入ると思われるが、さてさて・・・その味の方はどうなのか・・・、読者の皆さんはこのことが一番気になるところではないだろうか。

まず、結論から記そう。それは「美味しい」のである。その食感は確かに柔らかいし、水っぽいかと問われれば、水っぽいと言えるかもしれない。でも水分が比較的多い魚と言えば、アカアマダイもそうだし、イトヨリ、レンコダイ、カマスなども同様に水気の多い身質である。では、そういう魚たちは不味いのかと言えば、逆に旨い魚なのである。つまり、ミズカレイのこの程度の湿っぽさというのは、かえって旨みを増す効果の方が大きいと言えるだろう。

そして、何と言っても筆者は食後に腹を壊すこともなかったのだ。ミズカレイの鮮度というのも、昔の以西底引き網漁の時代から、今や近海の小型底引き網漁が主体となって、明らかに魚の扱い方や鮮度管理の方法が進化しているようである。今時のミズカレイは刺身などの生食にはしないものという、変に決めつけ的な偏見は持たない方が良いのではないかと思われる。

昨今は不自然な形で肥大化し、コテコテに脂ぎった養殖魚がもてはやされている。しかしミズカレイのように、活魚ではない柔らかさがあり、脂肪分も少なくアッサリ味で、少し水っぽさも感じられるけれど、実に美味しい魚もいるのだ。こういう魚も、数多くの天然魚の中の一つの味として賞味すべきなのである。


ミズカレイの煮付け用切身と煮魚

ミズカレイの生食が美味しいことはこうして自分の舌で証明されたが、やはり今が旬の子持ちミズカレイだから、煮魚と唐揚げという定番料理は外せないだろう。魚売場でミズカレイを販売することを想定し、以下に先ず煮魚用切身の商品化例を示し、その次に煮魚の作業工程を記すことにしよう。

ミズカレイの切身作業工程
ミズカレイ ミズカレイ
1,頭部を除去し、血合いを洗い流し、水気を拭きあげた状態のミズカレイ。 3,尾部側を分離したことでほぼ四角形になった魚体を、同じような大きさの切身に切り分ける。
ミズカレイ ミズカレイ
2,頭部側を左に向け、二つに分離する目的で尾部側を切り落とし、残りの部位の形を整える。 4,ミズカレイで一番価値がある卵巣を目立たせる目的で、皮を部分的に切り離す。
ミズカレイ
赤い色の卵巣を強調したミズカレイの切身

 

今回購入したミズカレイは卵巣が大きくなった旬の子持ちだから、これをお客様にしっかりとアピールするべきである。そのためには、少し面倒でも卵巣の上を覆っている皮を少し切って「こんなに大きな魚卵を抱えています」と、その価値を表現してほしい。

次は、そのミズカレイの切身を使った煮魚である。子持ちカレイの煮魚は魚料理の中でも定番中の定番と思われるので、以下の作業工程は必ずしも必要ではないのかもしれないが、定番として外さずに掲載しておきたい。

ミズカレイの煮魚作業工程
ミズカレイ
1,沸騰した煮汁にミズカレイの切身を入れ、お玉で切身の表面に煮汁をかけながら、満遍なく味が染みこむようにする。
ミズカレイ
2,鍋の上から手作りのアルミホイル落とし蓋をかけ、煮汁の蒸発を防ぎながら煮上げる。
ミズカレイ
鍋に残った煮汁を更に煮つめて、仕上げに切身の上からかけて照りを出す。
ミズカレイ
ボイルした旬の生ワカメを添えて、季節的なあしらいにする。

ミズカレイの価値を高める片開き姿揚げ

定番の煮魚の次は揚げ魚である。揚げる料理を目的とした大衆魚に、価値感を付加し、売価を高くして売ることはそれほど簡単なことではない。だが、実はミズカレイだけでなく、カレイ類のほとんどに活用出来る付加価値技法がある。それは、以下の「片開き姿揚げ用」の商品である。

ミズカレイの片開き姿商品製造工程
ミズカレイ ミズカレイ
1,3尾の内の最少サイズだが、それでも367gもあり、1尾のままの姿揚げには大きすぎた。 5,腹部の横に小さな切り口をつけ、包丁の先端の方で内臓をかき出す。
ミズカレイ ミズカレイ
2,ウロコを除去した後、エラ膜を切る。 6,腹腔内部を洗い流し、水気を拭いた後、の山高骨にそって、縦に切り込みを入れる。
ミズカレイ ミズカレイ
3,包丁の切っ先の裏でエラを押さえ下げ、魚体から分離する。 7,縦の切り込みから、背ビレ側に向けて、中骨の上を切り進み、エンガワの手前で切り止める。
ミズカレイ ミズカレイ
4,魚体を左を動かし、エラを切り離す。 8,上面部の背身を切り開いた状態。
ミズカレイ
切り開いた透明感のある魚肉を強調する形で盛りつけた、ミズカレイの片開き姿揚げ用商品

 

この片開きの姿にしたミズカレイを見て、読者の皆さんはどのように感じられるだろうか。筆者としては、この方法は開いた魚肉の部分に透明感があり、ミズカレイの皮の黒っぽい表面だけが見えている場合より、この方が間違いなく鮮度も良く見えると思っている。冷凍カレイでこれをおこなうのはほぼ不可能であり、もし冷凍カレイで同じような形が出来たとしても、変色やドリップで見た目が悪く売り物にならないだろうと思われる。

この片開き姿のミズカレイを姿揚げにすると、以下のようになる。

ミズカレイのあんかけ姿揚げ
ミズカレイ ミズカレイ
1,ミズカレイ全体に酒大さじ1を回しかけ、少し時間を置き、余分な水分を取り、塩コショウをして、小麦粉をまぶす。 4,程よく色づいて姿揚げが完成。
ミズカレイ ミズカレイ
2,180℃の油に入れて揚げる。 5,別の鍋で、人参、ピーマン、タマネギの千切り、およびモヤシを加えて炒める。
ミズカレイ ミズカレイ
3,約8分ほどすると、ミズカレイが底から上へ浮き上がってきて、火が通って出来上がる。 6,酢、醤油、砂糖で作った甘酢を炒めた野菜に入れ、沸騰したら水溶き片栗粉を混ぜ入れ、甘酢あんを仕上げる。
ミズカレイ
ミズカレイの姿揚げに、仕上がった甘酢あんをかけて完成。

 

出来上がった「ミズカレイのあんかけ姿揚げ」は冷めても非常に美味しかった。この料理は甘酢あんかけなので、結局最後には片開きにした姿の特徴が隠れてしまうけれど、実際に食べる時はこの形のお陰でお箸が入れやすくて食べやすいのである。まあ、多少甘酢あんの味が出しゃばりすぎる感はあるけれど、全体バランスとして実に美味しい料理が仕上がったと感じた。


カレイという魚たち

さて、今月号はミズカレイについて記してきたが、そろそろ締めくくりにしたいと思う。ミズカレイは典型的な惣菜魚として括られる大衆魚であるが、このミズカレイ以外にも、カレイと名の付く魚は日本では30種以上、世界では100種類近くが確認されているとのことだ。しかし、筆者は実際のところ、他のカレイのことについて、あまり詳しく語れるほどの知識は持ち合わせていないことを告白しておかなければならない。なぜなら、カレイ類はあまりにも種類が多く、しかも良く似ているカレイ同士をどこでどう見分けるのか、自分が持っているカレイの知識を集めても、色々と混乱して区別できないことがよくあるからである。

カレイ類はヒラメとは違って、ほとんどの種類が養殖がされていない。その理由は、カレイ類は非常に長生きをする魚だということで、寿命が長い分成長がとても遅いからである。このためカレイ類を養殖すると、出荷サイズになるまでに、エサを長い間投与しなければならないので、養殖の効率が悪く、養殖の対象魚としてはあまり向いていないのである。

但し例外はある。市場価値の高いマツカワカレイという種類は、既に北海道や青森などで養殖が実施されているらしい。マツカワカレイは、メスの場合は体長80cm体重6kgになる個体もいて、日本の北部沿岸などに主に棲息している。背ビレと尻ビレに黒い縞状の紋が入り、ウロコが大きくザラザラで、松の樹皮のようなので、この名称がつけられたようである。この魚も水揚げが減っていて、北海道ではえりも以西海域でマツカワ資源回復計画に沿って種苗放流等にも取り組んでいるとのことだ。

以下の画像は北海道漁連のホームページに掲載されていた、苫小牧産の養殖活〆マツカワカレイの王鰈(おうちょう)というブランド魚である。

北海道漁連のホームページでは、1尾700gほどの大きさが5,000円ほどで販売されていて、この価格はまさに超高級魚の部類である。

今月号はマツカワカレイがテーマではなく、ミズカレイのことを記してきたが、この二つのカレイを比較してみると、どうだろう・・・。約400gのミズカレイの購入価格は1尾400円だったので、そのコストパフォーマンスがどれだけ優れているか、一目瞭然ではないかと思う。料亭や高級鮨店などは、マツカワカレイを仕入れることも珍しくないと思うが、水産小売店舗で1尾700gの魚に5,000円支払うという仕入れ行動は簡単に出来ることではない。

つまり、最後に筆者が何を言いたいか。それはミズカレイのように惣菜魚としてのレッテルを貼られ、安く売られている魚でも、漁獲された時から卸売りされる段階までの処理方法や、小売店が仕入れてから販売するまでにどれだけ丁寧な取り扱いをしたかなど、それなりに自分の目で見極めることが出来れば、予想外の妙味を味わうことが出来るということである。

何事においてもそうだと思うが、やはり物事に対しては固定観念的な偏見というのは避けたいものである。


水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している

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更新日時 令和 7年 4月 1日