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令和 5年 5月号  233

メヒカリ

メヒカリ料理


アオメエソとマルアオメエソ

今月号は筆者が居住する福岡ではあまり手に入らないメヒカリが入手できたので、この魚をテーマに記事にしてみよう。

以下の画像が入手したメヒカリである。

メヒカリ

メヒカリの名称は全国で通用する一般的な呼び名であり、標準和名はアオメエソである。ただし、マルアオメエソという同系統の魚がいて、これらの両種は非常にそっくりで、その道の専門家でも簡単に見分けがつかないというのだ。両種が比較できるように揃っていたら説明できるかもしれないが、そんなことは無理であり、筆者の知識レベルではこれがアオメエソなのか、それともマルアオメエソなのか明確には判別が出来ていない。

筆者は昭和52年、53年の2年間宮崎県である店の鮮魚部門主任を任されていたので、当時は間違いなくメヒカリを扱ったことがある。しかし、それからメヒカリを扱う機会は多くない環境で過ごしてきたので、どうにも記憶が曖昧な形でしか残っていない。当時の記憶を辿ると、それは「メヒカリは眼球がもっと大きく水晶のような透明感があり、魚体はもう少し大きく、魚体の色もこんなに暗くなくもっと明るい色だった」というものだ。

だから、店でこの魚を購入する際に、売場に並んでいるメヒカリを見て、自分が記憶しているメヒカリとは少し違うなと思ったのだった。そして後でメヒカリのことを調べてみると、アオメエソは主に日本の比較的南の海域の愛知県、静岡県、高知県、宮崎県沖の深海に棲息しており、いっぽうマルアオメエソの主な産地は、日本の比較的北の方に位置する福島県、茨城県、千葉県などの海域に多いことが分かった。

今回購入したメヒカリは福島県産だった。つまり感覚的な判断で申し訳ないのだが、今月号のメヒカリは産地からするとマルアオメエソだという結論に達した。しかし、魚売場に限らず魚市場レベルでも、アオメエソとマルアオメエソは区別せず、メヒカリという名称で取り扱うことが多いとのことであり、今月号は筆者もそれに倣って標準和名ではなく、一般名称のメヒカリという言葉で通していきたいと思う。


深海魚メヒカリ

メヒカリはその大きくて透明感のある妖しい緑色の眼球が大きな特徴である。福島県いわき市では、メヒカリが「メピカリ」という名のイメージキャラクターとなっていて、以下のように緑色の眼球が大きく強調された姿である。

魚の目が大きいという事は深海魚の特徴の一つであり、暗い場所でも少ない光を集めてよく見えるようになっている。メヒカリを購入した当日、同時に以下の長崎産キンメダイも購入したが、この魚も深海魚なので同じように大きな目を持っている。

メヒカリのゼロ歳魚時代は水深150〜450mの範囲に分布しているが、成長に伴って水温が高い水深150〜200mほどの深さの場所に移動するということであり、いっぽうのキンメダイは水深200mほどの深さに棲息しているとのことだ。

大きな目を持つ深海魚は、太陽光がかろうじて届く水深1,000mまでの深さに棲む魚であり、水深が1,000mを超えると光は全く届かない暗黒の世界となるので、眼は逆に落ちくぼんだ小さな眼を持つ深海魚が多くなる。こういう小さな眼の深海魚の眼は役立たないかと言えばそうではなく、網膜などは残されていて光を検出する機能はあり、逆に深海の真っ暗闇の中で生物が発光する「生物発光」を捉えるためには、先細りの小さな眼の方が適しているとのことである。

深海魚が棲息する深海というのは、水深200メートルより深い海のことで、そこは光がほとんど届かず、エサが少なく、酸素も少なく、圧力(水圧)が高いという、生物が棲息するには厳しい環境である。そういう過酷な環境に棲むメヒカリは泳ぎ回るのではなく、海底に2本の腹ビレを足のように立て、頭部の比較的上の方にある二つの大きな目を上に向け、あまり大きく動かずエサを探していることが多いようである。

メヒカリ

二本足のような腹ビレ

 

メヒカリ

上画像は調理作業中のものだが、二本足のような腹ビレというのがこれで理解できると思う。

 

こういうメヒカリのように深海の海底で暮らす魚は「底生性深海魚」に分類され、キンメダイのような海底から離れ漂って生活する魚は「遊泳性深海魚」に区別されている。この二つのタイプは生活様式が全く異なっているので、進化系統上では明確に分けて見る必要があるということだ。

エサが少ない深海の魚は、生きていくためにエネルギー消費を抑えることが重要であり、活動するためのエネルギー源として魚体に脂を蓄えている。またこの脂肪分はヒレを動かさなくても浮いたり沈んだりしないように浮力を調整する機能もあり、更には水圧に耐えられる役目も果たしている。メヒカリやキンメダイなどの深海魚は、こういう理由から魚体に脂肪分が多く、この脂肪の多さが美味しさにつながっているのである。このため深海魚には一年中脂肪をタップリ蓄えているのであり、産卵後であっても「脂が抜けて美味しくない旬外れ」といったことはあまり意識する必要はない。

メヒカリは5月と6月が産卵期のために全国的に禁漁となるのだが、メヒカリの産地の一つ宮崎県では7月と8月がメヒカリの最盛期となっており、一般的な常識である「産卵後の痩せ魚は不味い」という言葉もメヒカリには無用ということになるのだ。この記事は5月号を4月末に書いているので、禁漁となっている魚をこっそりと扱っているのではない。4月というのはメヒカリが産卵前に脂肪を更に貯めて魚体を充実させている時期に当たり、旬を意識しなくて良いメヒカリでも、たぶん年間でも一番美味しい時期だと言って良いと思われる。

だが、このように深海魚は脂肪分が多くて美味しいという表現をしたけれど、特に遊泳性深海魚は高い水圧の下で遊泳力を確保するために過剰な脂肪分を蓄えている魚もいて、なかには脂肪のレベルを超えた有害な資質であるワックスエステルを蓄えたバラムツやアブラソコムツなどもいる。ワックスエステルは人間の消化酵素で分解できないので食べると下痢になる恐れもあり、このためこれらの魚は漁獲されても販売することは禁止されている。


メヒカリの商品化

さて底生性深海魚の一種であるメヒカリは良質な脂肪分がタップリなので、美味しく食べることが出来る。その料理の作業工程の一部を以下に紹介しようと思うが、一つ言い訳をしなければならない。それは、いつも魚の作業工程を撮影するのに使っているカメラが今回は機能不全になったのだ。毎回、筆者の頭上の斜め上からカメラを15秒間隔のタイムラプスにして撮影しているのだが、今回はオートフォーカス機能が働かずにほとんどがピンボケになってしまったのだ。原因はバッテリーがその蓄えを喪失する寸前にあったことが原因のようで、フル充電をした予備のバッテリーに交換した後はピントが合っていたので、バッテリーの完全放電前の暫くの間の撮影がピンボケになっていたようだった。このため以下の作業工程は少し不完全な説明となることをご了承願いたい。

先ずはメヒカリの唐揚げ用調理作業工程だが、ここまではタイムラプスとオートフォーカスが機能していてピンボケせず撮影できていた。

メヒカリの唐揚げ用調理作業工程
メヒカリ メヒカリ
1,ウロコを除去し、水洗いする。 6,腹部を下にして左手指で内蔵部を押し、包丁の切っ先を使って内臓を押し出す。
メヒカリ メヒカリ
2,まるで二本足のように固くて丈夫な腹ビレ二つを除去する。 7,包丁の切っ先部分で内臓をかき出すが、腹部は薄く破れやすい。
メヒカリ メヒカリ
3,背ビレを除去する。

8,内臓を出したメヒカリを乾いたタオルの上に乗せる。

メヒカリ メヒカリ
4,尻ビレを除去する。 9,水分を拭き取りながら、残りの内臓も除去する。
メヒカリ メヒカリ
5,頭部を除去する。 10,頭部を切り離し内臓を除去したメヒカリ。

 

次は刺身と鮨のための調理であるが、上記したようにこの作業工程のほとんどの画像がピンボケして全然使い物にならなかったのだ。辛くも、以下の画像は数少ない使える画像だった。

この画像を見て、読者の皆さんの中に「あーっ・・・、あのやり方だ」と気づかれる方がいらっしゃれば、その方は間違いなくFISH FOOD TIMES のヘビーユーザーである。

メヒカリ

この調理方法は、令和元年8月号 No.188 ベラにぎり鮨 の時に紹介しているので、まだ読んでいない方はクリックして覗いてみてほしい。このページを見れば説明が理解できると思うが、上の画像だけでは上手に説明できないので、作業工程の説明は省きたいと思う。

今回は8尾だけをこのやり方で調理したのだが、全てのことが終わった後で画像を確認すると、この作業工程のほとんどがピンボケしていたのだ・・・。「アチャーッ・・・、何てこった・・・」とモニターの前で落胆した。だが、もう後の祭りでどうにもならなかった。

メヒカリの三枚おろしから皮引きまでの工程を一気にやり終えてしまうこの方法が活かされるのは、比較的小型の魚で割安な価格のものを数多く調理する時であり、スピーディにガンガン作業せざるを得ない場面では重宝する。ところが、メヒカリの骨は細く、皮は薄くて切れやすく、身も比較的柔らかいので、あまりスピーディで荒っぽい扱いには向いていない。包丁も出刃ではなく柳刃を使って三枚おろしから皮引きの調理作業までをおこなった。

これをやり終え、仕上がったのが以下の画像である。これは別の手持ちカメラで撮ったものなのでピンボケはない。

メヒカリ

 

そして、この皮なし半身を使って商品化したのが以下の画像である。

メヒカリ

メヒカリ

敢えて説明の必要はないと思うが、メヒカリの半身をそのまま大根ケンの上に盛りつけたのが刺身であり、半身をシャリと一緒ににぎったのがにぎり鮨である。ただし、メヒカリは細長い形状をしていて、刺身はその形でも特に問題はないが、にぎり鮨の方は普通のシャリの形にするとメヒカリの下からシャリが見えやすくなり、これでは品がなくなるのでこの点がやりにくかった。例えば、小イワシのように半身2枚を並べて使うと横に広すぎるし、半分に切ると短かくなりすぎるという中途半端な形状なので、結局のところシャリ玉を中指と親指でグッと幅寄せて狭くすることで、シャリが鮨ダネの下からはみ出して見えないように気をつかったのだった。

最後にメヒカリの料理では一番人気がある唐揚げを作ったので、これは画像で作業工程を紹介しよう。

メヒカリの唐揚げ作業工程
メヒカリ
1,頭部を切り離し内臓を除去したメヒカリを準備する。
メヒカリ
2,塩コショウをして、小麦粉をまぶす。
メヒカリ
3,180度の油に入れる。
メヒカリ
4,約5分ほどで浮き上がってきたら、菜箸で軽く掴んで、魚の中心部から菜箸に微かな振動が伝われば出来上がり。
メヒカリ
懐紙の上に唐揚げをのせ、桜塩とレモンを添えて完成

 

これら3種のメヒカリ料理は、生の刺身や鮨では脂肪分が適度に感じられて美味しく、火を通した唐揚げは骨が小さくて気にならず、身も柔らかく食べやすいと感じられた。深海魚のメヒカリは、アジやイワシなどの浅海魚と同じような料理にしたとしても、それはまた違った味わいを感じさせてくれる魚であった。こういう深海魚というのは、ある意味でまだ十分に一般家庭に浸透しているとは言えず、これから未利用資源として開発が期待される魚の一つではないかと感じた。


これから資源開発が期待される深海魚

筆者は深海のことについてはほとんど知識がない。そこは広大で多種多様な生物が生息しているらしいが、まだ資源的に大きい魚種が未利用の状態にあるようである。そのことを、キャノン財団による第3回「理想の追求」の報告発表で、落合芳博東海大学海洋学部教授をプロジェクトリーダーとした専門家の人たちが、「深海魚類資源の網羅的開拓」というテーマで2012年に報告されていた。Web上でその記事を見つけたので、その要旨をあまり難しくなく理解しやすい形に要約して記してみたい。

深海魚類資源の網羅的開拓 プロジェクトリーダー落合芳博東海大学海洋学部教授

 深海魚の特徴は、@概して水分が多く、タンパク質が多い。A有害なワックスエステルを含む種がいる。B健康機能性を有するアミノ酸(ペプチド、タウリン、アンセリン、カルノシン)など、浅海魚種にあまり見られない成分があり、DHAなど高度不飽和脂肪酸も豊富に含まれている。このため、深海魚は健康機能性成分の供給源としての可能性がある。

一方、多脂肪魚から有害な脂質(ワックスエステル)を除去して良質の練り製品へ転換することや、食用化が難しい小型魚(ハダカイワシなど)は魚醤油への加工など、養殖魚の餌料としても利用の道がある。さらに、膨大な資源量が予測されている三陸沖のフジクジラは、体色が黒く、背ビレに鋭い棘があり、種固有の形状の発光器を持つことが特徴であり、三陸沖で大量(一網で6トン程)に漁獲されるが、これらは全く利用されておらず、生態学的な研究はほとんどない。

サクラエビ漁などで混獲され、ある程度の資源量が期待されるハダカイワシについては、練り製品原料としての有用性、魚醤油への加工適性がある。多脂魚のアブラソコムツについては脱脂による練り製品への加工適性があり、高いゲル剛性を示す良質のかまぼこゲルが得られる。また、油脂の部分はロウソクに加工することができ、やや赤みを帯びた優しい炎を与え、臭いもほとんどなく良質のものが得られた。

深海魚の有害なワックスを含む種は限られていて、食用として問題がないどころか、健康機能性を示す成分を含むことから、健康志向の食品として積極的に利用する方策を立てるべきである。ただし、消費者は深海魚に馴染みがなくネガティブなイメージを持つ人の割合が多い。その一方で、食用利用以外に養殖魚の餌料、有用物質の原料としての可能性もあるため、漁獲されながら廃棄されている分を利用することができそうである。

今後は、一般消費者のネガティブイメージの払拭とともに、魅力的な商品開発が重要であり、消費量を上げるには啓蒙、宣伝活動が必要である。

 

以上がキャノン財団 第3回「理想の追求」の中で「深海魚類資源の網羅的開拓」の要約である。上の円グラフには、駿河湾の深海魚割合が示されているが、メヒカリは5%の3番目である。その1番目のハシキンメと2番目のニギスはまだFISH FOOD TIMESで扱っていない。深海魚の中ではよく利用されている魚種のナンバーワンツウをまだ記事として採り上げていないことが判明したということは、筆者としても今後の記事展開に希望を残したということが言えるだろう。

今般マスコミなどでは、ある一つの魚種が獲れなくなると直ぐに地球温暖化などにこじつけて注目を引こうとする姿勢が目立つが、あまりにも簡単に何ら科学的根拠もなく「地球温暖化と水産資源の枯渇」を結びつけ報道することに筆者は大きな違和感を持っている。

ハッキリ言って、筆者を含む人類は海の中の生物のことなどほとんど何も分かっていないし、これから先も簡単にそのことを科学的に把握し解明できることは有り得ないだろう。例えば、海中ではなく海上のことでさえ、ICPPが太平洋上の島ツバル諸島が地球温暖化の影響で沈むかもしれないと言ったのはもう何年前のことだ・・・。たぶんあれから少なくとも20年は経過していると思うが、ツバル諸島の陸地は沈んでしまうどころか、逆に拡大しているというではないか。

海上のことでさえ科学的に立証できない人間が、海中のことを「地球温暖化が遠因となって漁業資源が枯渇している」などと言うこと自体あまりにも軽薄であり、こういう報道を耳にするたびに、ある目的を達するために何か意図的なプロパガンダ的行為をおこなっているのではないかと考えてしまう。筆者はそういう愚民政策的な考えに対してとても賛同する気はないが、過去に筆者が学んだ地球のミランコヴィッチ・サイクルやレジームシフトなどの理論であれば自分はより納得いくものがある。

深海に棲息しているメヒカリのことが筆者に分かるのはせいぜい上記してきた程度である。だが、世の中にはメヒカリの名前も知らず、もちろん食べたこともない人たちが数え切れないほどたくさんいるのである。そういう多くの人たちにメヒカリの美味しさを伝えて上げることは皆さん方水産関係者の使命である。

これを機会に、深海魚にも目を向け、これまでとは違った観点でも魚食普及に精を出してほしいものだ。


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更新日時 令和 5年 5月 1日