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令和 3年 8月号 212
カツオ・イカの紅白刺身盛り合わせ
生カツオの市場相場が150円台
生カツオの相場が低迷している。河北新報ONLINE NEWS 2021年7月13日号で、以下の記事が発表されていた。
<河北新報ONLINE NEWS 2021年07月13日号>カツオ豊漁、浜値100円台に下落 経費割れの懸念も生鮮カツオの水揚げ24年連続日本一を誇る気仙沼市魚市場が、記録的なカツオの取引価格低迷にあえいでいる。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外食需要の激減に加え、全国的な豊漁による供給過剰が浜値下落に拍車を掛ける。昨年は水揚げ不振に苦しんだ関係者。豊漁にもかかわらず、利ざやが上がらない皮肉な現状に頭を痛める。 キロ159円の安値市魚市場を運営する気仙沼漁協によると、2010年以降の生鮮カツオの水揚げ量と1キロ当たり単価はグラフの通り。
16年の341円を最高に200円以上の水準で推移してきたが、今季は6月末時点で159円にとどまり最低。関係者は「100円台は記憶にない」と口をそろえる。 今月8日に48トンを水揚げした宮崎県日南市のカツオ一本釣り船「第21愛宕丸」(119トン)の杉本亨介漁労長(52)は「経費割れしないようにするのが精いっぱい。この状態が続けば船をやめる人も出かねない」と表情を曇らせる。 背景には、近年にない漁の好調ぶりがある。気仙沼漁港の6月末時点の水揚げは5,987トンで、同時期の水揚げとしては10年以降で最も多い。カツオの不漁で各船がビンチョウマグロ漁を優先した昨年同期の約6倍に上る。 全国的にも同様の傾向で、漁業情報サービスセンター(東京)によると、6月末時点の全国の水揚げ量は2万3,287トンで、前年同期の3倍を超える。同センターは春先に好漁だった九州付近の海域での漁獲が総量を押し上げたと分析。その後も太平洋沖に広く群れが点在しているという。 取引価格低迷のもう一つの要因は、昨年から続くコロナ禍による需要減少。主軸の外食需要は、飲食店の営業時間短縮や酒類提供自粛に伴い落ち込む。12日には大消費地の東京都で4度目の緊急事態宣言が発令されるなど回復のめどは立たない。 「今年は関西方面からの注文もない。価格が下がるのは市場原理として仕方がない」と気仙沼市の水産物卸会社幹部。大きさも脂の乗りも上々なだけに戸惑いを隠せない。 |
その後、気仙沼魚市場が発表した直近の価格は以下の通りである。
気仙沼魚市場は昨年まで24年連続でカツオの水揚げ量日本一を誇っており、この市場で取引された価格が全国的な指標の一つとなるが、もう一つの全国的な魚価の指標として欠かせない豊洲市場でのカツオの取引価格はここ最近どうなっているかを見てみよう。
やはり、豊洲市場でも過去の5年間では見られなかったカツオの最低卸売価格を記録している。
ケンサキイカ(ヤリイカ)も近年にない豊漁と相場下落
カツオだけではない、ケンサキイカもこの10年ほどなかったほどの豊漁となっていて、その相場が下落している。
この記事は4月時点のことが記されているが、その後もケンサキイカの豊漁ペースは西日本の各地で続いていて、5月から6月の福岡魚市場では以下の記事のようにヤリイカの豊漁が記されている。
同じみなと新聞の記事なのだが、標準和名のケンサキイカは福岡などの九州地方ではヤリイカという地方名となる。福岡ではヤリイカだが、山口ではシロイカとかマイカ、ケンイカなどの地方名を使っていて、他に山口の特別なブランドイカとして「特牛(コットイ)イカ」も存在している。
同じ山口地方であっても、標準和名ケンサキイカでこれだけの別称があるのだから、全国規模で言えばとにかく数え切れないほどの呼び方があり、筆者のような立場の人間からすると「それで・・・、ここでは、このイカの名前は何と言えば?・・・」と、逆質問するしかないことになりかねないのである。
とりあえず以下に日本で食用となる主なイカの地方名を列挙した一覧表を作成したので参考にしてほしい。
念のために、標準和名ケンサキイカと標準和名ヤリイカの違いを画像で示しておきたい。
上画像左側のヤリイカは秋から冬にかけて旬となり、形態の特徴として触椀が比較的短く、地上に水揚げされると体色が茶色っぽく変色していく。いっぽう上画像右のケンサキイカが多く漁獲されるのは春から夏にかけての頃であり、水揚げされると体色は赤っぽくなるのでアカイカとも称される。ケンサキイカの触椀はヤリイカに比べると長さが目立つ。
豊洲市場においても、ケンサキイカの相場が下落しているのは以下のグラフでも明らかだが、豊洲市場ではケンサキイカは関東での一般的呼称であるアカイカで表現されている。
ちなみに、広島ではケンサキイカのことをヤリイカでもなく、アカイカでもなく、ミズイカと称しているのだ。筆者の頭の中ではミズイカとはアオリイカの別称だと刻み込まれていたので、約30年ほど前に広島でその名称を告げられた時、本当に面食らったものだ。基本的にお互い遠隔の地に居住する別々の人が、例えばイカの名称について共通の認識をするには標準和名を使うしかないと思われるが、筆者自身は日本各地に出向いて現在の仕事を続ける中で、自分が標準和名ではなく現地の地方名に合わせて表現することにしている。こうすると現地での会話がスムーズになるからだ。しかし問題は各地で呼ばれている魚の名称を筆者がなかなか覚えきれず、思い出せず言葉に詰まることが多々あることだ。特に沖縄や南西諸島での地方名を覚えることは実にハードルが高く、1回どころか何回聞いても名前を覚えられない魚がゴロゴロいる・・・。
魚価低迷の背景と魚部門の方向性
魚の価格低迷が目立つようになったのは、昨年の新型コロナウイルス非常事態宣言の発出の頃からだったと思うが、その頃は高級料亭、鮨店、和食店などを需要の対象とした高級魚が特に目立った相場下落をしていたと記憶している。そして新型コロナウイルスパンデミックによる影響が2年目にはいり、今度はカツオやイカといった大衆魚にまで魚価低迷の影響がでてきた感がある。
新型コロナウイルスは今やデルタ株が勢いを増し、いったいどこまで拡大していくのか予断を許さない状況となっているけれど、酒食を伴った外食や会食などがやりにくい環境のなかで、食材として魚の需要と供給の観点からすると、この先魚価が上昇していく局面というのは当面考えられない状況である。
コロナ禍となる前の時点では、TOKYO 2020 によってインバウンド需要が絶頂となり、それによって経済活性化の起爆剤となることが想定されていたはずである。しかし大半が無観客試合となったことによって、インバウンドどころか国内観客も呼び込めないとなると、TOKYO 2020 が経済の牽引役とはなりそうもなく、外食や観光産業を中心とした魚の需要は当面高まることないだろう。
魚の小売業界にとって、この8月は正月商戦と並ぶ大きな売上が期待できる盆商戦があるが、昨年の盛上りに欠けた盆商戦と比較して今年の場合どうなるのを考えると、たぶん今の状況からすると昨年から大きく好転するのを期待するのは難しいというのが一般的な見方ではないだろうか。昨年の盆商戦では、都会に居住する地方出身者が故郷に帰省することを自発的に控える傾向が出たために、本来はこの時期「帰省客のおもてなし需要」で活況を示す地方食品スーパーの店舗では、帰省客を迎えて盛り上がるはずのお盆期間中のお客様の購入ボリュームが縮小し、一人当たり買い上げ客単価は大幅ダウンしたことで、売上は大きなマイナスとなったところが多い。その反面、都会に位置する食品スーパーは丁度それと逆に売上を伸ばした店も多いようである。
現時点の状況から推測すると、今年の盆商戦は昨年の様子と大きく変わるとは思えない。つまり、地方立地スーパーはコロナ禍が存在しなかった一昨年と比較すると、昨年と同様のボリュームダウンによる客単価ダウンが想定され、その一方で都会型スーパーは地方出身者の帰省控えのメリットを今年も享受することになり、それなりの売上を期待できることになるのではないかと考えられる。
ところが昨年のそのような状況にあっても、売上をそれほど下げなかった地方スーパーの店もあるし、都会型スーパーであっても大して売上を伸ばせなかった店もある。こうした違いはどういうことに起因しているのだろうか。その要因を探ってみると、盆商戦や年末年始商戦などを含む行事・祭事の一大商戦において、特に「客単価」が勝敗の分かれ目となったと筆者は考える。
端的に言えば、行事・祭事などの一大商戦においては「高額な商品を数多く売ることの出来る店は売上げが高い」ということであり、通常時に通用する「低単価商品を数多く売ることで売上を稼ぐ」という販売手法はこのような商戦では有効ではないのである。さらに単純な表現をすると「盆商戦や年末年始商戦は一品単価及び客単価が高いから売上が大きい」のだ。だから日本のこういう状況下に於いても「売上を下げないためには一品単価を下げず、客単価を落とさない努力をしなければならない」ということになるのである。
しかし、上記してきたように今や高級魚に留まらずカツオやケンサキイカといった大衆魚の市場相場も低迷しており、一般的な観点からすると「安売りの好機到来」ということになり、一品単価は下がって当然という局面を迎えているのである。こういう時に「それゆけドンドン・・・」と安く売るしか能がないのは二流三流であり、そういう商売人は一流ではないと筆者は考える。魚が安く手に入っても簡単には安く売らず、その経験と技術を活用することによって付加価値をつけ、お客様に満足感を感じてもらえるコストパフォーマンスの高い商品に仕上げるのが一流の商売人ではないだろうか。
魚の商品価値というのは、鮮度が良いことはもちろん、見た目、ボリューム感、価格と量のバランス、などが非常に大事であり、それらが総合的にお客様の求める満足度にどれだけ近いかによって決まるのではないかと考える。つまり、カツオやケンサキイカが安く手に入るからと言って単に安く売るだけではなく、プラスの工夫をして価値ある商品に仕上げて販売することこそが重要だと考えるのである。
スーパーの魚売場は経営の側面から見ると魅力がないと言われ続けて久しい。これはスーパーの経営者が魚部門を加工食品なと同列の「小売部門」として位置づけてきたことに原因があると筆者は考えている。実は魚部門というのは単なる小売ではなく、製造に人手と手間がかかる「製造小売部門」であることを捉えきれなかったことに根本的な問題があったと思われる。魚の商品製造に人手と手間がかかるのであれば、当然ながらその分の経費を上乗せした売価を設定しなければ利益は出ない。このため加工食品などのケース単位で仕入れ、小分けして一つの商品として販売するだけの小売部門とは違い、こういう単純な小売商品にほんの少し毛が生えただけのレベルの値入率で商売を組み立てたのでは計算が成り立たないのは当然のことである。しかしこれまで日本のスーパーの競争環境では低値入率で安売り競争をせざるを得ず、それを長く繰り返してきたため身を削るような低い利益の魚部門が当たり前に存在してきたのだ。
ところが、今やコロナ禍による大きな影響で魚価が低迷していることによって、スーパーの魚売場が昔から繰り返してきた「低値入率での安売り競争」から脱却する絶好の機会がやってきているのである。
コストパフォーマンスの実現
現在魚商品の多くは何年も前に比べると仕入れ価格が安くなっているので、無理に安く売らなくても良いのだから、安さ以外の部分で魅力を高める努力をしたらどうだろう。例えば今月号で魚価低迷が続いている生カツオとケンサキイカをどのようにして魅力的な商品にするかを一つ考えてみよう。
FISH FOOD TIMES では、生カツオについて昨年の令和2年5月号No.197で詳しく記し、またケンサキイカについては 平成25年7月号No.115で、地方名のヤリイカの名称を使用して巻頭画像に「姿造り」を載せていた。できればこれも参照してほしいが、生カツオとケンサキイカを単純な単品刺身に商品化すれば以下画像のような例が考えられる。
これは一つの商品例だが、こういう商品化をして「カツオの仕入れ価格が安い、ケンサキイカも安い」ということで、売価を398円とかの低単価で販売したのでは、上記した「低単価商品を数多く売ることで売上を稼ぐ」という販売手法を繰り返すことになり、それ相応の数量を販売しなければ水産部門に利益で貢献することはなかなか出来ない。
そこで一品単価を下げない方法として、このような商品を作ってみてはどうだろうか。
上画像のカツオとケンサキイカの単品刺身を仮に売価を398円に設定したとして、お客様が両方を購入すれば約800円となるが、現在のカツオとケンサキイカの低迷している相場からすると、このカツオとケンサキイカを組み合わせた刺身盛り合わせであれば、800円の売価をつける必要はないと考えられ、680円売価も不可能ではない。もしかすると、時には580円売価だって計算できる場合もあると思うけれど、そうやってどんどん低単価へ低単価へと向かってしまうとこの商品化の意味は薄れてしまう。
この商品の狙いは「このボリュームでこの売価・・・? これはお買い得〜」とお客様に感じてもらうようなコストパフォーマンスの良さにある。魚の仕入れ原価が高ければ、そのようなことを実現するのは難しいものがあるが、今の相場低迷状況からすると値入率を圧縮して身を削ることなく、お客様にもコスパ感の高さで喜んでもらえる「ウィン・ウィンの商品」を魚売場で提案できるのである。
例えば鮨にしようと思えば、このような商品を作ることが可能だ。
この鮨盛り合わせは、カツオの腹身を皮付きのまま湯霜して鮨ダネにカットし、ケンサキイカは松笠造りの飾り包丁をし、それを炙って鮨ダネにしている。この鮨盛り合わせの原価は現在の相場から計算すると、ケンサキイカの鮨ダネ1枚当たりはそれほどでもないけれど、カツオについては驚くほどの安い原価になるので、このにぎり鮨10カン入り盛り合わせを680円の売価に設定しても充分な値入率を計算できるはずだ。
水産部門の利益改善チャンス
さて、今月号では利益や値入率の言葉を頻繁に使用してきたが、読者の皆さんに誤解しないでほしいことがある。それは筆者が今の安い魚価の状況を利用してしっかり儲けろとだけハッパをかけているのでは決してないということだ。
逆に恐れていることは、カツオやケンサキイカだけでなく水産物が全般的に安い相場となっているにもかかわらず、売価はそのままで値入率が高くなったことを喜んでいるだけで、魚価の安さを活用してより多く魚の量を動かすことで売上アップにつなげようとしない利益最優先の売上消極姿勢がありはしないだろうかということである。
魚の商売をしていく上で、生魚は相場が一定せず乱高下するのが常態であり、この常に仕入れ価格が変わることに連動して、そのまま同じように高い値入率を確保する「倍掛け商法」というのが昔の魚屋さんでは当たり前の姿だった。とにかく生き残り、商売を続けていくために「利益率を最優先」する商売の方法なのだが、スーパーの魚売場が出現することになって街からこういう商売の方法を執る家業の魚屋さんは競争に負け淘汰されていった。いっぽうスーパーの魚売場は町の魚屋さんとは違う低値入率の水産部門を運営し、見せかけの売上は高いものがあったけれど、内実の荒利益高は人件費その他のコストに喰われ赤字を脱却できないところがほとんどのまま今日まで続いてきたのである。
このようにスーパーの水産部門は部門別経常利益の点からすると決して優等生ではなく、会社に対して利益貢献度でも胸を張れる部門であってほしいのだが、どうしても機械化などの合理化は構造的に難しく、労働集約的な側面を脱しきれないがために、部門別経常利益を確保するのは簡単ではないという課題をずっと長い間抱え続けてきた歴史がある。
ところが、昨年から続いているコロナ禍による影響で水産物が外食産業などへの納入の道を塞がれ、これまでの需要と供給の関係が崩れて相場が低迷し、水産物の主な引受先となったスーパーの魚売場は巣ごもり需要の追い風に乗って売上を伸ばしているという構図が昨年から続き2年目にはいっており、この追い風は水産部門の利益構造を変えるチャンスだと見るべきであり、スーパーの水産部門が身を削るような形の「低単価商品を数多く売ることで売上を稼ぐ」という販売手法そのものを見直してはどうかと考える。商品の単価を見直すといっても、単に値入率を高め売価を高くするだけでは能がないと言わざるを得ず、そうならないためのヒントとして、巻頭画像のカツオとケンサキイカを盛り合わせにした刺身と鮨の例を今月号で紹介したのである。
理想とするところは「金額そのものでの商品売価は必ずしも安いとは言えないけれど、その価格からするとボリュームはあり、見た目も良く、そのバランスが良いのでお買い得に感じられ、購入してみたら満足度が高く、機会があればもう一度同じ商品を買ってみたい」として、お客様にリピーターとなってもらえる商品である。
8月はオリンピックのテレビ観戦、お盆帰省旅行の手控え、外食や会食の自粛などによって、日本は静かなステイホームによる「家飲み需要」が昨年以上に高まるはずであり、そのやり方一つでは面白いことになるかもしれない。8月度の数字が良い結果になることを期待したいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 3年 8月 1日