ようこそ FISH FOOD TIMES


平成26年12月号 No.132


イラの刺身


久しぶりにマイナーな魚の登場だ。

この魚の正式和名はイラ、玄界灘に面した地域ではハトと呼ばれている。

スズキ系ベラ亜目ベラ科イラ属に属しているので、ベラの仲間である。

チョット見ではアマダイに似ているので、別名イソアマダイ、オキアマダイとも呼ばれている。

上は鮮度抜群の色鮮やかなイラの画像だ。少し時間が経つと下の画像のように色鮮やかさがぼやけてきて、何とも中途半端な色になる。

色鮮やかなほど鮮度が良いから「高値がつく?」かと思いきや、この魚はどんなに鮮度が良くても500円/kg以上になることはまず有り得ず、せいぜい300円/kgほどであり、中には「タダで持ってけ」と言い放つ漁師もいると聞く。

つまり典型的な「下魚」の扱いを受ける魚なのであるが、なぜ下魚なのか、その明確な理由は判然としない。

イラはブダイやシロクラベラと同じベラ科に属する仲間だが、一部の地域ではイラを本物のブダイと区別せずに「ブダイ」と呼び、それらと一緒に下魚扱いをしている地域もあるようだ。

マクブという地域名称で、同じベラの仲間のシロクラベラを高級魚として扱っている沖縄とは大きな違いである。

過去に幣紙ではシロクラベラを 「マクブ湯霜薄造り」平成23年8月号 89 で取り上げ、ブダイのことは 「イラブチー薄造り」平成18年7月号 31 に記しているので参照して欲しい。

makubu2

シロクラベラ(マクブー)

ブダイ(イラブチー)

イラを含むこれら三魚種に共通している点はその色合いが「派手目」であり、その派手な配色を美しいと感じるのではなく、人の受け止め方によっては「グロテスク」だと感じる人もいるようである。


確かに下の画像のような顔面のアップを見ると、ハトのようにまん丸の赤目、コブダイのような大きなデコ、口から突き出した鋭い歯など、決して可愛いとは表現できる代物ではなく、この姿形を敬遠する人もいるのかもしれない。

しかしイラという魚は、このグロテスクとも言える「顔面の特徴」こそ、この魚の美味しさの特徴なのだ。

その一番の特徴である「突き出たオデコ」は、触ると弾力性を帯びていて、その感触だけでゼラチン質だというのを感じられ、これがコラーゲンの固まりであるを理解できる。

頭を半割にすると、上の画像の楕円形で囲んだ部分が半透明のゼラチン質であることが一目瞭然であり、包丁で頭を半割にするときは上顎の上部に石のような部位があるので、注意して包丁を入れないと刃毀れを起こしてしまう。

半割りにした頭部を販売をするときは上の画像のようにすれば良いと思うが、このグロテスクな顔を好んで買う人は少ないはずで、これがもし売れたらラッキーだと思っていた方が良いだろう。

ところが、こんなとても売れそうもない頭部こそ、この魚で一番美味しい部位であり、煮付けにすると頭部のゼラチン質が口の中で蕩けるような味わいとなり、まさに絶品の味となるのだ。

上の画像はしっかりと煮込んだもので、味もしっかりとついているが、下の画像のように元の赤い色が残る程度に軽く煮るだけの醤油の色がほとんどつかないレベルでは、旨味の薄いコラーゲンを美味しく感じることは出来ないので、煮る時間は長めにするべきだということを頭に入れておいて欲しい。


さて、頭のことはこのくらいにしておいて、次は身の方に話題を変えよう。

イラの魚体を扱う時、最初に苦労するのがウロコを取ることである。イラのウロコは大きくて固く、しっかり皮にくっついているので、普通の魚のようなやり方では簡単にウロコは取れないのだ。

そこで、同じように大きくてしつこいウロコを除去するのに苦労する、同じベラ科のブダイやシロクラベラを処理してきた経験から出てきた方法を以下に紹介しよう。

それは上の画像にあるように、自分の親指を「ウロコの下に滑り込ませて取る」という方法である。

この方法は筆者が勝手に「親指潜り」と名づけているけれども、自分の親指を尾ビレ近くの端の方からウロコの下に潜らせるように押していくと、ズルズルと何枚ものウロコが一緒につながるようにして外れるのだ。

普通のウロコ取りの道具を使うと、ほんの1枚のウロコでさえ皮にくっついて離れず、つい力任せになって身を傷めてしまう恐れがあるけれど、この方法だと不思議なくらい何枚も続いてウロコが外れ面白いくらいである。

ところがこの方法には一つ欠点があって、それはヒレのトゲで自分の手を突き刺してしまう恐れがあるのだ。実際に筆者は何度も突き刺して痛い思いをしている。

そこでその痛い思いをした筆者が、次に考え出したのが以下の方法である。

このようにどこの家庭にもあるカレー用のスプーンを親指の替わりとして使うのだ。

親指ほど絶大な効果はないものの、ウロコ取りの道具を使うよりは断然効率的な作業が出来るのは間違いないので是非試して欲しい。


次にウロコを除去したら、腹を開けて内臓を取り出すことになるのだが、この時もベラ科の魚に特有の注意点がある。

上画像のなかの白い歯のように見える内臓の部位は、食道入口の噴門部にある咽喉歯という名前で、一般的には「ノド歯」と呼ばれ、餌の甲殻類や貝類の殻などをこの歯でバリバリと砕いて、砕いた殻を吐き出して、その中身だけを食べる構造になっている。

これは固い貝殻などを砕くので非常に固くて石のような部位であり、この部位を無理やり包丁で切り離そうとすると、ここでも包丁は刃毀れを起こしてしまう恐れがあるので解体の際は注意が必要なのだ。

この咽喉歯のことについては、 「マクブ湯霜薄造り」平成23年8月号 89 や、 「平成イラブチー薄造り」18年7月号 31 の号でもそれぞれ触れているので、今回はこれくらいで軽く流しておこう。


煮付けが美味しいことは先に述べたが、煮付け用の商品は頭も含めて以下のような感じで盛り付けたら、普通は原価100円ほどを見ておけば良いだろう。

そして、冬場に旬を迎えるベラ科の魚の一つでもあるイラは、煮付けだけでなく鍋物の材料としても美味しいのだが、このことを知らない人が多いようである。

鍋用カットにするには上の画像のように魚体を縦に分けて、これを一口サイズにカットしていく。

そして、これも冬場に旬を迎える比較的安価なメジナの切身と一緒に盛り付けると以下の画像のようになる。

イラとメジナという安価な白身魚同志を組み合わせた鍋物材料セットだから、原価は随分安くあがるはずで、これで200円からせいぜい300円ほどで納まるはずである。

売価はいくらにすれば売れるのか、その店の考え方次第だとは思うが、冷凍魚を使わず生魚だけの鍋物セットが580円の売価であれば直ぐに売れるのではないかと思う。

鍋物用の野菜を一緒に盛り付けていないので、商品化作業スピードも早く、生魚という価値感も備えており、原価も抑えられ、値入率も高いという商品はそれほど多くはないのではないかと思う。

値入率を高めながら売価も安い商品というのは、その辺にゴロゴロ存在しているわけではないが、いわゆる下魚と呼ばれている魚を活用して値入ミックスした商品を作れば可能となるのであり、これは発想次第なのである。


イラは鮮度が良ければ、もちろん刺身にもなるし、以下の画像のように鮨にもなる。

 

その身の色は透き通った感じの白身であり、変なクセもない。

敢えて言うならば、クセがなさ過ぎて物足りないくらいであるが、養殖魚の脂ギトギトはないので、天然の魚の本物の味を賞味出来るのである。

見た目は多少ヒラメに似ていると言えないことはないが、まあそれはハッキリ言って違うけれど、ヒラメ紛いの白身のにぎり鮨というのを、比べものにならないくらい安い価格で食べることが出来たら、それはそれで満足ではないだろうか。

もちろん、盛り合わせのネタとして活用すれば値入ミックスは面白いような原価低減を可能とするであろう。


イラのように「謂われなき偏見で見られている魚」は価格的に低く抑えられて取引され、市場では馬鹿にされ、見向きもされないで放置さされているけれども、そのように見られている理由は何なのか、本当のことを知っている人はそれほど多くいないのではないかと思われる。

養殖されて安定した仕入が出来るブリ、タイ、サーモンなどを前提とした商品では、その値入率を高くすることは競争上の関係から基本的に難しいのは自明である。

しかし「謂われなき偏見で見向きもされない魚」を、もしあなたが上手に扱うことが出来たら、競争する相手がいないのだから値入率をいくらでも高めることが出来る可能性があるのだ。

メジャーな養殖魚ばかりに目を向けないで、マイナーな魚にも注目してみよう。

そこには見たことない「底知れない量の金鉱」が埋もれているかもしれない。




更新日時 平成26年12月 1日


食品商業寄稿文

食品商業寄稿文(既刊号)

食品商業2013年7月号

食品商業2013年6月号

食品商業2013年5月号

食品商業2013年4月号

食品商業2013年2月号

食品商業2012年10月号

食品商業2012年9月号


ご意見やご連絡はこちらまで info@fish food times

FISH FOOD TIMES 既刊号


(有)全日本調理指導研究所