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令和 5年 7月号 235
養殖カワハギ 刺身&鮨
養殖カワハギ
カワハギの仲間の一つであるウスバハギについては、FISH FOOD TIMES 令和3年7月 No.211で採りあげていたが、それからちょうど2年後の今回はカワハギの仲間の中で一番高価な本カワハギと呼ばれているカワハギ科カワハギ属カワハギをテーマとして扱うことにする。No.211の中では以下のように記していた。
カワハギ科の魚については、15年前の平成18年1月号でウスバハギ、10年前の平成25年5月号No.113でウマヅラハギについて記していた。今のところ、まだカワハギはテーマとして採り上げたことはなく、その内に記事として扱うことになるかもしれないが、どちらかと言えば漁獲量が少なくて価格が一番高いために天然よりも養殖の方が注目されており、タイやカンパチのように養殖物が主流となる可能性もあり、記事にするとすればそういった観点から扱うことになるかもしれない。 |
2年前にこのように記していて、そういう記述を今回実際に実現するための動きとして、馴染みの店の活魚水槽で泳いでいた養殖カワハギを購入したので、今回は専ら養殖ということに焦点を当てて記事を進めていくことにしたい。以下の動画は購入する前の水槽で泳ぐカワハギの様子である。
次の画像は活魚水槽の中から網で掬い上げられ、神経締めをされる前にまな板の上でまだピチピチと跳ねていた状態のカワハギである。その下は比較のために天然カワハギの手持ち画像を添えてみたが、比べてみると、養殖物はふっくらとしていて、天然物は贅肉がなく筋肉質に見える。
そして以下は、神経締めの後、首と尾ビレ付け根に出刃包丁で血抜きの処理をされ、店から持ち帰って約6時間ほど経過した養殖カワハギだ。時間が経過した分、魚体表面の黒い色が多少飛んでいて、少し白っぽくなっている。カワハギは鮮度が落ちていくに従って色が白くなるので、このような色の変化が鮮度判断の目安ともなる。
カワハギの肝
カワハギは何と言っても肝臓にこそ一番価値がある、というのは誰しもが口にすることである。しかし、あまりにも肝にばかり目がいって、肝は冬に大きくなるので冬が旬という見方がされているけれど、筆者は逆に夏が旬であると思っている。何故ならば、カワハギの産卵時期は地域によって多少ズレがあるけれど8月頃が中心であり、産卵前の春から夏にかけて魚体が充実し美味しくなると思っているからである。
しかし、このことも天然カワハギでの話であって、養殖カワハギの場合は肝が小さい時期と言われる夏場でもしっかり大きくなることが多く、そのことに養殖のメリットがあるのだ。
以下の図を見てほしい、これは長崎県総合水産試験場環境養殖技術開発センター養殖技術科の発表資料である。長崎県内の漁場で漁獲された天然カワハギ(魚体重約200g)の比肝重(魚体重に対する肝臓重量の割合)は、約2%から4%前後であったのに対し、養殖したカワハギ(魚体重約200g)の比肝重は1年を通してほぼ10パーセント以上あったということだ。
また、養殖カワハギは成長が早いことも養殖事業に有利と考えられている。ある事例では、秋に飼育を開始して、一年と三ヶ月程で400gから500gに成長したという報告があり、このような早い成長が確実に達成できれば、養殖カワハギは非常に魅力的な魚種なのだが、ただ現状のところは2年目の冬まで飼育して250gから300g程度に成長するのが一般的だということだ。
元々養殖カワハギというのは、ブリやカンパチの養殖網に付着するフジツボなどの掃除役として網の中に入れられていた。ところが、カンパチなどと一緒に育ったカワハギを旧築地市場の時代にそこへ出荷してみたところ高値で取引され、それからカワハギを主体にした養殖も始まったという歴史を持っている。養殖カワハギの主産地はブリやカンパチの養殖が盛んな長崎、大分、鹿児島などの九州と愛媛、和歌山などの各県である。
このようなカワハギ養殖の魅力を知った鉄道会社のJR西日本は、2022年から島根県の企業と共同で島根県出雲市にある廃校となった中学校を養殖施設として活用し、カワハギの養殖事業をスタートしたということだ。
今回筆者が手に入れたカワハギは重さ約250gほどで、1尾1,200円を2尾購入したのだが、これをkg当たりに換算すると4,800円/kgだから、養殖トラフグ並みの価格である。この価格は決して法外なものではなく、懇意にしている魚売場の責任者が少し安くしてくれた価格なのである。
店の作業場で神経締めをしてもらってから約6時間後に以下のような方法で肝を取り出した。
カワハギ肝の取り出し方法 | |
1,先ず第一の作業順位として、腹ビレが退化した長い骨と胴体の間に切り込みを入れる。 | 6,苦玉など他の内臓を潰さないよう、指で慎重に扱いながら肝臓を分離する。 |
2,刃元で長い骨を押さえ、左手で魚体を左側に引き起こし、胴体と骨を分離する。 | 7,取り出した肝臓と6月の時期でまだ成長途上の段階にある魚卵。 |
3,長い骨が分離された状態。 | 8,骨抜きなどの道具を利用して、小さな細い血管を除去する。 |
4,血抜きの切り込みから、両手で頭部と胴体を分離するのは、腹の長い骨を除去した後におこなう方が肝臓を取り出しやすくなる。 | 9,中に溜まっている血液を指で押し出す。 |
5,腹部の皮が残っていたら、肝臓に傷つけないよう、逆手包丁でその部分を切り離す。 | 10,この後に肝を水晒しをするので、ザルの中に入れる。 |
次に、この肝をにぎり鮨のトッピングと刺身用の肝ポン酢に使うため、ブロック状の形から不定形のトロ身へと変化させる作業をおこなう。今回筆者は肝に熱を加える工程を敢えておこなわなかったのだが、その理由はカワハギが締められて以降、まだほとんど僅かしか時間が経過していない飛びっ切り鮮度の良い肝が手に入ったのだから、これに湯霜やボイルなどで熱を加えるのはもったいないと判断し、生肝の美味しさを堪能することにしたのだった。
肝の可食処理 | |
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1,流水に5分ほど晒して血や汚れを洗い流す。 | 6,キッチンペーパーに水分を吸収させた後の肝の状態。 |
2,水に晒した後の肝。 | 7,再び肝をザルに入れ、ザルよりも少し大きめのボールの中にセットする。 |
3,肝をキッチンペーパーの上に置く。 | 8,スプーンなどの道具を使って肝を押さえつけ、肝をボールのなかに漉し出す。 |
4,肝の上からキッチンペーパーを被せる。 | 9,肝の薄皮がザルの中に残るので、これを取り出して廃棄する。 |
5,キッチンペーパーで上下を包んで、しっかりと水分を吸収させる。 | 10、ザルで漉し出された肝の状態。 |
身皮の除去処理はどういう方法でおこなうか
カワハギという名前の由来は「皮を剥ぐ魚」ということからきているように、皮を剥ぐという工程が普通である。皮を剥ぐ工程は2年前の 令和3年7月 No.211 の時にウスバハギで紹介しているし、ある意味当たり前すぎるので、今回は同様の重複を避けることにしたい。
それよりも、プロでも失敗しがちな「身皮の除去作業」について触れてみたい。カワハギの身皮は薄くて引っ張りに弱く、途中で切れやすく、この身皮が切れると残りの部分を取り除くのがなかなか大変な作業になる。このことは魚販売関係者の皆さんであれば一度や二度は経験されていてご存じのはずである。しかも200gから300gほどが平均的な大きさのカワハギは、その小さなサイズであるが故に、中途半端に残った身皮を除去することに手間取ることも多く、歓迎できない小さな作業に手を取られることになる確率が高いのだ。
筆者は内引きで柳刃をそっとゆっくり慎重に動かして身皮引きをするが、やはり必ずしも成功するとは限らず、失敗して切れることも避けられない。実はこの失敗を少なくする方法があるのだけれど、これは皮肉なことに「カワハギの皮剥ぎをしない」ことなのだ。(この一連の作業は、またしても頭上カメラのタイムラプス機能が駄々をこね、ピンボケ画像になってしまったので画像を紹介できず、別カメラの手持ち撮影の分だけである)
以下に、@ 皮剥ぎをした魚体の身皮引き、及び A 皮剥ぎを省いた魚体の身皮引きの二つの方法を実行した場合、その結果がどのようになったかを二つに分けて説明しよう。
身皮引き作業方法の二種類 | ||
---|---|---|
@ 皮剥ぎをした魚体の身皮引き |
A 皮剥ぎを省いた魚体の皮引き | |
1,一般的な皮剥ぎをした三枚おろし | 1,皮をつけたままの三枚おろし | |
2,内引きで身皮引きをしたが、上身の一部に身皮が少しだけ残ってしまった。 | 2,皮が付いたまま内引きをした | |
3,左の丸囲いの中の白い部分が残った身皮で、右の丸囲いの中は除去した後の身皮。 |
3,身皮は魚体に残らず、皮の方に付いている | |
左は皮を除去した方で上身に身皮が少し残り、右は皮付きで皮引きした方で身皮は残っていない |
この結果を検証してみると、どちらかと言えば A の「カワハギの皮剥ぎをしない」で皮引きをした方が身皮は身の方に残らず失敗しにくいと感じた。しかし魚を皮引きした時に表れる光沢のある肌(上画像の左上の下身の表面の光沢)のような皮下脂肪は Aの方法では全く期待できないし、身皮を皮と一緒に捨ててしまうわけだから、身皮をボイルして刺身に添えることも出来なくなる。つまり、作業効率は良いけれど廃棄部分が増えて、コスト的には割高になるのである。
今回は身皮が1尾分全く存在しないことになり、残りの1尾分も中途半端になったので身皮をボイルして刺身に添付することはしなかった。
高価なカワハギの刺身と鮨
1尾重量が約250gのカワハギを1尾1,200円で2尾購入し、これらを刺身と鮨にしたので、以下にその工程を紹介しよう。
刺身と鮨へ |
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1,上身を背身と腹身に分離した。 |
2,下身の背身と腹身。 |
3,上部の4枚が背身。下部の4枚は腹身。 |
4,にぎり鮨の鮨種は腹身だけを使った。5カンにするために4枚の腹身から、比較的盛り上がった厚みのある部位を少しずつ削り取って寄せ集めることで、鮨種1カン分を別に準備した。 |
5,背身4枚を薄造りにして、出来るだけ多くの枚数になるようにした。 |
このように、カワハギを2尾使った作品としては刺身と鮨が一つずつであり、商品原価はトレーやあしらいの副資材費を含めない魚単体での計算は1,200円なので、店で販売する場合はたぶん2,000円を超えることも推測される。
このボリュームで一つ2,000円と聞くと、なかには「この大きさの商品なのに、そんなに高いのではとても売れない・・・」と即座に拒否反応を示される方もおられるかと思うが、ウマヅラハギやウスバハギではなく、紛れもない本カワハギのにぎり鮨を商品として食するとなれば、鮨屋さんで1カン1,000円を請求されても驚いてはいけないのである。 養殖カワハギだからと言って安いとは限らず、逆に夏場であればトラフグよりも高いくらいの覚悟をしなければならないのである。
比較対象のトラフグとの大きな違いは、トラフグでは食べることの出来ない肝をカワハギは堪能することが出来るということである。今回筆者は敢えて肝に熱を加えず「生肝」にして、にぎり鮨にはこれをトッピングし、刺身はネギと紅葉おろしを加えたポン酢醤油に漉した生肝を混ぜ込んで「肝ポン酢」にして食した。
カワハギはせいぜい大きくても300gもない高級魚であり、量的に満腹できる魚ではなく、少しの量をしっかり味わって賞味する魚として捉えるべきであろう。手間がかかる割りには満腹感は期待できないので、今回はアラも料理で有効に活用することにした。
カワハギのアラ煮
カワハギの大きな頭部を捨ててしまうのはもったいないので、何か料理にしようと考え、一番手っ取り早いのは味噌汁と思われたが、アラ煮とすることにした。
カワハギのアラ煮 | |
---|---|
1,頭部の皮を剥ぎ、流水で血などを洗い流す | 8,水分を拭き取った後に振り塩して暫く放置する。 |
2,両カマ部の間に出刃包丁の刃先を切り込ませる | 9,熱湯に入れて湯霜する。 |
3,頭頂部を下にして刃先を切り進める。 | 10,湯霜の後、水分を拭き取る。 |
4,頭頂部を境にして二つに分断する。 | 11,深型フライパンに酒と水を入れ、沸騰させてからアラを入れる。 |
5,二つのエラを切り離す。 | 12,落とし蓋をして5分ほど煮て、途中でアクを取り除く。 |
6,中骨を二つに分断する。 | 13,ミリンと醤油と砂糖を各大さじ2を入れ、5分ほど煮たら仕上げ用のミリンを大さじ1入れてから一煮立ちさせ、照りを出す。 |
7,同じような大きさに切り揃えたアラを流水で水洗いする。 | カワハギのアラ煮が完成 |
アラ煮を作ったものの、食べる部分はほとんどなく、これも満腹感にはまったくつながらなかったが、購入した2尾のカワハギはアラ煮の骨に付いていた肉もお箸で欠き取って食べたので、ほぼ全てを活用したと思われ、食べられる宿命の養殖カワハギとしても本望ではないかと思う。
養殖カワハギの未来は?
養殖カワハギというのは、元々がブリやカンパチの養殖網の掃除役として養殖されていたということだが、今や魚のs当たり単価で言えば、主役と脇役が逆転してしまっているのである。カワハギがそういう高級魚になるなどとは漁業者の皆さん達は予想もしていなかっただろうし、世の中のアングラーの皆さんもそんなことはまったく知らない人がいるのではないだろうか。
筆者は定置網を引き揚げる舟の上で、ウマヅラハギが水揚げされる側から海の中に投げ戻される光景を実際に自分の目で見たことがある。これはウマヅラハギが定置網の中に入っていると、その大きな角が他の魚、特にキズがあると極端に値が下がるイカ類などを傷つけてしまうし、その市場価格もあまり高くないので邪魔者扱いされて捨てられる運命にある魚だからである。
ところが、カワハギの方は大事に養殖されて高値で販売されているのである。上記していたように、JR西日本はその子会社であるJRイノベーションズと昭和開発工業が昨年から共同で出雲市内の廃校でカワハギの陸上養殖を開始し、1年ほど経過した約4ヶ月前の今年3月から需要先に養殖したカワハギの出荷を開始したということだ。
そのブランド名は「ぽちゃかわハギ」という名前とのことだが、納品価格は幾らなのだろう。気になるけれど、資本関係先や大口取引先などと一般の小口仕入れでは価格も違うだろうし、今後の戦略的な方向性や養殖コストをどう計算するかで価格設定は違ったものになるのだろう。
あるネットショップでは、カワハギ刺身50g 小皿4ヶ、肝・身皮20g4ヶ、ポン酢30ml4ヶのセットが、15,000円で販売されていた。刺身だけで1kgに換算すると75,000円もするのである。冷凍しているのに、こんなに高いカワハギ刺身をいったい誰が買うのか?
トラフグと比較するために、養殖トラフグ刺身のネット販売例を見てみると、ある店の同じ15,000円売価の商品は、冷凍ではなく冷蔵品で30p大皿に130g入りで、皮湯引き80g、焼きふぐひれ4g、醤油150ml、もみじおろし10g 4ケ などが入っていた。このネット販売トラフグは刺身だけを1kgに換算すると、なんと115,000円/kgにもなり、確かに割高感はある。しかし日本人なら誰もが認める超高級品のトラフグなのだから、この価格は「まあ、こんなもんなのだろう、店で食べることを考えれば安いものだ・・・」と思う人もいるのではないだろうか。
しかし、仮に同じ人でもカワハギについては、トラフグのように高い評価はしてくれないのではないかと思う。見た目の大皿30pというのは、やはり小皿とは存在感が違うし、格が違って見えるのだ。付属品の数も違うし、やはり冷蔵のトラフグは冷凍のカワハギとは違った見方をされるに違いない。
これから先、養殖カワハギは一体どんな方向性を辿るのであろうか。トラフグと似たような超高級路線を執るのか、それとも無難な価格でその存在感を高めていくのか、その辺はいったいどうなるのであろう。
生サーモンの養殖が国内でもどんどん拡大していて、現在の高すぎる空輸生サーモンの価格がこれから少しは是正されることになるのかもしれないが、カワハギの養殖は生サーモンのような拡大を見せるのかどうか注視していきたいものである。
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更新日時 令和 5年 7月 1日