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平成24年 11月号 No.107



サーモンレタス裏巻き

(Salmon lettuce rollback)

 

 


今年のサーモン類の価格は、相変わらず全般的に「超安値」相場が続いている。

例えば、チリ産銀鮭については下のグラフのような推移である。

 

 

このように、銀鮭の価格は昨年と比較するとほぼ半値と言っても過言ではない。

チリ産銀鮭は今年度約10万トンが搬入されたようで、その内の2〜3万トンが消化出来ない内に11月の新物搬入時期を迎えてしまった。

つまり新物が入るに時期を迎えたことで、ヒネ物は更に安い価格とならざるを得ず、当面ヒネ在庫が処分されない間は、価格は低迷したままだとの推測が出来る。


幣紙は、今年の FISH FOOD TIIMES 4月号(100)の中で、アトランティックサーモンを取り上げ、かつてない安値での大いなる活用を説いたが、その後は予想した通りサーモン類全般が安値状況となって現在に至っており、刺身用の生サーモンについても同じように相場は低迷したままで推移している。

今年の鮭類の価格はいわゆる「買い手市場」のまま終わりそうな状況であるが、今年の小売末端の現場ではほぼ例外なく全国どこの企業や店も、買い手市場となった鮭類の販売によって、メリットを大いに享受できた一年となった。


関係先各社は鮭類の販売で売上だけではなく利益面でも今年は良い思いをしたようだが、その温度差というのは、やはりその運営手法や捉え方で大きな違いがあるもので、売上と利益の両方で素晴らしい結果を残したところがあるいっぽう、専ら仕入れ元に利益を残すだけで、必ずしも売上に活かしきれなかった所もある。

このような時に勢いをつけられる企業とそうでない所の差が如実に表れ、「機を見るに敏なり」という言葉があるけれども、今年の鮭類を利益だけではなく、どれだけ売上にも活かすことが出来たかを見れば、その手腕というのがある程度判断できると思って間違いないだろう。

思うに「FISH FOOD TIMESを毎月欠かさずチェックし内容を隅々まで確認している」という勉強熱心な人は、きっと「機を見るに敏」の優れた能力の人材であろう・・?


さて、そういう熱心なFISH FOOD TIMES読者のために・・・、巻頭画像の「サーモンレタス裏巻き」を提案したい。

今も低迷した価格で推移している刺身用生サーモンを更に活かした商品として、「洋風サラダ感覚巻き鮨」の提案である。

カリフォルニアロールというのは皆さんご存じのことと思うが、これはそれを日本版にアレンジしたものと考えてもらえば解りやすいと思う。

参考にする一例は、マグロとアボガドを裏巻きにしたカリフォルニアロールだが、この画像は実際にアメリカのスーパーで売られていた商品である。

筆者は米国のニューヨークから南西へ約1時間、距離40qほどの場所にある、ニュージャージー州WoodbridgeのWegmansの店において、これを$6.99で購入し、吹き抜け中2階のイートインスペースで昼食に食べたのだが、中巻き9カン入りのそれは食べやすい大きさで、味もなかなかのものであった。

このWegmans Woodbridge店は、食品スーパーとしての魅力は素晴らしく、寿司を始めとする惣菜の品揃えは非常に充実し、特に生鮮品には力が入っていた。

魚売場の品揃えも米国の他のスーパーでは見られないほどのものがあり、魚売場で注目すべきはオリジナル仕様と思われる独自のクローズド型ケースを使用し、マイクロレベルのミストを散布しながら、乾燥を避ける鮮度管理をしている点にあった。

画像が曇ったようになっているのは、ミストによって煙った感じとなっているからだ。

寿司は魚屋鮨ではなく、惣菜コーナーに属する位置づけにあったけれども、ここはアメリカなのか、と思えるほどの素晴らしい品揃えの充実度であり、もちろん「にぎり寿司」もあったが、やはりそのボリュームバランス的には、カリフォルニアロールと呼ばれる裏巻き寿司が圧倒的で、その人気度が伺い知れた。


また、3年前の平成21年11月に FISH FOOD TIIMES 11月号(71)の中でも、「サンフランシスコお魚事情」と題してカリフォルニアロールについて触れていた。

その巻頭写真には以下の画像を貼り付けていた。

これはサンフランシスコからゴールデンブリッジを渡った北部サウサリートという街の、Mollie Stone'sという店の中で、$6.59だったもので、

 

セミ多段ケースに趣向を凝らしたものも含め、色々な種類の商品が品揃えされていた。

この時は「お魚事情」の中の一つとして「Sushi」に軽く触れていただけだったけれど、今回はアメリカで根付いてポピュラーな存在の「裏巻き鮨」に焦点を当ててみよう。


1963年にロサンゼルスのリトル東京で開店した「東京会館」(1998年に閉店)の、オーナー小高大吉郎の提案を受け、鮨職人真下一郎がスシ・バーで、カニの脚身とアボカドをマヨネーズであえた海苔を表に使った巻き鮨を考案したのが、カリフォルニアロールの始まりとのことである。

ところが米国人の一部に黒い海苔を気味悪がり、剥して食べている姿を見た別の職人が、その改良版として海苔を内側に巻く作り方を考案したとされている。

この改良版は、見た目は普通の巻き鮨のように海苔の黒さによる暗いイメージはなく、表側に色々なトッピングをすることによって、明るく派手にすることも出来たので、アメリカ人の感性にマッチしたことから、今の隆盛を迎えることになったようだ。

手軽な価格で手に入るSpicy roll sushi(カリフォルニアロール)は、本格的な「SUSHI」に進む前の入門編として位置づけられていて、様々な工夫を凝らした商品の登場によって、その裾野は更に広まっているようである。


いっぽう、日本において「裏巻き」の普及度はどれほどかというと、ご存じのように隆盛という言葉にはほど遠い位置づけでしかなく、海苔を使った巻寿司は多いものの「裏巻き」となると、途端に存在感は薄くなる。

日本では黒い表面の巻きが大半で、その中身には様々なアレンジがされていて、バラエティさも充分だから「裏」の付け入る余地がなかったのかもしれない。

・・・と、考えるのは良いとしても、日本で裏巻きは受け入れられないのだろうか?

このところ魚屋鮨が惣菜部門の「惣菜寿司」を席巻する勢いで伸びており、既に原料の仕入れ段階で限界のある惣菜寿司は、魚屋鮨に太刀打ちできなくなっている。

例えば惣菜のにぎり寿司は、ネタの新鮮さで魚屋鮨とはまったく競争にならず、巻ものにおいても、恵方巻き商戦では魚屋の海鮮巻きにシェアを奪われ続けている。

こと新鮮な魚を材料に使う鮨という商品に関しては、惣菜寿司は魚屋鮨にお株を奪われ、肉などを使った「変わり種寿司」の方で生き残りを図っていくしかないのかもしれない。


今後は普通の巻物だけではなく、やはり「裏巻き」についても、これまでのように専ら惣菜部門に任せておけば良いという発想ではなく、魚屋鮨が惣菜とは違った視点で、斬新な商品を創造しなければならないのである。

まずはその一つとして「サーモンレタス裏巻き」を提案したい。

商品提案を行う最大の根拠は、上記した「価格」にあることは間違いないが、それだけではなく、昨今の「サーモン人気」も理由の一つに挙げられる。

鮨商品において、今やマグロと人気を二分すると言われているサーモンは、特に子供や女性に人気絶大とのことだから、子供や女性の嗜好を強く意識して、新たなニーズを開拓しようということだ。


裏巻きの作り方は簡単なので、敢えて説明の必要はないと思うが、チョットしたポイントを含めて、以下に図解してみよう。


サーモンレタス裏巻きの作り方
1.生サーモンを約20aの長さで40c前後に切る。 2.六ッ割キュウリ、レタス、マヨネーズ、長さ20aカットの玉子、フィルムを巻いた巻き簀を準備。
3.フィルムを巻いた巻き簀の上に全形海苔を乗せる。 4,シャリを200c広げ伸ばし、トビッコをトッピングする。
5,海苔とシャリの裏表を入れ替えて、中具を乗せる。 6.中具が緩くなりがちなので、途中しっかり締めるのがポイント。
7,黒ゴマのトッピング。 8,白ゴマのトッピング。
9,白ゴマと黒ゴマのトッピング裏巻き 10,白ゴマ4切れ、黒ゴマ4切れの各半本分を組み合わせた例。

サーモンは今年の相場からすると40〜50cであれば、50円〜80円で済むはずで、画像の場合は生アトランティックを使って、1本44cで57円という計算になった。

これにシャリ200c、だし巻き玉子、キュウリ、レタス、マヨネーズを加えても、1本分の原価合計は平均すると150円前後にしかならないはずであり、売価的にはボリューム感からすると、非常に魅力的なものが出せるはずである。

1本分で300円割れの売価が出せれば、昼のお弁当ニーズにはピッタリで、惣菜で流行の298円弁当にも対抗できる商品に成り得ると考えられる。


消費ターゲットとしては女性や子供を主な狙いとしているために、基本的にワサビなどの香辛料を一切使わず、せめて辛子マヨネーズ程度に刺激を留め、レタスのシャリシャリ感と合わせて、サラダ感覚の嗜好に訴えると良いだろう。

中具にレタスが入っているために巻きが甘くなって、中に空間が出来やすくなるので、途中で普通の巻物よりもしっかり「巻き締め」を行わないと、緩い巻きとなってしまう。

そもそも裏巻きというのは、シャリが外側にあるため粘着性を発揮できず、中にある海苔は中具を結着する力はないので、緩い巻きになりがちな商品なのだ。


カリフォルニアロールという米国仕込みの寿司は、裏巻きという発想から生み出された。

この商品は本場の日本からする「外道」だとの見方をされるのかもしれない。

古来からの伝統格式を重んじる鮨屋、割烹、料亭の職人さんからすると、これらの技法や商品はとても受け入れられるものではないのかもしれないけれども、魚屋鮨という新鮮な魚のネタを活用した新たなカテゴリーの歴史はまだ浅く、この分野を拡大発展させていこうとするならば、変な拘りは阻害要因にしかならない。

日本の車やバイクも逆輸入品が珍しくなくなってきた世の中である。

魚屋鮨に関しても、発想の逆輸入は大いに歓迎し、新たな商品を創造すべきであろう。

目先の利益だけに囚われず、相場に恵まれたサーモンの活用チャンスを最大限に活かし、更に面白い発想の裏巻き魚屋鮨商品を新たに創り上げてほしいものである。


更新日時 平成24年11月 1日


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