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鮮魚コンサルタントが毎月更新する魚の知識と技術のホームページ
令和 5年 12月号 240
これが主役・・・?
夏ではなく冬でしょう
11月末に鮮度の良い北海道産イシガレイが手に入った。いつもの店で約1kgものを1尾1,000円と安くしてもらい購入した。その魚体は丸々と隆起していて厚みがあり、まさに旬を迎え脂肪を蓄えた魚の典型的な姿形をしていた。
ある情報では東京などでイシガレイは夏が旬とされているとのことだが、晩秋から初冬にかけてのこの時期に、このような姿をしたイシガレイを目の前にすると、どういう理由でこの魚の旬を夏としているのか、現時点で筆者は理解できないでいる。
イシガレイの特徴とその活用方法
イシガレイはウロコがなく、下画像で強調表示している場所などに石状骨質板という石のように硬いコブ状の隆起を持っている。この特徴からイシガレイという名称になったとのことである。
この石のような堅い部位は何のために存在しているのか、魚図鑑やネットで調べても答を探し出すことができなかった。そこで、これはあくまで何ら科学的根拠もない筆者の推測レベルでしかないのだけれど、イシガレイにはまったくウロコがないことから、例えばアジ類のウロコが集まったゼイゴのように、ウロコが集中して固まって石のように堅くなったのではないだろうかと想像した。
アジの場合、ウロコをゼイゴと呼ばれる部分に集中させることで、後方から噛みついてくる捕食魚に対して防御をおこなう鎧のような役割を持たせているとのことである。だから海底に棲むイシガレイは、上方から襲ってくる捕食魚に対して、石のように堅い部位で防御する鎧の役目をさせているのではないかと勝手に想像したのだ。
この石のような部位は切り離して廃棄するのが調理の基本となっていて、これらは皮にくっついているだけなので包丁で簡単に削ぎ落とすことができる。以下に石の除去を含めて、内臓処理作業までの工程を画像で説明しよう。
イシガレイの内臓処理作業工程 | |
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1,魚体上面のヌメリをタワシで洗い流す。 | 5,上面側と下面側の中間の腹部を切り開く。 |
2,魚体の下面の方も丁寧にヌメリを洗い流す。 | 6,エラの付け根の反対側を切り離す。 |
3,皮の上にある石を削り取る。ウロコがないので、頭部側からでも尾部側からでも良い。 | 7,エラと内臓を取り出す際、大きな肝を傷つけないよう、両手で慎重に取り出す。 |
4,頭部を商品として活かす目的で、エラの付け根の一部を切り離す。 | 8,腹部から取り出した大きな肝。 |
カレイ類の頭部はもっぱら非可食部として捨てられることが多く、捨てることを前提にするとエラは除去せずに頭部に残したまま、包丁で胴体と頭部を分離するのが効率的なはずである。しかし今回の場合、せっかく丸々と太った旬のイシガレイであり、ホホ肉やカマ部も肉付きが良く美味しそうなので、頭部もアラの煮付けにすることにして、料理に不用なエラを頭部から除去した。
イシガレイの腹を開けてみると、丸々と肥大し、形がしっかりして身が崩れず、新鮮なことが一目瞭然の肝臓が現れ、大きな魚卵も見え隠れしていたことから、ラッキーなことになったぞと筆者はほくそ笑んだのだった。
そして次に考えたことは、その一部が見え隠れしている大きな魚卵をいかにして傷つけず上手に取り出すかである。指で引っ張り出すようなことをして、魚卵を引きちぎって、元の形を台無しにしてしまうなんてことにならないよう、以下のように包丁作業を慎重に進めることにした。
腹部の分離と魚卵の取り出し作業工程 | |
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1,頭部を切り離す。 | 5,下面側も山高骨に沿って縦に切り込みを入れ、尻ビレ側へと中骨の上を切り進む。 |
2,山高骨に沿って、尾ビレ付近まで縦に切り込みを入れる。 | 6,魚卵を傷つけないようヒレ際まで切り進み、魚卵を慎重に扱いながら取り出す。 |
3,腹部の切り口から、山高骨に向けて中骨の上を切り進める。 | 7,下面側の腹部を切り離す。 |
4,大きな魚卵を傷つけないよう、慎重に山高骨まで切り開き、上面側の腹部を切り離す。 | 8,上面と下面両側の腹部と取り出された魚卵。 |
ここまでのイシガレイ解体作業は、三枚おろしでもなく、五枚おろしでもない。たぶん、読者の皆さんもあまり見たことのない調理作業工程だろうと思われる。このようにしたのは、イシガレイ1尾の腹身と背身とを違った方向の料理にする目的があったからである。
腹身だけを使った鮨と刺身
腹身は上面も下面も刺身と鮨にすることにして、以下のような作業を進めた。
腹身の皮引き作業工程 | |
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1,上面側腹部の小骨と薄皮を包丁で除去する。 | 6,上面側腹部のエンガワの皮を引く。 |
2,上面側腹部のエンガワを包丁で幅広く分離する。 | 7,上面側腹部の皮を引く。 |
3,下面側腹部の小骨と薄皮を包丁で除去する。 | 8、下面側腹部のエンガワの皮を引く。 |
4,下面側腹部のエンガワを包丁で幅広く分離する。 | 9,下面側腹部の皮を引く。 |
5,腹部のエンガワが分離された状態。 | 10,腹部の皮が除去された状態。 |
次はエンガワを使ったにぎり鮨である。エンガワは1尾で4本あるはずだが、今回の場合は腹身だけなので2本しかなく、鮨ダネは4カンしかとれなかった。このためエンガワのにぎり鮨だけでは商品とすることが出来ず、腹身の一部を使っていることから、残念ながら貴重なエンガワにぎり鮨という表現は出来ない。
エンガワも丸々として厚みがあり、観音開きにして薄く幅広い形にしたが、それでも歯応えは十分過ぎるほどのものがあった。
イシガレイのにぎり鮨作業工程 | |
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1,下面側エンガワに皮の裏から切り込む。 | 5,皮ギリギリまで刃先を入れ切り開く。 |
2,皮ギリギリまで刃先を入れ切り開く。 | 6,観音開きにされた上面側のエンガワ。 |
3,観音開きにされた下面側のエンガワ。 | 7,エンガワをにぎり鮨にする工程の一部。 |
4,上面側エンガワに皮の裏から切り込む。 | 8,エンガワをにぎり鮨にする工程の一部。 |
イシガレイにぎり鮨(エンガワ入り) |
続いて、腹身だけを使った刺身薄造りである。皮目の切角を活かすために、すべてそぎ造り技法で商品化した。
イシガレイの薄造り刺身作業工程 | |
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1,上面側の腹身を左姿勢で、薄く刃先を切り入れる。 | 5,頭部側に向けて、1枚ずつ切り進める。 |
2,皮一枚分残して柳刃を直角に起こし、手前に引いて切り離す。 | 6,大き過ぎたり、小さすぎたり、歪な部分を集めて花造りの材料にする。 |
3,切り離した刺身の頭の方を、左手人差し指と親指で少し折り曲げて盛りつける。 | 7,花造り用の材料を一列に並べ、端から巻いてバラの花状にあしらえる。 |
4,下面側の腹身はそぎ造りの場合、尾部側から切り始める。 | 8,柳刃の切っ先を指のように動かして、最終仕上げの微調整をする。 |
イシガレイの薄造り刺身 |
背身の商品化
イシガレイの腹身を通常の方法とは少し違った形で魚体から分離したので、残りは下画像のようになった。イシガレイはどちらかと言えば骨張っていて、これを食べる時に骨の存在感を大きく感じると思う。出来れば、少しでも骨の出しゃばり感を和らげるために、山高骨も切身から除去することにした。
以下の方法は読者の皆さんがどのように捉えられるか分からないけれど、まあこんな考え方ややり方もあるのだ、と軽く受け止めてもらえれば良いのではないかと思う。
イシガレイ背身の切身 | |
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1,イシガレイの腹身を除去した残りの部分。 | 5,最後の5切れ目は端を切り形を整える。 |
2,背ビレを除去する。 | 6,ほぼ同じ大きさに切り揃えた切身5切れ。 |
3,背身と大きな骨の部分を分離する。 | 7,イシガレイ切身(2切れ) |
4,出刃包丁の刃先で切り込み、切身をつくる。 | 8,イシガレイ切身(3切れ) |
この切身を使って、以下のように揚げ煮の料理にした。
イシガレイ揚げ煮の料理作業工程 | |
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1,小麦粉と片栗粉を半々にした唐揚げ粉を全体にまぶす。 | 4,170℃の油できつね色になるまで揚げる。 |
2,シシトウが爆発しないよう、包丁で切れ目を入れ、軽く十数秒だけ揚げる。 | 5,揚げ終えたイシガレイの切身。 |
3,緑色を鮮やかに残したままのシシトウ。 | 6,煮汁で色が付く程度に煮る。 |
イシガレイ揚げ煮 |
このイシガレイ揚げ煮は背身だけで腹身はなく、カレイ類の料理で一番美味しく魅力的な存在である魚卵がないけれど、これは意図的にそうしているのである。その分という言い方は変かもしれないが、中骨が半分しかないので、食べる時に骨の存在感が薄くなるのは間違いない。1kg以上の大きさのイシガレイであれば、背身だけでも切身をするには十分な大きさだと感じた。
イシガレイの醍醐味
さて、カレイの煮付けに魚卵がないのはどうしたものか、それではカレイ料理らしくないのではないかと思われるかもしれないが、今月号はここから意外な展開となるのである。既に巻頭画像で示しているのでお分かりだと思われるが、カレイ類最大の魅力である魚卵を切身と一緒にするのではなく、もう一つ魅力を放つ肝を加え、更に頭部のアラを一緒にして以下のような商品にしてみたのである。
どうだろう、この商品は売り物にならないだろうか。魚料理が好きな人に限らず、料理の素材を上手に見極めることが出来る人であれば、これを見たら俄然料理創作意欲が湧いてきて、きっと涎を垂らすのではないかと思うのだ。
筆者はこれを煮付けにして食したのだが、その感想は「これだ!、これが一番・・・」と唸ったのだった。その料理工程はなんら特別なことはなく、以下の通り簡単なことである。
イシガレイアラ煮の料理作業工程 |
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1,沸騰した煮汁に頭部を入れる。 |
2,頭部に時々煮汁を回しかけながら、さらに魚卵を加える。 |
3,最後に肝を入れ、10分程度煮る。 |
4,魚卵は煮すぎないよう5分程度で鍋から取り出し、別皿で味がしみるよう煮汁をかけておく。 |
イシガレイのアラ煮 |
イシガレイに限らずカレイ類の煮魚が好きな人は、たぶん子持ちカレイを優先して購入し、料理が出来上がったら、その魚卵を食べることを楽しみにしている人が多いのではないかと思う。やはり、一般論としてカレイ料理は魚卵こそ最大の魅力だと思われる。
子持ちカレイの切身というのは、国産のカレイだけでなく、外国から輸入された冷凍ものにも多く、今や国産よりも外国産の方が幅を効かす時代になっていると感じている。子持ちカレイの煮魚を食べるとすれば、別にこれらの外国産冷凍魚で十分だと思われている方も多いかもしれない。
しかし今回のイシガレイのように、飛びっ切り新鮮な肝を腹に抱えた外国産冷凍子持ちカレイが販売されいるのを見たことはあるだろうか、筆者は見たことがない。
魚の肝臓は魚体の大小や季節によって大きさのバラツキがあるだけでなく、魚卵のように卵膜で守られていないので形が崩れやすく、鮮度落ちも早くて変色しやすい、という取り扱い上の様々な難点を抱えている。魚の肝で一番有名なアンコウの肝でさえ、元の形のままで販売されることは少なく、アンキモという商品はビニール袋に入れられて販売されている。つまり、魚の肝が元の形をしっかり保ちながら鮮度感を示す色合いを残しているとすれば、そのことが価値であり、その大きさが大きくなればなるほど価値が高まると考えて良いのである。
今回取り扱ったイシガレイのような肝であれば、その価値レベルは間違いなく高く、それに加えて丸々とはち切れんばかりに大きく、色が良くて鮮度感のある魚卵と一緒であれば、それが料理資質レベルはとても高いと見るべきであろう。
とにかく、改めて強調しておきたいのは、イシガレイの薄造り刺身、にぎり鮨、背身の煮魚を同時に並べ、これらをすべて食して比較してみた結果、「これが一番・・・」と唸ってしまったほど美味しかったのが、アラ煮だったのだ。
イシガレイアラ煮の料理が難しいかと言えば、まったくそんなことはなくて、こんな簡単なことは無いと言えるほどであり、つまり魚卵や肝が元々持っている料理素材としての質の高さがそのまま結果として表れたのである。
読者の皆さんが属する店は、どんな客層を顧客として抱えておられるのだろうか。イシガレイのこういう商品を価値あるものとして認めてくださるお客様がそれなりにいらっしゃれば、今月号の提案も活きてくるのではないかと思われる。主役と脇役が逆転するような商品提案を理解してくれるお客様はそれほど多いとは思えないが、こういうことが「分かる」お客様をどれだけ惹きつけられるか、そのことでこれから先も生き残れる店になるかどうかが問われることになるだろうと思う次第である。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 5年 12月 1日