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令和 6年 3月号 243
生で食べるマエソ
魚売場で売られていない美味しい魚
ワニのように鋭い歯を剥き出しにしたこの画像を見て、何という魚かを直ぐに当てられる人はあまり多くないのではないかと思われる。そう表現できるほど、魚屋の店頭で見かけることは希有だと言って良い。
その正体はマエソである。このマエソと瓜二つで、尾ビレの色合いでしか違いが判別できないワニエソという同属の魚がいて、これらは別種であるけれどマエソと区別せず、同じ魚として扱われることが多いようである。
エソの漢字は恵曾と書くらしいが、この漢字の意味は、醜悪な感じ、つまらない、といった意味がある。昔からエソは「蛇の化したるもの、もしくはガマガエルの化したるもの也」とも言われてきたようだが、下の画像を見ると確かに、ヘビの頭部と似ているし、カエルの顔面にも似ていないこともない。
魚売場にこういった表現をされる魚が並んでいても、普通の人は見た目を気味悪がって、美味しそうだから涎が出ると言う人はほとんどいないのではないかと思われる。つまり魚屋さんもそういう見方をされる可能性のあるエソを好んで仕入れして品揃えをしたがらないことが、魚売場に並ぶことが少ない要因の一つではないかと考えられる。
マエソはヒメ亜目エソ科マエソ属の海水魚であり、上の画像のように大きな目と口、鋭い歯を持っていて、小魚、甲殻類、貝類などを食べているらしい。大きさは30〜40cmくらいが普通だが、大きいのは70cmにもなるのがいるということだ。 生息域は千葉県以南の太平洋側、及び若狭湾より西南の日本海側で、水深100mくらいの砂地に棲んでいるとのことである。
上質の白身でクセは無いのだが、小骨の多いことが最大の難点で、小骨も背と腹の二つに分かれて存在しているため、三枚におろした後で数多くの小骨を取り除く作業が待っている。小骨は太くしっかりとしていることから、ハモのように骨切りをして刺身や鮨にするのは適切ではないのだ。
エソが一般的に魚売場に並ぶことが少ない理由は上記したような見た目の悪さだけでなく、このように小骨が多くて取り扱いが厄介なもあるのだ。調理に時間や手間がかかる理由から魚市場での取引価格はかなり安価だということであり、漁獲された多くのエソは蒲鉾など練り製品材料にするため、練り物の関連業者がほぼ買い占めているようだ。
蒲鉾の歴史と特徴
蒲鉾は室町時代の頃にその原料としてナマズが使用されていたらしいが、江戸時代になるとハモが最高の材料とされ、他にタイ、アマダイ、コチ、ハゼ、メバル等、白身魚はほとんどを利用されていたようである。明治時代には、ムツ、スズキ、エソなどが主体となっていったようだが、それらは次第に資源が枯渇していき、明治の末頃には東シナ海でトロール漁業が操業されるようになった。それから、グチ、ニベ、エソ、太刀魚、ハモ、サメ等が、それまでの近海物にとって代るようになった。この「以西物」も時代とともに漁獲量が減少していき、これに代るものとして次に昭和30年代には北洋のスケソウダラの冷凍すり身が登場することになり、現在では日本のどの地域でも、蒲鉾原料の大半はスケソウダラを主原料とするようになっている。
蒲鉾の名称は、材料を竹の棒に筒状に巻いて作った形が蒲の穂に似ていることから「蒲鉾」と呼ばれるようになったとされている。竹を抜き去ると現在の竹輪の形になるが、板の上に成形した「板蒲鉾」が登場し、区別のために「竹輪蒲鉾」と呼び分けていたが、元祖の方は「蒲鉾」が脱落して単に「ちくわ」となり、板蒲鉾の方は逆に板が外れて「蒲鉾」になった。
昔から白身の魚は高価だったので、蒲鉾もご馳走と考えられていたようで、それらは贈答品として用いられ正月のおせち料理にも利用されてきた。蒲鉾が商品として販売されるようになったのは江戸時代の頃からであり、食品工業的な生産が行われるようになったのは明治以降とされている。 日本農林規格及び品質表示基準では蒲鉾類を、@蒸し蒲鉾、A焼抜き蒲鉾、Bちくわ、C風味蒲鉾、Dゆで蒲鉾、E揚げ蒲鉾、F特殊包装蒲鉾、G細工蒲鉾、に分類している
魚肉は食塩と一緒にすり潰すと、たんぱく質が溶け出して網目状に結び付き、これを加熱するとさらに網目構造が強固になって独特の食感を出すようになる。この歯応えは「足(あし)」と呼ばれ、蒲鉾の商品価値を左右する。この歯応えを出すために比較的安価な蒲鉾には澱粉などの添加も行われている。
澱粉が多い安価な蒲鉾には「猫またぎ」をされる粗悪なレベルのものも実際にあったと筆者は妻から聞いたことがある。これは妻が昔経験した本当のことで、実家で飼っていた猫が家の前にある蒲鉾店の商品を食べさせようとすると、臭いをかいでソッポを向き、その代わりに別の違う店から買ってきた高い蒲鉾を差し出すと、その飼い猫は喜んで食べたとのことである。この話を聞くと、猫は臭覚で蒲鉾の品質を見分けられるようだが人間はどうなのだろう、1個98円といった猫またぎ蒲鉾を美味しいと言って喜んで食べていないだろうか、嗅覚や味覚が猫以下にならないよう気をつけたいものである。
一般的に、魚肉練り製品は細菌やカビなどで腐敗しやすいために冷蔵保存が指定されていて、表示されている保存期間は1〜2週間程度のものが多く、長くてもせいぜい3週間である。しかし、一旦パッケージを開けたら1〜2日のうちに食べきることが勧められ、美味しく安全に食べる最善の方法は、24時間以内に食べることと言われている。
蒲鉾材料となる数多くの魚の中で、エソは1年を通して安定した味を保持していて、そのすり身は適度な弾力を持ち、旨みが強く、美しい白さを保つ、という蒲鉾に必要な条件をすべて満たしているのだ。このことから、エソを使った蒲鉾は高級品とされ、蒲鉾材料の王様とも言われていて、特にマエソを使ったものは別格だとされ、上質な最高級蒲鉾の材料として知られている。
国産エソ100%の蒲鉾
蒲鉾の最高品質となる国産の鮮魚エソを100%使った商品が、山口県萩市にある村田蒲鉾店で作られ販売されている。村四郎という商品であり、以下の画像がそれである。
筆者はこの商品に興味を抱き、福岡市及び近郊の店でこれを探してみたけれど、残念ながらどの店にも存在せず、販売されていたのは100円から200円台の安もの蒲鉾ばかりだった。ほとんどの商品の原材料名は魚肉という表示だけであり、いったいどんな魚を使っているのかまったく不明のものばかりだった。
村四郎はオンラインショップで140g900円で販売されているのだが、今回筆者がネット注文してもホームページ更新の締め切り日までに配達されることはないことが分かったので村四郎は購入していない。
結局筆者が村四郎を探しまくった挙げ句の果てに、最後の店で諦めの気持ちとなり、今回はこれで我慢しようと決めて購入したのは、同じ村田蒲鉾店の銀浪(ぎんろう)という名称の商品だった。これは110gで300円だったが、オンラインショップでは160gの商品が500円で販売されていた。
この銀浪という商品は福岡の魚小売関係者であれば馴染み深いのではないかと思う。筆者が約50年前に水産小売の仕事に関係し始めた頃、まだ数多く存在していた魚屋さんにはこの銀浪蒲鉾が必ずといって良いほど品揃えされていたのを記憶している。
そこで、筆者はなぜ当時の魚屋さんにはこの銀浪蒲鉾が定番のように品揃えされていたのかを考えてみることにした。これはあくまでも筆者の推測でしかないのだが、昭和36年に創業された村田蒲鉾店は他の同業者と比較すると歴史は浅く、明治や大正時代の頃から続く既存の同業者に分け入って和食店や旅館などへの卸し納品ルートを開拓することは非常に難しかったのではないだろうか。そこで創業社長が目を付けたのは、競合する同業者によってガチガチに固められていない魚市場の卸しルートであり、そこから業務内容を発展させていったのだろうと見ている。オンラインショップの商品コメント欄に「市場の仲買人さんからも高い評価を得ている」とあるように、このルート開拓によって銀浪は魚屋さんに馴染み深い蒲鉾となったのだと筆者は推測している。
筆者はこの銀浪を販売したことはないし、関係先に対して特に取り扱いを勧めたこともないのだが、銀浪に対して魚屋さんとは切っても切れない商品イメージを抱き続けているのである。そこで、今回は銀浪にエソがどれだけ入っているか分からないながらも、エソ100%蒲鉾村四郎の代替品として、同じ魚小売関係者であろう読者の皆さん方にも紹介することにしたのである。
下画像にある、板の上に載せられた銀浪蒲鉾はこのように真っ白な色をしていて、澱粉は混ぜられいないと表示がされている。
これを以下のようにつくってみた。
銀浪蒲鉾を包んでいる包装紙にある美味しい食べ方の欄には、1pくらいの厚さに切ることを勧められている。しかし筆者はへそ曲がりなので、紅葉おろしを添えてポン酢で食し、また生本わさびを載せて食することを想定し、薄く「浪切り」にした。なにしろ、銀「浪」なのだから・・・
この紅葉おろしは、自分で大根おろしをしたものに純国産赤唐辛子をすりおろした赤おろしを加えて作っている。自分で言うのも何だが・・・「非常に旨い、絶品の紅葉おろし」なのだ。あのチューブ入り紅葉おろしとは似て非なるもので、自作の紅葉おろしは辛みの程度も自由に設定できるので、まったく別世界の本格紅葉おろしであり、刺身だけでなく蒲鉾も美味しく食べることが出来たのだ。
エソを生で食べるための作業工程
さて、蒲鉾について言及するのはこれくらいにして、以下に本題であるマエソのことを記していくことにしよう。
上記したように、エソは小骨の多いことが最大の難点であり、小骨が二列になっているため、普通に三枚おろしにしても、その後でこれらの小骨を取り除かなければならないのが面倒くさい。しかも小骨は太くしっかりとしていて数も多いので厄介である。
一般的に魚を刺身や鮨にする場合、骨が一つでも残っていることは許されないはずである。だから基本的に小骨の多いエソを刺身や鮨で食べることはほぼ皆無だと表現しても良いのではないかと思われる。そういう意味で、今月号のFISH FOOD TIMESの記事は他でなかなか見ることの出来ない貴重な資料と成り得るかもしれない。
以下の画像は、筆者が2017年にエソの調理を実施し、長く使わずにストックしていた画像なのである。この画像を使ってエソを刺身や鮨にするための作業を以下に紹介することにしたい。しかしここで本音を言わせてもらうと、なぜ7年もの長期間にわたりこれらの画像を使わずにしまいこんでいたのかと言えば、その理由は実際に小骨除去作業に苦労し、作業工程の途中に見た目の悪いものがあり、これらの画像を不特定多数の読者に見せるには気が引けるものがあったからなのである。
しかし今回は、もし誰かがエソの調理作業をすれば、よほどこのことに慣れていない限り似たようなことになってしまうはずであると考えた。ある意味で反面教師の具体例として、以下の資料を見てもらっても構わないと開き直ったのである。
マエソの三枚おろし作業工程 | |
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1,購入したマエソは魚体長55pを超える大物サイズだった。腹ビレの際から頭部の背側へと切り込みを入れる。 |
6,小骨が多いので、出刃包丁を使って大名おろしにする。そのために背ビレの両側に切り込みを入れる。 |
2,エソの頭部を切落とすには、腹部側から背側へと切り進むことがお勧めだ。 | 7,下身の尻ビレ際に切り込みを入れる。 |
3,頭部側に胸ビレだけでなく腹ビレも残し、頭部と胴体部を切り離した状態。 | 8,背ビレと尻ビレの切り込みに沿って大名おろしをする。 |
4,腹部に切り込みを入れ、内臓を除去する。 | 9,二枚おろしにした状態。 |
5,内臓を除去し、水気を拭き取った状態。 | 10,続いて、同じく大名おろしの方法で上身側を切り開き三枚おろしにする。 |
細長い紡錘形の魚を三枚おろしにする場合、普通は柳刃を使って大名おろしをする方が、スムーズでおろしやすいはずだが、このエソの場合は比較的魚体が大きく、何と言っても小骨だらけなので敢えて出刃包丁で大名おろしをすることにした。
以下の画像がエソの調理の肝となる部分であり、本当に厄介で一筋縄ではいかない作業だった。最終的にエソを生で食べるための商品化まで一気に表現しているが、何しろ7年前のことなので細かい部分で記憶が飛んでいることも多く、間違った表現をしているかもしれない。その辺のことは寛容な気持ちで読み進めていただければありがたい。
エソの生食用商品化作業 | |
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1,三枚おろしにした下身。赤い2本の線に沿って小骨が無数に存在している。 | 8,皮引きを終えたエソの下身。白身魚独特の赤みを帯びた皮下脂肪が現れた。 |
2,背身のの方の小骨の列に沿って、柳刃を使い長くV字に切り込みを入れる。 | 9,鮨ダネとカルパッチョサラダ用に尾の方から薄造りで切り進める。エソ解体処理を常時おこなっている職人さんは、エソを刺身で食べる時、小骨の少ない尾部の方を好んで使うそうである。 |
3,背身の小骨をV字に切りこんで、小骨に付着した身を含めた一列の小骨を除去した状態。 | 10,頭部の方へと切り進め、そのなかで形が良い部分を選んで鮨ダネに用いる。 |
4,更に腹身の方の小骨の列に沿って、柳刃をV字に切り込みを入れる。 | 11,薄造りをした比較的形の悪いものを選んでカルパッチョサラダにする。 |
5,柳刃のV字カットでは小骨を完全に除去できないので、骨抜き道具を使い、小骨に多少身がつくのを気にせず、小骨のすべて抜き取る。 | 12,半身の裏側が丸く窪んで欠けていることを感じさせないにぎり鮨が出来上がった。 |
6,骨抜き道具を使って小骨を徹底して抜き取ると、このように無残にも細長い窪みがついてしまった。これはあまり見せたくない画像だが、こうなってしまう可能性が高い。 | 13,特に形の悪い部分も出来るので、これらはまとめて角切りにする。 |
7,皮引きをする。 | 14,細かく刻んだ部位を集めて刺身にした。 |
誤解されている美味しい白身魚
エソは蒲鉾用の魚として安価な価格で取引される大衆魚であるとの認識だったのだが、こうやって実際にエソを生で食べてみると、そんじょそこらの大衆魚とは別格の非常に美味しい魚だというのを理解することが出来た。エソという魚は「生で食べるには作業が面倒で取り扱いが難しい」から、魚屋さんは仕入れようとしないだけであり、エソそのものは実に美味しい白身魚であり、その風貌も相まって本当の価値は正当に評価されず誤解されている魚のようである。
エソは主に西日本各県の小型底引き網で漁獲されているが、この他に以西底引き網での漁獲があり、国立研究開発法人水産研究・教育機構 令和2年度資源評価報告書(ダイジェスト版)の発表資料によると、以下の図のようになっている。
以西底引き網による漁獲量は1960年代に30万トン以上あったが、1970年前半には約20万トンとなり、その後も漸減して2019年は1万トンを割り込んで3,700トンとなり、このうちエソ類の2019年漁獲量は180トンだったとのことである。この時点ではエソの資源は低位横ばいにあったということだが、その後はどうなっているのか資料がないので不明である。
日本近海において、エソの資源は豊富だとは言えないようだけれど、資源が枯渇しかかっているという状況にもないようである。これから先もエソが大量に水揚げされることはなくても、少しずつ絶えず魚市場に上場され顔を見せる可能性はあるようだ。
読者の皆さん方もエソに出会う機会があれば、小骨取りに苦労しながら生で食べることに挑戦してみて、その上等の味が理解できたらお客様にも提供し、美味しさを分かち合ってほしいものである。
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 6年 3月 1日