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令和 2年 12月号  204

ハタハタ

ハタハタ刺身&にぎり鮨


ハタハタの旬

今年もハタハタの旬がやってきた。

上がメス、下がオスで、価格はメスがオスの2倍ほどする。それは秋田でブリコと呼ばれるメスが抱える魚卵に価値があるからである。

オスとメスの見分け方は簡単で、上画像のように肛門部分が明らかに違う形をしている。よく分かるように画像を拡大してお見せしよう。

上のメスは肛門からブリコの紫色に近い色が覗いており、下のオスは白っぽい白子が見えているので、その違いは誰でも判別できる。


ブリコ

これがブリコと呼ばれるハタハタの卵であり、生のハタハタを塩焼きした場合のブリコは多少堅いけれど小気味よくプチプチと食べられる。しかし、三五八(サゴハチ)漬けなどを食べるとその堅さが増して、それは言わば「プチプチではなくブチブチ」のような歯応えになる。このように堅くなることを秋田の人によれば「ブリッ、ブリッ」と表現するらしく、それでブリコという名称になったとのことである。

ちなみに、これが三五八(サゴハチ)漬けとして販売されている商品の一つである。

三五八(サゴハチ)という面白い名称は、塩・麹、米を3:5:8の割合で混ぜた漬け床に漬けることから来ているらしく、ブリコ持ちの三五八(サゴハチ)漬けを食べる時は、下画像のように水分が少なくなった身よりも、まるで卵を食べているといった具合にブリコは存在感がある。

 

ハタハタのブリコ持ちはこのように魚卵がひときわ目立つ状態である。例えば塩焼きなどのために内臓を除去する目的で腹に包丁を入れると、ブリコが飛び出してしまう恐れがあるので都合が悪く、それを避けるために包丁を使わずに内臓を出す方法があるので紹介しよう。

それはツボ抜きという方法である。

ツボ抜きの作業方法
1,左手でエラ蓋をこじ開け、エラが見えるようにして、割り箸を少し広げ割り箸でエラを掴む。 4,ゆっくりと内臓が切れないようにする。
2,割り箸を割らずにエラを掴んで、少しずつ引きずり出す。 5,内臓を最後まで引っ張り出す。
3,エラをしっかり掴んで口の外へ出す。 6,ツボ抜きが終了した状態。

 

このツボ抜きをおこなえば、ブリコはそのまま傷つかず、腹の外へ飛び出すこともなく、腹の中に収まったまま塩焼きなどをすることができる。

ブリコがないオスは通常メスの半値ほどで取引されるとのことであり、オスの場合はもちろんツボ抜きの作業は必要なく普通に包丁で腹を開けて料理すると良い。そして例えば唐揚げの場合は、骨が柔らかいので必ずしも二度揚げをすることなく骨までバリバリと食べ尽くすことが出来る。

 


秋田の保存食

ハタハタの生息地域は、西が鳥取県、北は北海道からカムチャッカ半島までの北方地域であり、11月後半から12月にかけてのごく短い期間だけ、海に近い浅海の藻場に近寄り一斉に産卵する。 そして、普段は全く目にしないハタハタがこの時期にどっと押し寄せるタイミングで一度にたくさんの漁獲があるので、昔から秋田地方ではこれらを色々な形に加工して冬場の保存食として活用してきた。そのようなことを昔から長く繰り返してきた結果、様々なハタハタを使った秋田独特の郷土料理が生まれたのである。上記した三五八(サゴハチ)漬けもその一つであり、特にそれらの保存食のなかでも秋田県の県民食のような位置づけが、以下画像の「ハタハタ鮨」である。

 

これは秋田市民市場で購入した500g入り2,300円のハタハタ鮨である。中身を確認すると、米と麹の他に人参、蕪、昆布などがカットされて入っている。熊笹で2段に仕切られていて、一段の厚さはそれほど厚くはなく、重しを載せて1ヶ月間ほど漬け込んで作るというのが見ただけで明らかに想像が出来る。これは関西の鮒鮨などと同類の昔ながらの乳酸発酵による「成れ鮨」の一種なのである。

ハタハタ鮨は1尾の姿を残した「全(まる)鮨」というのもあるようだが、この商品は500gの大きさがある「切り鮨」と呼ばれるもので、以下のように切り分けて食べることを前提としているようである。


鮮度の良いハタハタを求めて・・・

筆者は10月に青森を訪問したが、11月はその隣県の秋田を訪問してFISH FOOD TIMES 12月号のための行動を起こした。それは12月に旬を迎える鮮度の良い生のハタハタとその関連商品を購入する目的だった。

福岡に居住する筆者は過去にハタハタを食べた経験はあったけれど、それは100%塩干売場で売られているオスの丸干しであり、生でブリコ持ちのメスを食べる機会というのはなかった。特に鮮度が良くて刺身とかにぎり鮨にできるハタハタを食する経験が全くなかったので、そのうちにいつかはそんなことが出来ないものかと頭の隅では軽く考えていた。そしてほんの少し前の11月後半になってから急に思い立ってハタハタを刺身とにぎり鮨にするための行動に出たのだが、それは沖縄から帰福して3日後のことであり、それは秋田日帰りの弾丸往復一人旅だった。

秋田での滞在は僅か5時間だけだった。朝7時30分福岡発羽田行きの飛行機に乗り、羽田を経由して青森に到着したのが12時であり、17時青森空港発の羽田経由で福岡空港に帰ってきたのは当日の21時30分だったので、往復の旅程時間は合計9時間だった。ハタハタとその関連商品の購入金額は合わせて1万数千円ほどだが、往復の旅費はその数倍どころではないコストがかかっていることから、今月号の作成費用は相当なハイコストとなった。

そして、秋田で訪問できたのは、この2カ所だけだった。

   

秋田市民市場でハタハタに関連する商品のすべてを購入したのだが、実は右上画像のビフレという地域スーパーでは生のハタハタがそこよりも3割以上安い価格で売られていた。なので多少後悔の気持ちもあったけれど、秋田市民市場の魚屋は対面販売なので店主から色々と知識も授けてもらい、それはそれで良かったのだと納得したのだった。

市場の魚屋ではこのような売価を表示しない状態で生のハタハタが売られていた。下氷だけの保存状態だったけれど他の店より鮮度は良いようだと感じたのでこの店で購入することにした。この店は客の風采や言動を見て売価を設定する商売スタイルのようで、筆者は地元の人間でない一元客だということを一発で簡単に見破られ、価格は少し吹っ掛けられているようだとは感じたけれど、それには構わず色々な質問を執拗に繰り返し、それなりの元は取ったと思っている。

とにかく目的は一つ、それは「刺身に出来る鮮度のハタハタを福岡に持ち帰り、写真を撮り、食べること」なのであるから、ハタハタの値段が高いだの安いだのを言う必要はないと決めていたのである。


鮮度の良いハタハタの調理

こうして手に入れた水揚げされてから3日目の計算となる鮮度の良いハタハタを翌日の朝から刺身と鮨を作る作業にとりかかり、昼食でにぎり鮨を食べ、夕食では刺身と塩焼き、さらに唐揚げにもして、購入したメス5尾、オス5尾の合計10尾をすべて平らげてしまった。

下画像の左側の列がメス、右側がオスである。オスもメスも出来るだけ大きいサイズから優先して選んでもらったのだが、その結果はご覧の通りメスの方が比較的大きくオスの方が小ぶりということになった。この点は店主の話によると、ハタハタは全般的にメスの方が大きくなる傾向があるとのことである。11月後半はハタハタの旬で言えばまだ出始めの「走り」にあたり、メスのブリコも充分に大きくなっていない時期なので腹もこの程度の大きさなのだが、これから12月にかけてどんどん腹が膨らんで大きくなっていくらしい。

しかし腹は大きくなっても、魚体長はせいぜい20センチ程度までしか大きくならない。このためサイズが小さいが故に調理が面倒ということで、秋田では刺身などにはあまり活用されてこなかったようなのだ。同様の理由で、鮨は成れ鮨の一種であるハタハタ鮨は昔から存在していても、生を前提とした江戸前鮨の鮨ダネにも利用されることは現在に至ってもほとんど存在していないようであり、秋田では基本的にハタハタを「生で食する」という発想がないようなのである。

またハタハタを生食しない理由は「腐敗しやすい」ということも一つの理由だと言われているけれど、筆者が2日間扱った限りの鮮度感覚で言えば、それほど鮮度劣化スピードが早いとは感じられず、イワシやサバなど青魚の扱い方を心得ていれば充分に鮮度管理できる魚だと思った。

つまり、小さい魚体サイズの調理の面倒臭さを乗り越えればいいわけで、刺身と鮨ダネにするには小型のマアジを調理する時に活用される「柳刃で調理する頭付き三枚おろし」の方法が良いだろうと判断した。

ハタハタの頭付き三枚おろし作業工程
1,下身の胸ビレ横に切り込みを入れる。 6,尾ビレの方に向けて切り進む。
2,刃先を尾部に向けてL字型に方向を変える。 7,頭部と中骨がつながったまま三枚になった。
3,そのまま尾部に向けて切り進む。 8,下身側の腹骨を除去する。
4,下身が切り離された状態。 9,上身側の腹骨を除去する。
5,上身側の胸ビレ横に切り込みを入れる。 10、三枚おろしされた上身と下身。

 

ハタハタにぎり鮨と平造り刺身

上記のようにすれば、20pに満たないハタハタでも短時間で三枚おろしにすることが出来る。ハタハタは鱗がないのでまな板が汚れにくく、またウロコを落とすための水洗い作業もないので逆にアジよりも作業は簡単である。このウロコがないという特徴を活かすならば、刺身や鮨にする時にすべて皮を除去するのではなく、皮付きの炙りにすれば変化を出せると考え、以下のような工程でハタハタの刺身と鮨の商品化をおこなった。

ハタハタの刺身とにぎり鮨商品化工程
1,使用する材料の半分は皮を除去する。 6,皮なしの鮨ダネ用に斜め横半分にカット。
2,皮引きは小さい魚体なので内引きが楽だ。 7,炙りの鮨ダネ用も斜め横半分にカット。
3,材料の半分は皮付きのまま炙りにする。 8,刺身用の炙りは半身のまま飾り包丁をする。
4,炙りにすると、皮が大きく湾曲する。 9,半身の平造り2尾分のハタハタ刺身
5,皮引きと炙りをしたハタハタ4尾分。 10,皮なし3カン炙り3カンのハタハタにぎり鮨

 


ハタハタも刺身や鮨の生食をしよう

こうして、ハタハタの刺身とにぎり鮨を作り、存分に食したのだが、魚の旨みの素である脂肪の味はほとんど感じられず、実にサッパリとした後味だった。それはそのはずで、ハタハタは1年の11ヶ月の間は沖の深海で生息していて、12月前後の1ヶ月間だけ産卵をする目的で海岸近くの浅海に近寄って藻場に産卵する。だから、この時期のハタハタは魚体に貯めていた脂肪の栄養のほとんどを魚卵や白子に回しているはずなので脂肪はほとんどなくなっているのである。

実は筆者はハタハタを購入した秋田市民市場の魚屋で、以下画像にあるように鮮度の良いノドグロも売っているのを見つけ、元々まったく予定していなかったノドグロを衝動買いで1尾購入し、福岡に持ち帰ってハタハタと同時ににぎり鮨にしたのだった。

 

ノドグロにぎり鮨

 

ハタハタとノドグロを同時に食べ比べる「味の競演」は、その極端とも言える味の違いが実に面白い体験となった。ある意味でノドグロの美味しさを際立たせることになり、主役は一体どちらなのかということになってしまったのは至極当然の成り行きだった。

しかし、魚の美味しさは必ずしも脂肪の美味しさだけではなく、別の味わい方もあるはずである。ノドグロは確かに白身のトロと呼ばれるほど脂肪タップリで万人受けする最上級の旨みを堪能できることは間違いない。その一方、この時期のハタハタは旬でありながら脂肪はほとんどなく、サッパリとした味しかないけれど、それはそのまま不味いにつながるかと言えばそうでもなく、それはそれでハタハタ独自の味だと噛みしめたら良いだろうと思う。

昔から秋田の人々は一定期間に大量に漁獲されるハタハタを十全に活かし、ムダにしない食べ方を工夫してきたことから、ハタハタにまつわる独特の食文化が生まれたという歴史的経緯がある。なにしろ昔は2万dを超えるハタハタの漁獲のある時期があったとのことだが、今や2019年度の秋田でのハタハタ漁獲枠は650トンだけだったのである。そして、その価格も昔の二束三文の大衆的な価格から3,000円/kgもする高級魚へ変化してしまっているのだ。

そんな時代の変化を踏まえるならば、ハタハタの食べ方も昔とは違う形に変化していかなければならないはずである。その一つの例は、今月号のように「刺身や鮨で生食をする」という選択肢もあるのではないかと思う。それも、ある限られた一定期間だけの特別な存在として位置づけるならば、ハタハタの価値は今以上に高まるのではないだろうか。


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更新日時 令和 2年 12月 1日