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平成27年 5月号 No.137


マナガツオ炙り平造り


サバ科の鰹とは親戚でも何でもないマナガツオの漢字は「真似鰹」と書くらしい。

何故「真似」なのかと言えば、初夏に多く獲れるこのマナガツオを本物の鰹として見たことから「真似をした鰹」という説がある。

その理由はその昔、東の江戸では初夏の頃になると沿岸に近づいてくる鰹を漁獲し、これを生で食べることができたのだが、西の京都では鰹が近海で漁獲される紀州や伊勢から距離的に遠すぎて、生で食べることの出来る鰹が手に入らなかったので、京都に近い海などでも鰹とほぼ同じ漁期に獲れるマナガツオを「本物の鰹を学ぶ(真似ぶ)ようにして生で食べた」ということから、学ぶ鰹(真似ぶ鰹)という意味で「学鰹(マナガツオ)」とも書かれたとのことだ。

また、真似という文字ではなく「真菜」の字が正しいという説もあり、これは「真に菜(副食物)にして美味しい魚ということで「真菜鰹」と書くのが正しいという説だ。

さらに、江戸時代後期に著された和訓栞(わくんのしおり)という本には、「まながつほ 世諺(せいげん)に 西国にサケなく、東国にマナガツホなしといへり」と記されていて、昔から西の海で獲れるマナガツオは東の海で獲れる鮭と比肩されるほど重要な位置づけにある魚として扱われてきたのだ。


以下の画像のマナガツオは、スズキ系スズキ目イボダイ亜目マナガツオ科マナガツオ属に分類される。

 

マナガツオと親戚にあたる魚としては、過去にFISH FOOD TIMES既刊号で紹介していた以下の、

 

No.76 メダイ焼き霜造り(平成22年4月号) のメダイ。

 

22シスの背越し(平成17年10月号) のイボダイ。

マナガツオはこれらの魚と同じイボダイ亜目の仲間である。

イボダイ亜目の魚に共通していることは、鱗は目立たず存在感がほとんどなく、骨も比較的柔らかいことである。

さらに共通していることは、イボダイはクラゲイオと呼ばれるように小さなクラゲなどを主食として生きているけれど、マナガツオもメダイも幼魚の頃は同じようにクラゲなどを好んで食べるようであり、大きくなってから小魚やイカ類などに食性が変化していくらしい。


下の2尾のマナガツオ画像は、左の方はまだ表面にウロコがだいぶ残っているけれど、右の方はウロコがほとんどついていない。

本来は黒味の強い銀色の細かい鱗が全面に付いているのだが、マナガツオは時間が経過したり魚体を扱う回数が増えたりしてくると、右の画像のようにまるでウロコがない魚のように魚体表面はつるつるとなってくることから、この魚体表面の変化は鮮度の良さを一目で判断するための目安となるのである。

また、これら二つの画像のマナガツオは両方とも尻ビレの長さが目立っているけれど、前の大きな画像のマナガツオの尻ビレはそれほど長くはなく、ヒレよりも魚体の大きさの方が目立っているのが皆さんは区別できると思う。

上画像の大きなマナガツオは1sを超えた大きさの成魚であり、下の2尾の画像の方は500gほどしかない成長途上の若魚のようであり、このように大きさの違いがあると、見た目だけではなく味の方も随分と違ったものになってくる。

例えば、小さなマナガツオを使った商品は以下のような見栄えとなる。

 

小さいマナガツオの刺身を平造りにする場合は、左上画像のように「身幅」が充分にとれず皮目が目立つ作品になり、右上画像のにぎり鮨をネタにする時は包丁を大きく傾けなければ身幅を確保できないことになるけれど、これが大きなマナガツオを使って鮨ネタにする場合は以下の画像のように身が厚いことから、あまり包丁を傾けなくても身幅をとれることになる。

大きなマナガツオと小さなそれとでは、脂の乗りや旨味の違いは明らかであり、仕入れの価格もその大きさによって随分と違うのが通例で、マナガツオを料理素材として使う頻度の高い高級料亭の仕入担当者などは基本的に大きなサイズのものしか購入しないようである。


マナガツオを刺身や鮨ネタにしていく場合は三枚におろして、次の工程は「皮すき」になるはずなのだが、ところがそうはならないことが多いのもマナガツオという魚の一つの特徴だ。

その理由は、マナガツオの皮が薄いために皮すき作業が普通の魚のように簡単ではなく、薄い皮は引っ張り耐性が弱くて皮が途中でプチンと切れてしまい、中途半端に歪な形で皮が残って、後の処置がとても難しくなる恐れがあるのだ。

どうしても皮を除去したいというのであれば、下の画像のように少し特殊な「厚皮とり」という「左手で皮のある節を抱え込んで皮を厚く除去する包丁技法」を使うことによって皮すきをした方が無難だろう。

しかしこの「厚皮とり技法」の欠点は、魚の旨味が集中している皮下脂肪もごっそり皮ごと一緒に省いてしまうことになることであり、これはお勧めの方法ということではなく、やはりマナガツオを刺身で食する王道というのは、下画像のようにバーナーと氷を使って皮に焼きを入れ、皮下脂肪にある旨味を閉じ込めながら、焼いた皮の香ばしい風味も楽しめる「炙り」だと考えられる。


このようにマナガツオの刺身や鮨は商品画像として掲載しているように、皮も一緒に食べる「炙り」がお勧めであることは以上の説明で理解できると思うが、マナガツオは皮を美味しく食べられるだけではなく「骨」も美味しく食べることが出来ることも併記しておきたい。

マナガツオの骨は柔らかい特徴を利用して、これを捨てずに陰干ししておき、油で二度揚げして骨せんべい風にしたり、土佐酢に漬けて骨酢にしたりすると美味しく食べることが出来る。

プロの料理人はマナガツオの骨を捨てず、簡単な「つきだし」などに活用することはよくおこなうことなので、もしあなたが料亭の裏口を覗いてみる機会があれば、マナガツオの中骨が陰干しされているのを見つけることが出来るかもしれない。

参考までに、マナガツオ骨酢の作り方を以下に画像で説明しておこう。

マナガツオ骨酢の作り方
1,適度に乾燥させた中骨を小割にする
2,中骨の裏表を焦げない程度に軽く焼く
3,低温で気長に揚げる
4,土佐酢に一昼夜漬ける
マナガツオ骨酢

マナガツオはこのように皮や骨を含めて余すことなく魚体の活用度が高い魚なのだが、その料理用途としては刺身や鮨だけでなく、その上品な味はどんな料理にも相性がよく、プロの料理人の世界でも「料亭御用達」的な高級魚として取り扱われ、魚市場の取引価格もその辺の大衆魚とはそのレベルが格段に違っているのだ。

直近の2015年4月28日(火)現在の築地市場における国産マナガツオの競りによる卸値は、1kg当たりの高値が4,320円、安値は2,160円であった。そして当該週の高値平均は4,806円、安値の平均は3,240円であった。

また2015年3月1ヶ月間の築地市場におけるマナガツオ平均卸価格は1kg当たり3,226円であり、2月からは15%ほど上昇していて、昨年の同じ3月と比較すると15%ほど高く、マナガツオの平均卸価格が同じ月の過去2年に対し上回るのは2ケ月連続となっている。

ちなみに2010年以降の同じ3月では、これまで2014年の2,799円が最も高くなっていたが、2015年になって過去6年間の中で最高価格を記録しており、このような最近の高級魚の相場上昇は日本経済の景気回復をこういった点からも裏付けているのかもしれない。

読者からは「こんなべらぼうに高い魚を扱えるか・・・!」とお叱りを受けるかもしれないが、この価格というのは築地市場における「料亭直行の立派な大きさと素晴らしい鮮度を誇る優良マナガツオ」を前提とした相場であって、もちろんこの他に安いマナガツオもないことはないのである。

上掲していた香川県のグラフにもあるように、地方の市場に行けば同じような大きさと鮮度のマナガツオでも、築地よりグッと安い価格で仕入れることが出来る可能性はいくらでもあるし、もしそのサイズが小さく、少し水っぽく、締まりもなく、多少旨味が少なくなっても良いのであれば、半値以下の価格で手に入れることも不可能ではないのだ。


しかしマナガツオという魚を、多少味が落ちても価格の方を優先して仕入れるという判断が果たして正しいのかどうか、その是非をよく考えてみるべきであろう。

魚を販売する担当者の中には、仕入れ価格の上限というを自ら設けて、例えば「生魚は1kgあたり2,000円を超えるものは基本的に仕入れない」といった条件の中で生魚の仕入行動をしている人もいる。

こういう人は1kgあたり2,000円を超える魚を前にして「そんな高い魚は売れる可能性はないし、結局値下げや廃棄につながるばかりで儲けを出せないから仕入れない」と宣うのだが、こんな発想しか出来ないから魚部門の売上が上がらないということが根本的に理解できていないのである。

弊社が指導させていただいている水産部門は「1kgあたり3,000円を超える生の養殖本マグロ(ラウンド)」を常時定番として使用し、基本的に冷凍マグロは非常時のストックとしてしか使用しないという会社が多い。

もちろんキンメダイや赤ムツといった1kgで2,000円を超えることが珍しくない魚もどんどん積極的に仕入れ、結果として売上げは前年比で二桁伸びて、利益も順調に確保し続けている会社が多いのだ。

こういう魚売場にすることは「簡単ではないけれども不可能ではない」のである。

仕入れ価格の高い高級魚を恐れず品揃えできるような魚売場にするためには「発想を変える」ことが大事である。

例えば「どこか外国の工場の機械でカットされた冷凍鮭を1切れ100円以下で売るためにいかにして安く仕入れるか」といったことばかりを考えて、美味しくて価値があるので「それなりの仕入れ価格を覚悟しなければならない旬の生魚をどうやって売るか」といったことに頭を使っていない考え方から脱皮しなければならないのである。

その方法はとても簡単である。

高く仕入れた価値の高い生魚を消化する「出口を強化」することだ。

このことが理解できるならば、後は直ぐに実行あるのみ・・・!


更新日時 平成27年 5月 1日


食品商業寄稿文

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