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平成26年10月号 No.130


真サバ炙り平造り


10月といえば、そろそろサバが美味しくなってくる季節であるが、先日長崎県対馬のブランドサバ「伊奈サバ」を扱う機会に恵まれた。

このサバの大きさは、タバコの箱と比較すると理解できると思うが、重さは約1sの特大サイズであり、その鮮度は死後硬直でカチカチの状態で、脂の乗りは養殖サバや畜養サバのようにギトギトではないけれども、天然魚らしい程良い脂の乗りが刺身には丁度良い感じだといったところであった。

このサバは対馬市上県町の伊奈漁協で漁獲されたたばかりの伊奈サバで、1日に約300匹ほどが主に福岡方面へと出荷されているとのことだ。

上県町の西方3〜5qほど沖合いで、餌が豊富な漁場で獲れるこのサバは、大型で身が締まっていて脂の乗りが良いことから、伊奈漁協は2008年より独自ブランド「伊奈サバ」と名付けて売り出したものである。

その漁法は昔ながらのイワシや疑似餌を使った一本釣りであり、漁協管内の10隻が出漁して1隻平均30匹ほどを釣り上げるらしい。

盛漁期は八月から十月迄であり、普通のサバは三年魚で約700g位に大きくなるけれど、伊奈沖では700g前後のものから大きいものでは1s〜1.5sに育ったサバが釣れるとのことだ。

伊奈漁協では「伊奈サバ」のブランドイメージを維持するために、一定の条件をクリアーしたサバだけに上画像にあるようなタグを頭部に差し込んで、他のサバとの違いを打ち出している。

 

この画像のようにタグのついていない伊奈サバもあるが、タグ付きとそうでないのがどのような基準で選別されているのか今のところ理解できていない。

しかし画像からも想像できるように、約1s前後の特大サイズが6尾入ったこの伊奈サバは鮮度充分であり、トップ画像の炙り刺身やにぎり鮨へと商品化した。


この伊奈サバは「真サバ」であり、ゴマサバとは別の種類であることの違いについて、賢明な読者諸氏はもちろんご存じのこととは思うけれども、少し厄介なのはゴマサバの中にはその特徴となっている「腹側のゴマ粒模様」が明確に見られないものいる。

例えば今年の春に同じ対馬沖で獲れた上画像のサバは、薄いゴマ模様が見られるのでゴマサバに違いないと思われるけれど、その700gを超えた大きな魚体重と、丸みよりも体高の高さも目立ち、ほどほどに脂も乗っているとなると、判断は一瞬どちらなのか迷ってしまうことになる。

いっぽう下の画像の「首折れサバ」は、体高が低くて細長く、丸みを帯びて、ゴマ模様も鮮明なので「ゴマサバ」であるのは明らかだ。

ちなみにこのような「首折れ」にしているのは、魚売場でエラをむき出しにして、エラが鮮紅色であることを見せ、新鮮だということを強調しているのだが、これは船上で魚が水揚げされて直ぐに首を折った活き締めであることも表現している。

このように視覚的な判断による真サバとゴマサバの見分け方としては、まず魚体の特徴としてゴマ粒模様がないのが真サバで、真サバは輪切りにすると平たい輪になるので「平サバ」とも呼ばれ、いっぽうゴマサバの場合は輪切りにすると真サバより丸みを帯びていることから「丸サバ」とも称されている。

そして、これは魚を販売する立場の人にはあまり関係のないことかもしれないけれども、真サバとゴマサバを完璧に見分けたいという時の科学的方法があるので紹介しよう。

上の図のaの尾叉長に対するbの基底長の割合が、真サバは12%以上、ゴマサバは12%未満ということであり、この導き出された数字は両者で明確に違うということである。

つまり、真サバは魚体の長さに対する第1背ビレの大きさが比較的大きく、ゴマサバはそれが比較的小さいということになることから、もし判断に迷うような場面に遭遇した時は、背ビレと魚を実測し、b/a の計算をすれば明確な判断が出来ることになる。


また、サバには真サバとゴマサバの他に、タイセイヨウサバ(別称ノルウェーサバ)と呼ばれる日本近海にはいないサバの種類がいるけれども、背中の紋様が太くハッキリしているこのサバは、今や日本国内における塩サバや冷凍を前提とした加工品のニーズを席巻してしまったかのような勢いであり、例えば以下の画像のような商品として、日本全国加工メーカーに広く浸透している。

筆者はこれまでに生鮮の状態でのタイセイヨウサバを手にする機会はなかったので、このサバについてコメントするのは控えることにして、以下にその生息域を知る図があるのでこれを紹介するに留めよう。


さて、サバの種類や見分け方に言及するのはこれくらいにして、サバを食べることへと話題を移行しよう。

真サバは学名Scomber japonicus(英名 chub mackerel)と呼ばれるほど日本には馴染みが深く、日本人の食卓での魚料理で使用される魚としては非常にポピュラーなものであることは今更言うまでもあるまい。

しかし福岡県に住む筆者としては、その「サバ料理」に関して最近どうも腑に落ちない現象があり、このことについて少し触れてみたい。

それはサバ料理の一つでもある以下の画像のような「サバ刺身」が、福岡に所在するスーパーの魚売場店頭において、まるで姿を消してしまったかのような現象が見かけられるようになっていることである。

もちろん福岡市内のスーパーや小売店の魚売場において全くその姿を見ることが出来ないというのではなく、随分とその存在感が薄くなっており、一部のスーパーなどでは全くその商品の品揃えがないというところも出てきているのだ。

福岡県の中でも博多(福岡市)では、サバの刺身を「ゴマサバ」という形で、生のまま刺身にして食べる習慣が地域の「食文化」として昔から根付いてきていた。

ゴマサバとは「魚種のゴマサバ」のことではなく、上画像のようにサバの刺身の上に「白ゴマ」をかけて食べることから、サバの刺身がこのような名称になったのである。

そのような昔から地域の食文化として親しまれてきた食習慣を否定するようなことが、一部のスーパーの経営判断によって実行されている事実があるのだ。

それがなぜ「経営判断による食文化の否定」になるかと言えば、サバの生食に付きものの「アニサキス症による事件」を会社が避けようとするために、会社の判断によって「危ないものには手を出さない」施策、つまりサバ刺身の商品を魚売場から排除するということを経営判断として実行しているからなのである。

このようなことになっているのは、アニサキス症による中毒事件が保健所に届けられた場合、患者の喫食調査、症状調査等を行って、医師から「アニサキスによる食中毒」の診断名が出れば食中毒として扱われ、 魚介類を提供した施設は、2〜3日程度の営業停止処分を受けることになっているからである。

しかし保健所による営業停止処分は、最近では2〜3日程度とかではなく5日間という例(埼玉県春日部保健所の例 部局名:保健医療部 課所名:食品安全課)も出てきて、保健所の判断によって営業停止処分がエスカレートした形で実施されてきている。

これはまるで公の機関が権力を笠に着て、小売業(魚屋さんなど)が日頃コツコツと努力して築き上げてきた商売というのを、不可抗力とまでは言わないとしても、どんなに気をつけていても人間であれば100%の確立でこれを防ぐことが出来るとはとても言いきれない、ほんのチョットしたミスに対して、何と「5日間もの営業停止命令」をすることによって、小売業(魚屋さん)の生きる術を「お上」が権力で潰してしまうかのような、まるで「見せしめ的な毒のある要素」がプンプン臭っており、そんな公の機関の増長した施策によって小売業の経営者を震え上がらせているのだ。

このような5日間もの営業停止処分というのが、日々の商売で食いつないでいる立場の者にとってどれだけの甚大な影響を及ぼすものなのか、食いっぱぐれのない公共機関に勤めている人間には理解できていないようで、商売の痛みを知らない愚昧な施策に本当に強い怒りを感じる。

このことについて佐賀県には以下のような県政への意見も出てきているので以下のページを読んでみてほしい。

佐賀県「アニサキス症発生への対応 営業停止の理由」

佐賀県へ以下の勇気ある意見を発信された方へ、感謝の気持ちで心から拍手を送りたい。

佐賀県への意見要旨
県内のスーパーマーケットにて購入したマアジの刺し身を食べ、アニサキス症になった事例に対し、県保健福祉事務所が5日間の営業停止処分としたとの報道を見ましたが、新鮮であればこそアニサキスは生きているわけです。いわば新鮮なマアジの証明です。それを、あたかも不潔処理によるウイルス・細菌系の食中毒事案の様に営業停止とは誠に不思議です。  5日間の間に何を改善する様指導したのでしょうか。保健所が指導するとすれば、アニサキスが多発している海域の情報を集めるよう指導するぐらいしか出来ないはずです。営業停止の意味はありません。貴県の公衆衛生学や医動物の医者の意見はなかったのでしょうか。

佐賀県からの回答は以下のとおりである。

佐賀県の回答要旨
食中毒事件における処分については、佐賀県では、食品衛生法及び佐賀県食品衛生条例に基づく行政処分及び告発の取り扱いについて「行政処分基準」を定めており、食中毒発生時の食品衛生法第6条違反の場合、この「基準」に従って基本日数(最低日数)5日間として、処分を行っているところです。  なお、今回の事件において保健福祉事務所では、停止期間中での従事者の教育、作業工程や衛生管理の見直し等を指示し、当該事務所が確認検査を行っています。  なお、佐賀県における食中毒事件は、病因物質が寄生虫、細菌性問わず、いずれもこの「基準」に従って処分を行っているところですが、アニサキス食中毒としては営業停止期間が長すぎるといったご意見が寄せられているのも事実です。  こうしたご意見を踏まえ、現在県では、個々の食中毒事件の発生事情・条件等を精査したうえで、現在の「行政処分基準」の考え方の整理・検討を行っているところです。

この回答文からは「5日間もの営業停止処分が長すぎる」といった意見への反省も多少感じられるようなので、今後佐賀県がどのように姿勢を変えるのか動きを見守っていきたいものである。


そもそもアニサキスはカイチュウ(回虫)目アニサキス科アニサキス属に属する動物の総称であり、サバだけでなくアジやイワシなどの青物一般に多いのだが、アニサキスが寄生するのはこれだけではなく、イカにも少なくはなくタラやマグロでもよく見つかっているのだ。

海の中ではクジラやイルカなどがアニサキスの最終宿主であり、これらが食べるアニサキスの中間宿主はオキアミや甲殻類なども含めてほとんど全ての魚がその対象になると言われている。

極論を言えば「生きの良いネタ」ほど経口摂取の可能性が高くなるので、アニサキスを怖がっていたら基本的に生魚を刺身ではまったく食べることが出来ないことになり、すべて冷凍をするか火を通したかたちでしか魚は食べられないことになるのだ。

保健所による「恐怖政治」の影響で、スーパー各社はサバの刺身を禁止しているところは少なくないようだが、実はそれほど恐れるほどのこともないことを、ある調査結果の発表によって明らかにされている。

それは東京都安全研究センターという機関が、2007年から2009年の3年間にわたって全国のサバのアニサキスの実態を調査したところ、太平洋系群サバから発見された8割以上のアニサキスが「アニサキス・シンプレックス・センス・ストレクト」という種類であり、この種類のアニサキスは内臓から肉への移行率が約11.1%あり、国内のアニサキス患者の100人中99人はこのシンプレックス種だったそうだ。

そしていっぽう、対馬暖流系群(日本海側のサバ)に宿主する「アニサキス・ピグレフィー」という種類のアニサキスが、内臓から肉へ移行する率は僅か「0.1%」というものであり、日本海側で獲れるサバの80%は、このピグレフィー種のアニサキスだということなのである。

つまり日本海側のサバについてはアニサキス症による危険性はほとんどなく、業界関係者の経験的な推移からしても「内臓にアニサキスがいたとしても身につくことはほとんどなく、内臓をしっかり処理すれば大丈夫」というのが大半の意見なのである。

サバの刺身を食べたい、もしくは店でこれを提供したいと考えるならば、対馬暖流系群(日本海側)のサバを選択して仕入れすれば、そのリスクは極端に低くなるということである。

昔から経験的に学んできたこういう事実から、日本海側に面した博多では「ゴマサバ」という形で、サバを刺身で食べる習慣が昔から地域の「食文化」として根付いてきたのだ。

またアニサキスは主にサバが南方海域へ回遊中に寄生することが多いので、日本海側でなく太平洋側の海域においても、回遊をせずに近海の相模湾・伊勢湾・豊後水道などで生育した個体は比較的安全とされている。

販売側及び消費者側も含めたアニサキス対策の方法としては、以下のような項目が挙げられる。

 

しかしこの中の(1)の項目については、鮮度的に刺身にする価値がないので刺身には使うことの出来ない方法だが、今のところサバを刺身する時に一番効力があってしかも美味しく食べることの出来て推奨される方法が(5)である。

トップ画像の「真サバ炙り平造り」は、この(5)の方法で真サバを炙りにして刺身にしたものであり、以下のようにして商品化をした。

  

まずサバを三枚におろして、血合い骨を抜き、頭部側の皮の一部に包丁で切り口を入れ、その場所から尾の方に向けて皮を手で引っ張りながらむく。 

 

次に穴あきのステンレスバットや木箱に砕氷をたっぷり敷いて、その上に三枚におろしたサバを並べ、バーナーで表面を炙るように焼いていくのだが、この際に注意することは皮側を焼くだけではなく「身の側も焼く」というのがサバの炙り作業で忘れてはならない注意点である。

なぜならば、サバの炙りについては「炙り」という行為によって風味を高めると同時に、作業者がどんなに注意しても100%大丈夫とは言い切れないアニサキスの残存の可能性を封じ込めるために、この炙りという方法によって熱を加えることで、万が一にも残っているかもしれない「不吉の可能性」を打ち消すことになるからである。

炙りにすれば、以下のような「真サバ炙りにぎり鮨」も商品化が可能となる。


いっぽう、サバは脂肪分が多く他の魚に比べると鮮度低下が比較的早いことから、食あたりしやすい魚だと言われているけれども、これはヒスタミン生産細菌によってヒスタミンが生じることが原因である。

ヒスタミン生産細菌が付着したヒスチジンを多く含むサバなどを20〜25℃以上の不適切な温度で保存した場合、ヒスタミン生産細菌が増殖し、ヒスタミンが生成されて魚肉中に蓄積することになる。

しかし、サバを冷蔵庫などの低温の環境に置くだけでは、ヒスタミン生産細菌の増殖とヒスタミンの生成を抑制することはできず、やっかいなことに5〜10℃という温度条件下でもヒスタミンを生成することが細菌の研究で明らかにされている。

ヒスタミンは腐敗により生成されるアンモニアなどと違って、外観の変化や悪臭などを伴わないため、食品を食べる前に汚染を感知することは非常に困難であり、人間が腐敗臭を感じない状態であってもヒスタミン量が中毒を起こす最小値を超える場合もあるのだ。

また一度生成されたヒスタミンは加熱によっても分解されないので、調理の際の加熱ではヒスタミンは食品中に残存することになる。

ヒスタミン中毒に罹ると、口のまわりや耳たぶなどを中心に顔面が紅潮し、じんま疹、頭痛、発熱アレルギー様の症状になるが、普通は6時間から10時間ほどすると自然に回復するということである。

この中毒を避けるには、魚の鮮度が良好かどうかとか、漁獲から加工・流通など全ての過程で低温管理を徹底しているかなど、商品の扱いが確認できるような信頼の置けるところの商品を購入することが重要である。

またヒスタミン生産細菌の増殖を抑制するには、酢で洗うことや酢締めなどによる魚の処理は有効な手段であるとのことなので、最後にシメサバの作り方を簡単に紹介しよう。


まず穴あきのステンレスバットを準備し、ふきんを敷いてその上に布団のように大量の塩を敷き、サバの上からは雪化粧と呼ばれる大量のベタ塩をして、約2〜3時間冷蔵庫の中に放置したままにする。

大量の塩が浸透圧の原理によってサバの水分を吸い取る給水紙のような役目を果たし、サバの身から出た水分が溜まって逆流しないように、穴が空いたバットやザルなどが有効な道具となる

次に塩床から取り出したサバの表面についている塩を洗い流し、バットなどに準備した米酢に、好みで一掴みの砂糖と塩を少々、更に昆布、鷹の爪、レモンの輪切りを加え、その中にサバを画像のように並べて漬ける。

酢の温度が高いと皮が解けてしまうので、温度を低くするために冷蔵庫の中で1〜2時間ほど寝かす。

 

サバを酢の中に2時間以上漬けると、時間が経つほど酢が中心部へと浸みこんで身の赤身がなくなるので、サバを漬けすぎないようにして酢から引き上げる。

 

骨抜きで血合い骨を抜き、頭部側の突端から皮を引っ張って剥き取る。

 

シメサバの半身盛り


さて、日本人には馴染みの深いサバの事となると、ここまでこれだけ記してきてもまだ書き足りないほど多くのことがあるのだが、今月号はもうこれくらいで良いだろう。

筆者が今月号で「旬を迎えたサバ」のことで言いたかったことは、スーパーの魚売場や魚小売店において「サバの刺身を、商品として提供すべき」ということなのだ。

昔から「サバの生き腐れ」と蔑称されて鮮度面においてあまり信頼感のなかったサバであり、またアニサキスという厄介者の存在においても、消費者だけでなく魚を販売をする小売事業者からも不安感を抱かれる魚ではあるのだが、ここまで記してきたようにサバという魚に対する充分な知識、そして細かいところに神経を使った備えさえあれば、サバを「刺身で食べる」ことは十分に可能なのである。

現在日本の風潮としては、居丈高な振る舞いによって合理性のない権力的判断を押しつける公共機関を恐れるあまりに、一部の小売業は身を縮めるようにしてリスクを執らない安全パイの商売で茶を濁そうとしている。

だからそんな小売業の水産部門は売上げも上がらないし利益も伸びないのである。

魚を提供する「魚のプロ」が、アニサキスを恐がってプロと言えるだろうか・・・。

アニサキスはサバだけにいるのではなく、どんな魚にも寄生している可能性があるのだから、サバの刺身を否定することは「魚の刺身を否定する」ことにもなるということを理解すべきである。

プロというのは、プロらしく行動すべきであろう。




更新日時 平成26年10月 1日


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