ようこそ FISH FOOD TIMES

新年明けましておめでとうございます。

FISH FOOD TIMES は今号で11年目の121号に突入することになりました。

今年もこれまで以上に内容充実をはかっていくつもりですので、

これからもご愛読の程を宜しくお願い申し上げます。


平成26年 1月号 No.121


うなちらし(うな重)


正月早々の「朗報」となるかもしれない。

先々月11月の初めから台湾や中国でスタートしている2014年度シラスウナギ漁が、ここ4年ほどとは状況が違っていて非常に好漁となっているようであり、日本でのシラス池入れ価格相場が12月後半になって1s60万円台へと下がっているということだ。

昨年、一昨年と1s250万円を超えていたシラスウナギ価格が、12月末時点で前年の約四分の一ほどへと落ち込んでいるというのだから、この4年の間ウナギ相場が年々高騰するばかりだったことで、ウナギ商品は完全に売値頃を外れてしまって極端な販売不振に陥り苦しめられてきた業界関係者にとっては、再びウナギ販売に勢いを取り戻す可能性が訪れる「朗報」となるかもしれないのだ。

これは過去4年の11月から12月迄の2ヶ月間を比較すると、中国・台湾におけるシラスの水揚げ状況が明らかに違ってきているからである。特に以下のグラフで判るように’13年度と’14年度にはまさに雲泥の差が出ている。

グラフにある日本の池入れ量というのは、中国と台湾から輸入されたシラスを池入れしたものであり、日本産のものはほとんどなく日本で捕れたシラスはこれから池入れされることになる。(台湾のシラスはほとんど香港経由で入ってきている)

シラスウナギ漁が11月初めにスタートした中国・台湾の漁模様はこのグラフのように絶好調であり、一方で日本の方はどうかと言えばシラス主産地の一つである鹿児島県は資源保護の観点から今期より漁のスタートを20日遅らせ、12月21日開始の3月31日終了の期間短縮となったことで、漁の良し悪しは年明けから次第に明らかになってくることになる。

漁期終了の3月末までの間にどれだけの量がこれに上積みされるのかまだ判るものではないが、これまでの中国・台湾での良い流れがこのまま日本においても同じような推移していくとすれば、以下のグラフのようになるかもしれないと実に大胆な予測をしているところもある。

このグラフに示されている2013年度までの数値は業界で通用する実績値と考えて間違いないけれど、この2014年度に関するシラス漁はまだ半分以上の期間が残っているのだから、あくまでも「予測値」でしかないことを承知でこれを見てほしい。

その予測では昨年1s250万円を超えたシラスの価格が、何と昨年の10分の1となる1s25万円という2009年並の価格になるかもしれないとしているのだ。

これを「そんな馬鹿な・・・!」と笑い飛ばすのか、それとも「何故、そんな大胆な予測が出来るのか?」と真剣に考えるか、それは受け取る側の自由でよろしい。

上のグラフを見れば少なくともこの2年ほどのシラス相場が歴史的にいかに異常なものであったかは理解できるはずであり、多少ともウナギの販売に関わりのある業界関係者は早くまともなレベルに落ち着いてほしいという願っているはずである。

しかしウナギ養殖は卵からの完全養殖が未だ採算ベースに乗る技術としては開発されていないため、天然シラスの好不漁に左右される相場乱高下に一喜一憂し、それに振り回されることを余儀なくされている。


そしてその天然シラスはと言えば、海から川へ遡上する際に川の浅瀬で待ち構えた漁師さんが網で採捕する光景はテレビなどで良く知られているところだが、天然のウナギはすべてが川を遡上しているのではなく、遡上をしないで河口の汽水域付近に一生棲んでいたり、汽水域にも近づかず海の中だけで棲息する「海ウナギ」と呼ばれる川を遡上しないウナギが全体の84%ほどもいて、川を遡上するウナギは僅かに全体の16%しかいないということが、ある調査の結果判明している。

つまりシラスが川を遡上しないで海に留まっているのが大半だとすると、漁師さんがいくら川で待ち構えていても採捕するのは難しいということになり、これも漁獲減要因の一つになっている可能性もあると考えることが出来る。

このような海ウナギの存在の大きさというのは、秋になると産卵に向かうために川を下る銀ウナギを梁で捕獲し、冬には河口で待ち構えて網でシラスを採捕するという「行きも帰りも恐い漁師の関所」を設けた人間の漁獲圧が強いために川を遡上するウナギが少なくなったのか、それとも元々川ウナギと海ウナギの割合というのはそんなものだったのか、その辺のことは専門家の間でもまだ解明されていないようなのだが、そこから見えてくるのは「ウナギ」という魚はそれほど単純に「絶滅危惧種」に入れられてしまうほど柔な動物ではないようだということである。

ウナギというのは実に不思議な生態を持つ興味深い魚であることを、東京大学大気海洋研究所の塚本勝巳教授が「世界で一番詳しいウナギの話」という本のなかで平易な文章を使って誰にでも分かり易いように記されている。

実は上記してきた文章の中にもその本に記されている内容をお借りしながら自分の考えも入れて書いているのだが、その本の中に今回の「シラスウナギの漁獲異変」のテーマに関係深い一節があったので、これをそのままの文章ではなく文意を損なうことないよう自分なりの解釈を加えた表現にして紹介しよう。

ニホンウナギはフィリピン東方のマリアナ諸島西にある西マリアナ海嶺で産卵をするが、塩分フロント(この意味は本を読んで理解されたし)の位置によって産卵場所は南下したり北上したりする。

北赤道海流は西マリアナ海嶺の南部一帯を東から西へ流れているから、卵から形を変えたレプトセファルス(柳の葉の形をしたウナギの仔魚)はこれに乗って西に流される。

この北赤道海流はフィリピン諸島にぶつかる形で二手に分かれる。このことをバイファケーションと呼び、その北側を流れている海流が黒潮となって台湾東方から日本の南部沿岸にやってくる。これが東アジアにやってくるシラスウナギのルートである。

一方、北赤道海流の南側部分はフィリピン東方沖でミンダナオ海流となり、黒潮とは反対方向の南へと向かうことになる。

もし、レプトセファルスがミンダナオ海流に乗ってしまうと東アジアには辿り着けず、無効な分散となってしまう。これは死滅回遊とも呼ばれ、次世代の繁殖に貢献しない分散となる。

すなわち、西マリアナ海嶺の産卵場のどの地点で産卵が起こるか、産卵地点の緯度によって東アジアへのシラスウナギの来遊量が左右される。

バイファケーションは一般にエルニーニョの時は北へ、ラニーニャの時は南へ移動することが分かっており、東アジアに来るシラスウナギの量に影響を与える。

2008年から2011年までは産卵場がかなり南だったことから、死滅回遊が多くなってシラスウナギの不漁の主な要因となっていたことが考えられる。

ところが、2012年の塩分フロントは前の3年よりもかなり北にあって、産卵は北の位置で行われたことは明らかである。

その事実から、もし黒潮とミンダナオ海流の分岐点で大きな気象変動がなければ、レプトセファルスが黒潮に乗って2012年晩秋から2013年春までの漁期に台湾東方沖から日本にやってくることが考えられ、シラスウナギの不漁がある程度緩和される可能性がある。

塚本教授は本の中でこのように記されていたのだが、残念ながらその予測通りの結果にはならず、2013年度もシラスウナギは更に輪をかけた不漁であったことは記憶に新しい。

しかしこれは決して塚本先生の説を否定するために上記文章を抜粋したのではない。

2013年のシラスウナギ不漁の原因は、ここに記されているようにミンダナオ海流分岐点で気象変動の影響があったのかもしれないし、この他にまだ解明できていない他の要因などがあってこういう結果になったのかもしれない。

しかし、この11月から12月にかけての中国・台湾における好調なシラスウナギの漁模様からすると、塚本先生の科学的根拠に基づく推測は「1年遅れ」で実現するのかもしれないという期待を抱いているのである。

4年も連続してジャポニカ種シラスウナギの不漁が続くと、この世からウナギが消えてしまうのではないかと心配してしまいがちであるが、ところがどっこい塚本勝巳教授が記された「世界で一番詳しいウナギの話」を読んでいくと、ウナギというのは今のアフリカ大陸と南アメリカ大陸がまだ明確には分離していなかった約1億年前の白亜紀の時代に今のボルネオにあたる場所で生まれ、その後世界中に子孫が広まって生き続けているという大変強い生命力を持った動物なのである。

もし人類が何らかの影響で全滅したとしても、ウナギはしぶとく生き残っていく動物の中の一つなのではないかと思えるほどの強靱さを持ち合わせているようなのだ。

だから3年や4年の間シラスウナギの不漁が続いたからと言って、人間がその絶滅を心配する必要などはないと考えるべきである。

日本の環境省はニホンウナギを絶滅危惧種に指定したけれども、国際自然保護連合(IUCN)は11月改訂の「絶滅危惧種」のレッドリストにニホンウナギを含めない見通しを明らかにした。これは国際自然保護連合(IUCN)の方が豊富なデータと正しい知見を持っていると言うべきで、環境省は少し早まった判断をしたのではないかという気がしないでもない。

とにかく、そんな絶滅の心配などをするよりもウナギのその生命力にあやかって、新年は「ウナギを食す」ことで人間も元気をつけていきたいものである。


ところで食べるに一番適した「ウナギの旬」はどの季節かご存じだろうか。

川ウナギは冬眠に入る前の初冬の頃は栄養をせっせと溜め込んでいる時期なので特に美味しいということであり、また天然ウナギの卵が世界で初めて発見されたのは、フィリピン東方のマリアナ海域で、2009年5月22日の早朝のことだったことが、塚本勝巳教授の「世界で一番詳しいウナギの話」の中に記されており、産卵の時期は4月から6月の頃だということが証明されている。

このようないくつかの事実から判断すると、ウナギの旬というのは春を迎える前にあたる「日本におけるシラスウナギの採捕時期と同じ12月から3月頃」と見ても良いのではないかと思う。

ということで「ウナギが美味しい旬の1月」にウナギを拡販してみてはどうだろう。

2014年1月の「寒の土用丑」は、18日(土)、30日(木)である。

この何年もの間、売上減に苦しんできた「ウナギ」商品を、今年は一つ1月の最初から景気よくガンガン売り込んでほしいものである。

その販売方法としては、ジャポニカウナギ長焼き1本のままでの販売だと残念ながら現在の相場では随分高いものについてしまうので、せめてハーフを三つ切りにして、以下の画像のような「うな丼」にすればコストはだいぶ抑えられる。

しかし、それでもジャポニカ種でのハーフ分の分量ともなると決して低い売価ではない。

そこで更にウナギの分量を抑えるために工夫したのが巻頭画像の「うなちらし」である。

ウナギ分量は「ハーフの半分」ほど、つまり1/4尾分に当たる5切れだけなので、売価は1,000円以内にすることが出来る。

巻頭画像はお正月のおせち重箱にあやかって「うな重」風にしているが、実は「ウナギのちらし鮨」になっているのだ。

そして以下の画像も、同じ「うなちらし」である。

高騰したジャポニカウナギを1,000円以下の安い売価で提供するために、蒲焼きをスライスして5切れだけ入れることにしたのだ。

しかしこのようなケチ臭い商品化は今のところ仕方ないとしても、今年は出来ればケチ臭い商品とは「オサラバ」したいところである。

その「オサラバ」ができるかどうかは、まさに今後のウナギ相場次第なのであるが、今年のウナギ商品のなかでこれから懸念されることの一つは、この2〜3年台頭してきた「異種ウナギ」の存在と今後の動向である。


異種ウナギのことについては、本紙の 平成24年7月号 103「Bad money drives out good money」 で触れているので参考にしてほしいけれども、もし今年ジャポニカウナギが前年よりも大きく暴落することになるとしたら、異種ウナギはいったいどんな存在意義があるのであろう。

異種ウナギのメリットは「安さ」以外に考えられないのだから、価格に大きな差がなくなってしまえば、その存在意義は基本的に考えられなくなるのである。

ウナギ商品というのは過去に偽装問題などの事件を数多く引き起こしてきたのだが、これらの問題が起こるタイミングというのは「本命」が前年よりも大きく値下がりした時が特に多いのである。

何故かと言えば、国産ウナギが高い相場の時に安い中国産ウナギを販売すれば、その安さで国産ウナギの売上げを侵食することが出来るけれども、国産ウナギの相場が前年の中国産並どころかそれ以下まで下がってしまった時に、その時に国産ウナギ相場以上の価格で以前手当てした中国産を持っていれば、誰もそのような価格の高い中国産を買ってはくれないことになる。

だから悪いことを考える人は、中国産を国産と偽って販売することを考えることになり、これまでに数多くの人が何度も同じような事件を起こしてきたのである。

これまでの場合は基本的に同じジャポニカ種の産地の違いを偽装していることが多かったのだが、今度はジャポニカ種以外の異種ウナギが対象となることから、問題は少し難しくなりそうである。

現在ウナギ科にはジャポニカ種を含めて19種が確認されているが、暴騰したジャポニカ種の代替品として、フィリピン、インドネシア、アフリカ、アメリカ、オーストラリア、その他世界の様々なところから、異種ウナギは日本へと運び込まれるようになってきたけれども、それらが代替品として重宝がられているという話はあまり聞いたことがない。

もし今年ジャポニカ種の相場暴落があるとすれば、既に日本に運び込まれているそれらはいったいどこへ行くのであろう。まさか元の姿が判らないように小さくカットされてジャポニカ種に偽装されるようなことはないことを願いたいものである。


1月という新しい年の初めには、人それぞれ希望や期待というものに胸を膨らませることがあるに違いない。

こと「ウナギ」に関しては今年のウナギ相場がそれなりの価格に落ち着くことも期待される状況にあり、もう一度過去の売り買いし易い状況へと戻ってくれるのではないだろうかとの希望も湧いてくる。

2014年度はウナギがどんどん売れる年になることを祈りたいものだ。



更新日時 平成26年 1月 1日



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