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令和 3年 4月号 208
ビンナガ若魚平造り
ビンナガの若魚は鬢(ビン)が長くない
標準和名はビンナガ、別名でビンナガマグロ、ビンチョウマグロ、シビマグロ、シビ、トンボマグロ、トンボ、カンタロウ、カンタ、などと呼ばれているが、筆者的としてはビンチョと短く表現するのが一番しっくりくる。
ビンナガはサバ科マグロ属に分類され、FAO(国際連合食糧農業機関)の2017年版統計によると、世界でビンナガは年間で約23万dが漁獲されている。2017年の天然マグロ類の総漁獲量は約228万dであり、マグロ類漁獲量の約10%を占めており、一番多いのはキハダマグロで約148万d、次にメバチマグロ約47万dで2位、ビンナガは3番目に位置しているけれど、実はICUN(国際自然保護連合)のレッドリストに記載され、特に大西洋の海域では絶滅が危惧されている存在なのである。ちなみに、2017年の太平洋クロマグロの漁獲量は約3.9万d、大西洋クロマグロは約3.5万d、ミナミマグロは約2.1万dだった。これらのマグロ類と比べるとビンナガ資源はまだ余裕があり、特に南太平洋海域のビンナガ資源は高位状況にあり、日本が位置する北太平洋海域も枯渇を心配するような状況にはないようである。
南西諸島ではビンナガをシビと呼ぶことが多いけれど、このシビという名称は地域によってビンナガのことを指すこともあれば、キハダマグロのことを言うこともあり、一般的にシビという名称は若い成長途上のマグロ類を総称していて、これは便利なようでいて必ずしも便利ではない言葉なのである。つまり、シビと表現されたら「どのシビ?」と聞き返したくなる曖昧さを持った名称なのだ。だから、そんな曖昧さを避けるにはビンチョウマグロと表現すればキハダマグロのシビと混同されることはない。
ビンナガだから、その言葉通り長い胸ビレをもみあげ(鬢ビン)と見て、その長さを特徴づけているはずだが、上の画像のように成長途上の若いビンナガは、胸ビレが成長しきった大人のように第2背ビレの後ろの方まで延びるほどには長くない。
実は以下画像のコシナガマグロも、長崎県では地方名としてビンチョウマグロという名称が使われている。
確かにコシナガマグロは若いビンナガと同じくらいに胸ビレは長いが、そのいっぽうで魚体表面の斑点などは以下画像のヨコワにも似ている。そして、コシナガマグロがヨコワと違うのは胸ビレが長いだけでなく、尻ビレから尾ビレにかけての形態がヨコワよりほっそりしていて長いのがコシナガマグロの特徴である。
コシナガマグロについては、平成28年8月号 No.152で取り上げているのでそちらを参考にしてほしい。今月号で記したいのはビンナガであり、なかでも春の真っ盛りを迎えた4月から初夏の5月頃にかけて漁獲が増えていくビンナガの若魚についてである。
マグロではないの?
ビンナガは英名でalbacoreである。クロマグロはbluefin tuna、メバチマグロはbigeye tuna、キハダマグロはyellowfin tuna となっていて、マグロ類を意味するtunaがどれも付属して表現されているのに、ビンナガだけはtunaが付属していないのである。英語の別名ではlongfin tunaと表現されることもあるが、あくまでも別名の位置づけだ。これは何故なのか?
日本でもビンナガはマグロの一種と言うよりカツオのような扱いを受けていて、統計の数字がカツオと一緒に扱われることが多い。この要因は漁獲方法がカツオとビンナガは一本釣り漁法が中心で、その他の比較的大きなマグロの漁法は延縄という違いがあり、漁獲段階で小型マグロのビンナガはカツオと同等に扱われてきたという経緯からきているものと思われる。
確かに筆者は4月から5月頃の南西諸島の漁港で、カツオとビンナガが漁船から同時に水揚げされ、仕分けされている光景を何度も見たことがある。たぶんカツオと同じような大きさのビンナガは海の中で似たような動きをしているために、同時に釣り上げられることになっているのかもしれない。
つまり、ビンナガはマグロ属に分類される魚ではあるが、日本だけでなく世界中においてマグロではなく、まるでカツオのような扱いを受けていると考えても大きな間違いではないようである。
それにしても、ビンナガだけは英名で tuna がなく albacore だけなのか? 色々と調べてみたけれど、albacoreの文字は第二次世界大戦時の英軍戦闘飛行機と米軍潜水艦に使われていたことが分かっただけで、その他に推測できる資料が見つからず、いまだに不明のままである。誰か知っている人がいたら教えてほしいものである。
今月4月頃から、日本ではカツオとビンナガの一本釣り漁で2kgから3kgほどのビンナガの若魚がどんどん漁獲され水揚げされることになる。ビンナガもマグロ類の例に漏れず旬は脂がのる秋から冬の頃というのが常識となっているようだが、この脂がのった時期という意味ではなく、新鮮な状態でたくさん獲れる時期という意味で、ビンナガは4月頃から旬を迎えることになる。
この4月頃から漁獲される2〜3kgの手頃な大きさのビンナガは、大きさ的にとても使い勝手が良く、価格もこなれていることが多いので扱いやすい。この時期のカツオもビンナガと似たようなもので脂は乗っていないのだが、カツオの場合は「目に青葉、山ホトトギス、初ガツオ」の旬魚として大事にされるのに、ビンナガは特に注目されることはなく可哀想なものである。
なにしろ、カツオは2017年に世界中で約280万dが漁獲され、日本だけでも約20万dも漁獲されるという非常に大きな存在なのだが、これに比べてビンナガは上の表にあるように、2017年に全国での水揚げ量は約2万dほどだったので、その存在感は10倍もの開きがあるのだ。
そして、その2万dのうちの80%ほどが毎年4月から8月頃までに漁獲されることから、たくさん獲れる時期という意味でビンナガの旬はこの4ヶ月間と言える。
小手先を使わず、オーソドックスに・・・
さて4月現在、旬のビンナガをどうやったら美味しく食べてもらえるようにしたら良いのか。現在人気を高めている養殖生本マグロのような脂は全く無く、その対局に位置するのがビンナガである。ビンナガはマグロ類の中でも一番赤い色が薄く、言わば赤白っぽいとでも表現できる色合いを持っているが、このことを逆手にとって「ビントロ」というお客様を小手先で誤魔化したような商品が存在している。筆者はこのようなものは「何がトロだ、嘘っぱち・・・」としか評価できない。そういう鉄に金メッキをして、まるで金を売り込むようなことはせず、鉄は鉄らしい素朴な風合いをしっかりと売り込んだら良いのである。
例えば、腹皮は調理段階で不用な部位として切って捨てるのではなく、以下のような腹皮を確保するための作業工程をきちんとおこなって、本来はトロの部位だがビンナガはそのような売り込みはせず、脂ののりはアピールできなくても、希少部位としてお客様の格安で提供して喜んでもらったら良いと思う。
ビンナガ腹皮商品化までの作業工程 | |
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1,胸ビレの横に切り入れ、背骨まで切る。 | 6,包丁は使わず、頭部と胴体を両手で片方ずつ持って分離する。 |
2,上身の胸ビレの横をに包丁を切り入れるが、頭部を切り離さず残したままにする。 | 7,頭部と胴体を分離した状態。内臓は頭部側にあり、胴体部分には残っていない。 |
3,上身側の胸ビレの切り口から肛門まで、片面だけ浅く切り込みを入れる。 | 8,頭部から腹皮を切り離す。 |
4,下身側も胸ビレの切り込みから肛門まで、浅く切り込みを入れる。 | 9,切り離された腹皮 |
5,頭部と胴体のまだつながった部分を切り離すが、内臓まで切り離すことはしない。 | ビンナガ腹皮の商品 |
次は切身の作業工程を三枚おろし作業工程と切身作業工程に分けて記述したい。
ビンナガ三枚おろし作業工程 | |
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1,腹腔内の背骨に付いている大きな血合いに切り込みを入れる。 | 8,柳刃包丁を背骨と身の間に切り入れ、頭部側に刃先を向けて切り進める。 |
2,水道水を流しながら、血合いをスプーンなどの道具を使って洗い流す。 | 9,背骨の山高骨と身の間を頭部側の最後まで切り開き分離する。 |
3,下身側の背ビレの際に逆手包丁で切り込みを入れ、頭部側へと切り進む。 | 10,尾ビレ付近のつながった部分を切り離す。 |
4,上身側の背ビレの際に逆手包丁で切り込みを入れ、頭部側へと切り進む。 | 11,腹皮は除去され、二枚おろしになった状態 |
5,背ビレの一番尾ビレに近い場所から刃元で切り込みを入れ、頭部側に向けて切り離す。 | 12,中骨を上に向け、尻ビレの下に切り込みを入れ、背骨まで切り開く。 |
6,柳刃包丁に持ち替えて、下身側の尻ビレの際に切り込みを入れ、背骨まで切り開く。 | 13,中骨を上にしたまま、背ビレ際の中骨下に切り込みを入れ、背骨まで切り開く。 |
7,下身側の背ビレの際に切り込みを入れ、背骨まで切り開く。 | 14,中骨を切り離して、三枚おろしにした状態 |
次は切身の作業工程。
ビンナガ切身2種 | |
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1,下身を尾ビレ側から左の姿勢で切り進める。 | 1,上身を尾ビレの方から右姿勢で切り進める。 |
2,尾ビレ側と頭部側に切り出しを作って、出来るだけ同じ大きさの切身を6切れ作った。 | 2,厚切りを意識して切り進める。 |
3,ビンナガ切身2切れ入り | 3,尾ビレ側と頭部側に切り出しを作り、厚切り切身を3切れ作った。 |
4,ビンナガ切身3切れ入り | 4,厚切り切身1切れ入り |
そして最後は、ビンナガ平造りのボリューム盛りである。
ビンナガ平造りボリューム盛りの作り方 | ||
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1,下身の血合い骨の横に柳刃包丁で切り込み、皮一枚を残して止める。 | 7,まだ身に残っている血管などを削り取る。 | 13、背身の冊取りをした状態。 |
2,柳刃をL字の形をイメージして、縦から左に方向を変え腹身を除去する | 8,柳刃包丁をU字形に動かして背身の血合いを除去する。 | 14,背身の長方形部分を平造りする |
3,次は背身も同じ作業を繰り返す。 | 9,背身から血合いが除去された状態 | 15,背身の長方形部分だけで17切れ |
4,背身が皮と分離された状態。 | 10、腹身の血合いを除去する。 | 16,三角形部分を平造りする。 |
5,残った血合い骨と皮。 | 11、腹身の血合いが除去された状態 | 17,背身の三角形部分だけで13切れ |
6,1尾分を節売りするための商品 | 12,背身の皮側から冊取りするために真っ直ぐ平行にに切り込む。 | 18,17切れのボリューム盛り |
腹身を加えると、ビンナガの半身でこれだけの平造り刺身が完成した |
脂がのっていることだけが魚の美味しさではない
約2kgの大きさの生鮮ビンナガを使って、以上のような商品が完成した。生鮮ビンナガ相場はほぼカツオと同じようなものだと見て大きな誤りはなく、産地相場はだいたい300円/kgから500円/kgほどで取引され、入荷次第でものがなければ500円/kgを超えることはあるけれど、1,000円/kgを超えることは基本的に考えられない。
今回扱ったビンナガの仕入れ価格を500円/kgと仮定すると、重さ2kgのビンナガ1尾は1,000円と計算することが出来るので半身は500円となる。500円でこの3パックが出来るということは、資材費を計算しても1パックの原価はずいぶん安価なものである。切身にしても、半身で6切れの普通サイズと半身3切れの厚切りだから、半身500円であればそれぞれが80円強と170円弱の原価であり、これもコストパフォーマンスは高い。
天然のクロマグロ1尾が何百万だの何千万だのと世間を騒がす世界からはまったく縁遠い存在がビンナガであるが、そのビンナガは食べる魚として価値がないかと言えば、それはまったくそうではない。ツナ缶の代表名刺であるシーチキン(はごろもフーズの登録商標)の主たる原材料はビンナガであり、キハダマグロやカツオを使ったライトミートと呼ばれる普及品と違い、ビンナガはホワイトミートと呼ばれる上級品に位置づけられている。
シーチキンは今や食生活の一部として欠かせない商品であり、鮨、サンドイッチ、サラダ、おにぎり、などに大活躍であり、特に子供には大人気スターと言える。つまり、料理素材としては、刺身などで生食する時の際に欠点の一つとされている「身質の柔らかさ」が、逆に「身がほぐしやすい」というメリットに変化するのである。
さらに、もう一つの欠点として挙げられる「脂肪分が少ない」という側面も、基本味としての偏りがなく、どのようにでも料理できるというメリットにつなげることも出来る。また、この点は今やゴテゴテと脂ぎった養殖魚が全盛の時代の中で、本来の自然な魚の味を安価に堪能するという意味でも貴重だと言える。
ビンナガを売り込むために「ビントロ」という、この世に有り得ないトロを口先で誤魔化して売るなんてことは中止して、脂分が少ない特徴を持つビンナガという魚をまっとうな形で売り込んだら良いのである。ビンナガは養殖生本マグロでは味わえない美味しさも有り得るのであり、魚を食べるに当たってそういう別の美味しさを楽しむことも必要なのではないかと思う。
SSLで安全を得たい方は、以下のURLにアクセスすれば、サイト内全てのページがセキュリティされたページとなります。 |
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水産コンサルタント樋口知康が月に一度更新している
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更新日時 令和 3年 4月 1日